畜生道に堕ちたと思ったら五条悟の飼い猫になった件 作:鳳飛鳥
時間は少し遡る、警視庁でポチがお巡りさん達と情報共有をしていたその日の昼頃だ。
「はーっぁ、つっかれたぁ……下手な呪霊を相手にするより勉強の方がよっぽど大変だぜ」
午前中に入っていた講義を終え、身体を伸ばしながら大学構内を歩く。
彼が進学したのは東京大学の中でも教育学部・心身発達科学専修・教育心理学コースと言う専攻で、呪術師としての才能故に周囲の理解を得られずに成長し、高専へと入ってくる者のメンタルケアを重点に考えての選択である。
対して相棒の夏油は法学部で在学中に司法試験予備試験を受け、卒業後に1年間の司法修習を経て弁護士資格の取得を目指している。
呪術師としての才能を持つが故に実の親からも迫害されている様な子どもを法律に則って保護し、呪術高専の付属組織として新たに設立された児童養護施設:東京盤星園および京都盤星園での養育をしやすくする為だ。
ちなみに養護施設に付けられた盤星の二文字は盤星教に由来するのだが、実は呪術高専は表向き宗教系の高等専門学校として運営されているが、その宗教と言うのが何を隠そう盤星教の一派なのである。
問題が有ったのは数ある盤星教の中でも『時の器の会』と言う一宗派であり、盤星教自体は天元が仏教と絡めて呪術師が正しく生きる為の在り方として編纂した宗教で、決して天元を神や仏の類として崇める様なモノでは無いのだ。
まぁ盤星教と言えば時の器の会が筆頭に来る位には利益面での格差は宗派ごとにかなり有ったが、今では既に時の器の会は解散こそしては居ないモノの、例の事件を発端に大きく信者数もお布施の額面も落ちていると言う。
「さーって、今日は午後から講義は入って無いし、急な任務さえ無けりゃ後は遊び放題だなー。んー先ずは腹ごしらえだよなー、取り敢えずは昼何食べるかねぇ? ラーメンばっかじゃぁ飽きるしなー」
東大の赤門前はラーメン屋が密集する激戦区だ、ソレ故自分好みに店を見つける為に日替わりでラーメンを食べ続ける学生は少なく無いと聞く。
五条自身もラーメンは決してキライではないが、毎日ソレばかりを食べるのはしんどいと考えるタイプだ。
そもそもとして日本でも有数の資産家である五条家の当主なのだから、何処か高級料理店でも行けば美味いモノはいくらでも食える。
けれども高い金を出して美味いのは当たり前で、比較的リーズナブルな価格帯にも美味いモノが有ると夏油との付き合いの中で知った彼は、どちらかと言えばチープな価格帯での美味さを好む様に成っていた、高いモノは実家に帰った時に食えば良いのだ。
そんな訳で赤門を出て南回りで上の方面へと向かう途中……
「嘘だろ? こんな所で呪詛師狩りかよ、影高野……」
上野公園の上空かなり高い位置に張られた、対呪詛師用の戦闘結界を目にしたのだ。
両頭巡査のいる浅草から目と鼻の先とも言えるこの場所に、呪詛師が潜んでいたと言うのも驚きだが、ソレを影高野の呪術師が見つけだし結界に閉じ込めたと言うのまた驚きだ。
結界が張られた位置がかなり高いのは、万が一にも一般人を巻き込まない様にする配慮だろう。
そう思いながらも思わず現場へと駆け出していた、影高野の結界術は高専の呪術師達が使う帳とは違い、一定以上の呪力を持つ者ならば外から中を覗き見る事が出来る透明なガラスの様な結界だ。
ある程度の物理的強度も有る為、打撃や呪術で相手をふっ飛ばした際に結界の内壁へと叩きつける事でさらなるダメージを狙う事も出来る優れモノである。
透明感の有る結界なのは恐らく、中にいる味方が呪詛師に敗北しそうに成ったならば、結界を張っている外の者が結界を解除し撤退したり、戦闘要員が複数いるならば交代して戦うと言った戦術的な配慮の為だろう。
そんな訳で足早に上野公園へとやって来たのだが……結界の中に居る2人はどう見ても影高野の呪術師では無い!?
白いレオタードの様な戦闘服とも言い難い街中で見かけたらそう言うお店のお姉さんだろうと判断するしか無い若い女と、緑色のショートパンツと同色のジャケットを羽織ったストロベリーブロンドを三つ編みにした少女が結界内で呪術戦をしていたのだ。
「一応は結界を張ってるとは言え、真っ昼間っからこんな場所で呪い合うとかアイツら正気かよ!?」
六眼で見る限り、結界に対して外部から呪力が供給されている様子は無いので、内部に居る者達の呪力を使って結界は維持されているらしい、ソレだけでも影高野の結界とは微妙に作りが違うのが分かる。
影高野の捕縛用結界や戦闘用結界は、高専の基準で3級や4級の呪術師ならば4,5人が協力してやっと維持出来る様なモノで、今見えている結界を維持しながら戦うとすれば、最低でも準1級相当の呪力を必要とするだろう。
つまり中で戦っているモノのどちらか……あるいはその両方が準一級以上の呪力を持っていると言う事だ。
「術式は……クソ、ちょっと遠い上に両方が動き回ってやがるから見切れねぇ」
正直に言ってしまえば、普通の視力では彼女達が戦って居る事すら分からないそんな距離だ、六眼が有るからこそ2人が付かず離れずで呪力を飛ばし術式を回して戦っているのがなんとか見えているのである。
六眼の分析では無く、見た感じではレオタードの女は恐らく電気を操る術式で、緑の少女は風を操って居るのだろう。
呪術師としての戦いと言う意味で言えばどちらも拙い、体術がろくに体術してないしお互い術式任せの呪力ブッパだ。
もしかしたらどちらか、もしくはどちらも術式では無く、呪力特性が自然現象に近いタイプの呪術師かもしれない。
まぁただどちらが相手だとしてもタイマンなら絶対負ける事は、無いと五条は考え勝負の行方を待つ。
割って入るよりも蹴りが付いてから勝者を捕えれば、両方を簡単に捕縛出来ると考えたからだ。
呪詛師として登録されていないとしても、都内のこんな目立つ場所で呪術戦なぞやらかしている時点で、最低でも説教は必要だし抵抗するようならば1級術師としての権限で捕縛し高専へと連れ帰る義務は有る。
五条の本音を言うならば見なかった事にして、腹ごしらえをしに行きたいと言う気持ちが強いが、教育者を志す者として未来の生徒に胸を張る事の出来ない様な真似はするべきでは無いと思ったが故に今もまだこの場に居るのだ。
戦いと言うモノはそうそう長く続くモノでは無い、体力や呪力もそうだが何よりも精神力が削れるのだ殺意と殺意の打つかり合いは。
そうして彼女等のほぼ足元へと入ってから、1分も経たない内に勝負が付いた。
電気使いの女が放った雷撃の鎖が緑の少女を絡め取り、自らの側へと引き寄せると数発の打撃の後青い稲光で出来た檻の様なモノで相手を閉じ込め……爆破したのだ。
アレを無下限無しで自分が食らったとしたら割とヤバい……そう思える程の呪力の奔流を受け緑の少女が結界をブチ抜き吹っ飛んでいく。
「あ!? 馬鹿野郎! あのままじゃ墜落死すんぞ!?」
吹き飛ばされた少女は恐らく意識を失っている、そのまま吹っ飛んで行けば角度的に台東区区役所の壁面に赤い花を咲かせる事だろう。
五条は慌てて吹き飛んでいく緑の少女を追う、何が何でも助けたいと思った訳では無い。
あいつらは結界を張って一般人にその戦いを見せないと言う最低限度の『呪術の秘匿』はして居るモノの、こうして結界を破って吹っ飛ばす事で不可解な死体が産まれる事で発生する問題に気を払っていない。
端的に表現するならば呪術師としても呪詛師としても素人だと言う事だ。
ぱっと見た感じ吹っ飛ばされた緑の少女は未だガキだ、ガキが素人なのはしょうがないし、目の前でガキがくたばるのは寝覚めが悪い。
両方を捕縛すると言う目論見は果たせなくなるが、重要参考人を一人確保するだけでも1級呪術師としての仕事は果たしただろう……割って入れば恐らく両方捕縛出来たと言う事実には目を瞑る。
「結!」
そう判断し即座に認識阻害の結界を自分を追従する様に設定して張り、ソレからあの少女に向かって無下限呪術の術式順転『蒼』を発動し、引力を発生させる事で彼女を減速しつつ自身を相手に向けて飛ばす。
「はぁ……昼飯食いそこねたなこりゃ」
気を失った少女を空中でキャッチすると、そのまま地面へと降り立ち携帯電話で高専に向かえを寄越す様に連絡したのだった。