畜生道に堕ちたと思ったら五条悟の飼い猫になった件   作:鳳飛鳥

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懐玉……再生と構築そして崩壊

 草木も眠る丑三つ時、この時間に世界全ての呪力は最大に活性化する。

 

 どうやら俺のストック回復も丑三つ時に行われる様で、時間が安定しないのは日の出と日没を基準とする不定時法での丑三つ時が適用されるからの様だ。

 

 兎角、丑の刻参りなんて言う呪術が有る様に、この時間は呪霊も呪術師もなんならそこらに居る一般人も呪力が活性化し、普段ならば呪霊を見る事も出来ないであろう者が呪霊を見たりして呪力に覚醒したりするのもこの時間が多いらしい。

 

 ちなみに今日の満月が空を飾ったのは午後3時半過ぎ辺りであり、今日を満月の夜と呼ぶのにはいささか語弊が有ると思うのだが、満月が空に残した呪力が消失するのはこの時間を過ぎた後の事だと言う。

 

 薨星宮の天元が生活する結界の更に奥、御神木の根本にある小さな(と言っても個人宅の風呂よりは大きいが)泉で融合の儀式は行われる。

 

 融合の際には天内少女も天元も余計なものは何一つ身に着ける事は出来ないと言う事で、当然ながら御主人や夏油は居住用の結界でお留守番だ。

 

 ただ俺だけが通常の儀式とは違い同席を許されている、拡張術式で天内少女の肉体をもう一つ作る為である。

 

「では儀式を始めるとしようかね……まぁ儀式とは言っても然程大仰なモノでは無いがね。ああ、ポチといったね? アンタは私とこの子の融合が始まったら直ぐに新しい身体を作ってやんな。この子の魂を新しい身体に移すのは私がやるからね」

 

 どうやら新しく作った身体に融合すると言うのは、色々な面でリスクが大きいとの判断らしく、天内少女が今まで使ってきた『本体』と融合し、彼女の魂を俺が作った偽装体に流し込むらしい。

 

「……上手く行ったなら妾の小遣いから猫でも食べれる美味いモノを買ってやるから、くれぐれもよろしく頼むぞ」

 

 全裸の少女と同じく全裸のシワシワの老婆が泉の中へと入って行く、普通の猫とは違い水に濡れる事を厭わぬ俺もその後へと続く。

 

「では……行くぞ」

 

 二人が向かい合い、両手の平を重ね合わせると磁石のS極とN極が引かれ合う様に、二人の身体が少しずつ近づき、同時に触れ合って居る手と手が実体の無いモノの様に同じ座標軸に重なり合う。

 

 コレが融合の始まりだろうと判断し、俺は天内少女の尻に爪を走らせる。

 

 そこを切ったのは別段いやらしい気持ちからではない、融合を邪魔すること無く狙いやすい場所がただそこだったというだけだ。

 

「拡張術式『死体偽造』」

 

 流れ落ちる血の一滴に反転術式を流し込み、魂から引き出した人体の設計図通りに肉体を造り上げる。

 

 出来上がった新しい肉体はそのまま重力に引かれ泉へと水しぶきを上げて倒れ込むが、今の所ぴくりとも動かない。

 

 魂の移送が完了する前に溺れてしまっては折角支払ったコストが無駄になるので、俺が頭の下へと潜り込んで頭部を水面より上へと持ち上げておく。

 

 そうしている間にも融合は進んでいき、天内少女と天元の肉体が完全に重なり合うと、そこには10代半ばくらいの以前の二人とは似ても似つかぬ少女がそこには居た……恐らくは彼女が融合を果たした天元なのだろう。

 

「ふむ……私の方は無事に融合を果たす事が出来たね。後はその肉体に彼女の魂が無事に定着するのを待つだけだが……うん、見た所上手く行っている様だ。然程も経たないウチに……いや、もう目を覚ましたか」

 

 その言葉の通り、本来ならば生身の肉体が持つ温かみを持たない筈の肉人形が、血の通った温もりを持ち始めソレから俺の前脚に掛かっていた重みが消えて行く、天内少女が自分の力で上半身を持ち上げたのだ。

 

「……妾は……は!? て、天元様!? とってもお綺麗なのじゃ……」

 

 目を覚ました天内少女は天元を見てそんな言葉を漏らすが、俺の目から見ると天元のその容貌は確かに美しいが……どこか造り物めいた……前世でくたばる前に孫が追いかけていた某国の整形顔のアイドルの様に見える。

 

 いや整形美人と言う奴は、誰の目から見ても魅力的に見える容貌を造っているのだから、ナチュラルにそう言う顔立ちの者が居ても不自然では無いのだろう。

 

「君が何を考えているのか大体想像が付くけれども、女性の容姿に対して失礼な事を考えるのはオススメしないよ? でもまぁ君のお陰で若い命を贄とする事無く無事に肉体の再構築が出来た。出来るなら500年後にも同じ様にして貰う為にも子孫繁栄を頼むよ」

 

 ……こうして無事に天元の初期化と天内理子の生存という本来ならば矛盾するであろう出来事を俺は両立させる事に成功し、一連の騒動は天内少女が黒井女史の胸へと飛び込み再会を喜び合う事で幕を閉じた。

 

 500年後の未来に同じことが出来る様に、俺が術式を持ち得る血筋を残すと言うトンデモナイ課題を残して。

 

 

 

「あー、そ~言う事なんで……後はよろしく頼みますよ後藤警部補、え? 嫌だなぁ、ウチと後藤さんの間柄じゃない、何時もウチの後始末ばっか押し付けてるんだし、偶にはそちらさんに手柄を立てて貰う機会を用意しないと……はい、はーい、失礼しまーす」

 

 高専地下から外へと出ると、御主人が早速五条家と繋がりがあるであろう警察官──警部補って確か大卒キャリア組ならば初任で就く階級だった筈なので、恐らくはノンキャリ叩き上げとかの人だろう──へと盤星教の件を根回ししていた。

 

「後藤さんに連絡したのかい? 君の家の伝手ならもっと上にもねじ込めるだろう?」

 

 警部補は警察官の階級としては決して高いと言う程高い地位では無い、巡査→巡査部長→警部補と来るので下から3番目でしか無いと言える。

 

 ん? こち亀の両さんの巡査長は無いのかって? 巡査長は正式な階級制度の中には無く、巡査の中でまとめ役を務められると判断された者が便宜的に与えられる職位なので、昇進試験を受けて上へと上がる制度の外側にあるモノなのだ。

 

「後藤さん、呪術絡みの案件に関わるばっかで署内でも貧乏くじ係扱いらしいじゃん。俺達とも顔見知りだし、ここ等で一発手柄を立てて上に行ってくれた方が俺達としても後々色々やりやすいだろ? ソレに実家絡みの伝手だと一発で大事件にされちまう」

 

「……あの人は好きで昇進しないんじゃないの? 元々公安警察にいて色々とヤバい事知りすぎたから、干されたフリしないと危ないって聞いたよ」

 

「んなもん嘘に決まってんじゃん、まぁ公安時代にヤバいヤマに関わってたってのは事実だけどなー。呪術絡みのクソみたいな事件、その辺の関係で高専絡み担当にされたらしいよ。後は大田巡査長を抑えられるのがあの人しか居ないんだとさ」

 

「大田巡査長? 誰ソレ」

 

「ああ、両頭の事もお前知らなかったもんなー。警視庁のニ大問題警官のもう一人、こっちも一応は呪詛師。指差し呪術って古い術式の持ち主なんだけど、激昂すると相手に指を突きつけるクセがあるから術式暴発させまくってんのよね」

 

「……えぇ、ソレ、大丈夫な奴なのかい?」

 

「うん、大田巡査長自身の呪力はギリ3級届くかどうか程度でしか無いから、精々呪われても風邪を引きやすくなる程度の威力しか無いよ。でもまぁ『見える』お巡りさんは高専的にも有り難い存在だし、一応規定上は呪詛師ってだけだよ、懸賞金なんか30円だし」

 

「……30円」

 

「御主人、ソレは本当に人間の呪詛師に掛けられた懸賞金なのか? トニートニー・チョッパーの懸賞金でも50ベリースタートだったぞ?」

 

「他人に呪術で害を与えてる以上は呪詛師として手配しなきゃならないけど、その存在自体は高専や総監部にとって有益な人材、実際現場のお巡りさんとしては、ちょっと激昂しやすい点を除けばそれなりに優秀らしいんだよね」

 

「後藤さんは偶に現場の封鎖なんかで話をする事もあるけれど、その大田ってお巡りさんは知らないなぁ」

 

「そりゃ俺達と直接関わるのは警部補以上って決まってるらしいから、巡査長とは顔を合わせる事はないっしょ、でも多分どっかの現場で見掛けてはいると思うよ。あの人やたら引きが悪くてヤバい呪霊に絡む事件にばっか遭遇してるらしいし」

 

 そんな話をしていた夜のニュースでは数ある盤星教の中でも過激宗派と位置づけられていた『星の器の会』で、死人が出た事を信者の一人が通報し、代表を含めた幹部数人が緊急逮捕されたと報道がなされたのだった。

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