畜生道に堕ちたと思ったら五条悟の飼い猫になった件 作:鳳飛鳥
呪術高専東京校は東京都西部の山中にその校舎と本部機能を持つ施設を集約している。
西に山頂を持つ山の中腹にソレ等の施設が在る以上、夕暮れの赤い日差しを浴びる事無く日が落ちる立地だ。
そのグラウンドにはナイター設備の様な明かりは無く、日が落ちれば月と星の光以外にその場を照らすモノは無い。
その為、グラウンドで行われていた超能力集団ノアの者達が使うとされる結界を使った訓練は、日が落ちる少し前に終了していた。
訓練の途中からではあるがノアとの対決姿勢を明確にしていると言う、御主人が保護した2人の外部協力者もソレに参加し共に血と汗を流す事していたりする。
バーン・グリフィスと言うアメリカの高校生と、ウェンディー・ライアンと言うオーストラリアの高校生の2人共に日本語は殆ど理解出来ておらず、ある程度英語が出来る東大生組と同じく東大を目指す七海くらいしか言語での交流は出来ていなかった。
しかしバーンに関しては男ならば拳を交えれば理解は深まるモノと言わんばかりに積極的に、戦闘訓練に参加し言葉の通じない灰原や日下部準1級とも相応に交友を深めていたのは流石と言えるだろう。
どうやらバーンの使う体術はアメフトのソレをベースとしている様で、前世の趣味としてアメフト観戦が有った俺が御主人にソレを伝えると、20歳にして既に一流の武術家となった御主人は彼のソレを実戦向きにアレンジ矯正する事に成功していた。
「(英語)うん、バーンは正式に高専に所属し呪術をもう少しきっちり学べば、術式的にも特級認定受けれるだろうな。なんせ呪力さえありゃ天井知らずの熱を生み出せる術式だ、ゼットンまで行かなくても普通に地球滅ぼせる可能性はあるわな」
ウルトラマンという特撮に登場するゼットンと言う怪獣は設定上1兆℃の火球を放つ事が出来るとされている……が、実際に1兆℃もの熱が放出されたならばその瞬間に地球は蒸発し太陽系そのものが消滅すると言う。
故にウルトラマンを倒したゼットンの放つ炎は実際にはそこまでの熱量は無かったのか、或いは何等かの超能力の類で火球に触れさえしなければ熱量が外部に伝わらない様に成っていた……等の推測を
御主人曰くバーンの術式は呪力を燃焼させると言う極めて単純なモノながら、炎をぶつけた相手の呪力も燃料に変える為、単純な呪力に依る身体強化の防御を行うとソレに使った呪力も燃料にされる為、防ぐにはノアの連中がバリアガードと呼ぶ結界術が必須だと言う。
このバリアガードと呼ばれる結界術は『ありとあらゆる外部からの干渉を遮断する』と言う極めて高度な結界術では有るが、術の構成そのものは割と単純で帳よりも簡単に身に付ける事は可能である……呪力の消費効率に目を潰れば。
現在の呪術界で天元を除けば、最も多くの呪力を有していると思われる御主人ですら、数秒も張り続ければ呪力が枯渇すると言うソレは、確かに絶対防御ではあるがソレに引きこもって救援を待つ事が出来る様な代物では無い。
しかし使い所が無いかと言えばそんな事も無く、強力な呪具に依る攻撃や御主人の無下限に依る無限すら燃やすバーンの術式の様な特殊な術式に依る攻撃が当たる瞬間に、一瞬ソレを張る事でダメージを回避する手段としては有効なのだ。
「(英語)しかし本当に悟の無限すら焼く術式が有るなんてね……私達が高専生時代に夜蛾学長がそうした存在が有る可能性は示唆していたが、実際に目にすると驚きと言うしか無い」
御主人が産まれながらにして呪術界最強の存在と目されたのは『呪力の流れと術式を詳細に読み解く六眼』と『繊細な呪力操作を必要とするが使い熟せばほぼ無敵と言える無下限呪術』の双方を持っていたからだ。
無下限呪術と言うのは使い熟すには六眼がほぼ必須と言う程に繊細な術式で、五条家の相伝術式では有るが六眼を持たずに術式を持っただけの者は決して最強の存在等では無い。
無下限呪術に依る絶対防御は六眼の持つ呪力の繊細な可視化と言う異能に依って支えられているのだ。
しかしバーンの持つ『鳳燃呪法』と名付けられた術式は、その無下限が生み出す無限を構成する呪力すら燃焼の材料とすると言う在る意味無下限呪術の天敵とも言える術式である。
存在する可能性は示唆されていたが、まさか本当に存在し同じ時代に生きる事になる可能性は恐らくは天文学的な数字となるだろう。
「(英語)俺の超能力……ここじゃ呪術って言うのか? そんなに特別なモンなのか? 俺は良い大学行ける程成績良くねーし、ワンチャン狙ってNFLのトライアウト受けようかと思ってたけど、落ちたらこっち来て公務員やるのも悪くねーかもな」
彼が通うリバーシティハイスクールはカリフォルニア州にあるそうで、同州にはNFLに所属する3つのアメフトチームが存在する。
曰く呪術師で有り呪力に依る身体強化を行う事の出来る彼でも、アメリカンフットボールの頂点であるNFLでは通用するかどうか分からないと言う程に、NFLの選手たちは超人とも言える領域の存在だと言う。
ぶっちゃけ言うならばNFLやメジャーリーグのトップ選手の何割かは、術式を持たないが呪力はある程度持っていて無意識に呪力に依る身体強化を行っていても不思議はない……と思わなくもない。
呪霊が殆ど出現する事のない海外では、術式を持たない呪力だけの呪術師は超人的な身体能力を持っていたとしても、ソレ以外で呪術を自覚する要因が殆ど無いので、アスリートの世界にはそれなりに居ても不思議は無いだろう。
「(英語)呪術師は高給取りだけど流石にNFLの選手と比べるとなぁ……」
「(英語)ルーキーで80万ドル(約6400万円『2010年当時』)とかだっけ? 流石に初年度は呪術師の方が稼ぐんだろうけど、トップ勢だと9000万ドルとか行くらしいし流石に比べ物にならないよね」
「(英語)いや俺は
「(英語)えー!? 日本のサイキッカーの仕事ってそんなにお金になるの!? うわぁ……クリスをノアから取り返したら、私こっちに留学しようかな?」
「(英語)お、ウェンディー高専に来る? 呪術師……サイキッカーの稼ぎは実力次第の成果報酬だけど、1級の俺で年収は数億、特級の傑に至っては更にその10倍は堅いぜ? ウェンディーも術式と呪力は良い物持ってるし、鍛えりゃ1級まで行けるだろ」
僅かに赤身掛かった金髪のロングヘアを三つ編みにした白人の美少女に話しかけられ、嬉しそうにそう返す御主人。
パット見ただけでもその声には喜色が混ざり、鼻の下を伸ばしたと言う表現がしっくりくる表情である。
まぁ彼女の緑色のホットパンツに太ももの下まで有るハイソックスに、同じく緑色の長袖ジャケットの下は白いチューブトップ一枚でへそが丸出しと言うその格好は、ヤりたい盛りの20歳から見れば『誘ってんの?!』と言いたくなる様なモノだ。
しかもソレがど真ん中では無く外角低め辺りだとしても、ストライクゾーンに入っている相手ならば、即座に色恋に発展せずとも鼻の下が伸びるのは仕方の無い事だろう。
「(日本語)悟……鼻の下が伸びてるよ? そう言う態度は女の子には直ぐ見抜かれるから、本気で口説く気があるならもう少し隠す努力をしないと駄目だね」
当然の様に親友であり相棒で彼女持ちの夏油はそんな御主人の内心を見透かし、彼女に伝わらない様に日本語でそんな忠告をする。
「(日本語)あ……え……ちが……お? ごめん、ちょっと電話……はいもしもし……は!? え!? マジで! 嘘だろ……あ、ああ、うん了解、高専と総監部には伝える……ああ、はい」
色恋沙汰に縁遠い御主人は真正面からそうした指摘を受けた事が今まで無く、顔を真っ赤にして否定する素振りを見せるが、唐突に鳴った携帯電話での連絡を受けると今度は逆に顔を真っ青にして電話を切った。
「(日本語)六道のおっさんが殺られたらしい、下手人はノアの呪術師……いや呪詛師だ。他の呪詛師を狙って東京に来てた所を岩を飛ばす術式持ちの男に殺られたそうだ。潰された遺体は影高野の呪術師が確保してるらしいから……ポチ行くぞ!」
知り合いの呪術師が命を落し、その遺体が在って俺が必要になる状況、つまりは拡張術式『泰山府君の祭』での復活する見込みに賭けると言う事だろう。
「了解した御主人、跳ぶならば俺は何処に掴まれば良い?」
「What!?」
「(英語)猫が喋った……だと!?」
俺が喋る姿を目の当たりにした2人の協力者達は、化け物でも見るかの様な驚きぶりだが……ラーメン赤猫世界ならば、世界中に極々稀とは言え人語を解する猫はいる筈である。
「取り敢えず何時も通り頭の上で良い、重いけど抱えるよかましだ!」
そう言われ呪力で脚力を強化し頭の上へと飛び乗ると、即座に御主人は術式順転『蒼』を発動し一瞬にして新宿神室町、その北に有る西公園と呼ばれる場所へと降り立ったのだった。