畜生道に堕ちたと思ったら五条悟の飼い猫になった件 作:鳳飛鳥
呪術高専東京校地下最深部『薨星宮』本殿へとつながる場所へと向かう、俺と御主人そして伏黒甚爾。
彼が同行しているのは当然、俺が縛りの対価として提示した天内理子の遺体を渡す為である。
無論、実際に天内理子を殺してその死体を渡すと言う事では無い。
俺が生得術式の解釈を拡張しようと色々模索した結果、この状況を打破しうる拡張術式が産まれたのだ。
ぶっちゃけ伏黒甚爾に関してはこの拡張術式を使うだけで、戦う必要は無かった可能性もあるが、あの戦いは御主人の成長に必要なモノだった筈だ……多分。
「おいポチ、しょーがないから乗って良いぞ、脚一本無いんじゃ歩き辛いだろ?」
伏黒甚爾との戦いで奇襲として仕掛けた『ごっつい猫ロケットパンチ』は、切断した右前足を今生の間自分の反転術式では治さない、治せないと言う縛りで込める呪力を強化した一撃である。
故に今の俺は右前脚が欠けた状態なので、歩けない事は無いが歩き辛いのは事実である。
なので御主人の申し出は極めて有り難かった。
「済まない、重いだろうが世話になる」
仔猫時代の様に御主人に抱き上げられ、頭の上へとパイルダーオンすると、
「ぶっ……大の男が何やってんだよ……俺はこんな奴らに負けたのか……」
伏黒甚爾が吹き出し肩を震わせ笑いながら、さらなる敗北感に打ちひしがれると言う器用な真似をする。
それから暫し天元の結界術で作られた迷宮『空性結界』抜け、薨星宮の拝殿とでも言うべき場所に黒井美里が安堵と不安と絶望と歓喜……様々な感情を一纏めにした様な表情で一人佇んでいた。
「五条様! その男は先程貴方を……お嬢様を狙った刺客では!?」
「あー、大丈夫。もう決着はついてる。お嬢ちゃんを害する事が出来ない様に縛りも結んだ。その上でコイツと結んだ縛りを遂行する為にはお嬢ちゃんに会わなきゃいけねーんだよ。ツー訳でここ通るな」
黒井女史は手にしたモップで呪詛師を撃退出来る程度には、呪術師としての実力も常識も有る人物だ、故に縛りについても一定の知識は有るのだろう。
「……お嬢様を襲わないと言う縛りが有るならば、私は何も言いません」
「ああ、コイツが全て丸く収まる様に色々と企んでるみたいだから、きっとお嬢ちゃんにもメイドさんにも良い結果になるんだろ……多分」
御主人は頭の上に乗せた俺をぽんぽんと軽く叩きながらそんな言葉を口にする。
「伏黒甚爾との縛りに関しては問題無いが、プリンシバルが最終的に無事に終わるかどうかは半ば賭けだぞ?」
「俺は分の悪い賭けは嫌いじゃねぇ、その分勝った時の配当が良くなるモンだからな。猫のクセに小難しく考えねぇで多少でも勝ち目が有るならベットすりゃ良いだろ。賭けなきゃ配当は絶対に0なんだからよ」
賭けと言う言葉に反応してそんな言葉を口にする伏黒甚爾、多分コイツは配当を見て倍率が高い所にしか賭けないから勝てないタイプなのではなかろうか?
ちなみに賭博の類は
流石に全てのレース結果を覚えている訳では無いし、競艇に至ってはモンキーターン時空っぽいので俺が知っていたレーサーはほぼ居ない筈だ。
競輪と競馬はどうなってるのか知らんが、少なくとも競走馬の代わりにウマ娘が走っている様な事は無いっぽいのでプリティーなダービー世界が混ざっている事は無いだろう。
「賭けと言えば、今年の皐月賞はどの馬が勝ったんだ? 猫の身ながら競馬は割と好きなんでな。テレビ中継は任務が無けりゃ見てるんだが、生憎と皐月賞は見れなかったんだよ」
「あ? お前、猫のクセに競馬やんのか? 今年の皐月賞馬はメイショウサムソンだよ。あいつが居なけりゃ俺が賭けてたドリームパスポートが勝ってたんだがなぁ……クソ!」
お!? 俺の記憶が確かならメイショウサムソンは皐月賞とダービーの二冠を達成する筈だ、ただ皐月賞では割と高倍率が付いたがダービーでは一番人気で2倍~3倍程度だった筈だ。
「ああ、あの馬が勝ったのか……ならダービーはあの馬の二冠目を期待しても良さそうだな」
賭けの話が出たので丁度よいから競馬の話を振ったが、これは奴に俺が博打好きのクズ仲間だと認識させ好感度を稼いで置きたかったからだ。
伏黒甚爾が死ななかった以上、伏黒恵は御主人に託される事無く禪院家に売られてしまう可能性が高くなるが、ここでただの敵対状態から関係を改善しておけばもしかしたら何とかなるかもしれない。
……正直に言えば俺も分の悪い賭けは嫌いじゃない、競馬も競輪も競艇も倍率は気にせず好きな馬やレーサーを応援して賭けるタイプだったしな。
俺は伏黒一家が幸せになる未来にベットしたんだ……その為の仕込みは伏黒甚爾と結んだ縛りの中に既に組み込んである……これもまた一つの賭けだがね。
と、そんな話をしながら拝殿を抜け本殿へと続く長い廊下へと出ると……夏油がプリンシバルを泣かせている場面に出くわした。
「あー傑! お前! 普段は良い子ちゃんぶってるクセにこんな所で女の子泣かせてんじゃねぇよ! え、もしかしてアレ? 最後の思い出に一発もっこりを……とか、そんな事言いだした感じ?」
さも面白いモノを見たと言わんばかりのいやらしい笑みを浮かべて夏油をからかう御主人だったが、流石に不本意過ぎる勘違い(分かっていて言ってるのだろうが)にブチ切れたらしく、彼は無言のまま振り返るとガシッと御主人の首に手を回した。
そしてそのまま首相撲と呼ばれる体勢を取ると、両手で顔を引き付ける様にして側頭部へとティー・カウ・コーンと呼ばれる回し膝蹴りを叩き込む。
「不謹慎にも程があるよ悟……で、何で呪詛師? を拘束もせずにこんな所まで連れて来てるのかな?」
そう言いながら、首相撲を解かずボディへとティー・カウと呼ばれる膝蹴りを叩き込み続ける夏油。
「ちょ! ギブギブギブ! ポチがコイツと縛りを結んでさ、ちょっとやる事が出来たから連れて来たんだよ。敵対しない為の縛りは結んでるから取り敢えずは大丈夫だ」
ドスドスと腹を蹴られながらそう言って夏油の腕にタップを繰り返す御主人に、取り敢えずは納得したのかその腕を離す。
「上手くすれば彼にも俺達にもメリットが有り、人に殺人を教唆する様な問題のある宗教を真正面から社会的に抹殺する手段にもなる方法を思いついたのでね……天内少女、申し訳ないが右でも左でも良いから手を出してくれないか? ちょっと痛いが我慢してくれ」
御主人の下品な煽りと夏油の暴力行為で涙が引っ込んだらしい天内理子。
「ぬを!? 痛いのか? 泣くぞ! 恥も外聞も無く泣き喚くぞ!?」
「いや、注射より痛くは無い、本当にちょっとだ、指先から少しだけ血を頂戴するだけだ」
そう言うと恐る恐ると言う感じで右手を差し出して来たので、呪力で鋭さを強化した爪で小指をすこしだけ刺す。
「拡張術式『死体偽造』」
この拡張術式は元々は忍猫としての訓練で身に着けた『空蝉の術』を、身代わりとなる丸太なんかを用意せずに使用出来ないか……という試行錯誤の中で産まれた術式だ。
自分の肉体ならば胴体を真っ二つに切られても、心臓と脳が無事なら下半身を生やして動き回る事が出来るのが俺だ。
では残った下半身はどうなるかと言えば、そのままの状態でそこに残るのだが……術式順転『自切』で自分の身体を切った場合には、切った瞬間は両方とも自分自身という判定らしく両方に反転術式を回す事が出来たのである。
そうしてプラナリアの様に増える事が出来る様に成った俺ではあるが、残念ながらあの生物の様に増えた自分が全て自立稼働する様な事は無く、魂が入った本体だけが正常に稼働し、魂の無い肉体は5分程度で衰弱死してしまう。
ソレを他者に対して使うのが今回の拡張術式で、血の一滴からでも本体と繋がった状態で有れば、ストック1個をコストとしてソコから反転術式を回し肉人形を作る事が出来るのである。
「にょわ! 見るな! 見るでない! 貴様ら全員目を瞑るのじゃ!」
ただし当然と言えば当然だが出来上がる肉人形は、一糸纏わぬ産まれたままの姿だ。
倒れ伏した自分の裸体を目の当たりにした天内理子は、大慌てでそう言って夏油の目を塞ごうとするのだった。