畜生道に堕ちたと思ったら五条悟の飼い猫になった件 作:鳳飛鳥
結論から言うと浅草観光は極めて平和裏に終わる事が出来た。
俺と甲賀の忍達は少し離れた位置から陰ながらの護衛に徹し、御主人と夏油がプリンシバル達を直接護衛すると言う配置だった。
少し離れ俯瞰して彼等の動きを見つつ、周囲にごった返す観光客の中に怪しい動きをする者や、不自然に呪力を練っている者が居ないかを警戒し続けていたのだが、ソレらしい動きは殆ど無かった……そう『殆ど』だ。
1度目は浅草寺への参拝が終わり雷門を潜ろうとした時に、御主人とプリンシバルをまとめて撃沈して一挙両得を狙ったのか、恐らく呪詛師と思しき者が少し離れたビルの屋上で呪力を練ったのである。
何をしようとしたのかまでは分からないが、俺がソレを感知し対応しようとするよりも早く、若かりし頃の『せんだみつお』っぽい警官が『昼間っから何をやっとるかー!』と叫びながらビルの上をかっ飛んで来て一撃で殴り飛ばして解決した。
2度目は仲見世商店街で露天商を冷やかして周り、雷門近くのカツ煮が美味いと評判の老舗蕎麦屋でランチを済ませて店を出た直後、今度は呪詛師では無く恐らくは盤星教……或いは呪詛師に操られた一般人と思しき女性がごく普通の様子でプリンシバルとすれ違う。
その瞬間、またしても先程の警官が唐突に姿を表し『ちょっとそこの交番まで来て貰おうか? この手に持ったナイフに着いて詳しく聞かせて貰わにゃイカンのでな』と、プリンシバルを刺そうとしたのを寸前で止めてくれたのだ。
正直言って週末土曜日の観光客でごった返す浅草の街の中なんて言う場所で、完全に安全を保障出来る様な護衛を行うならば、他者を側に近づけない様にガッツリ誰が見ても護衛と分かる黒服を張り付けた方が効率面でも安全面でも都合が良い。
実際、今も俺達は呪詛師にばかり目が行って御主人達に近づく極々普通の一般人にしか見えない女性が、真逆こんな人混みの中で白昼堂々とナイフで人を刺そうとするなんて事は想像すらしていなかった。
護衛として雇われて居る忍者達も、直前まで彼女の怪しい素振りには気が付かなかったと言っていた辺り、余程訓練された暗殺者なのか、それとも何らかの術式でそうなるように操られていたのか……どちらにせよ両頭巡査のお手柄で無事に済んだと言う訳だ。
ちなみに両頭巡査は警視庁浅草警察署雷門交番に配属された警察官で、彼がココに配属されてから浅草での犯罪件数が一桁下がったと言う逸話を持つ男である。
どうやら彼の持つ
無論人間なんてモンは簡単に『善悪』で切り分ける事が出来る様な生き物では無く、普段善人と言える様な人間でも魔が差すことも有れば、逆にヤクザ者が女子どもに対しては善人ぶった振る舞いをする事もある。
そうした人間の機微も含めて『今現在、悪をなそうとしている』或いは『悪事を働いた直後』の人間を一目で判別する効果もある……らしい。
その結果が彼の持つ『検挙率100%』と言う数字を支えているのは間違いないだろう。
ちなみに御主人は両頭巡査から
「おいそこのグラサン高校生! お前が浅草に来るとワシの仕事が増える! 面倒だから浅草には来るな!」
と吠えられていた……うん、両津勘吉のモデルと言われても納得出来る人物だな。
そんな訳で浅草ではその2回の襲撃だけで済んだのだが、迎えの為に来た高専の乗用車に乗って移動し始めてからがまた大変だった。
浅草を出発し高速駒形入口から首都高速6号へと上がり、首都高速都心環状線へと乗り換え皇居側を通り過ぎ、首都高速4号を経由して中央自動車道へと乗り入れた辺りで、丸で
我々はプリンシバルの乗る本命の車両の他に、護衛の忍者とダミーの人形が乗った車両が2台、更に甲賀忍者が乗ったカワサキのスポーツバイクが二台に、猿飛二級の乗ったスズキのスポーツバイクが一台が護衛付くと言う編成だった。
ちなみに自動車は高専所有のモノだが、バイクはそれぞれ個人の愛車である。
そんな車列を追走してあからさまにヤクザが乗っていそうな黒塗りのベンツ数台と、バイクが更に10台以上が現れたのだ。
まぁ乗っていたのは実際ヤクザだったんだが……恐らくは御主人やプリンシバルに掛けられた懸賞金の話を、呪詛師の誰かがヤクザにリークしたのだろう。
総額5億3000万ともなれば、ヤクザが飛び付くには十分な額だ。
いやもしかしたら仲介屋の孔時雨辺りが、昨日一昨日と陰高野の呪術師達が呪詛師を片っ端から捕縛していたのを確認していて、ソレを知った伏黒甚爾が御主人の削れ具合が足りないと判断してヤー公を焚き付けた可能性もあるかもしれない。
複数の女性を渡り歩く『プロヒモ』って奴は、極稀ではあるがヤクザの
ソレに『呪術師殺し』の異名を持つ
本来ならば呪術に関わる事の無い暴力団の中でも武闘派な連中であれば、上記の金額とターゲットは中高生と言う情報だけで簡単に踊っても何ら可怪しくも無いだろう。
……ソレでも真っ昼間に
銃弾が飛び交いソレに対して手裏剣で反撃すると言う、極めて漫画的としか思えないカーチェイスを暫く続けると、巻き込まれかけた一般車両なんかから警察に通報があったのか、前方を警察車両が封鎖しているのが目に入った。
ただ1台分の車がすり抜けられる様に少しだけパトカーとパトカーの間が開けられていたのは、高専からか呪術総監部からか警察へ何らかの通達が有ったのだろう。
事実御主人達が乗った車両が通過した時点でパトカーが動き、その隙間を埋め後続車両を完全に止める様に対応してきたのだ。
俺は猿飛二級術師のバイクの後ろに荷物の様に見せかける事で、そのまま高速道路へと入り、カーチェイスが始まってからは猿飛二級の指示に従い猫ロケットパンチ(弱)でヤクザ達を蹴散らしてここまで来たので、御主人達の車両とは離れてしまった。
ゲームの類ならばここまでくればクリアーと言う事で後は安全なんだろうが……この後には間違いなく伏黒甚爾が待ち構えている。
俺の目的を果たす為には彼と御主人の戦いに立ち会う必要があるのだ!
「すまん! ここは任せた! 先に行く!」
警察車両に停められた猿飛ニ級と忍者たちを置いて、俺は呪力で強化した4つの足を素早く動かし、一瞬でトップスピードへと加速する。
通常の猫が出せる瞬間最高時速は凡そ50km/hソレを持続出来るのは10秒程度と極めて短い……だが俺は常に回り続ける反転術式のお陰で、心拍数の上昇で心臓や血管に掛かる負担は全て無視して走り続ける事が出来るのだ。
更に呪力で身体能力を強化する事で俺は妖怪100kmキャットになるのである!
猫に速度制限なんてモノは当然無いし、スピード違反の猫を取り締まる道路交通法は無い!
……まぁ呪術規定的に、呪術の秘匿をやぶったり、全力疾走する俺の目撃談から新たな都市伝説が産まれて、ソレが呪霊の発生源になったりしては困るので、忍猫としての訓練で身に着けた『人目に付かないルート取り』をきっちり意識し御主人達の車を追う。
そして筵山が見える位置まで来れば呪術高専関係者以外の自動車が走ってくる事は殆ど無いので最短距離を一気に駆け抜け、麓にある高専へと続く階段を駆け上る。
「っち! 想定より全然削れてねぇじゃねぇか……呪詛師連中も近江連合も使えねぇなぁ……」
原作ではニットのセーターに安全ピンを刺した程度……と言われる不意打ちを見事に防いでいた御主人と伏黒甚爾が相対している場へと駆け付けたのだった。