畜生道に堕ちたと思ったら五条悟の飼い猫になった件 作:鳳飛鳥
特級術師である夏油に3級術師の1年生赤城が勝利した事で沸き立つ1年生達。
とは言えソレは飽く迄も初見殺しが見事にハマったが故の下剋上であり、次も同じ手が通じるかと言えばそんな事は絶対にない。
「うーっし、伊地知はそもそも術式無いし、組屋は戦闘向きの術式じゃない、そんで磯野の術式は地上じゃ使えない……うん、お前等纏めて畳んでやるから3人揃って掛かって来い」
構えらしい構えを取る事なく、そう言って掌を上に向けクイックイッと手招きをして3人の男子を煽る御主人。
格上殺しを成し遂げたのが紅一点の女子だった事もあり、彼等は男の矜持を守る為にも御主人に勝たなければ……と奮起する事だろう。
「流石に俺達舐めすぎだぜパイセン……呪具の使用はオッケーなんだよなぁ!? 伊地知はコレ! 磯野はコレ使え! 行くぞ! って言ったら行くんだぞ?」
挑発に乗った様な素振りで組屋が御主人に背を向け、伊地知と磯野に何やら呪具を渡し、振り返るなり古典的なギャグをかます。
御主人はソレに見事引っかかり、最初の『行くぞ』で身構えて続けた言葉で気を抜いた。
その瞬間を狙いすまし伊地知が受け取った呪具で御主人を撃つ、手にしているのは肉と骨を束ねて作ったロケットバズーカの様な呪具で、打ち出された弾は砲弾の類では無く肉球愛らしい猫の脚である。
2級呪具『にゃん²バズーカ』と名付けられたソレは、特級術『黒皮』を作る為に組屋へと提供した俺のコピー体の余った部分を有効活用する為に作られた呪具で、猫ロケットパンチを撃ち出す事が出来ると言うモノだ。
一般人でも呪具さえあれば呪霊を討伐する事自体は可能であり、にゃん²バズーカは俺本人が縛り無しで撃つ猫ロケットパンチ(弱)と同じ威力を、遠距離攻撃且つ量産可能というモノで補助官への支給が大真面目に検討されている逸品である。
砲弾となる俺の脚も術式順転『自切』で切り落としたモノを組屋が加工するだけで済むので、反転で脚を生やし治す呪力が持つ限り量産が可能な辺り、高専的には極めてローコストに補助官が戦闘に巻き込まれた際の備えが出来る代物となっております。
威力もそれなりにある飛び道具なので、任務に当たっている呪術師が危険な状況に追い込まれた時の撤退支援なんかにも使えると高専上層部だけで無く、若い呪術師を死地に送り出す事しか出来ない補助官達からも実用化が待望されている品なのだ。
……ぶっちゃけ組屋は黒皮とにゃん²バズーカの量産をしていれば現場に出なくても十分に貢献してるだろ、と方々で言われているそうな。
彼の『骨肉葬術』と名付けられた生得術式で『素材』にされた肉や骨は呪力が介在しなければ加工する事は出来ず、同様に呪力が絡まない腐敗や燃焼と言った化学変化にも極めて高い抵抗力を持つ。
呪具の作り方は幾つかあるらしいが、どの方法もそれ相応の素材と技術や時間を必要とするモノで、量産なんて事は出来ず基本的には全てが一点物である。
しかし俺の術式と組屋の術式でコンボを組めば、素材は殆ど無限に用意出来る事になり、呪具への加工は相応の技術を要するモノなれど、マニュアル化してしまえば歩留まり具合は別として呪術師ならば誰でも作れなくは無い訳だ
ただし当人としては同じモノを延々と造り続けるのは面白い作業では無いらしく、不出来な仕上がりとなってしまったモノに再挑戦するのは例外として、可能ならば多くの素材を使って色々と試行錯誤して造りたいと言う。
そんな彼が作り出したもう一つの品物が磯野の持つ2級呪具『
コレもにゃん²バズーカ同様に骨を組み立てた銃器型の呪具だが、人間の骨で作った割り箸鉄砲を思い浮かべれば概ね間違ってはいない。
素材は灰原のコピー体で使用者の呪力を
コレまた飛び道具ではあるのだが、使用者の呪力を威力に変換すると言う点でにゃん²バズーカとは違い、補助官向けでは無く呪術師向けの呪具と言えるだろう。
「呪力でも術式でも体術でも勝てない相手に飛び道具と言う選択は決して間違いじゃぁ無い。ただ……相手が悪かったね?」
端から見ればにゃん²バズーカが放った肉球砲弾も燃焼爆銃の放った熱線も見事に御主人の身体へと直撃した様に見えた。
しかし二つの爆発が発した煙が晴れた所には焦げた丸太が一つ転がっているだけで、御主人自身は1年生3人の後ろへと回り込んでいたのだ。
「忍法空蝉の術……って要は隠し持ってた丸太を盾にして攻撃を受け止め、その隙に回り込むだけの技だけどヤられると割と驚くだろ?」
「五条パイセンが忍者なのは七海パイセンに聞いてたんでね! 食らえ新作!」
組屋の背後を取って逆手に持った苦無を首に突きつけ、ドヤ顔を決めた御主人に対して組屋は想定通りと言わんばかりの反応で、後ろ手に持っていた人間の心臓の干物らしきモノを押し付ける。
すると御主人に水にも見える呪力で出来たサメらしきモノが食い付き、そのまま3メートル程の距離を押し込んだ。
「みたか! 磯野の心臓を使った呪具『シャークナックル』の威力を!」
「ちなみにボク自身はそんな技使えませんよ!」
呪術師の肉体を素材として使った呪具だからと言って、必ずしも術式を再現すると言う訳では無い様である。
「あっぶねー、もうちょっと呪力の出力が高けりゃガチで腹を食い破られてたかもしんね。まぁ俺の呪力防御を抜くには少し足りなかったから、痛手って程じゃぁ無いが……んでも俺の想定を超えたって点では悪く無いな」
無下限呪術で防いだ訳では無く、呪力を防御力に回す事でサメに食われる事を防いだらしい。
「伊地知は呪具だけに頼るなよー、お前の親父さんがお前とそんなに変わらん呪力で二級張ってんのはとことんまで磨いた結界術のお陰だぜ? 磯野もだ、陸上では使いモンにならん術式だけど呪力の出力はあるから高専来たんだろ? もっと体術を磨こーぜ!」
再び手招きをして攻撃を煽る御主人、呪具を使う事自体を否定する訳では無いが、呪具に頼り切りになるのはよろしくない……と言いたいのだろう。
組屋に関してはそもそも術式的に呪具師になるだろう者で、なら呪具を使ってナンボと言えるので彼に対して言及しないのは理解出来る。
「くっ!
左右の手で剣印を作りソレを掌同士を重ね合わせる形で一つにし90度捻って印を為し、一般的に知られている結界術とは違う
すると御主人の足元にクロウリーの六芒星と呼ばれる文様が呪力で描かれソレが回りだす。
「へぇ、やれば出来るじゃん。拘束と呪力の強制消失の結界か……んでもこの出力じゃぁ俺の呪力を削り切るには足らねぇなぁ……って、マジか!? この結界奪った呪力を自分に還元するのか! コレなら決まれば2級でも祓えるんじゃ……って駄目じゃん」
伊地知が使ったのは相手を拘束し呪力を奪う結界の様だが、結界を維持するコストよりも吸い出す呪力の方が多いらしく、彼の呪力許容量をあっという間に超えて力尽きた様に四つん這いになる。
しかし結界が消えた瞬間には間合いを詰めていた磯野が全呪力を乗せたと思わしき拳を御主人へと叩きこ……もうとして、簡単に腕を絡め取られそのまま肘を極めたまま投げられた。
「攻撃のタイミングは悪くねーけどテレフォンパンチは頂けねーな。結論! 伊地知と磯野は失格! 磯野は呪術以前に武術学んで来い! 伊地知は親父さんに結界術手解きして貰え! 組屋は作った呪具の数が手数になるけど、使い熟せないんじゃ意味ねーぞ!」
磯野は折角潤沢な呪力があるのにそれを活かす為の、武としての身体の使い方が分かっていないので武術を学ぶべきで、伊地知は足りない呪力で身体強化を行っても仕方がないので、少ない呪力で効率良く戦う父に手解きして貰うのが強くなる近道なのは事実だろう。
3人のウチ2人が沈み組屋もこれ以上は隠し玉はない様で、御主人が突きつけた試合終了に否はないらしい。
「よーし次は私の番……と言いたい所だけれども、ポチさんも我々と同じ3年生で一級の看板をぶら下げてるんだ。次は灰原の相手でもしてくれないかい?」
おおっと? まぁ確かに俺も法的人格を取って正式に呪術高専の生徒として扱われる事に成った一級術師だ、後輩に稽古を付けるのは吝かではない。
「仕方ない、まぁ俺も偶には術式無しの対人戦をやっておきたい所だし、灰原がNOと言わないなら相手をしよう」
家入と一緒に介護要員として日陰で後方待機していた俺は、香箱座りを解きグラウンドへと歩み出るのだった。