畜生道に堕ちたと思ったら五条悟の飼い猫になった件 作:鳳飛鳥
「試験体1番から3番は想定以上の出力が確認されています経過は順調です」
「試験体4番は能力発現の兆候は見られませんね、ミズ・イタドリの提言通り生命の危機を与えるべきでしょうか?」
「試験体5番、6番は能力の発現こそ有りましたが出力は想定の2割を切っています、こちらにも試練を課すべきと判断します」
ネバダ州レイチェルに存在するアメリカ空軍ネリス試験訓練場内の秘匿施設にある実験室。
そこでは何人もの科学者が一桁から10代前半と思しき者達を、マジックミラー越しに観察し何らかの実験を行っていた。
「ミズ・イタドリ、貴方の様な本物のパラサイコロジストの協力が得られた事に感謝致します。パラサイコロジーは未だ発展途上の分野で本物の学者は殆ど居ない。居ても多くの場合ジャップ……失礼、日本の横槍で我々の研究には協力して頂けない」
シルバーブロンドの髪をオールバックに撫でつけた、今この場では少し浮いている明らかに科学者では無い軍人が、額にある縫い目が特徴的な日本人女性に向かってそんな言葉を口にする……勿論全ては英語だ。
「いえいえこちらこそ、医学的、薬学的アプローチで人工的に
イタドリと呼ばれた縫い目の女は試験体と呼ばれる子ども達を、丸で自分の子どもを愛おしく見守る母親の様な表情で見つめながらそんな言葉を口にする。
ここに居る子ども達の大半は、自らの意思でこの実験施設へとやって来た訳では無い。
日本ならば呪術高専辺りからスカウトを受けるであろう何らかの術式を持つと思しき者を、ある時は金銭で……またある時は
ここに居る中に日本人の子どもが一人も居ないのは、呪術総監部の手で呪術師が保護、或いは監視されている土地柄なのと、一応は最重要同盟国と言う事も有って下手に手を出して表沙汰になると困る……という政治的な背景に依るモノだ。
しかし
世界各国の首脳クラスの人物であれば、呪霊や呪術と言ったモノが実在し、時にソレが大災害並の被害を及ぼす事は表沙汰に出来ない事実として理解しており、万が一にも自国に特級呪霊が湧いた時、対処出来る日本と敵対するのは得策では無いと普通は判断する。
だが中には呪術や呪力と言う軍事転用しうる超常のエネルギーを、日本だけが握っている現状を心良く思わない者も居る訳だ。
この研究施設の責任者であり
だが彼女が研究に協力する様になってから、目に見えて実験体達の成績が伸びて来ているのだから、内心は兎も角として研究者としての彼女の功績は認めざるを得ないと言う状況なのである。
「あら? あの個体は、想定以上に能力が伸びてるわね。拘束設備を一段階強化しないと危険だわ」
「試験体31ですか、あの個体は確かに他の者達よりも初期の頃から圧倒的なパワーを見せていましたが……これ以上まだ上がると言う事ですね。素晴らしい……今現在でも単体で戦車を相手取る事も出来るのにこれ以上、上があるとは」
イタドリの言葉に目を輝かせてディスプレイに表示されたデータを読み解く科学者。
「私から言わせれば、
「
「日本でこの分野を研究していて
「ふむ……そうした環境だからこそ、日本では
「残念ながらオススメ致しかねますわ。下層の犯罪者ならば兎も角、上位の者ともなると単騎で国家転覆すら可能と言われる程の
その言葉を聞き、ジョークととらえたらしい研究者や軍関係者が笑い声を上げる。
その笑いは彼女にとっては不本意なモノだった。
イタドリは決して冗談を言ったつもりは無い、現状たった一人しか居ないとは言え、特級とされる呪術師は間違いなく単騎で国を……やろうと思えば地球そのものを滅ぼせる存在だ。
そうした危険人物を作り出そうと言う研究なのだと、ここの科学者たちも軍人たちも誰一人思っていないと言う事が、彼女には滑稽でならなかった。
けれどもここで得られた知見は日本に籠もっていては得られなかったモノだと言う事もまた事実。
天元の初期化阻止、そして進化の促進には失敗したが、呪術師とはまた別方向に頭のイカれた科学者達の知識と技術は、きっとその代わりになる……そんな予感があった。
呪術だけが人間が進歩、進化する為の手段では無い……寧ろ2度の大戦を経験し、科学の発展を利用する事で呪術もまた進歩するのでは無いかとすら思える。
実際、時代を経るごとに今まで見たことの無い術式を持つ個体は少しずつ増えて来た。
二次大戦を越えGHQに総監部が解体されかけた時には、その危機を打破するかの様に時代に合わせた生得術式を持つ若者が出てきたモノだ。
ここで様々な
呪術界では呪力は持って産まれた才能であり、操作技術の向上で効率化する事は出来ても、呪力そのものが増える事は無いとされていた。
しかし今この場にいる科学者達には呪術界の常識なんてモノは関係無く、出来そうだと判断すれば実験体を使い潰す前提でソレを試してみる……と言う非人道的な行為がすらもが堂々と行われているのだ。
……ああ、なんと素晴らしい事だろう、千年前に夢見た同士と言える研究者達が今この場には沢山いるのだ。
最先端の科学技術を全て網羅した研究者なんてモノはこの世に存在する事は有り得ない、全てを一人の人間が一生涯で学び切る事など不可能だからだ。
ソレは1000年の時を生きる自分とて同じ、呪術に関しての知識だけならばあの引き籠もりよりも優れていると言う自負はあるが、人体の物理的構造は兎も角、医学的な意味での人体構造を現代の医者よりも知っているとは口が裂けても言えやしない。
けれどもここには人体のエキスパートが、最先端医療の研究者が、薬物が人体にどの様な影響を及ぼすかを恐らくは世界の誰よりも知っているであろう者が、呪力を機械で測定すると言う本来なら有り得ない事を為す者たちがいるのだ。
なんて素敵な場所だろう、これ以上に知識欲を満たす場所は今のところ他には無い。
……ただまぁ、ここに居られるのもそう長い間では無いと言う事も想像が付いている。
ここの科学者や軍人たちは、自分たちが何を作ろうとしているのか、何を研究しているのか理解していないのだ。
なんと素晴らしい人の業……彼等は自分達が呪いを振りまく側であり、同時に実験体とされている子ども達の呪われる側だと理解していない。
呪いは呪いを呼びさらなる呪いを招き寄せる……ココが滅ぶのは彼等が発した負の感情から産まれた呪霊か、それとも彼等が生み出した
ソレを考えると仮初の夫との間に子どもを作る為の行為をした時よりも、背筋を快楽がほど走る。
今日、明日と言う事は無いだろうが、自身の人生の長さから考えれば、然程長いとは言えない頃にはソレが結実するだろう。
きっとソレは1000年前に思い描いた最後の祭りと同等の喜びを齎してくれるに違いない。
ソレを思えば天元の進化の失敗がなんだと言うのだ、代替手段は恐らくここから産まれてくる。
後はココが破綻する前にソレを手に入れ持ち出すだけだ。
残念ながら天元の浄界が無ければ、最終目標を完遂するのは難しい……故にいつかは日本へと戻らねばならないが、ソレはココで手に入れるべきものを手に入れ、そして実った呪いを見届けてからで良い。
一日千秋の思いで破綻の日が来るのを待ちながら、彼女は自分と同じ様に狂った科学者達とのディスカッションを楽しむのだった。