畜生道に堕ちたと思ったら五条悟の飼い猫になった件 作:鳳飛鳥
「「「「「「「「「「「「「「「「「かんばーい!」」」」」」」」」」」」」」」」」
結論から先に言うとワダツミノオオクチナワは、こちらには誰一人として損害を出す事無く無事に祓われた。
日が昇ってからも暫くの間は只管に奴の呪力を削るだけの作業地味た、戦いとも言えない戦いだったのだが……前衛として奴に接敵攻撃を行っていた夏油の拳が黒い稲光──黒閃──を放った事で状況が一変したのだ。
呪力と術式への理解度が一瞬にして深まった彼は、手持ちの呪霊の多くを消費して極ノ番『うずまき』を発動するに至ったのである。
ワダツミノオオクチナワは呪力量だけで見れば確かに特級の中でも最上位と言えるであろう呪力を持っていたが、如何せん現代に蔓延る2級や3級呪霊ですら持ち得る程度の知能すら無く、その呪力をただただ自身の身体を大きくする事だけに使っていた。
その為、呪力量に対して防御力が極めて低く(ソレでも
その大穴からワダツミノオオクチナワに食われていた船の中で、未だ乗組員が生きているモノが脱出したのは、今から思えば幸いだったのかそれとも不幸だったのか。
腹の中に消化するべきモノが無くなったワダツミノオオクチナワは、消化の為に比較的大人しくしていたが故に伊地知の結界に囚われ続けて居たのだが、ソレが無くなった事で早急に腹を満たしたいと考えたのだろう、あっさりと結界を破壊し大暴れし始めたのだ。
先ず襲いかかって来たのは最初に結界が壊れた時と同じ大波だったが、磯野の船団はコレを軽く乗り越える。
空中に居る御主人と夏油はそんなん関係ねぇ! とばかりにワダツミノオオクチナワを殴り続けたが、ソレが奴の気に触った様で一生懸命2人を食おうと追いかけるが、宙を泳ぐ様な能力の無い奴は高くまで上がった2人まで口が届かなかった。
そうして無駄な隙を晒している間に磯野家一同が再びイカやらサメやらカツオやらをぶっ放した所、今までとは比べ物にならない程一気に奴の呪力を削る事が出来たのだ。
恐らくは奴は腹に獲物を抱えている間は、ダメージを受けてもソコから呪力を得る事で即座にダメージを回復していたのだろう。
しかし生き残っていた者達が脱出した事でソレが出来なくなり、一気にダメージが伸びたと言う訳だ。
そうなると後は消化試合も良い所で、呪力が弱って来た所で再び伊地知の結界に囚われ、更に弱った所で夏油の呪霊操術の効果で呪霊玉と化して結界も消滅する事と成った。
幸い呪霊玉に成った時点で奴の体内と言う生得領域に残っていた船たちも無事に開放され、津軽暖流に乗って大分流されていたらしく、津軽海峡のかなり太平洋側に無人の船が何隻も浮かぶ事態になったのだ。
ちなみに日本政府から救助要請を受けていたタンカーも無事に開放されては居たが、その乗組員の大半は奴に消化され骨すら残っていないと言う有り様だった。
兎角、乗組員が奴に食われ無人と成った船舶をそのまま残しておく訳にも行かず、かと言って磯野家の面々だけでは漁船は兎も角、大型船舶やら何時食われたかも分からん大型帆船やらを動かす事は出来ず、海上保安庁と海上自衛隊に応援も求める羽目になった訳だ。
そうして後始末に奔走し午前0時から始まった戦いの始末が全部終わったのは、再び午前0時を過ぎた後だった。
で、一夜明け今はこうして戦勝の宴が開かれていると言う訳である。
「はーい! 注目―! 昨日の戦闘中は六眼で呪力の流れを細かく見てたんで、その結果を纏めて見ました! 磯野! はいどーん!」
磯野本家の大広間──隣接する幾つかの部屋に繋がるふすまを取っ払う事で500人収容出来る大宴会場に成っている──に用意された磯野の私物だと言うノートPCと、会議に使うプロジェクターでワダツミノオオクチナワに与えたダメージの一覧が表示される。
堂々の第一位は海の上で御主人が言っていた通り伊地知で、2位の夏油にダブルスコア以上の数値を叩き出して居た。
3位には磯野勝男の名が有り、4位に磯野の御当主殿、5位が御主人……と階級と立地的条件を鑑みれば概ね順当と言える数字が並んでいた様に思う。
ちなみに俺は38位で決して低くは無いが1級術師と言う肩書を鑑みれば『もう少しがんばりましょう』という赤ハンコが押されても仕方が無い結果である。
被害が出てないのだから1発2発、超猫ロケットパンチを撃ち込んでおけばもうちょっと上の順位を叩き出す事も出来たんだろうがな……と言うのは結果論なので言っても仕方が無い。
「
「いや……どうでしょう? あの結界術何気に難易度高いですよ? 伊地知君のノート借りて試して見ましたけど、発動は出来ても動く目標を捉えるのは弓で撃つより難しかったですし」
「俺もあの呪具は使ってみたが、呪力消費が半端ねーつーの。アレ使うなら自分の術式でぶん殴った方が効率良いわ。呪力砲撃つのに比べりゃ大分効率良いんだろーけどよぉ」
居残りだった一年生組は、壊れた呪具に思いを馳せ、
「あの空を飛ぶ為の結界術は私も五条先輩に頼んで習って置きましょうか、空を飛ぶ呪霊が相手では今の私だと手も足も出ませんからね」
「海の呪霊は磯野家って言う専門家が居るから良いけれど、空の呪霊を専門に相手にする人達って居るのかな?! 僕も空飛ぶ呪霊を相手にする方法は無いし、呪力砲は蒸気呪法より効率悪いからなぁ!」
2年生達は自分達が戦場へと赴けなかった理由である『近接戦闘しか出来ない』と言う問題に付いて考えている様だ。
「海鮮操術で黒閃出だって話は聞いだ事無ぇよなぁ」
「そうだな、こんだけ人数居るのに誰もヤッたことねえらしいな」
「本家さんがたがいでる資料どがに御先祖様出した記録どが無えべが」
「やっぱり直接ぶっくらさなぐぢゃ駄目なんじゃね? そう言う意味では高専行ってる次期御当主に期待だな」
と、こっちで酒を片手に黒閃について話し合って居るのは援軍に来た磯野家の面々である。
どうやら海鮮操術で発射された魚介類が呪霊に突き刺さった時に黒閃が出たと言う話は、磯野の一族の中では全く無い事の様である。
黒閃を経験する前と後では呪力の効率も術式の理解度も段違いに深まると聞くので、強い呪術師になるには黒閃チャレンジはやはり大事なのだろう。
……俺の記憶が確かなら七海は原作本編で黒閃連続発生記録保持者とかだった筈だし、組屋と相談して彼のコピー体を使った『誰でも黒閃体験キット』みたいなモン作れないかな?
なんなら傀儡呪術学の第一人者だと言う夜蛾先生も巻き込んで研究してみるのも有りかもしれない。
「ワイの見立ても大体おんなじだし、コレば基準にボーナスば出すぞ! 下位だった連中は次があるんだばうんとがんばれよ!」
「ちなみに飽くまでもソレは磯野家の人達の話で、俺達高専の呪術師は無関係ね? 俺達は俺達でちゃんと総監部から任務の報酬でるんで、ただ4級なのに頑張って1位取った伊地知には五条家の当主として特別にボーナス弾んじゃいまーす!」
「あの結界術で呪霊止めてくれたった兄ちゃんだろ?」
「アレが無げりゃ何人死んでだが分がらねぇ!」
「今日のMVPはあのあんつぁんで決まりだべ」
「どうもなー助かったよ!」
拍手で伊地知を称える磯野一族の皆様方とソレを真っ赤な顔で受け止める伊地知。
「ちなみになんだけど伊地知、あの結界術って何処で習ったん? お前のオリジナル?」
「いえ、父さんが若い頃に結界術を研究するのに使ってたと思わしきノートを、父さんの書斎で見つけてソレを自分なりに使える様にグレードダウンさせたモノですね。だから父さんならもっと強力な拘束力を持つ結界を張れたんじゃないかなぁ?」
……伊地知二級はあんな中学2年生位の男子が好む呪詞を必要とする結界術は使っていなかったが、あの時は飽く迄も結界術の基礎を見せる為の授業だったからで、本気の時はもっと痛々しい呪詞を唱えるタイプなのだろうか?
それとも伊地知が結界術の研究ノートだと思っているモノは所謂『黒歴史ノート』なのではなかろうか?
……伊地知二級の名誉の為にも俺はそんな疑問を口に出す事は無く、俺とこの家の飼い猫であるタマ用に取り分けられた刺身盛りの皿へと向かい宴会を楽しむ事にする。
こうして予定外の呪霊討伐任務は有ったモノの、誰一人欠ける事無く無事に旅行を終える事が出来たのだった。