畜生道に堕ちたと思ったら五条悟の飼い猫になった件 作:鳳飛鳥
マンションへと帰り着いたら、即座に高専へと呼び出された。
正確に言うならば御主人と共に暮らすマンション前に高専からの迎えの車が待機しており、タクシーを降りたそのままそちらに乗り換えさせられたのだ。
わざわざ迎えの車を寄越さずとも電話の一本でも入れてくれれば、電車を乗り継ぐなりタクシーの移動先を変えるなりで素直に高専へと向かったのに……と思わなくも無いが、都心から高専までタクシーで行くと結構な金額になるので素直に有り難いと思って置こう。
「で、わざわざ出迎えまでして頂いて……何か緊急任務ですか?」
任務ならばソレこそ先ず電話が先に入るのだが、俺が普段通りに警視庁から帰宅するのを見計らって、向かえの車が待ち伏せていた事から察するに急を要する任務では無いのは分かっている。
「今日都内で未確認の呪術師同士の決闘と思われる案件が複数回確認されました、昨日ポチ一級が警察の方々と調査に向かわれた案件も、恐らくは同様に捕縛された呪詛師と未確認呪術師の決闘案件だったと思われます」
呪術師同士の決闘、原作でも言及されていた『慶弔の御前試合』の様に全く例が無い訳では無い。
しかしソレ等は御前試合の様な例外を除いて、普通は人目に付かない深夜帯にやはり人目に付かない僻地や私有地で行われるモノで、真っ昼間から死体の処理も考えずに行われる様なモノでは無いと言う。
「目撃遭遇した夏油特級と五条1級の言に依ると、下手人はどうやら呪術師としても呪詛師としても素人の様で、呪術規定に関して理解している様子はなかったとの事です。また夏油特級は情報に有ったエミリオ・ミハイロフと思しき呪術師も目撃したとの事」
基本、御主人と俺を区別する為、高専関係者は御主人を五条1級と呼び俺をポチ1級と呼称する、今後御主人が特級に昇格したならば五条特級と五条一級と言う風に区別される様になるのだろうか?
「また、五条1級は交戦していた内の一人を捕縛したのですが、受けているダメージが大きく未だ意識を取り戻してはいません。幸い命に別状のある状態では無い為、彼女の回復は家入3級の到着を待つ予定です」
彼女と言う事は御主人が捕獲した白昼堂々と呪術戦をしていた内の一人は女だったのだろう事が分かる。
どうやらこの呼び出しは緊急任務と言う訳では無く、寧ろ緊急の任務が入ってない呪術師を招集し情報共有と対策を相談する会議を行うと言う事らしい。
と、その会議の前提情報を聞きながら暫し待つと、車は高専の駐車場へと入っていく。
ここからの階段が長いんだ……まぁ呪力に依る身体強化で加速して登るから然程の時間はかからないんだけどな。
「失礼します」
という訳で校舎内にある会議室へと向かう、会議室にはペットドアは無いが横開きの扉なので自力で開けて入る事が出来る。
「ああ、ポチさん久し振りだね。元気だったかい?」
「よ、遅かったな。まぁ未だ会議は始めて無いから問題無いっちゃぁ無いんだけどな」
「……全く迷惑な話です、呪術師でも無ければ呪詛師でも無い、そんな連中の所為で受験勉強の時間が削られるのですから」
夏油、御主人、七海……七海は高専卒業後は御主人達同様に東大への編入を目指している様でガッツリ勉強漬けの毎日らしい。
灰原の姿が無いのは別任務で出ているのだろうか?
他に知っている顔としては伊地知2級と日下部準1級の姿がある、他にも呪力量から察するに準1級以上の呪術師が集められているらしい……こうしてみると伊地知2級の呪力の少なさが際立つな。
「よし、大体のメンツは揃った様なので始めるぞ。伊地知2きゅ……補助官は奥さんを亡くしたばかりなのに仕事に引っ張り出して申し訳無いな、結界術のエキスパートとして情報提供と補足が有れば頼む」
どうやら伊地知2級改め伊地知補助官は、奥さんを亡くしたのを切っ掛けに前線で戦う呪術師を引退し、補助官へと転身したらしい。
夜蛾学長の言葉に伊地知補助官はただ無言で小さくお辞儀をしただけで会議の進行を促す、恐らくは奥さんを亡くしてから然程も経って居ないのだろう、伊地知補助官は以前会った時とは比べ物にならない程に暗い顔をしている。
……コレは帰りにでも寮にいる筈の伊地知の所にも顔を出しておくべきか? まぁソレは今は置いておいて、先ずは会議に集中だ。
「昨日都内で起こった呪詛師の墜落死、そして今日都内各所に置いて複数の呪術師同士の決闘と思われる事案が発生した。しかし目撃した夏油特級と五条1級の言に依ればそのどれもが未登録の呪術師に依るモノだと言う」
そんな言葉から始まった会議では、午後12時20分頃上野恩寵公園上空、午後17時頃新宿中央公園上空……とどちらも決して人手が少ない時間と場所では無い所の高高度に張られた結界内での戦闘が行われていた事が話される。
更にその内一つ、新宿中央公園の方は戦っていた人物のある程度の詳細も把握出来ており、片方は米軍に所属すると言う『呪術
「私が接触したオルトマン軍曹はエミリオ少年の事を脱走兵の様なモノと表現してました。しかし14歳のロシア人少年が米軍の脱走兵である筈が有りません。何等かの後ろ暗い策謀がある様に思えますね」
2人の戦いに割って入り、オルトマン軍曹と接触したと言う夏油が、その時のやり取りは大まかに全員に共有する。
「既に総監部から政府を通して米軍には水面下での抗議を入れる様に要請したのだが、米軍は公式に呪術の存在を認めている訳では無く、また在日米軍にオルトマン軍曹と言う人物は居ないと言うのが回答だったそうだ」
「機械化人間なんてフィクションにしか居ない代物を米軍が実用化してるなんて与太話、真正面から切り出しゃそら向こうさんも知らぬ存ぜぬ貫くしかねーでしょうよ」
夜蛾学長の言葉に肩を竦めてそう言う日下部準一級。
「確かに実物を見なければ私でも信じない話ですね、ただアレは真っ当な科学技術の産物じゃぁ無い、奴が腕に装備していた重機関銃の様な兵装が打ち出していたのは銃弾では無く呪力弾だった。あり得ない飛行能力なんかも呪具、或いは呪物に依るモノと思われる」
原作知識で言うならばこの頃の米軍は呪術の呪の字も知らない筈だ、本編が始まった後にメロンパン入れと成った夏油が情報を漏らす事で、始めて米軍が死滅回遊に介入したのだ……呪霊に対する対策も無しに。
しかしどんなバタフライエフェクトが働いたのか、今の時点で呪術機械化人間等と言う呪術と機械科学の間の子とでも呼べるモノが、実戦配備──或いは実用試験──されているらしい。
ただその呪力源は呪物や呪具と思わしきモノだそうで、闇マーケットで取引されるソレ等は、海外も含めて好事家が居り海外への流出も珍しくはなかったそうなので、ソコから材料の出所をたどるのは難しいだろう。
「この件と直接関わるかどうかは分からないが、時の器の会旧本部をシャフト・エンタープライズ・ジャパンが買い取ったそうだ、ソレと前後してあの会社は海外からの社員受け入れを拡大しているらしい」
「シャフトか、例の鏡面伝文といい今回といい、時期的に何か関連性が有りそうにも思えるな。ああ、鏡面伝文と言えば、あの事件の2日前にアメリカ西海岸側で大規模な呪術災害が発生している。米軍基地内での事だったので軍事機密を理由に調査は断られたがな」
「ソレどー考えても例の軍曹とやらと関係ある奴じゃね? どっちも米軍絡みだろ? 国内で実験して事故ったから、再実験を日本でやってるとかアリそうな話じゃん?」
俺と夜蛾学長の言葉を聞いて、御主人がそんな口を挟む。
「可能性として無くは無いが、現時点で断定は難しい。寧ろエミリオ少年を脱走兵と表現した方が俺としては気になるな」
「ああ、成る程、呪術師……連中の言葉で言えばサイキッカーを捕らえて何らかの実験を行い、反抗され脱出、その後例の鏡面伝文を使い世界中の虐げられいるサイキッカーを集め蜂起する……辻褄は合いますね」
呪術に関して総監部と高専と言う専門組織のある日本でも、呪術の才能を持つが故に虐待されたりする子どもは居るのだ。
奇跡は神の専売特許で超常を操る人間は悪魔に魅入られたモノとする一神教の価値観ならば、日本以上に苛烈な差別を受けるのは想像に難く無い。
そうした者達を新興の国際企業シャフト・エンタープライズが集め、天元の浄界の有る日本へと送る……と言う流れは有り得る話だろう、今の段階では何の証拠も無い憶測に過ぎないが。
「一応補足しますが、今日夏油特級と五条一級が確認したと言う『影高野式戦闘結界』は高専が用いる帳よりも遥かに高度な結界術です、ド素人が見様見真似で使える様なモノではありません……六眼を持ち結界の構成式を読解する五条一級は飽く迄も例外です」
一連の流れの中に対して更に裏がある可能性を、結界術のエキスパートとして伊地知補助官が補足する。
「まぁ取り敢えず何にしても五条が連れ帰った少女の意識が戻れば、もう少し突っ込んだ情報を得る事が出来るだろう。家入は未だ来ないのか?」
御主人、夏油、家入の3人の現在の立ち位置は一応高専所属ではあるが、外部の大学生で有り余程の緊急案件──特級呪霊の出現等──を除いて大学の講義が優先される様にスケジュールが組まれる様に成っている。
「硝子は今日は5限までびっちり講義入ってるんじゃなかったっけ? つか夜蛾センに俺等の講義予定はちゃんと提出してんじゃん」
今の時間は18時20分、大学の5限が終わるのは18時40分で、そこから高専へと自動車で移動するとなると、どう考えても彼女の到着は20時近くになるだろう。
「……では今日の所はこの辺にしておくか、新しい情報が入り次第高専の連絡用サイトに上げて置くし、各自の携帯にも情報更新の旨は送信するので、確認を忘れない様に」
高専の連絡用サイトは当然ながらパソコンで専用ソフトを経由しなければアクセス出来ない闇サイトだ、メールで情報更新を通知するから、ソレが来たらサイトで情報を確認する……と言うのが現在の運用である。
つか捜査0係にもそのソフトとアクセス権を渡せば情報共有は一発だと思うんだが、警視庁は警視庁内で誰が何処にアクセスしたとかログを取り一般の警察官が監視しているので、ソレをやるわけには行かないらしい。
家入の到着と捕獲した少女の治療を待つと言う御主人をその場に残し、俺は学生寮に居るであろう伊地知を訪ねる事にするのだった。