畜生道に堕ちたと思ったら五条悟の飼い猫になった件   作:鳳飛鳥

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それぞれの進路と広域事件

 ワダツミノオオクチナワとの戦いから1年半程の時が経ち、俺達当時の3年生組は呪術高専を卒業する事に成った。

 

 5年制の呪術高専では4年までは授業と任務に忙殺されるが、5年生の一年間は猶予期間(モラトリアム)として何の任務も授業も無く自由に過ごす事が許されている。

 

 その間、御主人達3人は改めて考えた進路へと進む為、受験勉強に忙殺される事になった。

 

 彼等は専攻科目こそ違えど全員が東大への編入を望んだのだ。

 

 高専から大学への編入制度自体はごく普通に存在しており、高専卒後大学に進む場合には大学3年生として編入される。

 

 原作だと御主人達は3年で全ての授業が終わり4年目が猶予期間と成っていたらしいが、どうやらこの世界線では未だ4年制への移行が行われていない様だ。

 

 そんな訳で2010年3月、俺達は無事に呪術高専を卒業し3人は大学生となり、俺は個人法人を立ち上げる……事が出来ませんでした! 

 

「君、裏も表も公務員でしょ? 公務員は副業禁止だよ?」

 

 そう、俺の表向きの肩書は警視庁の警察猫で、その実態は高専に所属する呪術猫だ。

 

 高専所属を辞めフリーランスになるならば、同時に表向きの肩書である警察猫としての立場も捨てねばならず、そうすると所属先とそこから得られる税収を担保とした法的人格にまで影響が出るのである。

 

 ……コレ絶対に俺が法的人格を取得する時点で仕組んでた罠だよなぁ。

 

 おのれそこまでやるか国税庁……とぐぬぬってたら、大田巡査長に頭を叩かれた。

 

「貴様は呪術師としてアホみたいな金額を貰ってるだろうが! 確かに税金もアホみたいな額面払ってるんだろうが、俺達の手取りと比べて見ろ! 一応は同じ所属って事に成ってるのが悲しくなるぞ?」

 

 ……ちなみに俺が今居るのは警視庁本庁舎にある公安部公安総務課第一公安捜査0係に充てがわれた待機室だ。

 

 今までは御主人達が任務で居なくても高専に残って居るならば、授業を受けて時間を潰す事が出来ていたが、5年生に成って猶予期間に入ってからはソレもなくなり、御主人達も受験勉強に掛かりっきりだったので、ここで時間を潰す様になったのである。

 

「まぁ、確かに普通の警察官とは比べ物にならん程の金額が口座には入金されてるが……税金でガッツリ持っていかれてると言うのは中々に切なくてなぁ」

 

「普通の警察官はお前より少ない給料の中から税金持っていかれてるんだよ」

 

 俺の言葉にそんな感じの軽い呆れの混じった言葉を投げ掛けたのは、今年から捜査0係に配属された篠原巡査だ。

 

 彼も見える側の人間だそうで、警察官であると同時に総監部から窓としての報酬も受け取っていると言う。

 

 公務員の副業禁止はどうした! とブチ切れたい所だが、窓は兼業しても警察業務に支障を来す事は無いモノとして、届け出さえ出せば問題無い仕事の一つらしい。

 

 そら法人立ち上げて一人立ちは業務に影響の有る兼業と見做されても文句は言えないよなー。

 

「つか、昨年の頭に有ったあの『伝言鏡事件』はどーなってんだ? 警察の上からも総監部からも捜査要請とかなーんも無いから俺達も動きたくても動けないんだが?」

 

 俺の税金対策は諦めろと言わんばかりに篠原巡査が別の話題を振ってくる。

 

 伝言鏡事件と言うのは2009年初頭、世界中の鏡と言う鏡──鏡面と呼べるモノならばソレこそ窓やショーディスプレイにまで──呪力で書かれた文章が丸一日の間浮かび続けたと言う事件だ。

 

 まぁ呪力で書かれた文字と言うモノは呪力を認識出来るモノにしか見えるモノでは無いので、某巨大掲示板サイトのオカルト板で一時的な騒ぎには成ったモノの割とあっという間に風化した。

 

 その文言は最初の半日の間は『世界で虐げられている超能力者達へ、我々は同胞だ、必ず助ける。今は耐えてくれ』と言うモノで、ソレから『世界へ虐げられる同胞達へ、助ける準備が整った、お近くのシャフト・エンタープライズまで』と変化したのである。

 

 シャフト・エンタープライズと言うのは2000年頃から台頭し始めた香港の貿易会社が母体の多国籍企業で、色んな国の傾きかけた企業にM&Aを仕掛けて乗っ取り、建て直しては次の国へ……と言う感じで世界中に広がりを見せている会社だ。

 

 その日本法人であるシャフト・エンタープライズ・ジャパンは元はただのゲーム会社であり、本業のゲームでは黒字を叩き出していたが、ゲーム以外の事業が軒並み不採算で身売りせざるを得なくなったと言う情けない会社である。

 

 しかしシャフトに買い取られてからは、ソレ等不採算事業すら上手く軌道に乗せて利益を叩き出している辺り、シャフト・エンタープライズの代表である皇飛晃(ウォン・フェイフォン)と言う男はかなりのやり手なのだろう。

 

 無論、ソレを見た呪術師や呪術総監部はシャフト・エンタープライズ・ジャパンに対してこの件を問い合わせたが、知らぬ存ぜぬそもそも何を言ってるんだ? と来たもんだ。

 

 鏡を用いた伝言呪術は古典呪術の一つで、普通は血筋やら何やらで見える相手を縛って使うのが普通らしいのだが、鏡に文字を書いた術者は兎角一定以上の呪力が有れば誰にでも読める様にご丁寧に見た者の母国語として見える様に術を組んでいたらしい。

 

 鏡の伝言が古典呪術として廃れたのには当然理由が有る、太古の時代には鏡は極々一部の権力者しか持てない高級品で、この呪術を使って情報を読み取る事が出来るのは当然権力者だけだった。

 

 けれども様々な産業が発展し誰もで鏡を持てる様になると、縛りをかけていても想定外の者に情報が流れたりする事態が頻発したのだ。

 

 更に呪詛返しの要領で発信元が簡単に割れると言う点もこの呪術が廃れる原因の大部分を締めているだろう。

 

 当然ながらこの時も高専の呪術師が発信元を調べたのだが、アメリカ西海岸側からの発信だとしか、発信源が遠すぎて分からなかったのだ。

 

 当然、シャフト・エンタープライズ・アメリカにも問い合わせは行われたが、その答えは

 

『貴方は超能力でお困りの方ですか? でしたら直ぐにでも我が社へお越し下さい!』

 

 と言うモノだったと言う。

 

 当然、そう言われたら高専所属の呪術師が直接アメリカ本社を訪ねては見たモノの、

 

『日本は超能力者の為の制度がしっかりしている国と聞いています。我々は飽く迄も今現在虐げられている超能力者を救いたいのです』

 

 と言う何とも言えない対応で、ソレ以上粘ると警察沙汰となり国際問題にも成りかねないと判断し、こちら側が引いたと言うのが一連の流れである。

 

 ソレからは特に大きな動きがある訳でも無く、一応『シャフト・エンタープライズは要監視対象』として呪術総監部から睨まれていると言うのが現状だ。

 

「俺の様な現場の呪術師にはこれ以上の情報は回ってきてはいない、御主人辺りならば五条本家経由で何か聞いてるかもしれないが、有ったとしても身内の俺にも話さないんだ、秘匿情報の類だろうな」

 

 捜査0係の面々は呪術師や呪術総監部の持つ強権を良く知っており、しっかりとした司法制度の有る法治国家にも拘らず、総監部が呪詛師と認定した者は弁護士を雇う権利すら無く秘匿死刑が行われているなんて事も知っている。

 

 法の番人足る警察官としては無法とも言えるその特権を苦々しく思う気持ちも有るのだろう。

 

 けれども0係の面々は呪詛師認定された者の殆どがサイコキラーで有り、奴らが起こすエゲツナイ事件を目にした事が有る者達ばかりで、呪詛師が真っ当な法で裁くには圧倒的過ぎる力を持っている事も理解している為に飲み込んでいると言うのが本当の所だ。

 

「明らかになんか裏で事件が動いてるのに、俺達はなんでこーして昼間から猫相手にコーヒー飲みながら愚痴を垂れ流さにゃあかんのだ!」

 

 殆ど毎日の様に聞く大田のこのセリフ、彼は現場のお巡りさんとして忙しくしていたい人なのだろう。

 

「俺達が暇なのは呪霊やら呪詛師やらに泣いてる人が居ない証拠だろ? 警察や消防なんかは税金泥棒扱いされてる位が世の中平和で丁度いいわけよ。警察ってのはね事件が起きてからが仕事だから常に手遅れなんだわ」

 

 そんな大田を諌める様な後藤警部補のセリフも、ココに通う様に成ってから何回聞いたかな? 

 

 なんてことを考えていると、俺の携帯電話──昨年キノコから柔銀に乗り換えスマートフォンに切り替えた──と、0係の据付電話が同時に鳴る……コレは呪霊か呪詛師案件で俺と警察の力が必要だと言う事だ。

 

 素早く電話応対を済ませた俺達は篠原巡査の運転するパトカーで現場へと向かうのだった。

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