畜生道に堕ちたと思ったら五条悟の飼い猫になった件   作:鳳飛鳥

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覚醒……刻の間の中で

(はぁ……!? 嘘だろ? 死ぬ……? 俺が……?)

 

 産まれながらの絶対強者である五条悟にとって死とは、花の様に儚い弱者達には何時でも簡単に訪れるモノだが、自分自身にとっては極めて縁遠いモノだった……だと思っていた。

 

 天与呪縛のフィジカルギフテッド、暴力の権化との戦いでは甲賀流体術を学んでおいて良かった……と背筋が凍りつく思いはしたが、ポチの介入も有って自分が勝利した。

 

 あの時ポチが手助けしてくれなければ、恐らくは長期戦の後に体力切れで負けていた可能性に思い至った為、その次に甲賀へと修行へ行った際にはさらなる熟練を求めて猿飛の翁に本気で自分を凹ませる様に頼んだのだ。

 

 そして今では翁をして免許皆伝と言わしめ、呪力無しでも8割の確率で勝利し、呪力を使えば勝負にすらならないと言える所まで自身を磨き上げた。

 

 故に無下限呪術に依る無限の防壁が無くとも、自分はそう簡単に傷つく事は無い……そう思っていた、慢心では無く事実として。

 

 実際現在の五条悟の五感は呪力に依る強化を行わずとも、自身を中心に半径50メートル以内のほぼ全ての現象を、目で確認する事無く知覚出来る程に研ぎ澄まされている。

 

 天与の暴君ですらも空気を全く揺らす事無く行動する事は不可能であり、今の五条悟に悟られる事無く50メートル以内に近づくのは不可能だろう。

 

 にも拘らず、あのダサい派手なスーツのメガネは、自分に気取られる事無くその身に刃を突き立てた。

 

 未だ命が尽きていない状態で、その姿を六眼で捉えたが故に奴の生得術式を読み取る事が出来た。

 

 時間と空間を操る術式、短時間とは言え時間を停止させその中を自由に動き回る事が出来る上に、短距離ながら空間を渡り歩き、異空間に仕舞ったモノを出し入れ出来る。

 

 恐らくは時間を止めた状態で近づき、こちらが何の対応も出来ない状態を作り出した上で、剣を射出しソレに縫い止められたのだろう。

 

 原因は掴めた……しかしこのままでは死の運命から逃れる事は出来ない……ポチが最近拡張した『泰山府君の祭』が有れば、運が良ければ復活する事も叶うかもしれないが、其の為には五条悟の遺体が高専に運ばれる必要がある。

 

 ウォンと呼ばれた胡散臭い男は自分が五条悟を倒したと言う証明として、その遺体を持ち帰ろうとしていたが、ソレをバーンが咎め2人は戦闘用結界の中へと舞い上がった。

 

 バーンが勝てば良し、負ければ終わり……そんな他人任せの運頼みみたいなモンに自分の運命を委ねる事を五条悟と言う男がするだろうか? 

 

 側に居たのが飼い猫であるポチや相棒兼親友である夏油傑だったならば、ソレを考えていた可能性は0では無い。

 

 しかし共闘を約束した間柄とは言え、バーンと言う男はそこまで心を許した相手では無い。

 

 故に五条悟は自分が生き残る方法を、パノラマ視現象が巻き起こる脳を呪力で無理やり黙らせ考え……そして至る。

 

 負の力と負の力をかけ合わせる事で正の力を生の力を喚起する呪術、反転術式に。

 

 至ってしまえばなんという事も無い簡単なモノだ、だが至る事が出来なければ絶対に使えないと言う事もまた分かる、つい数瞬前の自分がそうだったから。

 

 生命を司る呪力が全身を駆け巡り、傷付いた肉体を細胞単位で活性化し、魂と言う設計図に基づいて失われたモノを呪力で補完する。

 

 幸いだったのは奴が打ち出した呪具と思わしき剣は全て回収されており、一本一本抜き去る手間が無かった事だろう。

 

 漏れ出た血液も呪力が補完した事で肉体面ではほぼ万全な状態を取り戻した……ほぼであって完全にでは無いのは、昼飯を食いのがして空腹感が未だ肉体を苛んでいるからである。

 

 そうして血まみれの服のまま立ち上がった五条は念の為、空で戦う2人を囲む結界を改めて読み解いてみる。

 

 外部から第三者が飛び込んだ際、飛び込んだ者が明確に何方かを狙っている訳で無いならば弾かれるのはランダムな片方だが、目標を定めて飛び込んだ場合にはその相手が結界に残るらしい。

 

 つまりさっきはどっちが相手になるかも確認せずに飛び込んだが故に、ウォンと呼ばれた男が弾かれたが、今度は明確にウォンを倒すと認識して飛び込めば奴と戦う事が出来るわけだ。

 

 その際に注意しなければならないのは、あの結界には反転術式モドキが仕込まれており、乱入者が居る場合にのみ乱入者の呪力を徴収して、挑戦を受ける側を万全の状態にするらしい。

 

 つまり結界外で怪我をさせた相手を引きずり込んで戦う時にはその怪我を引き継ぐが、救援となる者が代わりに飛び込めば相手は敵の呪力を使って回復した上で挑戦を受ける事になる。

 

 この仕組みは影高野の呪術師達が使う結界には無い構築だ、影高野の呪術師達は一人で相手を倒しきれなければ、他の仲間が入れ代わり立ち代わり呪詛師を追い詰める様な戦い方をするので、こんな味方を不利にする様な縛りは入れないだろう。

 

 となるとこの影高野の結界術を元にしたと思しき結界術は誰が超能力集団──呪詛師集団ノアに伝授した物なのだろうか? 

 

 影高野の者がソレをするとは考え辛いし、高専の呪術師……元呪術師で結界術のエキスパートである伊地知補助官がそんな真似をする事は先ずあり得ない。

 

 高専と総監部の寄る辺足る浄界を維持する天元ならば、この結界を構築する事も可能だろうが、ソレをわざわざ呪詛師集団に教えると言う事は前記2者よりも有り得る事では無いだろう。

 

 となると高専側が知らない高位の結界術使いが何処かに在野でいる可能性があると言う事だ。

 

 今はソレを考える時では無い……五条悟はそう判断し、上で戦う2人の様子を見る。

 

 術式の強さで言うならば恐らくは同等、呪力量はバーンの方が勝るが、体術の練度が明らかにウォンの方が上だ。

 

 バーンは何らかのスポーツ競技経験はある様で身体の動かし方は上手いが、ウォンのソレは明らかに武術を齧った程度では無く修めた人間のソレである。

 

 このまま待てば恐らく勝つのはウォンだ、今の所バーンも奴の放つ剣の射出は呪力を費やした結界で弾いているが、然程の経たないウチに武芸の差で押し切られるだろう。

 

 バーンは仲間を殺られて逃げる奴は男じゃないと言ったが、縛りでは無い口約束とは言え共闘関係を結んだ相手を見捨てる様じゃぁソレこそ男では無い。

 

 五条悟は自分が男らしい男だとは思っては居ないが、強き者として強者の義務は果たすべきだ……と親友との付き合いに影響され考えるように成っていた。

 

 故に……

 

「術式順点『蒼』」

 

 再び結界の中へと乱入する、今度は明確にウォンを相手と見定めて。

 

『HERE COMES A NEW CHALLENGER!』

 

 結界内に響き渡る挑戦者現ると言う文言、ソレに誰よりも驚いていたのはウォンである。

 

「馬鹿な! 何故、何故貴様生きている五条悟! 私の剣は間違いなく貴様の心臓を、そして肚を貫いていた! 仕舞った! そうか! 反転術式!? 貴様はあの呪術の奥義を使えるのか!?」

 

「はぁ? 反転術式なんざぁ呪術の奥義でも何でもねぇ、呪術師が修めるべき当たり前の技術の一つだろ? あーそっか、文化大革命で呪術の呪の字まで消し去った中国じゃぁこんな基本的な知識すら失伝してんのかぁ!」

 

 反転術式が当たり前の技術だと言うのは半分は真実であり半分はハッタリだ。

 

 そう言う技術があると言う事と、可能ならばソレを身に着ける様に言われるのは、高専に進学した者には極々普通に言われる事だが、生得術式にソレが組み込まれている者を除けばその技術を手にした者の殆どは上から数えた方が早いレベルの達人達である。

 

 更に言えば反転術式のアウトプットが出来る者となると現状、呪術総監部が把握している者だと家入硝子と五条ポチの1人と一匹だけだ。

 

 呪術の核心を手にした事で少々ハイに成っている部分も有れど、半分以上は相手の無知を嘲笑う事を装った挑発である。

 

『Ready』

 

 この手の自尊心(プライド)の高い輩にはこういう手が良く効くモノだ。

 

「く!? ならばもう一度殺してやるだけの事! 反転術式といえど呪力が尽きれば使えまい! 呪霊を相手にする様なモノだ!」

 

『Go!』

 

「術式反転『赫』」

 

「くらいなさい!」

 

 響き渡る合図と同時に2人は先ずは小手調べとばかりに五条は身に着けたばかりの術式反転を、ウォンは自身の手から異空間に仕舞った黄金の直剣を射出する。

 

 強力な斥力を放つ赫とただ打ち出されただけの剣が打つかり合えば、本来ならば剣は弾かれウォン本人を派手に弾き飛ばし結界の内壁へと叩き付けていた事だろう。

 

 しかし結果は相殺、ウォンが打ち出した剣は呪具でありその等級は特級と言われても信じられる程の呪力を秘めていたのだ。

 

 故に相殺……とは言え所詮は小手調べだ、五条悟には今放った以上の大技がを既に手にしている。

 

 だが文献通りの威力があるならば、まず間違いなく結界をぶち抜いて周辺に被害を出す事になるだろう。

 

 そう考えると、人目に付くかもしれない此処であの大技を出すわけには行かない。

 

「飛び道具同士じゃ面白く無いしさ、コレで勝負つけようぜ? ああ、安心しろ無限の防御なんて無粋な真似はしねぇよ」

 

 拳を突き出しそう挑発する五条、相手は間違いなく武術を修めている……それもただの武術では無く呪術──超能力と組み合わせ、この足場の無い結界で使う事を前提としたモノだと言うのは先程見て理解した。

 

 武を積み重ね研鑽してきた事、ソレを自身の術式と絡めて最適化してきたであろう事に関しては素直に尊敬の念を持って相手を見る事が、今の五条には出来ている。

 

 でも……だからこそ……弱者の為の技術である筈の武を持って、武威に任せた暴虐を働こうと言う男は許せない。

 

「無礼(なめ)るなよ若造! 呪術のみでの勝負ならば最強の前評判通りに、逃げる事も考えたが……この私の武を舐めた事をこの拳で後悔させてやろう!」

 

 誰が合図したでも無く2人は拳と拳で決着を付けるべく、呪力を放出し一気に間合いを詰めたのだった。

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