畜生道に堕ちたと思ったら五条悟の飼い猫になった件 作:鳳飛鳥
「私達は運が悪かった……そう言うしか無い」
俺が高専へと戻り患者の下へと駆けつけると、恐らくは同じ任務で負傷したであろう七海が、全身包帯塗れの姿でそんな事を呟いていた。
……となると俺の
地獄の実在情報が上へと上がった事で総監部の腐ったミカン度が下がった事で、御主人のシンパであろう二人を抹殺すると言う原作でのムーブは置きないと思っていたのだが、運命と言う奴は本来有ったであろうモノへと戻ろうとするのだろうか?
「家入、灰原は未だ生きてるか?」
「ああ、何とか持たせた……後は頼む」
そう言って彼女が指し示す先には、今にも事切れそうな七海よりも多くの包帯を巻かれた状態の灰原と思しき者だ。
俺はソレに触れるとストックされた命を一つコストとして支払い、反転術式のアウトプットを行う。
「あ! 俺……生きてる! 生き残ったんだ! うわ! すごい包帯!? って、七海は! 七海は大丈夫なのか!?」
その効果は劇的で一瞬にして全身の傷という傷全てがふさがり、ヤられていたであろう内蔵なんかも全ては魂に刻まれた設計図通り健康な状態へと戻る。
「……声が大きいですよ灰原、私の傷に響きます。君の回復を優先していたので私には家入先輩の反転術式を施す余裕が無かったんです、もう少し静かにして下さい」
治療台の上で包帯塗れのままで立ち上がり復活をアピールする灰原に、七海が本当に辛そうな声色でそんな言葉を投げかけた。
「七海の方もベホマ一発行っておくか?」
見たところ命に関わる程の状態では無く、家入の呪力回復を待ってから反転を掛けても良いだろうし、なんなら暫く任務を休んで自然治癒にまかせても良さそうな怪我に見える。
「ポチさんはこれから改めて任務に行くのでしょう? その時に私に使った命のストック一つで生死を分ける可能性は十分にある。私は大丈夫ですからコストを無駄にする必要は有りません」
強がる風では無く、本心からそう言っているらしい七海を見て俺は少しだけ安堵した。
「にしても今のお前らがここまでの事になるなんて……現場で何が有ったんだ?」
既に深夜2時近いこの時間にも拘らず、二人を心配して起きて来たらしい御主人と夏油の姿を今更ながらに発見する。
「……任務自体は極々普通の2級案件で、大した苦労をする事も無く片付いたんですよ。ただ問題は我々の任務地から然程離れていない場所に別の特級案件があり、我々の戦闘で発した呪力に惹かれたのか、産土神と思しき特級呪霊と連戦する羽目になったんです」
「最初の呪霊を相手にした時に僕は術式使っちゃって呪力が切れてたんで、殆ど七海が闘ってくれたんだけれども……余波だけでこのざまですよ……」
「五条先輩の言う通り武術を学んで居なければ、私単独でアレを祓い切れたとは思えません、五条先輩……本当に有難うございました。武門の師範にもお礼に何か送らないといけませんね」
「僕も夏油先輩と一緒にムエタイで身体を鍛えてなかったら、多分ここに運ばれる前に死んでたと思います。夏油先輩……ジムと先生を紹介してくれて有難うございました」
……どうやら意図的な暗殺事案では無く、本当に不幸が重なった上での事故だったらしい。
「二人とも無事……とは言い難いが特級呪霊を相手に良く生きて戻って来たね。任務外だとしても特級を祓ったんだ、それ相応の見返りが有る様に上と交渉してくるよ」
「よ、流石は夏油特急術師殿! 夜蛾セン相手なら兎も角、ソレより上相手に交渉とか俺じゃぁ無理だね!」
「五条家の御当主様が何を言ってるのかな? 当然君も一緒に行ってその立場から圧を掛けてもらうに決まってるじゃないか」
「だよねー、まぁ前の総監部のクソ頭の固いおじーちゃん達と比べたら、今の総監部のおじーちゃん達は大分物わかりが良い人達だし、ちゃんと話をすれば分かって貰えるっしょ」
「さて……灰原の状態はもう良さそうだし、俺は今夜の任務を済ませに戻るぞ。御主人も夏油もあまり夜ふかしはせず早めに寝るんだぞ。ああ、そうだ御主人、今夜のDIVAを録画予約し忘れたから録画しておいてくれ」
「ポチも中身おじーちゃんなのに、お色気番組の類好きだねぇホント」
「あれ? ポチさんの好みのタイプってどちかと言えば、ああいう番組出てくる様な豊満な女性では無く、もっと幼い感じの
「嫁にしたい相手と、美しいモノを鑑賞したいと言う欲は別物だろう。小さいには小さいの、大きいには大きいの、それぞれに魅力があるモノだ、おっぱいはおっぱいだと言うだけで尊いモノなのだよ若人よ」
「あのさ……ここに私が居る事忘れてないか? 法的人格取って裁判を受ける権利も得たんだ、セクハラで訴えてあげようか?」
絶対零度と言う温度を体感した時には死んでいるのだろうが、ソレに等しいくらいに冷たい声で、家入がそんな言葉を口にする。
「おっと、俺はそろそろ任務に戻らねば……灰原も身体は回復しただろうが死にかけた事で精神的な疲労はあるだろうし、七海と一緒の最低でも一晩は安静にしておいた方が良いだろうな……ってこの辺は家入がしっかり説明してくれるだろう……ではさらば!」
高専内で俺が頻繁に出入りする部屋の扉には、一々扉を開けずとも出入り出来る様にペットドアが取り付けてある、医務室は当然ながらその対象だ。
俺が逃げ出したのが滑稽だったらしく、医務室からは灰原や七海を含めた5人の笑い声が響いて来たのだった。
「……さて、現場に着いた訳だが今日の任務はただ呪霊を祓って終わり……では無いんだったな?」
「はい、ここに御わすは未だ呪霊に堕ちてはいない精霊、或いは八百万の
七海と灰原が遭遇した『産土神』と思わしき呪霊も、そうした『信仰が失われ零落し』呪霊となり、人に害を為す存在へと堕っしたのだろう。
「成る程、未だ神と言える存在のままならば祓う必要は無いし、もしも呪霊に堕っしていたならばその時は祓え……とそういう事で良いのかな?」
「はい、相手は仮にも神と呼んで良い存在です、万が一呪霊と成っていれば特級と見て間違いないでしょう。五条ポチ一級術師は既に特級討伐の実績はありますが、くれぐれもご注意下さい。あと呪霊化していた場合には帳を下ろすのをお忘れ無く」
……呪霊が実在するこの世界には、神──一神教に置ける全知全能の存在では無く、多神教の特定権能しか持たない存在──が実在しているらしい。
俺がこれから相対するのは、その中の一柱で養鶏関係者から信仰を集める『ニワタリ信仰』の系譜にある神社の神である。
養鶏の神と言う事で分かる通り、そうした業者からの信仰は今でも集めている筈なのだが、今回向かう場所は近所に有った養鶏場が廃業し今は参拝する者も殆ど居なくなってしまった小さな神社なのだ。
今の所は未だ被害らしい被害は出ていないが、祀る者が居なくなった神は割と簡単に零落してしまうそうで、未だソレが神のままならば同系列の神社に合祀する事で呪霊化の被害を起こさない様にしよう……と言うのが今回の任務の趣旨である。
わざわざ深夜に来るのは神々や精霊といった存在もまた呪力が形を持った存在であり、この時間帯がもっとも呪力が活性化しコミュニケーションが取りやすいからだと言う。
「伏して御身にお目通り願います、ニワタリの神が一柱、オオトリ様よ。御座しましたら矮小なるこの身の前に御姿を」
『…・・…・・・・…・・!? (あな珍しや、人の子に非ず猫の子とは!?)』
脳に直接響いてくる様な声と共に姿を表した、ヒヨコをそのまま巨大化した様な黄色い鳥の神様。
「御姿を拝謁出来、恐悦至極にございます。此度はこの地で御方を崇め奉って居た人々が居らぬ様に成った事をお知らせすると共に、伏しまして御方に居住まいを改め他の社に合祀する事をお許し頂きたく馳せ参じた次第」
『………・・・・‥…・…・・・‥・・・(時代の移り変わり、人の世の習いは我が身には分からぬ事、されど崇める者が居らぬ様になれば、この身は人に仇為す荒魂となろう。その前に合祀されるならばやむを得ぬ。この地での務めは終わったと言う事)』
「ご理解頂き、誠に忝なく。後日正式に神職の者達により合祀の為の儀式を行わせます故、それまで心穏やかにお過ごし下さいまし」
「・・・‥…・‥…‥・・・・(良しなに)」
ただ最後にそう言うと未だ和御魂であられたらしい神は、その身を形作る呪力を解き姿をけしたのだった。