畜生道に堕ちたと思ったら五条悟の飼い猫になった件 作:鳳飛鳥
呪術師の離職や殉職が減り新入生も例年よりも多かったにも拘らず、この夏は呪霊の討伐任務が異様に多かった。
震災や台風などで大きな被害が出た翌年には、昨年の災害から産まれた負の感情──呪力が湧き起こり、多くの呪霊が産まれるのは当然と言えば当然の事なのだそうだが、昨年は歴史に名を残す程の大災害は起こっていない。
なのに呪霊が多く湧き出ているのには、きっと何かの原因があるんだろうが、ソレを詮索するのは現場の呪術師では無く、九十九特級呪術師の様に任務よりも調査研究を優先する者に投げるべき事だろう。
そんな訳で今夜も俺は与えられた任務に行く為に補助官の運転する車の後部座席で丸くなっている……そう『俺に与えられた任務』なのだ。
今までの俺は飽く迄も『御主人の装備品』と言う扱いで、御主人に与えられた任務の中から、東京近郊で俺にも出来るであろうモノを御主人の判断で割り振る形だったのだが、法的人格権の取得に依って俺も正式に『高専の呪術師』として認められたのである。
『五条ポチ一級術師』が今の俺の呪術界に置ける正式な名乗りと言う事になる訳だ。
なんと俺は『知的動物の法的人格権に関する法律』の適用第一号であり、本来ならば様々な試験を突破して初めて得られるその権利を、様々な政治的理由(主に税金)から特例的に無試験で得る事が出来たのである。
ラーメン赤猫で4年間の実務経験と遡っての納税意向等など様々な準備をして何度も挑んで、やっとソレを得たクリシュナちゃんには非常に申し訳ないとは思うが、表向きには秘匿されている呪術師と言う職業の特殊性も有って真っ当な試験にはならなかったのだろう。
ちなみに表向きの肩書としては『警視庁公安部公安総務課第一公安捜査0係』に所属する警察猫と言う事に成っている。
公安捜査0係は主に呪霊や呪術に関連する事件に携わる部署で、以前御主人が電話していた後藤警部補や大田巡査長はココの所属であり、俺の法的人格の取得に際して口裏合わせの為に顔合わせをしたりもしていたりするのだ。
後藤警部補は若い頃の仲代達矢に似たイケメンでは有ったが何と言うか覇気が無く、この人ホンマに公安の刑事さんか!? と思いたくなる様な人だった。
が、どうも公安捜査0係と言う部署自体が、基本的には何をやっているのかも他の部署の人間には秘匿されているそうで、何の事件もない時には霞が関にある本部庁舎内にある割り当てられた一室で時間を潰すだけの窓際族を装って居ると言う。
元々は同じ公安部でも第四捜査7係でテロ屋を相手にしていたバリバリのやり手だったのだが、呪術と呪詛師に絡むとある事件の捜査を切っ掛けに呪術界を知り、捜査0係へと
以前御主人達が後藤警部補について『元公安の警察官』と表現していたが、公安捜査0係は公安部内の部署ではあるが、公安警察とは一線を画した別部署と言う扱いらしい。
その後藤警部補の部下である大田巡査長は、六角精児がメガネを外して身体を鍛えた様な感じの顔立ちで、元は機動隊に所属していたバリバリの肉体派だ。
彼は元々呪術高専へ進学する様にスカウトを受けていたのだそうだが、ソレを蹴って普通科高校へ進学後警察学校へと入り、極々普通にお巡りさんをしていたのだそうだが、任官当初から幾つもの惨たらしい呪術案件に関わることに成ったと言う。
ソレでもメゲずに機動隊へと所属を変え、現場のお巡りさんとして多くの事件に投入される度に呪術案件にぶつかり続け、結局呪術界から完全に逃げる事は出来ないのだと諦め、公安捜査0係に異動したのだそうだ。
他にも一条警部補や火牙巡査部長他何人もの捜査0係の警察官と既知を得る事が出来た。
ちなみに捜査0係で実際に普段から呪霊を見る事が出来るのは大田巡査長だけで、他のメンツは呪霊を見る程の呪力を持っている訳では無いそうだ。
要するに呪霊や呪詛師に絡む事件で呪術界を知ってしまい、その上で
警視庁内では穀潰し扱いではあるが、呪霊関係の事件なんかで総監部からの要請で現場周辺に規制線を張ったりするのは、基本的に日本全国何処でも捜査0係の人員が出張って所轄の警察官達の協力で行っていると言う。
基本的に縦割り社会の警察組織では、所轄外の人間が所轄の人間に指示命令を出す権限は無い。
例え階級が上の者だとしても、所轄外の人間に従う謂れは無いと言うのが警察組織である。
にも拘らず、所轄外に出張って来てアレコレ当たり前の様に指示を出す捜査0係は呪術界を知らない一般の警察官には蛇蝎の如く嫌われていると言う。
故に俺の表向きの肩書は安易の公言しないほうが良い……とまで言われてしまったのは良い事なのか悪い事なのか……。
兎角、そんな訳で俺は正式に高専の3年生と言う扱いになり、直接任務を受け取る立場に成ったわけだ。
なおその際には、俺が御主人の飼い猫に成ってから受けた任務の報酬全ての記録を、五条家の経理係がしっかりと保存しており、そこから導き出された額面の税金を遡って五条家の財産管理会社が『個人所得として』納税したと言う事は付け加えて置く。
正式に高専を卒業したら絶対に個人法人を立ち上げて節税してやる。
「ん、電話だ……はいもしもし?」
任務の移動中に俺の携帯に直接電話が入る事は珍しい、予定を変えるならば普通は補助官の方に連絡が入るからだ。
「家入か……え、分かった。一旦任務先への移動を中断してそっちへ向かう、俺が付くまで持たせてくれ。すみません! 補助官さん! 緊急性の高い患者が高専に運ばれたそうです! 申し訳無いが戻って下さい!」
「え?! ハイ! 今回の任務は緊急性の高いモノでは無いので、一度戻ってから改めて向かうか、他の術師を手配する形で良いですか?!」
俺の持つ術式が高専の呪術師の命綱である事は、この三年弱の間で既によく知られた事実と成っている。
それ故、俺の言葉を聞いた補助官は即座にハンドルを切って∪ターンした。
家入の反転術式だけでは治せない程の大怪我を負ったという事は、彼女の
呪術高専京都校にも俺のコピー体を使って組屋が作った三味線型の呪具が寄贈され、俺自身が使う
その為、東京から遠く離れた京都校の管轄地域でも、呪術師の殉職率は今年から下がるだろうと予測されているし、組屋が同じモノをもう一本仕上げていれば家入以外の呪術師でも患者を持たせる事は出来ただろう。
しかし組屋が呪具を一つ組み上げるのにはそれ相応の時間と技術が必要になる為、今の段階では残念ながら量産すると言う訳には行かないのだ。
なお俺のコピー体から作られた三味線は特級呪具『黒皮』と名付けられた。
その名の通り黒い皮が張られ、竿や胴の部分の木材は薨星宮の御神木から落ちた枝を贅沢に使い、駒や糸巻きと言った部品には俺の骨が使われているという贅沢品だ。
薨星宮の御神木の枝は割と在庫のある素材らしく、組屋はもっと完成度を上げる為にも、出来るなら量産したいと言っている程である。
……数が増えたら特級から格落ちすんのかな?
今の所、呪具を扱う裏市場には出して居ないが、恐らく安くて3億、高ければ天井知らずの値段が付くだろう……と御主人は言っていた。
組屋はもう呪術師と言うか呪具職人、なんなら三味線職人で食っていけるんじゃないだろうか?
先日の件で九十九特級呪術師のコピー体を手に入れた組屋だったが、
「今の俺には未だコレを完全な呪具にする技術は無い! だから素材化はするが呪具にするのは暫く先だ!」
と言ってバラバラ死体を作り、ソレを高専の忌庫に仕舞い込むと言う対応だった辺り、彼の職人としての拘りは既に出来始めて居るのだろう。
そんな感じで始めて個人で受ける筈の任務は一旦棚上げとなり、俺は高専へと戻るのだった。