畜生道に堕ちたと思ったら五条悟の飼い猫になった件   作:鳳飛鳥

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3人目の特級認定と呪詛師認定

「自称:超能力集団ノア、未だその全貌は掴めず構成員に依る明確な呪術規定違反は確認されていない。だが、幹部の一人であるリチャード・ウォンと言う人物が五条1級術師に刃を向けたのは事実、総監部はリチャード・ウォンを呪詛師として認定する事にした」

 

 そう言う夜蛾学長が手元のノートPCを操作すると、プロジェクターからスクリーンへと投影される映像にリチャード・ウォンだと言う男の写真が表示された。

 

「この写真の出どころは何処なんすか? まさか戦闘中に撮った訳じゃねぇだろ? つかどっかで見た覚えのある写真だし」

 

 日下部準一級がその写真を見てそんな事を言う。

 

「リチャード・ウォンと言うのは飽く迄も通り名で、本名は皇飛晃(ウォン・フェイフォン)。多国籍企業シャフト・エンタープライズ全体のCEOを務める人間だ。この写真は件の企業紹介ページからの引用だ」

 

 シャフト・エンタープライズは日本国内でこそ、未だ1ゲームメーカーと言う印象しか世間にはないが、海外に目を向ければ半導体製造の様なハイテク工場や、大型の溶鉱炉を持つ鉄鋼業の工場なんかも傘下に入れている。

 

 他にも中国の比較的安い労働力を背景とした雑多な生産工場をいくつも抱えており、その会社のキャッチフレーズは『爪楊枝からスペースシャトルまで』と言うモノなのだ。

 

 とは言え実際にスペースシャトルの建造に携わった事は無く、飽く迄も『ソレくらい多くのモノづくりが出来る』と言う見栄え重視のキャッチフレーズなのだろう。

 

「ちょっと調べて見たんだけど、企業体としてシャフト全体を見た場合、流石に五条家だけじゃぁ経済戦やると負けるんだよねぇ。禪院と加茂と共同してやり合っても向こうは経済のプロ、総資産なら負けないけど……先ず勝ち目はないね」

 

 シャフト・エンタープライズと超能力集団ノアとの繋がりを掴んできた本人である御主人がそんな事を言い出す。

 

「ソレは飽く迄も表向きの立場だろう? 国内にいる間に呪詛師として秘密裏に仕留める分には、経済戦等と言う事にはならんだろう。まぁ総監部及び高専がCEOを殺めたと断定されれば、日本対多国籍企業と言う構図にはなるかもしれんがね」

 

 皇飛晃と言う表の顔を持っているとしても、我々が相手にするのは飽く迄も裏の顔であるリチャード・ウォンだ、ソレを闇から闇に葬る事さえ出来れば、何らかの事故で行方不明と強弁を張る事は出来る。

 

 要するに死体さえ見つからなければ殺人事件では無く行方不明者でしかないのだ。

 

 良くも悪くも高専は秘匿死刑で出た死体を、秘密裏に処理する手段を持っている、暴力団(ヤクザ)がフロント企業として抱え込んだ自動車修理工場で、強力な溶剤を使って骨まで残らず溶かして産廃として処分するよりも確実な方法らしい。

 

 そんな事を念頭に俺がそう言えば、周りにいる準一級以上の呪術師達は軽く頷いて同意する。

 

「まぁ今の段階ではそのノアと言う集団全てを呪詛師集団と認定した訳では無いのでしょう? ただ……五条さんを殺しかける程の呪詛師と言うのは中々に厄介ですね。時間停止からの13本の剣、五条さんですら反転術式に目覚めなければ死んでいた……と」

 

 人の遺体では無く浴に依って呪力を纏わせた水晶と鼈甲を使い、組屋が作った7対3の位置を表示する呪具のメガネを掛ける様になった七海が、自分は相手にしたくない……と言外に口にする。

 

 六眼を持ち、忍びとしても免許皆伝の腕を持つ御主人ですら知覚する事の出来ない時間停止からの不意打ち、13本もの剣に貫かれれば普通の人間ならば例え呪術師でも生き残るのは不可能と言えるだろう

 

 この中でリチャード・ウォンとまともにやり合って勝つ事が出来るのは、恐らくは御主人と……猫の呪術師と言う常識外の存在である俺にワンチャン有るくらいだろう。

 

 特級術師である夏油ですら術式の相性的に分が悪いと言わざるを得ない。

 

「あー、俺、反転使える様になって蒼での瞬間移動に殆ど制限無くなったから、奴を発見したら講義中じゃなけりゃ連絡くれれば飛んでいくぜ? 後はポチが近くにいる状況なら最悪死んでも生き返れるから反転術式取得を狙って見るのも有りかもな」

 

 要するに死にかける事で運が良ければ反転術式に目覚める可能性が有ると言う事だろうが、冗談にしても少々不謹慎が過ぎる……いや御主人の場合は大真面目に言っている可能性も有るが。

 

「兎角、悟が保護した2名の外部協力者の話が事実ならば、超能力集団ノアは超能力者……呪術師上位の世界を構築する為、呪術高専と総監部を相手に水面下での戦争を仕掛けて来る可能性が高い。奴らが使う戦闘結界に慣れる為この後の訓練には是非参加してくれ」

 

 ノアの超能力者とやらがどれほどの実力者達なのかは分からないが、少なくとも幹部の一人であるリチャード・ウォンは御主人が反転術式に覚醒しなければ死んでいた程の相手である。

 

 ソレが首魁として担いでいると言うキース・エヴァンスと言う男がどれほどの実力者なのか……御主人に聞いた印象で言えばウォンと言う男は自分より弱いと見做した人間の下に名目上だとしても付くこと良しとするタイプではないだろう。

 

「奴らの結界の性質は五条一級に伺い、私でも張ることが出来るのは確認済みです。内部では通常の呪術戦とは違う多くの縛りが有りますので、ソレに慣れてなければ下手をすれば相手が幹部でなくとも封殺される可能性が高い。是非、一度は体験してください」

 

 呪術界切っての結界術のエキスパートである伊地知補佐官がそう言うと、この場にいる者達の顔が今までよりも更に引き締まる。

 

 彼よりも等級が上の者でも、模擬戦での事とは言え伊地知の結界術に封殺された経験の有る者は結構な人数に及ぶのだ。

 

「……総監部は現状時点でリチャード・ウォンを現時点で特級呪詛師として認定、瞬間移動や時間停止を駆使した斬首戦術を政府高官に行えば、国家転覆は十分可能と判断した。最低でもそのクラスの人材が奴らにはいると留意して貰いたい」

 

 特級の認定を受けている人間は呪術師側で現状世界でたった2名、3人目としての認定が呪詛師と言うのはこの場にいる全員にとって衝撃の事実である。

 

「また今日悟が連れてきた協力者から、連中の本部施設が旧盤星教 時の器の会本部である事も発覚した。警察への協力を働きかけ件の施設は既に監視下に置かれているが、転移の術式を持つ者がいる以上は完璧とは言い難い」

 

 旧時の器の会本部はシャフト・エンタープライズが購入したと言う話は警察から受け取っているので、コレで概ねシャフト・エンタープライズ≒ノアだと確定したと言って間違いないだろう。

 

 より正確に言うならば恐らくはノアの後ろ盾兼資金源としてシャフト・エンタープライズが協力しているという構図なのではなかろうか? 

 

「現状ではリチャード・ウォン以外のノア構成員は未だ呪詛師として認定されていない、またリチャード・ウォンを発見しても単独での交戦は避けるのが賢明だろう。奴は危険過ぎる……数で封殺するにしても結界術が厄介だしな」

 

 御主人や夏油が遭遇した結果、連中が使う結界術は1対1の戦いを強制するモノであり、挑戦を受ける側が有利で乱入者が不利になる様な縛りが設けられたものだ。

 

 ちなみにリチャード・ウォンの首に掛けられた懸賞金は3億円、奇しくも天内理子と天元の同化の際に上乗せが行われる前の御主人の首に懸けられていたのと同額である。

 

「にしても呪術師が支配する世界か……呪霊の被害が殆ど無く、呪霊を生むメカニズムを知らない外国人らしい発想だね。呪術師が支配者として君臨すれば、ソレを恐れる民衆が放つ負の感情で呪霊祭りになるのは目に見えてる事なのにねぇ」

 

 肩を竦め呆れる様にそう言ったのは夏油だ、事実日本国内において呪術師の家系が表舞台の頂点を取ろうとした事は何度か有る。

 

 その代表格と言えるのがかの乱世の英雄『織田信長』だ、総監部に残された資料に依ると、第六天魔王を名乗った彼は術式こそ記録に無いモノの、圧倒的なカリスマ性と呪力に依る身体強化を使い表舞台の頂点に王手を掛けたのだ。

 

 しかしその人生の幕は誰しも知る通り本能寺の変にて潰えた、同じく呪術師だった武将明智光秀に対して陰陽寮が彼を討つ様に要請したからである。

 

 呪術師が表舞台の頂点に立ち呪術を表沙汰にすれば、呪霊の出現率もその強さも大きく跳ね上がると試算していた陰陽寮は、ソレを包み隠さず明智光秀へと打ち明け、結果彼は三日天下と呼ばれる程の速さでワザと討ち取られる事になった訳だ。

 

「取り敢えず訓練をするならグラウンドに行こうよ! 今は現役生達も座学の最中だし邪魔にならず戦闘結界を試せるよ!」

 

 昨日の会議には居なかった灰原も現在は準1級の呪術師であり、進路面では大学進学では無く卒業後そのまま高専所属の呪術師となる予定なので、今は猶予期間(モラトリアム)の最中で、緊急の任務でも無ければジムでの稽古に精を出しているという。

 

「俺も少しは身体を動かしておくか、この案件は思ったよりも大きな騒動になる可能性が有る。伊地知補助官には申し訳ないが、明日にでも京都校へ行き同様の訓練を付ける様に頼む。ちょうど今日は楽巌寺学長が東京に来てるので後から顔を出すそうだしな」

 

 ちなみに楽巌寺学長が東京に来ているのは任務では無く、自身が所属するバンドのライブツアーで全国のZeppを回っている最中だからである。

 

 インディーズではあるもののそこそこの知名度を誇る、日本国内では最古参の一つと言って良いロックバンドで、ビートルズの来日の際にはザ・ドリフターズと彼等と何方が前座を務めるかを争った程だと言う。

 

 結果、メジャーレーベルに席を置くザ・ドリフターズがその席を手にしたが、純粋に音楽だけの見るならば今でも自分たちは負けていなかった……と精力的に今でもライブ活動を続けているのだそうだ。

 

 ……多忙な呪術師、ソレも京都校の学長を務めながら音楽活動もガッツリって、改めて聞くとすげー人だよなぁ。

 

「んー俺としては保護した2人ともうちょっと話しておきたかったんだけど、あの結界の中での戦いをレクチャー出来るのは俺だけだならなぁ……しゃーない、訓練が終わるまでは我慢するとしますか」

 

 保護した2人とは言っているが、御主人の目当ては恐らく愛らしいストロベリーブロンドの少女の方だろう……御主人にも年頃の男としての助平心が有ると思えば、ソレは決して悪い事では無い筈だ。

 

 そんな事を考えつつ、会議室に居た面々と共に俺はグラウンドへと向かうのだった。

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