畜生道に堕ちたと思ったら五条悟の飼い猫になった件 作:鳳飛鳥
「傑! 天内優先! コイツの相手は俺がする!」
そう言いながら一瞬俺の方へと目を向ける御主人、口に出さないのは猫の呪術師と言う常識外の存在が伏せ札になると言う判断からだろう。
「はっ! 幾ら今のを防いだって言っても、俺がお前に勝てねぇ理由にゃならねーよ!」
そう吠え呪力で強化した動体視力でもはっきりと姿をとらえるのが難しい速さで、御主人へと手にした刀で斬撃を繰り出す伏黒甚爾。
当然その一撃は無下限呪術の無限を突破する事は出来ない筈だが、何を思ったのか御主人はソレをしっかりと回避する。
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「どっかで見た面だなぁ……と思ってたんだけどさ、アンタ『呪術師殺し』禪院甚爾だろ? 呪詛師扱いで手配はされてないけど、注意人物として広報に乗ってた筈だわ」
「……今は伏黒だ、婿に入ったんで……な!」
余裕綽々と言った様子で人外の膂力で繰り出される斬撃を捌く御主人がそう言うと、苛立った面持ちで言い返しながら更に攻撃が苛烈さを増す。
「へー、禪院もバカだよなー。こんな特級戦力を超えうる逸材をろくに育てもせず、みすみす外に放逐したんだから」
「あ゛!? テメェ! 殺し合いの最中に舐めてんのか!? さっきからテメェ無限の防御とやらも張っちゃいねぇだろ!?」
「舐めちゃいないよ、相手を正当に評価してるだけだ。呪術師殺しなんて異名を持つ程だ、どうせ俺の無下限を突破する奥の手の一つや二つは用意してんだろ? なら無下限に頼らずきっちり武術で相手した方が未だ分があるってだけさ」
「あぁ゛! ソレが俺を舐めてるって事だろうよ! 膾に切り刻んでやるから覚悟しやがれ!」
そう言いながら一旦距離をとり、普通の人間ならば絶対に有り得ない軌道と速度で宙を舞い、御主人の背後へと降り立つと共に唐竹割りの斬撃を繰り出す。
多少距離を取り端からみているからこそ、何とかその姿を捉える事が出来ているが、相対している御主人の目からすれば、姿が消えた様にしか思えないだろう。
「天与呪縛に依る呪力からの完全な脱却、フィジカルギフテッドだっけ? 確かに尋常じゃないが……アンタ、ソレに溺れてるよ。武術ってのは身体能力で劣るモノが強者に勝つ為に編み出されたモノだ。アンタのソレは武じゃなくただの暴、武で勝てない訳が無い」
しかし御主人はその一撃を待ってましたと言わんばかりに伏黒甚爾の手首を掴んで受け止め、関節を極めその勢いを利用して投げ地面へと叩きつける……ソレは甲賀流忍体術『無刀返し裏』と言う名の付いた技だった。
「生まれ持ったモンが強えから、ソレ以上を求める必要が無い。分かるよ、俺もちょっと前までそーだった。けど持ってるモンで満足してちゃぁ駄目だって気付けたから、俺はアンタには負けない、負けられない」
しかし相手も流石は原作でも最強の一角に名を連ねる人物だけあって、その程度で勝負は付かない、刀を手放し手首の角度に変化を付ける事で極められた関節を緩め、後は強引に腕力でソレから脱する。
投げのダメージも完全なる天与呪縛のフィジカルギフテッドには然程のモノでも無かった様で、そのまま跳ね起きると一旦距離を取った。
「っち、ガキがぺちゃくちゃ能書きタレてんじゃねぇよ! テメェをぶち殺して、あの前髪と小娘達も後を追わせてやる!」
怒り心頭と言った形相でそう吐き捨てた伏黒甚爾は、刀を拾いに行くで無く口から丸いモノ……原作にも登場していた様々なモノを格納する呪霊を吐き出すとソレを首に纏わりつかせ、鎖……同じく原作に出てくる呪具『万里の鎖』だろうモノを取り出した。
「殺られねぇし、殺せねぇよ。ソレにアンタは俺がここで止めなきゃ駄目な奴だ。アンタは信頼出来るダチや尊敬出来る人達に出会う事が出来なかった俺だ。世の中そんな捨てたもんじゃねぇ……って教えてやらねーと駄目な奴だからな!」
そこからは戦闘が加速した……最早俺の目で追うのも難しい暴力と武術の応酬、ただはっきりと分かるのはどちらも多少のかすり傷は有れど、致命的な一撃は何一つ受けていないと言う事だ。
伸縮自在で間合いの変わる鎖とその先端に取り付けられた刃物──恐らくは天逆鉾だろう──を相手に、無手で一歩も引かずに対応する御主人。
甲賀の忍者道場には鎖鎌の使い手もおり、そうした者を相手に稽古をした経験が生きているのだろう。
……伏黒甚爾は完全に御主人との戦いにのめり込み、こちらを気に掛ける様子は全く無い。
一進一退で釣り合いの取れた攻防、圧倒的な暴に対して天才が努力で練り上げた武が拮抗しているのだ……ならば俺が何処かのタイミングで的確な横槍を入れれば天秤は御主人に傾く筈だ。
原作ではここで死の危機に瀕する事で反転術式に目覚めるのだが、既に俺の介入で様々なバタフライエフェクトが起きている以上は、同じ様にここで目覚めるとは限らずもしかしたら御主人が負けたらそのまま命を落とす可能性は0では無い。
故に将来的に何処かで反転を会得する事を期待し、ここは御主人の勝利させた方が俺の野望には都合が良いのだ。
……天パの天才パイロットが聞けば『エゴだよソレは!』と罵られるかもしれないが、エゴで何が悪い! 俺はパパ黒と伏黒恵に伏黒津美紀が幸せに生活して居る未来が見たいんだよ!
という訳で……ここだ! 食らえ! ごぉぉぉっつい! 猫ロケットパーンチ!
「うお!? なんだ! くっ!?」
伏黒甚爾からすれば突然現れた高濃度の呪力を纏ったナニかが、高密度の呪力が込められたナニかを自分に向けて発射した……としか思えなかっただろう。
幾ら天与呪縛のフィジカルギフテッドとは言え、一級呪霊を一撃で祓い得る威力を持つ呪力の塊が直撃すれば痛いでは済まないが、全力格闘に突然そんなモノが飛んで来てきたとして、ソレを冷静に回避出来る者が世の中にどれほど居ようか?
だが伏黒甚爾はソレを回避出来る逸材の一人だった、御主人に向けた攻撃を中断し、宙を蹴って本来の軌道から身体を反らし、更に身を捻る事で軌道修正を行う事で俺の攻撃を完全に躱して見せた。
しかし互角の攻防を続けていれば俺が何処かで介入するだろう事を予測していた御主人からすれば、その回避行動は明確な隙である。
「術式順転『蒼』!」
ここまで呪力に依る身体能力強化は使っていても、術式の使用はしてこなかった御主人が、必殺の一撃を叩き込む為に術式と言う手札を切った。
半ば無防備に成った所に、移動に依る運動エネルギーを綺麗に打撃へと転化する腰の入った正拳突き、ソレを更に術式で威力を引き上げた一撃が決まった瞬間、黒い稲光が周囲を照らす……黒閃である。
人体の急所の一つである鳩尾に綺麗に叩き込まれた会心の一撃は、原作で彼を仕留めた虚式『茈』と比べると間違いなく貧相な一撃と言わざるを得ない。
だが黒閃を伴わざるとも並の呪術師ならば防御に呪力を回したとしても、土手っ腹に穴を穿つだろう威力は十分に有った筈だ。
ソレが2.5乗されたのだから、幾ら十分に肉体を練り上げた天与呪縛のフィジカルギフテッドと言えども、致命的なダメージに成ったのは間違いない。
「っく……殺せ。手前ぇの勝ちだ……」
地面に尻もちを付いたまま、口から溢れる血を腕で拭い、ただただそう言う伏黒甚爾。
「あはははは……え? なんで? 殺さねーよ? 殺す必要ないじゃん、お前別に呪詛師として手配されてる訳じゃねぇし。ソレにポチ、お前コイツに用事あるんだろ?」
黒閃をキメて軽くハイに成っているらしい御主人だが、この任務中何処かで俺の様子を不審に思う事が有ったのか、そんなセリフをこちらへと投げ掛けてくる。
「伊達にお前の飼い主1年以上やってねーよ? お前隠し事下手くそだもんなー。んで、コイツをどーするのか聞かせてくれよ、ハリーハリーハリーあはははは!」
「……ポチ……猫? 呪霊か? いや、俺の目にもはっきり見えてるって事は、実体があるんだろうな……マジか、俺は猫にしてやられたのか……」
力なく焦点の合わない目でこちらを見ながら、そんな言葉を呟く伏黒甚爾。
「……ああ、この男は使える。幾つかの縛りを呑めば、俺の反転術式で直ぐにでも身体を治してやる。更に天内理子の遺体もセットでくれてやろう。どうせ非術師の宗教団体は死体の提出を依頼達成の条件にでもしてるのだろう? ならばやりようはある」
「は……お前……何を言って……」
「あー、お前がこの間作った拡張術式か? え、アレって他人にも使えるの? うわ! 悪い事仕放題じゃん! 後でその件は詳しく聞かせて貰うからな!」
「お前は死なずに済んで更には依頼達成で金が入る、俺達は俺達できっちり任務を達成出来て、今夜の儀式までこれ以上刺客に悩まされる必要も無くなる。どうせ非術師には天元様が星漿体との融合に成功したか失敗したかなんて知りようが無い、完全犯罪だ」
「……俺に都合が良すぎる。どうせ隷属しろとか死んだ方がマシは縛りを強要するつもりだろ?」
「いいや、縛りの内容は『高専の呪術師を殺さない』『約束は守る』『天内理子を殺さない』の3つだ。然程難しい事では無いだろう?」
「縛りだ……騙しを混ぜ込む余地はねーぞ?」
「当然、ならば先ほど言った3つの条件を呑む代わりに、俺はお前の身体を反転術式で治し、天内理子本人の遺体を用意する……これは縛りだ」
「ああ、同意する……だから早く治せ、俺だって痛ぇもんは痛ぇんだ」
縛りが成立したと判断し、俺は命のストックを一つ対価として、伏黒甚爾に
パパ黒はこんなに弱くない……と言う意見もあるかもしれませんが拙作ではこう決着を付けました、ご了承下さい