畜生道に堕ちたと思ったら五条悟の飼い猫になった件   作:鳳飛鳥

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第一の事件、不可解な始まり

 現場は閑静な住宅街の一角、極々普通の生活道路の交差点だった。

 

 何処からどう見ても2階建て以上の大きな建物の無い場所にも拘らず、明らかに高所から転落したと思しき墜落死体が突然現れたと言うのだ。

 

 より正確に言うならば突然現れたのはこの上空で、アスファルトの地面に叩き付けられた事が死因と見られている。

 

「篠原! 仏さんに向かって吐くなよ! 吐きそうなら車に戻れ、エチケット袋が積んである!」

 

 高所から相応の勢いで叩き付けられたと思しき遺体は、見るも無惨なトマトの様相であり、任官したばかりだと言う篠原巡査が吐きそうな顔をして居るのを見咎めた大田巡査がそんな指示を出していた。

 

 既に周囲には所轄の警察官の手で規制線が張られており、ここで俺が何かをしても一般人に見咎められる事は無いだろう。

 

 更にはしっかりと総監部が手を回している様で、マスコミらしき者達の姿も無い。

 

「不幸中の幸いと言って良いかもしれないな、害者は未だ完全な死を迎えてはいない様だ。俺の術式で復活させれば状況の聞き取りが出来るだろう」

 

 生物的、医学的な意味で言うならば被害者は完全に死に絶えている、しかし呪術的な意味で言うので有れば死とは肉体が破壊されただけでは訪れない、魂が肉体を離れて初めて完全な死となるのだ。

 

 魂が肉体から抜けるまでの時間には個人差があるが早くて5分、長ければ1両日の間は俺の反転術式に依る復活が間に合う事もある。

 

 この辺は高専に居た頃に呪霊と刺し違えて死んだ呪術師の肉体を持ち帰った補助官が居て、何となく『間に合いそうだ』と感じた俺が試しに反転術式を掛けてみた所、運良く復活を果たした事で新たな拡張術式『泰山府君の祭』として成立したモノだ。

 

 以降、呪術師が現場で殉職したとしても全滅さえしなければ、可能ならば遺体を持ち帰り俺が復活を試みる……と言うのが呪術高専・東京校でのスタンダートと成っている。

 

「拡張術式『泰山府君の祭』」

 

 ストックした命を一つコストとして捧げ、ぐちゃぐちゃに潰れた遺体に反転術式を施す。

 

「がぁ!? クソが! あのガキ! 絶対、絶対に殺してやる!」

 

 スナッフフィルムを逆再生したかの様に潰れた肉が砕けた骨が本来あるべき形へと戻り、息を吹き返すなり、血に汚れた服をまとった男が物騒な言葉を口にした。

 

「随分と物騒なことを言ってるけれども、流石にお巡りさんの前で言うべき事じゃぁ無いねぇ。詳しい話を聞きたいから署まで「後藤警部補、こいつは警察に扱える相手じゃない呪詛師だ。手配写真を見た覚えたある」」

 

 警察官として極々真っ当な対応をしようとした後藤警部補の言葉を遮り、俺はこいつが呪詛師である事を口にし、即座に抵抗出来ない様に両腕を纏めて尻尾で拘束する。

 

「あーはいはい、高専送りね。りょーかい、大田! 呪縛ロープと呪力封じの御札持って来い!」

 

 呪縛ロープと言うのは高専の忌庫で長期間呪力に晒したトラロープで、呪力が馴染んでいる為に呪術師や呪詛師が呪力で身体強化を行ってもそう簡単に切れない代物だ。

 

 そして呪力封じの御札は、呪術高専の呪術師の中でも符術を得意とするものが作り、捜査0係に呪詛師を拘束した時の為にと配布しているモノで、その名の通り呪力を練り辛くする効果のある御札である。

 

「が!? あぁ!? クソ! 何なんだこの猫! クソお巡り共だけならブチ殺して逃げれるのに!? ぐぁ! いてぇ! ちくしょう!」

 

 抵抗する素振りを見せる呪詛師の肘関節を極め、痛みで呪力を練り辛い様にしている内に、大田巡査長と未だに顔色の悪い篠原巡査が慣れた手つきで奴の両足と両腕を呪縛ロープで拘束し、体中に何枚も御札を貼り付けていく。

 

 ここまですれば呪詛師としては完全に無力化したと見て間違いない状態である。

 

「後は高専の護送車を呼ぶだけだけど、まぁこの地面の血の始末は我々の仕事なのよねぇ……」

 

 呪術界は万年人手不足である、最近は離職率、殉職率共に大分下がって来てはいるが、ソレでも繁忙期には大学へと進学した御主人や夏油も、講義の合間を縫って任務に行かざるを得ない位には人手が足りていない。

 

 窓は兎も角、補助官も決して余裕があると言う程人手が多い訳では無く、こうした現場の後始末は捜査0係とその指揮下に入った所轄のお巡りさん達の仕事なのだ。

 

「面倒をかけて申し訳無い、しかし直接的な戦闘ならば兎も角、清掃作業に猫の手を借りているのを民間人に見られては外聞が悪かろう。俺はこいつと一緒に高専に戻るよ」

 

 呪術界程では無いが警察も発生する事件の数に対して、警察官の人数が余る程に潤沢な人材が居るわけでは無く、猫の手も借りたい程に人手不足なのは変わらない。

 

 しかし本当に猫の手を借りる様な姿を民間人に見られでもしたら、警察の威信に関わる問題になる事は間違いないだろう。

 

 一応俺は捜査官としての潜入任務等にあたる捜査猫と言う建前で捜査0係に所属している事に成っており、民間人に見られる様な仕事をしている訳では無い……と言う言い訳が効く立場と成っている。

 

 けれども人前に立つ現場で猫が警察の雑用なんかをしていれば『日本の警察大丈夫か?』と言う疑問を民間人に抱かせる可能性は割と高いと考えられている訳だ。

 

「まぁ呪縛ロープや呪力封じの御札も完璧じゃぁ無いだろうからね、補助官だけに連れて行かせるよりは、1級術師が付いていった方が間違いなかろ」

 

 俺が捜査0係に所属していると言うのは飽く迄も書類上の事であり、実際には係長である後藤警部補の指揮下には無い。

 

 ソレでもこうして普段の暇潰しから、現場での対応までしっかりとしてくれるのは、書類上の関係とは言え呪霊や呪詛師を相手にすると言う点では同じ仲間だと思ってくれているからだと信じたい。

 

「クソが! あのガキは呪詛師だぞ!? ソレを狙って何が悪い! 俺は悪くねぇ! 不当逮捕だ!」

 

 流石に舌を噛み切って自殺を図ったとかなら兎も角、ただやかましく叫ぶだけならば、猿轡を噛ませる訳にも行かず、呪詛師は聞いてもいない事をべらべらとまくし立てている。

 

「貴様は既に呪術を用いた3件の殺人が確認された呪詛師として、総監部から手配がなされている。そもそも真っ昼間の住宅街で呪術に関する事を喚き散らすなんて真似をすれば、呪術の秘匿に反する行為として処罰されるのは当然だろう」

 

 まぁご近所に住む方や通りがかった一般人がそんなことを聞いたとしても、イカれた基地外のざれごとだと流すだろうがね。

 

「安心しろ、お前さんが言うそのガキとやらについても、高専に着いたらしっかりと話てもらう事になるだろうさ。その上でソイツが本当に呪詛師だと言うならば、高専の呪術師がしっかりと仕留める事になる。お前さんは運良く拾った命の使い道でも考えるんだな」

 

 捕らえられた呪詛師は基本的には秘匿死刑に処されるのだが、極稀に有用な術式持ちだったりすると処刑を免れ司法取引の様な形で、高専で仕事をする様になるケースも有るとは聞いた。

 

 後は風の噂程度ではあるが、秘匿死刑にする程の凶悪犯では無い呪詛師──主に呪術の秘匿に関する違反者──を収監する専用の刑務所が在るとか無いとか……。

 

 まぁこいつは既に最低でも3人を呪い殺していると手配書には書かれていた筈なので、恐らくは情報を全て吐き出させた後は秘匿死刑と言う事になるんだろうがね。

 

「にしてもこんな何も無い所で墜落死とか一体何があったらそんな事になるんだ? お前さんの言うガキってのは相手を空に飛ばす術式でも持ってたのかね?」

 

 事件としては呪詛師と呪詛師が互いの首に懸かった賞金を得る為に呪い(殺し)合ったとかそう言う類の、表沙汰になる事は殆ど無いが裏ではよく有る事件の一つだろう。

 

 問題が有るとすれば件のガキとやらが、敵の死体の始末に失敗した事で事件が表沙汰になったと言う事である。

 

 高専からの迎えの車が来て、その場でのやり取りは終わり、俺は念の為護衛として共に護送車へと乗り込むのだった。

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