畜生道に堕ちたと思ったら五条悟の飼い猫になった件 作:鳳飛鳥
この時代だと未だ未来の話なので、俺が前世で好きだったサマーウォーズと言う映画がこの世界でも上映されるかどうかは分からないが、あの作品に出てくる陣内家の家屋敷を想像して貰うと大間の磯野家の住まいがどんなモノかご理解頂けるだろう。
見た目として大きな違いがあるとすれば、あの映画に出てきた巨大な武家屋敷が瓦屋根だったのに対して、コチラは降雪対策なのかトタン屋根だと言う事だ。
兎にも角にもデカい、マグロ漁で稼いでいる者が多い所為なのか、比較的立派な一戸建てが周囲にも多いのだが、ソレと比べるまでも無い豪邸である。
「すっげぇ! コレもう家じゃなくて城じゃん!」
「いやコレマジで城だぞ? どう見ても誰かに攻め入られる事を前提とした防御施設に成ってる」
「呪術師は命懸けの代わりに儲かる仕事だと言うのは知っているけれど、代々呪術師を排出している家ともなると、御三家の括りに入らない家でも凄い事になるんだね」
「この家なら12人もお客さんが来ても十分に泊まれるよね!」
「ココが都会とは言えない場所だと言う事を差し引いても、この家屋敷を維持するだけでどれほどの金額が掛かるのか……想像するだけでクラクラしてきますね」
「あはは……ここまで来るともう、世界が違いすぎて笑けて来るね。悟ん
磯野家の邸宅を見て想像以上の大きさだった事に衝撃を受けているらしい一般家庭出身の面々、どうやら組屋はある程度城砦の知識も有る様で、武者殺しがなんだ……とマニアックな事を口走っている。
夏油も既に特級術師として相応の金銭を……なんだったら御主人より多く稼いで居る筈なのだが、この辺の感覚はまだまだ一般人のままらしい。
対して呪術師家系の者達はと言えば……
「まぁまぁ大きいけどウチの別邸の方が大きいぞ。京都市内にある本邸は流石にここまで大きくないけどなー」
飼い猫だと言うのに未だ俺は連れて行って貰って無いが、五条本家は京都市内にある対外的な目的で使う本邸と、郊外の山にある呪術師としての本家機能を集約した別邸の2つの屋敷を持っているそうで、別邸の敷地はソレこそ山が丸ごと全部とからしい。
「いやいや、幾ら歴史ある呪術師の家系ってもココや御三家は別格だからね? 庵の家は本家でもこんなに大きく無いし!」
「……すみません歌姫先輩、赤城の本家はココと同じくらいの規模あります」
「アンタん所は全国300社ある赤城神社の総本山でしょうが! 家格で言えば御三家よりは劣るとは言え、平安時代から続く名門中の名門でしょ! そんなんと系譜をギリギリ繋いで来た様な普通の呪術師家系を一緒にすんな!」
庵家も呪術界では相応の歴史を持つ家らしいのだが、上から数えた方が早いであろう名門と比べたら、言っては悪いが木っ端の方に分類される家だと言う。
「私は……一応一般枠ですんで、まぁ父から呪術界の色々は多少聞いてるので、ソレ程の驚きは無いですが……」
そんな皆の反応に対して比較的クールな反応を見せているのが伊地知だ。
直接見知っている訳では無いが、呪霊を見る事が出来て自分と同じ程度の呪力を持つ息子に、伊地知2級は多少なりとも呪術界の常識とでも言うモノを語っていたらしい。
ちなみに伊地知家は彼が高専に入学するまでは下北沢にあるマンションで家族5人仲良く暮らしていたそうだ……まぁ父親は万年人手不足だった呪術界で、少ない呪力量でも戦える2級として潰しが効く戦力扱いで家に帰る事はあまり無かったらしいが。
「ようこそごんな田舎まんでおいでけさまいました五条の御当主様と御学友の皆様。ワイが磯野家現当主の磯野
表門を潜ると玄関先まで出迎えに来ていたらしい磯野家の当主が、主に御主人に向かって頭を下げつつそんな挨拶を口にする。
「ウチの風呂は近くの山に湧いてる温泉を引いてるから、何時でも入れますよ。ソレに同じ屋敷に何家族か纏めて住んでるので、何人か一気に入れる様に風呂場も大きいんですよ。とは言え流石に全員は入れないし……」
「そいは先ずは五条の御当主様がらだろ、家格ってモノば考えろ! そいで次は女性陣、おめは最後だ」
「あー、今日は五条家の当主としてじゃなくて、磯野……勝男君の高専の先輩って事で来てるんで、家格とか持ち出すのは無しにしましょうよ。纏めて入れるくらい広いなら、取り敢えずは歌姫と硝子と赤城の女性陣が最初で良いんじゃない?」
「そいでは御当主様……五条先輩には先に家族ば紹介しましょうか。このえだけでも4家族が暮らしてますんで、夕飯の時にはご一緒しますしね」
そう言われて旅館の様な広さのある玄関で靴を脱ぎ、建物に上がるとそこには三十路くらいの女性が控えていた。
「勝男の姉で
「へぇ……勝男、御当主さんは勿論、お姉さんまで相伝術式持ちなのか。まぁ呪力に差があるし家督争いとかにゃならなそうだなー」
栄女史を一目見て、その六眼で術式を看破した御主人がそんな言葉を口走る。
「あいやいや、栄は既に嫁っこに出した分家のふとでしてな。家督は勝男が死ななければ勝男が継ぐ予定です」
「へぇ……相伝持ちを嫁に出すんだ。磯野家は呪術師家系としては大分珍しい方針なんだね」
相伝術式は呪術師家系にとっては決して散逸するべきモノでは無く、その術式と血筋を守る為ならば多少の外道──ソレこそ畜生道に堕ちる様な真似すらも──は容認される程に大事なモノだ。
故に古い家系であればあるほどに相伝術式を持つ女が産まれたならば、ソレを次代に残す為の肚として家の中に囲い込むのが普通と言える。
「磯野の相伝は割と出やすいモノでして、今このえに居るだけでも7人。津々浦々の分家ば含めれば数えるのも馬鹿らしい程に登りますがらな」
「え!? マジで!?」
術式は遺伝する……とは言っても親が相伝術式を持っていれば、必ず子どもに相伝術式が出来るという訳では無い。
むしろ術式が出ない方が普通で、なんなら御三家でも相伝術式を持つ者が居ない世代があるのは割と当たり前、故に古い呪術師の家系程、嫁の他に妾を囲い込んで、言い方は悪いが『子ガチャ』を回すのだ。
にも拘らず磯野家は今の時代に本家とソコに同居する分家3つだけで7人、ソレ以外の分家も含めれば両手両足の指を足しても足りない程の相伝持ちが居ると言う。
「……先輩! そんなに驚く事なんですか?!」
相伝の希少性を知らないらしい一般家庭出身の者達を代表してか灰原が元気よく手を上げて質問の声を上げる。
「術式の有る無しは呪術師の戦力を大きく左右するのは分かってるだろ? んで、術式を持つ者の子どもが必ずしも術式を引き継ぐとは限らねーんだ。呪力量は割と母親の影響を受けると言われてるが、ソレだって本当なのか誰かが研究して論文書いてる訳でもねぇ」
そんな言葉から始まる呪術界の常識講座、と言うかこの辺は割とセンシティブな問題なのと有用な術式を持つ者を囲い込みたい御三家や古参呪術家系の思惑もあってか、高専では特段習わないんだよな。
「そんな訳で一般家庭出身で有用な術式を持ってる奴は、割と強引な見合いとか下手すりゃハニトラとか有るからな? お前等は適当に種撒いて術式盗まれ様が対した問題にもならねぇんだろうけど、ウチみたいな古い家系の相伝は盗まれるとシャレにならんのよ」
相伝術式を持っていると言うだけで家督相続の権利が発生するのだから、御家を守ると言う点から言えば御主人は遊びでヤッて知らぬ間に子どもが出来て、その血筋から相伝が出たとかなると御家騒動待ったなしである。
その点で言えば呪術師としては初代と言う事になるだろう一般家庭出身の者は、有る意味で気楽と言えるかもしれない。
ただ逆にその術式を自分の家へと取り込む為に、お見合いならば未だしもハニトラまで使う家があると言う話に、ドン引いている磯野と御主人を除く一同。
「一番しゃれにならんのは、そうしてぬすまれた相伝ば持つ者が呪詛師に成った場合だ。そうなると一族ばあげてほの者ば絶対に狩らねばならねぇ」
磯野の御当主が御主人の言葉に乗っかって、更に重い現実を突き付ける。
「傑の術式を考えてみろよ。呪霊操術を持ってる奴が呪詛師堕ちとかマジで洒落にならねぇだろ? 組屋も呪具は裏じゃぁ馬鹿みたいな値で取引されてんだ、その術式や術式で作った素材を欲しがる呪詛師も多いだろうから、ハニトラにはマジ気を付けろよ」
呪霊操術自体は歴史ある術式では有るが、ソレを相伝として伝えている呪術師家系は無い、恐らくは上記した様な方法で盗み出されたりして散逸し、その血筋のどれかが夏油の身体に流れているのだろう。
等と女性陣が風呂から出てくるまで、彼女達が居る場で話せばセクハラと言われるであろう……けれども呪術師として一生を生きるならば覚えておくべき事を話していたのだった。