畜生道に堕ちたと思ったら五条悟の飼い猫になった件 作:鳳飛鳥
合同体術訓練①
「うーっし、じゃぁ久々に誰も任務無しの合同訓練だ、俺達3年組は術式無しで身体能力強化と武術だけで相手する。お前等は術式でも武術でも呪具でも好きに使って俺達を倒してみろ。あ、流石に2年の相手してから1年はキツいから先ずは1年な」
「1年坊主ども相手なら連戦でも行けるとは思うけど、2年を相手にする時にキツくなるから、こっちも交代で相手をするよ。最初の一人目は私と悟どっちと闘いたいか指名する権利を上げよう。ちなみに私は特級で悟は一級だけれども術式無しなら五分だからね?」
繁忙期が完全に終わりそろそろ秋が深まって来た頃、御主人の言う通り、久々に3年生以下の高専生徒が勢揃いした日に体術の合同訓練が行われていた。
「あー悟と傑はくれぐれも下級生を殺さない様に、私が居るから骨折くらいはさせても良いけど、ソレ以上だとポチのストック消費する事になるからね」
普段ならばこう言う訓練を行う際には呪術の教師で有り3年の担任である夜蛾が立ち会うのだが、次期学長としての引き継ぎに追われているらしく、今日は1年の担任だと言う女性教師が居るが彼女は何故か口を開こうとはしない。
「……先生からも何かあれば、一言お願いします」
ソレを疑問に思った俺がそう水を向けると、
「野菜マシマシニンニクマシアブラカラメ」
何故か某激盛り系ラーメンの注文が飛び出した。
「狗巻先生、呪言師だから下手な事言えないんですよ。教室に居る時は黒板使って筆談ですからね」
ソレをすかさず解説してくれた1年生の一人、名前は確か……磯野勝男だった筈だ。
彼の持つ生得術式は『海鮮操術』と言うモノで、呪術師家系である磯野家の相伝術式だと言う。
磯野家は代々その術式を活かして海に出没した呪霊を祓う事を専門とする一族だと御主人が言っていた。
普通は地上じゃ全く役に立たないその術式を持つ子どもが高専に来る事は無いのだが、彼は磯野家としては例外と言える程に多くの呪力を持っている為、術式を使わない戦闘能力を鍛える為に高専へと入学したのだそうだ。
「アブラヌキ」
彼の言葉を肯定する様にうんうんと頷く狗巻先生……恐らくは原作で2年生として登場した狗巻棘の母親か、或いはソレに近い身内なのだろう。
「んじゃ取り敢えず、俺から行く! 五条パイセンお願いシャース!」
5人の1年生の中では最も恰幅の良い男子、剛田剛が元気とも不遜とも取れる声を上げ、一歩前へと出た。
「はーい、ご指名ありがとー。んじゃ先手は譲るよ、死なない程度には加減するけど、少しは楽しませてよ?」
「術式順転『剛体
御主人のその言葉を挑発と取ったのか、1年の中では唯一既に二級術師と成っている矜持が傲慢になりかけていた男が、先手必勝とばかりに呪力を滾らせ地面へと拳を叩き込む。
剛田の生得術式は『
どう言う術式の解釈をしたのか怒声と共に地面へと繰り出した拳が大地を打つと、御主人に向かって地面が針山の様に隆起しソレは距離を進むごとに大きく成っていく。
「お! 思い切りは良いね、でもコレ地面に居る相手にしか効果無いよね? 結!」
しかし御主人は地面を蹴って宙を舞うと同時に右手で剣印を結び、単音で結界を張ってみせる事でその身を空中に固定する。
「っち! なら直接ぶん殴ってやる! って!? うわ、うわわ……なんだよコレ!?」
どうも剛田は少々直情的な部分があるようで、一つ技を回避されただけで頭に血が登った様子で御主人を追いかけ飛び上がった……が、御主人の張った無重力空間を作る結界の中では自由に動けないらしい。
「はい、先ず一人目おーしまい、甲賀流体術、伊綱落し!」
呪力放出で剛田に向かってダッシュした御主人は彼を素早く関節技で拘束すると、結界を解除し重力に従って地面へと叩きつけた。
「剛田は自分の術式に自信を持ってるのは良いけど、想定外の状況に陥った時の対処が甘い。最近は減ったけどソレでも低級呪霊だって言われて現場行ったら、1級だったとか特級だったとか言う階級詐欺案件はあるからなー」
「うす……」
頭が地面にめり込んで犬神家状態に成った剛田だが、術式の特性上ソレでも致命的なダメージが有った訳では無いようで、自力で這い出て御主人の寸評に対して素直に頭を下げている。
「じゃぁ次は私の番だね? 誰が相手をしてくれるんだい?」
「はい! 私が行きます! 夏油特級術師の胸をお借りします!」
剛田の瞬殺に近い敗北に意気消沈する事無く元気良く前へと出てきたのは、ジャージ姿では無く袴に胸当てを付けた弓道着姿の女子……1年生の紅一点である赤城姫子だ。
その服装通り手には弓を腰には矢筒を下げている、持っている生得術式は『鳴弦呪法』と言う本来ならば『魔除け』の意味合いを持つ『鳴弦の儀』に由来する術式である。
「早弓! 風切り! 南無八幡大菩薩! この矢外れ給うな!」
素早く後方へと飛び退ると同時に3本の矢を続けざまに夏油へと向けて射る赤城。
当然の事ながらまっすぐ飛ぶだけの矢をそのまま食らってやる程夏油は甘くは無い、素早く身を躱し射線から外れるが、恐らくは彼女の術式の効果なのだろう、一旦外れた矢はジェット機の様に空中で旋回し再び夏油を狙う。
「ほほう、君の術式は弓鳴りで呪力を打ち払うモノだと聞いていたが……コレは拡張術式の類では無く矢を式神にしているのかな?」
更に2本、3本と追加される矢を見事に躱しながら、そんな言葉を口にする夏油。
「ご明察です、私の術式は弓が必須、なのに矢を用いないのは勿体ないですし、式神にすれば……こうして誘導弾として使う事も出来ます!」
「うん、発想は悪くない。けれども……」
彼女の言に対し、夏油は10本以上の矢に追いかけられても未だ余裕の笑みを消す事無くそれらを躱し続けていたが、一言言葉を返した後に肘と膝に裏拳を駆使し全ての矢を一瞬で叩き落とす。
「一定以上の武を修めた者には通じないね。呪術師じゃなくても矢斬りは相応の腕前を持つ剣士ならば出来て当然の技だと聞くからね」
「なら次はこうです! 早弓! 飛び影! 南無八幡大菩薩!」
一度に3本の矢を弓へと番えソレをまとめて放つ、ゲームなんかではよく見る技術だが、実際にソレで1人を狙い撃つのは不可能だろう。
しかし矢が式神で有り誘導性を持たせる事が出来るならば、必ずしも正確に狙いを付けて撃つ必要はない。
放たれた3本の矢は即座に旋回し夏油を狙う……が、彼女はソレが届くよりも先に矢を番えずに弓を弾く。
「な!? 呪力が!?」
これぞ彼女の持つ生得術式『鳴弦呪法』の本領、弓鳴りを響かせ呪力を打ち消すと言う術式の効果だ、コレにより夏油の呪力が乱され一時的にではあるが呪力に依る身体能力強化や、他者から仕掛けられた呪術に対する耐性が抜け落ちる。
「秘伝呪法! 影縫い!」
その掛け声と共に3本の矢が地面へと向かい夏油の影を射抜く。
「く!? 身体が!?」
「おー、生得術式に依らない古典呪術の応用かー。お前等も覚えておけよー、結界術、式神術、符術は術式が無くても使える代表的な呪術だが、赤城が使った影縫いの様な古典呪術なんかも術式に関係無く努力すれば使える奴だぞー」
御主人が拍手をしながら言った古典呪術と言うのは、その名の通り術式として血筋に定着する以前の古い呪術全般を指す言葉で、呪力を持つ者ならば誰でも──それこそ一般人でも──効果の多少を気にしなければ使う事が可能な呪術の事だそうだ。
分かりやすいのが原作で釘崎野薔薇が使っていた『芻霊呪法』で、原型となる古典呪術はよほど偏屈な者で無ければ日本人なら誰もが知っている『丑の刻参り』である。
「コレは傑が油断したってよりは赤城を褒めるべきだろうな。
古典呪術が古典として廃れたのには当然ながら理由がある、一定以上の呪力を持つ相手には効果がないどころか、抵抗力を抜けなければ『呪詛返し』が発生して倍の呪力で自分に効果が返るからだ。
故に今どき古典呪術を警戒する呪術師は居ない、自身が纏う呪力を超える古典呪術等存在しないからである。
古典呪術は誰でも使えると言う点でも分かる様に殆ど呪力を消費せず、その古典呪術を元とした術式を持っていたとしても、その古典呪術が持つ形式以上の呪力を込める事が出来ないのだ。
故に本来ならば呪力で勝る夏油に赤城が用いた古典呪術が通用する筈が無く、呪詛返しで案山子になるのは赤城自身だった筈である。
では何故今回ソレが通ったかと言えば、彼女の持つ生得術式の効果で夏油の呪力がほんの一瞬ではあるが乱され、呪術的防御が無効化された事が原因だ。
「まぁ普通の無下限呪術の使い手なら兎も角、六眼持ちの俺は鳴弦呪法で放たれた呪力にカウンターで呪力を放って無効化出来るから、同じ手は通らねーけどなー。傑、もう呪力は戻ってるだろ? 影に向けて呪力を流せば影縫いは無効化出来るぞ」
御三家の一角を担う五条家の当主に相応しい知見を披露した御主人は『次は俺だな?』と言わんばかりに肩を回して一歩前へと進み出るのだった。
オリキャラ及びその術式、古典呪術に関しては全て拙作での捏造設定です