畜生道に堕ちたと思ったら五条悟の飼い猫になった件 作:鳳飛鳥
ワダツミノオオクチナワを補足してから丸一日が過ぎた。
その間、第一海兵丸がずっとワダツミノオオクチナワに張り付いて居た訳では無い。
第二海兵丸と第三海兵丸に乗った磯野家の面々とローテーションを組んでしっかりと休息は取っている。
どう考えてもワダツミノオオクチナワとの戦いは長丁場になる事が想定される為、奴の腹に囚われている者達と無線で連絡を取り合いつつ、状況が急変しない限りは作戦決行を急がない……と磯野の御当主が判断したのだ。
その間にも日本全国津々浦々から海兵丸同様に呪具化した船舶が集まってきている、現状時点でその数は30隻、搭乗人員は180人に登る大集団だ。
コレでも磯野家の系譜の1/3しか集まって居ないと言うのだから、古来より続く呪術家系の全力と言うのは凄まじいと言えるだろう。
今この大間に集まっているのは概ね関東や北陸地方の者達で、それ以南の者達は全軍を率いて駆け付けた彼等の持ち場が完全な無防備にならない様に、それらの地に入る後詰めとでも言うべき役割を担っているそうだ。
九州から北海道まで漁船で来るとなると1週間前後の時間を要する事もあって、近場の者達が取り敢えず全力出撃し、空いた隙間を南の方の者達が少しずつ埋めていく……と言う形で各地に最低限度の防衛力は残しておくと言うのが磯野家の方針らしい。
「中の様子はどうだ、まんだ保つか? キツいのは分かる必んず助けるがらな! 食い物はまんだあるのか? 凍えてねぇか? 遅くても今夜には仕掛ける、もへてもたら化け物が暴れるかもしれねぇ。他の船が有る? デカいタンカー? 乗り移れそうか? ならおっきた船の方が安心かもしれねぇ」
ワダツミノオオクチナワは少しずつでは有るが移動している、どうやら自分自身で泳いで移動しているのではなく、飽く迄も海流に乗って流されている……と言う感じらしい。
とは言え相手は呪霊、今はただ腹に抱えた物を消化する為に寝ているだけで、普段は普通に動き回っている可能性もゼロでは無いので、監視を完全に解く訳にも行かないのだ。
どうやら現在ワダツミノオオクチナワの腹の中には通報された4隻の漁船だけで無く、他にも多くの船が飲み込まれている様で、漁師達は自分達の船を諦め戦闘で暴れた際に少しでも生存率を上げる為に大型船舶へと乗り移る事にした様である。
「……大規模な作戦に成れば成る程、歌姫の術式は効果的だ。磯野の呪術師は高専の階級で言えば良くて2級殆どは3級相当らしいからな。ソレを1階級引き上げるに近い効果があるんだから使わない手は無いだろ」
「うわぁ……ちょっとプレッシャー掛けないでよ、まぁ確かに私の術式は呪力の少ない呪術師が多ければ多い程に刺さる物よね。今までそんな大規模作戦とかに参加した事無いから考えてもいなかったけど」
庵の生得術式である
原作でも語られているが呪術の上達と言うのは基本的に引き算だ、呪詞を省略し手印を省略し呪力の効率化を行い消費する呪力量を削減する。
しかし庵は逆で呪詞をしっかりと唱え、手印どころか舞いと楽を捧げ儀式を成立させる事で、術式の効果更に高める方向へと成長を進めたと言う。
歌姫バットを手に入れる前から、彼女はCDラジカセを任務に持ち込んで居たらしいが、ソレは術式を最大効率で使う為の楽曲が入ったCDで音楽を掛ける為だったらしい。
呪術師としての嗜みなのかこの旅行にもそのCDは持って来ているが、今回は磯野家有志に依る生演奏が行えるそうなのでCDの出番は無い。
ちなみに生演奏とCDでは術式の効果で増える呪力量や出力は変わらないモノの、効果時間が倍近くまで伸びるそうだ。
更にうれしい誤算だったのは磯野本家の屋敷には氏神を祀る社が有り、ソコには正月なんかに神楽を奉納する為の舞台がしっかりと有る為、そこを利用する事で更に彼女の術式の効果は伸びると言う。
今の段階で磯野の呪術師は180人、作戦を決行する今夜辺りには更に増えて250から300人位にはなる予定らしい。
そしてその殆どが生得術式として海鮮操術を持っている訳だが、生来の呪力量が少ない為に殆どが3級相当の術師と言う事になるそうだ。
だがそこに庵の術式を用いる事で2級が1級に、3級が2級相当の呪力と出力に成れば、純粋な呪力の削り合いならばワダツミノオオクチナワを討伐出来る可能性が僅かながらに見えてくる。
「にしても磯野一族は凄いですねぇ。相伝持ちが出やすい家系とは言ってましたけど、1日半程度で集まれるだけで300人、各地に残した人員を鑑みれば最低でも500人近い相伝持ちが居るって事ですよね?」
御三家程の家格は無くとも同時期から続く呪術師家系の名家の出である赤城がそんな感想を口にする。
ちなみに赤城の持つ鳴弦呪法は赤城家の相伝術式と言う訳では無いそうで、今は相伝を持つ呪術師は一族全てを見回しても一人も居ないそうだ。
「つか、昨日紹介して貰った中で外から来ただろう婿さんや嫁さん以外は殆どが相伝持ちだったぞ。マジで海鮮操術はどんだけ出やすい術式なんだろうな」
赤城の言葉を聞き御主人がそんな言葉で補足する、相伝持ちは7人居ると言っていたが、御当主に勝男、栄さんに典弘さん、花子さんと茜ちゃんや貴生ちゃんが相伝持ちらしい。
血族で相伝持ちでは無いのは花子さんの娘の薫ちゃんと、未だ幼く術式が覚醒していないであろう育美ちゃんだけだ。
相伝持ちでは無い薫ちゃんも
原作で登場した禪院家の呪術師は「炳」と呼ばれる準1級相当以上の精鋭部隊が最低でも12人、「灯」と呼ばれる術式は持っているが実力が足りない者達がアニメ版OP映像で30人前後描写されていた事を考えると、磯野家の術式持ち率はマジで異常と言える。
実際には描写の関係で登場しなかっただけでももっと多い可能性は有るが、ソレでも相伝持ち三桁半ばと言う磯野家とは比べ物にはならない筈だ。
ただ残念なのは術式持ちは多くとも呪力が全般的に低いと言う事だろう、磯野家の中では例外的に呪力が多いと言う勝男も、陸上ではかなり頑張って準一級取れれば良い方と言う程度の呪力しか無い。
今回の作戦に際して、磯野本家は相伝持ちの内茜ちゃんと貴生ちゃんの2人を残して、他の5人は全て投入すると言う決断を下している。
なお呪術総監部には既に浄界外特級呪霊:ワダツミノオオクチナワ≒リヴァイアサンを補足した旨は伝えられており、御主人と夏油そして俺には正式に現地の磯野家と協力して討伐にあたる様に任務が下されている……書類関係は東京に戻ってからだが。
更にワダツミノオオクチナワが現在腹に抱え込んでいるタンカーは、数日前に姿を消した石油輸送船である可能性が高く、約200万バレルの石油が今も積まれている可能性が高く、可能ならば取り返す様に政府から総監部へと要請も出ているらしい。
俺の記憶が確かなら2008年と言えば昨年末からの原油価格の高騰がそのまま続き、俺がくたばるまでは一時的な下落は有っても、平均相場として大きく下がる様な事は無いという様な時期だった筈だ。
大型タンカー1隻分の原油は日本がおよそ半日程度で消費する程度の量ではあるが、価格にすると1バレル100ドルとしても単純計算で2億ドル、ドル円相場が凡そ110円程度なので、220億円と言う稼いでる呪術師でもちょっと引くレベルの損害である。
220億が露と消える事を考えりゃ数億程度の費用を計上し、どんな被害を出してでも件の呪霊を討伐せよ……と総監部が言うのも当然と言えば当然の話だろう。
「俺達にも海の上で遠距離攻撃出来る様な技があれば……指を咥えて仲間を見送るだけは辛いつーの!」
「遠距離攻撃が有ると言っても私の弓程度じゃぁ屁の突っ張りにもならなそうですからねぇ……伊地知君や先輩方が命懸けの戦いに出るのを見送るしか無い辛さは理解出来ますが」
「その気持は1年生だけじゃないよ! 僕も近接戦闘しか出来ないからね! でもだからこそ、彼等が戻って来る場所を守ると言う大事な仕事が有るんだよ! 万が一彼等が出払っている所に呪霊が現れたら僕達が祓わなきゃ!」
「にゃん²バズーカは流石に大き過ぎて持ってくる訳には行かなかったからなぁ……デカい呪具を持ち運ぶ方法が無けりゃ俺は無力だな」
「海は磯野家の独壇場です、そこに参加出来る五条先輩や夏油先輩が特別なんですよ……伊地知の参加は五条先輩の作戦と組屋が灰原を材料に作った呪具有っての事なんですから、我々が必要以上に気に病む事は無いでしょう。出来る事をやれば良いんです」
作戦参加組も不参加の者達も、磯野家の呪術師達が勢揃いするまでの間に腹ごしらえをし、仮眠を取って作戦決行を待つ……そうして長い戦いになるであろう夜を迎えるのだった。