畜生道に堕ちたと思ったら五条悟の飼い猫になった件 作:鳳飛鳥
シモい話をしていたら家族の紹介を受ける間も無く女性陣が風呂から上がって来た。
仕方ないので家族の紹介は全員が風呂から上がり夕食の宴の時にする事にして、続いて2、3年生が風呂へと入る、当然と言えば当然だが俺もこの枠だ。
今回の旅行の持ち物として猫用のシャンプーは要らないと言われていたのだが、磯野家の風呂場にも俺が普段使っているのと同じシャンプーが常備されていた。
どうやら磯野家でも猫を飼っているらしい。
風呂上がりには結界術の応用でドライヤーは必要無いが、抜け毛処理の為のブラッシングは必須なので御主人にブラシを掛けて貰う。
「うりうり……どーだ、ここがええのんかー」
とか言いながら楽しそうに毎日欠かさずブラッシングしてくれる辺り、御主人はやっぱり猫好きなんだと思われた。
「えっと、先ずこの人がウチの
磯野が我々……と言うか御主人に対して家族を紹介し、名を呼ばれる度にそれぞれが軽く会釈をする。
家格を考える様な時代ならば、先ずは磯野家一同が平伏し呼ばれたら
最初は現当主の勝正殿がソレを行う様に指示していたらしいのだが、逆にドン引いた御主人が改めて五条家の当主としてでなく高専の先輩として来たのだと言った事で、このスタイルでの紹介となったのだ。
「こっちが典弘従兄さんの奥さんで
一つの家に4世帯同居と聞くと核家族化の進んだ現代では『えぇ!?』と驚くだろうが、彼等呪術師家系では割と当たり前の光景だと言う。
なんなら御三家辺りだともっと大勢……それこそ100人単位が一つの家屋敷で生活を共にするらしい。
ソレは戦国時代の武士が戦の為に一族郎党を纏めていた延長線上にあると言っても過言ではなく、むしろ武士が呪術師のソレを真似て血族を総戦力化した事で戦国時代が始まったとすら言える程に伝統的な呪術師の御家と言うのは一致団結するモノらしい。
地方の呪術名家の類なんかだと一応は核家族化してはいるものの、村全体が親戚であり呪術師としての本家を支える様な体制を作っている所もあると言う。
「……そう言う話を聞くとミミとナナは何であんな扱いを受けていたのかが疑問だね? 呪詛師が安寧な余生を求めるにしたって村社会に溶け込むのは容易では無いだろうし、古くからの呪術師家系なら村の支配者階層である可能性が高いんだろう?」
夏油が保護したと言う双子は原作でも木枠で作られた座敷牢に幽閉されていた。
あんなモンが現代社会の何処にでもあるかと言えばそんな訳が無い。
「零落し忘れられた呪術師のえが先祖返りしたか、もしくは傲慢な呪術師が力ば失い村の衆に復讐されたか……他にも幾つか考えらいるがどいもろくな事じゃねぇ」
同じ古い呪術師の家系を率いる立場でも言っては悪いが即席当主の御主人とは違い、磯野家の御当主は55歳と相応のお年だけ有って、御主人よりも色々な事を知っているらしくあの双子がどうしてその様な立場になったのか……その可能性を口にする。
「家ば守りきれ無いとさる事はほんだぃる事だ、若い者には窮屈な話かもしれねぇが、ワラシがそうなる可能性は考えて置かねぇと行けねぇ」
呪術師家系の子どもが呪術師に成れる程の呪力や術式を持たない場合、一般社会へと進む事も決して珍しい話では無い。
けれどもソコで呪術を忌み嫌い、本家との親戚付き合いすら厭う様な事をすると、子どもや孫世代で先祖返り的に呪術の才能が発揮されてしまうと、場合に依っては親や周囲からの迫害対象となる可能性もある訳だ。
「一般家庭出身の呪術師って言っても、先祖を辿ると大概はどっかで呪術師の家系にぶち当たるんだよ。大体は呪術の才能が無くて出てった子の子孫とかソ―言う感じ。まぁ本当に極々稀に先祖辿ってもなんの系譜も無い突然変異的な初代ってのもいるけどね」
少なくとも御三家や呪術総監部は現代まで系譜を繋いでいる呪術師の家系は全て把握しており、国が持つ戸籍と組み合わせる事で多くの場合は何処の系譜なのかはっきりとすると言う。
通常は明治19年に作られた戸籍まで辿る事が出来るが、呪術総監部の権限があれば明治5年に編纂された一般に対しては非公開の壬申戸籍と呼ばれる物も調べる事は出来るらしい。
この壬申戸籍が非公開なのは『元非人』や『元穢多』とか『新平民』等と言う『賎民解放令』で排除された筈の身分制度を引きずる様な情報の記載が有った為である。
コレが完全非公開となったのは昭和43年と言う比較的最近の事で、他人が身辺調査の際に『被差別部落民』かどうかを調べる手段として不正請求が行われたが故の事だったと言う。
更に時代を遡ろうと思えば、壬申戸籍を編纂する際に参考資料として使われた各地の寺院に納められている
原作に置いて乙骨憂太の遠い祖先が藤原道真だと伊地知が調べていたが、恐らくは明治以降の戸籍だけではなく、壬申戸籍や宗門人別改帳まで遡っての調査を行ったのだろう。
日本の戸籍制度と言うのは世界的に見てもかなり優秀な制度で、約1億2千万の人口を抱えるこの国で戸籍に登録されていない者は捕捉しているだけで約7百人、推定値で1万人前後だそうだ。
対して諸外国はどうかと言うと、そもそもとして戸籍と言う制度を持つ国は殆ど無く、多くの国では『何らかの個人的な身分証明証』だけがその人物を定義する物だと言う。
故に多くの国では自分のルーツを知るのに人間の記憶に頼らざるを得ない、自身の血筋や系譜を明確に示す証拠となる資料が極々一部の特権階級とでも言うべき者で無ければ何一つ無いからだ。
「海外にも呪術師はいるが日本ほど安定した系譜が無いのはワイのルーツば辿る術が少なぐ、多くの場合突然変異の超能力者とさる扱いば受けたり、場合に依っては悪魔憑きの類として弾圧されたがらんだべのぉね。魔女狩りば学校でも普通に習うんだべのぉ?」
基本的に天元の浄界に包まれていない海外(沖縄、北海道を含む)では呪霊は産まれない……正確に言うならば全く産まれないのではなく、極々稀に特級相当のモノが突然ポンッと局地的に発生するのである。
天元の浄界は負の感情から発生する呪力を集め、低級の呪霊として実体化しやすくなる効果が付与されているらしく、その中では特級に相当する呪霊は海外以上に出現し辛い環境なのだ。
故に海外で呪霊の被害と言うのは件数で言えば殆ど無く、被害者数と言う数字で言うと凄まじい事になる……と言う感じで、各国の指導者はそうした呪霊が自国に発生した場合には日本を頼る事になる訳である。
……無論、中には原作に登場したミゲル・オドゥオールの様に、一神教の弾圧を受けずに呪術を受け継いできた者たちが少数とは言え存在するし、一神教の中にも『最も小さき国の
けれども呪霊の発生が極めて稀な海外では、それらを維持する必要性が薄いわけだ
天元の浄界に包まれた日本は有る意味で守られていると言えるが、逆に呪霊被害の頻度を増やしているとも言えなくもない。
「難しい話はこの辺にするべ、そろそろお腹が空いたんだべのぉ? 今日は宴会だして極上の料理ば用意したがら腹いっぺぇ食ってくれ」
誰かの腹が空腹を訴える声を上げたのを切っ掛けに、磯野の当主は人好きのする笑みを浮かべそう言って、皆に座卓を何個も繋ぎその上に豪華な料理を並べた席へと着く事を促すのだった。