畜生道に堕ちたと思ったら五条悟の飼い猫になった件 作:鳳飛鳥
天内少女の叫びに追い立てられる様に野郎どもは一旦黒井女史のいた場所へと移動する。
「あー黒井さん、悪いんだけどちょっと手伝ってくれませんか?」
こう言う場合、最も人当たりが良いであろう夏油が頼むのが一番穏当だと、自身も理解して居る様で俺が生み出した肉人形に予備の天内少女の衣類を身に着けさせる事を依頼する。
ソレから少しして、身支度が整ったとの事で既に衰弱死仕掛けている肉人形に、伏黒甚爾は天内少女の肉体であると分かる程度の状態を維持しつつ、拷問でも受けたかの様な傷を付けてトドメを刺した。
原作通り銃器で心臓と頭を潰して終わりでも良かったのだが、俺が絵図面を引いた盤星教 時の器の会一網打尽作戦には、明らかに『私刑《リンチ》』の末の死亡したと思しき痕跡が欲しかったのだ。
当然、自分のコピー体とは言え無作為な暴力を加えられる姿を天内少女に見せるのは酷だし、天元様の住まいを汚すのはよろしく無いだろうと、その行動は拝殿を出た迷宮内で行われた。
「後は盤星教にその死体を提出し、報酬を受け取り次第こちらに連絡を入れてくれ。警察に手を回し集団暴行殺人事件の容疑で捜査令状を発行してもらい、即座に警察隊に突入させる。遺体が有れば言い逃れは出来ず上層部はそれ相応の対応になる筈だ」
信者と書いて儲かると読む様に盤星教はかなりの資産を持つ宗教団体だ、恐らくは表の帳簿に載っていない後ろ暗い金だってたんまり貯め込んでいるだろう。
「ソレどさくさ紛れにかっぱらって来ると良いかもしれないね、悪人から奪うならソレは悪行とカウントされないだろう……多分」
俺がそんな作戦を口にすると、
「うわ……ポチの中身がおじいちゃんなのは知ってたけど、ソコまで腹黒い事を考えるタイプだったのか……流石に前の総監部程じゃねぇとは思うけど、割とヤベー奴じゃん」
「……ポチさんは畜生道に堕ちた身とは言え、善性の人だと思ってたんだが、ちょっと見る目が変わるねコレは」
御主人と夏油がドン引きした様子でそんな言葉を吐く。
「あん? ジジイに畜生道? どういうこった?」
「ポチさんは前世の罪が原因で畜生道に堕ちた元人間だって事ですよ、彼と悟は総監部とこの件に関して他言無用の縛りを結んでいるので、代わりに話しますが……あの世も地獄も御仏も六道輪廻も実在しているらしいですよ?」
「うげぇ……ソレが本当なら、ここでくたばらなくて良かったぜ。俺ぁ修羅道に行けりゃ御の字、まず間違いなく地獄行きだろうからな。まぁ実家の連中も漏れなく地獄に堕ちるだろうし、そ~言う意味では愉快っちゃぁ愉快だがね」
「……ご実家、そんなに酷いんですか?」
「ああ? 御三家の一つ禪院家を知らねぇのか? 高専の呪術師のクセに。まぁ彼処は腐りきってるぜ? 『禪院に非ずは呪術師に非ず、呪術師に非ずは人に非ず』なんて事をガチで言ってやがるからな。俺みたいな呪力が無い人間の扱いなんざぁお察しだろ?」
「えぇ……」
禪院家の実体を聞きドン引きする夏油、この会話も彼が『呪術師だけの世界は素晴らしい』と言う思想に陥らない切っ掛けに成ってくれる……と良いなぁ。
「んじゃコレは貰ってくぜ。報酬が手に入ったら直ぐにそっちに連絡入れるから、猫の言う作戦をやるなら根回ししとけよ? 俺もソイツの言う通り奴らの隠し金かっぱらって行くからよ」
「……ソレが終わったら、どうするんだ?」
天内理子の遺体を担ぎ上げ、その場を去ろうとする伏黒甚爾の背に俺はそんな言葉を投げかける。
「取り敢えずは一旦家に帰るさ、ガキ共が生きてるか確認しなきゃならねぇ……約束思い出しちまったからな。お前との縛りで約束は守らなきゃならねーからよ」
……勝った! 賭けに勝った! コレでパパ黒と子ども達が幸せに……かどうかは知らんが、少なくとも恵の母と交わした約束は守ろうとするだろう。
「ああ、そうだ。俺のガキに術式が出たら禪院に売る約束に成ってんだが……ソレをしちまうと約束を破った事になりそうだからな。約束が矛盾する場合にはどーなるんだ? この縛りは」
「約束した相手と連絡を取って、撤回出来るなら撤回すれば約束を破った事にはならんだろう? 相手と連絡が取れないならば遂行するしか無いんだろうがね」
「っち、しゃぁねぇな。じゃぁ向こうと連絡取るしかねぇか……んじゃ、警察への根回しは頼んだぜ……あばよ」
今度こそ去っていく伏黒甚爾の背中を見送り、俺達は再び天内少女と黒井女史が待つ拝殿へと向かう。
「……ポチが言ってる賭けの方法はもうわかっちまったけど、そんな上手く行くもんかね?」
「あぁ、成る程、さっきの拡張術式で理子ちゃんの身体を追加でもう一つ作って、ソレを天元様と融合させるって事かな? 確かに必要なのが星漿体の『肉体だけ』ならば上手く行く可能性はあるね」
「問題は天元が魂まで必要としてる場合だよな、下手にお嬢ちゃんに対して希望を持たせる分、失敗した時は徳どころか罪が重くなりそうなモンだぜ? ソレでもやるのか?」
「俺は
「……分の悪い賭けは嫌いじゃない……ね」
「前世で俺が好きだった漫画の一番好きなキャラクターのセリフにこんなモノがある『皆で幸せになろうよ』ってな」
「……ソレだけ聞くと凄く胡散臭い言葉に聞こえるんだが、ポチさん……本当に良いのかい?」
「俺は偶の休日も妻や子ども達に構う事無く、パソコンを弄り博打に興じていたろくでなしだよ? ここでもう一つくらいろくでも無い博打を打った所で最終的な帳尻さえ合えばいいのさ」
と、話をしながら再び拝殿へと戻り、天内少女と黒井女史と合流する。
「さっき見た通り、俺の術式は人の肉体を複製する事が出来る、天元様が星漿体の魂まで求める様ならば、申し訳無いが君を贄として捧げる他なくなるが、肉体だけでも融合が出来るならば君と言う人間は保持される事になる」
「妾は星漿体として天元様にこの身を捧げると信じて生きてきたのじゃ、でも……其方らと行動を共にして生きたいと言う欲も抱いてしまった……世界の為に天元様と一つになる事に否は無い……筈じゃ。妾が逃げれば友達や其方らが危険な目に遭うソレは嫌じゃ!」
……14歳の少女に押し付けられた責務と生きたいと言う欲との葛藤、ソレがどれほど重い物かは70年以上生きた俺でも想像する事は出来るが、完全に理解出来るとは言い難い。
けれども……天元が変異する様な事になれば、自分の大切な友人達や、たった2日半行動を共にしただけの御主人や夏油が危険な目を遭う事を厭う優しい彼女の性根が覚悟を決めさせた様だ。
「理子ちゃん……覚悟を決めたんだね」
「後は運を天に……いや天元任せてハッピーエンドを願うだけだな」
そうして3人と1頭で入った薨星宮……巨大な……屋久島の巨木群よりも更に巨大で、某家電メーカーのCMに出てくる巨木よりも雄大な一本の樹木……恐らくは御神木と呼ばれる類の物がそびえ立っている。
その根本にある木と比べたら小さな結界、ソコが天元様の御わす場所だ。
「思ったよりも早く来たね、呪力が活性化するまでは未だ暫くある、お菓子でも食べながら時が来るのを待とうじゃないか」
恐らくは結界の設定をイジって用意したであろう、田舎のおばあちゃん
「……アンタが天元? 想像してたのと全然違うなー。威厳とかそう言うのとは無縁じゃん。お菓子は食べても平気な奴?
「悟、流石に失礼が過ぎるよ、ちゃんと天元様と呼ばないか。ソレにこう言う場合、出されたお茶や茶菓子に全く手をつけないのも失礼だよ」
「ひゃっひゃっひゃっ、前髪のにぃちゃんソレじゃァ呪術師としてやっていくのは危ないねぇ。信頼関係が出来てる相手なら兎も角、初見の相手が出した食べ物には何か仕込みがあると思った方がいい。まぁコレは普通に奉納された物だから平気だがね」
原作後半で登場した天元と印象が大分違うのは、アレが進化し人とは違う存在になった後で、今のコレはある程度老婆の肉体に引っ張られているから……だろうか?
「その猫が企んでいる事にゃ私も割と興味があるんじゃよ、少なくともさっきあの天与呪縛の男が持ち帰った身体は死ぬまでは星漿体としての条件を満たしたままじゃった」
お!? 天元も案外乗り気なのか? となると賭けの成功率は上がったと思って良さそうだな。
「私だって好き好んで若い命を散らしたいと思って生きて来た訳じゃぁ無い、より多くの命を守る為に必要だからやって来た事さね。もしもソレで上手く行けば、その猫の術式を継ぐモノが居る限り私はもう星漿体を犠牲にせずに済む事になる訳じゃからの」
どうやら天元も星漿体を贄とする事には心を痛めていた様で、俺の拡張術式には期待を抱いている様子である……ただ、術式を継ぐには俺が雌猫と致さないと駄目な訳で……獣姦は地獄行きの罪だった筈で……いやでも今の俺は猫だからセーフなのか?
つかそもそもとして雌猫相手に逸物が使い物になるかどうかも分からんしなぁ……今、御主人の自室で御主人が留守の時にぬいぐるみ相手にマウンティングする時は、ネットで人間女性のそうした画像なんかを見ながらだしなぁ……。
術式の継承については取り敢えず棚上げして、御主人達が菓子をつまみ茶を飲むのを見ながら儀式の時間が来るのをただじっと待つのだった。