畜生道に堕ちたと思ったら五条悟の飼い猫になった件 作:鳳飛鳥
そろそろ繁忙期も落ち着く気配を見せて来た頃、夏油が二人の幼女を連れて高専へと戻ってきた。
「いやぁ……甘く見ていたよ、人間の悪意や憎悪と言うモノを……人は自分達の理解の及ばないモノを恐れ、嫌悪し、時ソレを神と敬して遠ざけ、時にソレを悪魔と称して虐げる……歴史を見ればそんなモノはありふれたモノだと言うのにね」
原作に於いて夏油傑と言う男が呪詛師へと堕ちた任務が今日だったのだ。
だが大きく違ったのは彼の精神が原作よりも大分安定していた事と、陰高野から齎された『術式を持つであろう子ども』のリストに彼女達も名を連ねており、更には『保護に急を要する』との注釈まで有った事だろう。
その情報が有ったからこそ、夏油は補助官だけで無く公安捜査0係の人員を伴い現地へと向かい、所轄警察官の手で『児童虐待の現行犯』として112人が逮捕されると言う結末に向かったのだ。
「……そこまで言う程なのか、こりゃもっかい総監部を突いて高専への入学が近い子よりも下の方を優先して保護して貰う必要がありそうだなぁ」
一応は衣服の体裁を保っているとは言えボロボロのワンピースを身に着け、明らかに暴力を受けたであろう傷を負った少女たちを見た御主人は、夏油の言葉に半ば困惑の表情を浮かべつつそんな言葉を口にする。
「一緒に行ってくれたのが後藤さんで良かったよ……私だけだったなら冷静な判断が出来なかったかもしれない」
激情を押し殺す様な表情を殺した顔でそう言う夏油。
盤星教の一件で非術師の悪意に触れておらず、灰原も無事だったと言うのに、コレは……『弱者救済』と言う信念を持つ彼は、今回の事件で非術師の大人が強者で呪術師と成り得る少女達が弱者だと言う、今まで信じてた世界がひっくり返る様な出来事だったのだろう。
「取り敢えず手当するよ、はーい大丈夫、もう痛い事する様な悪い大人は居ないからねー」
普段の家入からは考えられない程に優しい声をかけ、少女達に反転術式を施していく。
「……保護するにしても箱が必要だろう? 陰高野の話に依れば総監部が未だ陰陽寮だった頃には、ソレ専門の部署も有ったのだろうが、今はソレを行う専門家も子ども達を集めて育てる施設も無いのではないか?」
「ひ……!?」
「猫が喋った!?」
3人の会話に俺が口を挟むと、少女達が呪霊……いやオバケの類にでも会ったかの様に驚きの声を上げる。
「大丈夫だよ二人とも、この猫さんは人と同じ言葉を話す特別な猫さんだ、まぁ世の中には彼以外にも人の言葉が分かる動物さんはそれなりに居るそうだけれどもね」
膝を折り彼女達と同じ目線に屈み込んだ夏油が、努めて優しい声でそう言ってから、俺を抱き上げ彼女達の前へと連れてくる。
「……見た目より大分重いな……ほら、彼は五条ポチさん、そこのお兄さんの飼い猫で、色々な事をよく知ってる物知り猫さんだ。……ポチさん、分かってるとは思うけれども彼女達に不埒な真似をしたならばただでは済まないよ?」
「夏油……俺を何だと思ってるんだ。こんな孫の更に子どもの様な年頃の子ども相手に下世話な真似などする訳がなかろう。ん、んん、失礼した少女たち、俺は紹介された通り五条ポチと言うここで暮らす一匹の猫だ、ただの猫だ、君たちはソレだけ覚えれば良い」
前世から今生にかけての俺が持つ性的嗜好は、確かに現代では『ロリータ・コンプレックス』と言われても仕方の無いモノだが、飽く迄も11、2歳から14、5歳の思春期を迎えた少女の様な容姿を好むだけで、ガチの子どもに手を出す様な無分別なモノでは無い。
そもそもロリータ・コンプレックスの語源となったアメリカ文学の『ロリータ』とて、彼女達の様な幼女に対する性愛では無く12から14歳の少女……その中でも特に『ニンフェット』と呼ばれる『幼くして性的魅力を持つ少女』を愛した男の物語だ。
俺は決して思春期未満の子どもを性の対象とする様な
畜生道へと堕ちた理由となった過ちとて、自分の幼い性欲と性的好奇心を制御する術を知らなかった子どもの頃の話であって、そうした衝動を処理する方法を知ってからは一度足りとも過ちを犯した事は無のだ。
そんな事を声を大にして言いたかったが、流石に傷ついた幼い少女たちが居る様な場で口にするのは流石に下世話が過ぎると言うモノである。
……ここに居たのが家入だけならば、物理的戦闘になる事を辞さず夏油に猫ロケットパンチの一発でも叩き込んでいたがね!
「兎角、子どもを育てると言うのは生半可な覚悟で出来る様な事では無い、金銭面だけならば我ら呪術師の稼ぎなら幾らでも融通が利くだろうが、箱と人員は金だけで解決する問題じゃぁ無い。ソレこそ世の中には夏油が心配した様な真似をするやからもいるからな」
実際、児童養護施設で働く男性職員が立場を利用し入居する児童に対して不適切な行為を行った……何ていう事例は決してフィクションだけの事では無かった。
もっと言ってしまえば、児童に対する性犯罪の多くは児童の父親や兄弟(俺も他人事では無い)が加害者である事が多く、全くの赤の他人が加害者だったと言うケースは世界的に見ても決して多くは無いと言う。
何なら姦淫は罪であると標榜する宗教の地域指導者が、その立場を利用し何人もの子ども達にそうしたイタズラをしていた……なんてケースも有り、子どもが一番警戒しなければならないのは行きずりの誰かでは無く、身近な顔見知りなのである。
「……取り敢えずこの二人の事は、私の両親に相談してみるよ。ソレこそ金銭面の事に関しては特級の稼ぎなら心配させなくて済む。家の両親は私の様な『普通じゃない』子どもを高専に入るまで間違いなくしっかりと愛し育ててくれた人達だからね」
「まぁこの二人の事は傑ん
「ソレこそ総監部にぶん投げる仕事じゃないの? 私達学生がどうこう言う話じゃないじゃん。まぁ傑が保護した二人を夏油の家で面倒みたいって言うのは仕方ないにしてもね」
反転術式で怪我を治され、安心した様子でうつらうつらと船を漕ぎ出した二人を一つのベッドに寝かせ、家入が男達にそんな言葉を投げかける。
……それにしても原作では『猿は所詮猿、身内も例外では無い』みたいな感じで自分を愛し育ててくれた両親をブチ殺した夏油が、その愛情を信じて素直に両親を頼ると言う選択を示した事は、俺がこの世界に生まれ変わった何よりの成果だと思いたい。
え? 組屋が呪詛師にならなかった事? ああ、アレも成果と言えば成果だよね、俺のストックが余る様な事があれば、取り敢えず俺のコピー体を素材として渡してるが……保護猫活動家としては正直受け入れ難い有り様だからなぁ。
プロでも1~2ヶ月は掛かる三味線を手引書があるとは言え、独学で2ヶ月程度で楽器としても呪具としても相応の出来と言える代物に仕上げた物作りの才能自体は、本物と言って間違いないし今後呪詛師堕ちしなければ呪術界にとっては良かった事になるのだろうが。
「取り敢えず、一応は大人だった事の有る身から言わせて貰うならば、最も信頼出来て身近な大人にも相談してみるべきだろうな。夜蛾先生も毎回毎回頭越しに総監部と皆が直接やり合うのを見るのは胃にも毛髪にも良くないだろう」
彼等……特に御主人が何時も実家の権力を振り翳し先生を通さず総監部とやり合う度に、胃薬の量が増えてる気がするんだよなぁ……原作本編の頃でも毛髪は未だ無事だったが、この猫の身が彼に与えたストレスを考えると原作通り彼の頭が無事とは考えにくい。
「「「ぶっ!?」」」
禿げ上がった夜蛾先生でも想像したのだろう、三人は揃って吹き出すと寝付いた双子を起こさぬ様に口を塞いで肩を震わせ笑い声を堪える。
「いや、夜蛾センを信頼してねー訳じゃぁ無いけどさー、今センセ次期学長が決まって挨拶回りだなんだで忙しいみたいじゃん。この前なんかわざわざ俺連れて五条の本家まで挨拶しに行ったんだぜ? 当然俺挨拶受ける側で」
「まぁ本人は確かに受け持ちの学生だとしても、五条家の当主と言う立場なのも間違ってないし仕方ないと言えば仕方ないのかな?」
「あークソ面倒くさそう、私はそ~言うの面倒だし出世とかしなくて良いかなー」
「実際面倒だろうよ、御三家のウチで俺ん
俺も嫁さんと結婚式を上げる時には、来賓の座席の順で誰が誰より席次が上だった……とか後から揉めたりしないように色々と調べたりなんだりと面倒だった覚えがあるな。
「今だからこそ総監部のやらかしを先生がフォローした形を取らせる事で、先生が学長になった時の発言力を高めておくのも良い手だと思うんだがね? 過酷な幼少期を過ごした事で呪詛師となる子どもを救い、呪術師となる者が増える、これ以上無い手柄だろうよ」
更に言うならば俺の死体を利用し『東京校の生徒が』制作した『特級呪具:黒皮』は、恐らくは楽器を演奏する術式を持つ楽巌寺学長の手によって運用されている筈で、ソレを用意する事が出来た時点で東京校が京都校に貸しを作った形に成っている筈だ。
高専付属の
その提案者が夜蛾先生……夜蛾次期学長だと言う形を取る事が出来れば、楽巌寺学長による夜蛾学長の粛清(総監部がその命令を出すかは分からないが)の歯止めになる可能性は高いと思うのだ……コレは流石に彼等には言わないが。
「……こーいう陰謀とか策謀の話するとポチの中身がおじいちゃんだって実感するよなぁ」
「……私達も高専を卒業したら直ぐに呪術師として生活するんじゃ無く、社会経験を積む必要が有るかもね」
「私は医師免許取るため大学行くし? キャンパスライフは……医大だとクソ忙しくてそんなモンろくに無いらしいけどね……」
「俺も大学は行っておくかなー。呪術専門の教師なら高専卒で直ぐでも良いんだろーけど、やっぱ心理学とか教育学とかその辺勉強しといた方が良い先生に成れる気がするんだよね」
高専での生活も残り半分を切った3年の初秋、彼等もそろそろ進路を考え始める時期なのだろう……俺の言葉でそんな気持ちを刺激されたのか、彼等は将来を憂う言葉を口にし始めたのだった。