畜生道に堕ちたと思ったら五条悟の飼い猫になった件 作:鳳飛鳥
新宿神室町……日本最大の繁華街で有り、日本で最も治安の悪い町と言っても恐らく誰も否定はしないだろう。
ただ飽く迄もそれは表沙汰に成った犯罪の発生件数が極めて多いと言う事で有り、警察が介入する事も難しい半ばスラム化した場所を含めればその限りでは無い。
例えばこの神室町の中には有る小規模地区である亜細亜街は、所謂『在日』系の者達や海外マフィアの根城があり、その中で何等かの犯罪行為が行われたとしても、地元の
そんな場所が有る為に神室町は呪詛師達が一時の塒にする為に、滞在するなんて事は日常茶飯事である。
もっと言ってしまえば呪詛師の大半は仲介屋を通して暴力団からの依頼を受ける事が多い、ソレは抗争に絡むモノだったり、大規模なモノで無いなら特定の誰かに対する意趣返しの類だったりと様々だ。
中には政治家や企業→仲介屋→暴力団→別の仲介屋→呪詛師と言う様な孫請け構造で、表向きは真っ当な人間から裏社会の更に闇へと依頼が流れるなんてケースも有ったりする。
そうした呪詛師を狩る為に影高野の呪術師が托鉢僧の風体でこの町を訪れる事は決して珍しい話では無い。
捜査0係で組織犯罪対策部……所謂マル暴出身のお巡りさんから聞いた話では、ホームレスの吹き溜まりであるこの西公園には『サイの花屋』と呼ばれる伝説の情報屋が居り、彼は呪術界とも繋がりがあるそうな……。
しかし俺達が着いたそこは公園では無く明らかな工事現場である。
「うし、着いた取り敢えずは地下に降りるぞ、ああ彼処だな」
「おう、兄ちゃん! どっから来たかは知らねぇが、ここで勝手な真似をされちゃぁ困るなぁ」
着地の際に一般人に見咎められる事を避ける為、御主人は一定以上の呪力を持つ者にしか自身を認識出来ない様に結界を張ってから蒼でここへと飛んできた。
にも拘らずこうして話しかけて来た年配の作業員は、普通に考えて呪術師に成り得る呪力を持った者と言う事になる。
「まて、猫を連れた大学生風の男……東山さんの客人だ俺が案内する」
と、御主人の頭の上に乗った俺を見た明らかにカタギでは無い男が作業員を止め、こちらへと頭を下げてきた。
「五条さんですね? 貴方を呼んだ方々から話は聞いています、私に付いてきてください」
公園の中にある地下鉄の入口らしき構造物から地下へと降りると、そこには上の工事現場とは明らかに違う江戸時代の遊郭を思わせる歓楽街が狭いながらも確かにそこには在った。
「この奥……地下闘技場に付随した霊安室へ向かいます、そこに貴方を呼んだ影高野とか言う拝み屋達がいますんで」
どうやらこのヤクザは特に呪術の存在を知っている風な物言いでは無いが、ぱっと見た感じでも一般人と言うには少々強めの呪力があるらしい。
「へー、ここにこんな所があんのか……うわぁこんな隠された場所で地下格闘やギャンブル? 呪霊が湧いたら一発で大被害じゃん!」
「用心棒代わりの呪術師や呪詛師に伝手はありますよ、俺達ヤクザは呪術師にも呪詛師にも成れねぇ様な半端
そう言うヤクザの兄ちゃん曰く、暴力団員は殆どが恵まれない生い立ちの者であり、荒れた家庭出身の者も多いが、それと同じくらいに『見えている』が故に親から虐待を受けて育った者も多いと言う。
一昔前の時代には一般人の目には見えない呪霊が見える者は、一種の何処か奇怪しい人間扱いを受け、精神系の病院に連れて行かれたならばまだ良い方で(高専や総監部に連絡が行く)『普通に成りなさい!』と虐待を行うケースも少なくなったそうだ。
そして呪霊が見える程度だとしても呪力が有ると言う事は、一般人と比べたら確実に高い身体能力を有しており、一定以上の年齢まで生きる事が出来れば、当然の様に自分を虐待した親に反抗する様になる。
手が付けられなくなった不良が行き着く先は、最近でこそ暴対法なんかの関係でヤクザは割に合わない……と考える若者も増えたが、昔は当然の様にヤクザに零落れたモノな訳だ。
「まぁ表の法律を犯している連中は俺達の管轄じゃぁ無く警察のお仕事で、俺達が相手にすんのは飽く迄も呪術規定に違反した呪詛師か呪霊だからねぇ。アンタ見えるんなら、下手な呪詛師を頼るより俺達真っ当な高専の呪術師に連絡してよね」
呪詛師になる事の出来ない半端者とは言っても、呪力を持ちソレを暴力の手段として使えば呪詛師である……まぁソレが明確に呪術に依るモノと言う証拠が一般人に分かる形で残らなければ呪詛師認定される事は無いがね。
「さて、ここだ入ってくれ。俺も大概のエゲツねぇ事にゃ足突っ込んでるが、彼処までエグい死体見たのは初めてだ。コレよかったら使ってくれ」
そう言って渡されたのは黒いチャック付きのビニール袋……所謂エチケット袋である。
「まぁ俺も大概のエゲツねぇ現場にゃ何度も足を運んでるからな、アンタよりやべー死体を見慣れてるさ。お気遣いはありがとね」
案内してくれたヤクザにそう別れを告げ、部屋の中へと入るとそこに漂う濃厚な血の臭い。
そこに居たのは網代笠を手にし袈裟を纏った托鉢姿の僧侶が5人、そして寝台の上には何等かの強い力に押し潰されたらしい原型を留めていない遺体が1人分……。
「御主人、どうやらまにあったらしい。遺体の側に六道
「お前が言う魂って奴は六眼にも映らんからなぁ……反転術式が使える様になって見える様になるかと思ったけど、どうやらそう言うモンでも無いみたいだなぁ」
一度は死んで三途の川へと向かい、本物の賽の河原へと行った事の有る所為か、それとも拡張術式に開眼した結果なのか、俺はいつの間にか死体の側に自身の肉体を見下ろす魂を視認する事が出来る様に成っていた。
コレが見える事が拡張術式『泰山府君の祭』の前提条件なのだ。
「拡張術式『泰山府君の祭』」
両前足を合わせ一度合掌しソレから遺体に触れてコストとなるストックした命を一つ捧げる。
肉塊としか呼べない状態だった六道和尚の肉体はグロ耐性の無い者が見たら、ソレこそエチケット袋が必要となるであろう工程を経て再び人の姿へと巻き戻っていく。
「ぐっ!? かはっ! 儂は……生きている……のか?」
「「「「「おお! 和尚!」」」」」
息を吹き返した六道和尚に駆け寄り涙を流す影高野の僧侶達、呪詛師との戦いが日常の一部である彼等でも仲間が死の淵から生還した事に涙を流す権利はあるだろう。
「……どうやら話には聞いていたポチ殿の術式に救われたようだな。儂は間違いなく死んでいた筈だからの」
「で、おっさんを殺ったってのはどんな呪詛師なんだ? つかどう言う死に方したらあんなグロ死体になるんだよ?」
「先ずは我らが追っていた呪詛師の話からするべきであろう、今日の昼過ぎに新たに追加された3億の賞金首リチャード・ウォン……儂らが狙ったのは奴だ。シャフト・エンタープライズのCEOと言う表の顔が有り日本に居る以上本社に顔を出すと踏んでいたのだ」
シャフト・エンタープライズ・ジャパンの本社は神室町から目と鼻の先にある本社ビルで、彼等はその建物が見える位置に分散し托鉢を装って、奴が姿を現すのを待っていたらしい。
数日掛けて張り込むつもりで神室町近くのホテルにチェックインも済ませて有ったそうで、長丁場の仕事になると考えていたと言う。
けれども初日早々にチャンスが訪れた、午後5時少し過ぎ……9時~6時で働く一般企業ならば未だ定時には少し早い時間帯にも拘らず、社員と思しき外国人数人と共にターゲットが会社から姿を現したのだ。
当然、無関係な一般人を巻き込み戦闘に踏み切る様な真似はしない、今日の所は奴の塒を掴むのが先決で万が一相手が一人に成った瞬間が有っても、こちらから仕掛ける事はしないと事前に決めて有った。
彼等は呪詛師潰しのプロである、当然ながらその為に必要となる尾行や追跡といった技術に関しても、探偵業の者や忍者の様な本職と比べても決して劣るモノでは無いと言う自負を持っていた。
ソレが油断に繋がった可能性は決して0ではないが、いきなり不意打ちで恐らくはウォンの護衛と思われる呪詛師が六道和尚をピンポイントで狙って決闘結界に呼び込んだのだ。
他の者ならば為す術も無く瞬殺されていただろうが、自分を取り込んだのは失策だった、と六道和尚は勝利を確信していた。
が……結果は相手が周辺のビルのコンクリートやアスファルト等を剥がし、ソレを自分の回りに浮かべると言う謎の術式効果を使った後、激しい引力を放つ黒い球体を射出したかと思った直後、相手が纏っていたコンクリ等に押し潰されたのだそうだ。
「うわぁ……ソレ九十九特級と似たような術式って事じゃね? 洒落に成ってねーぞノア……最低でも3人は特級クラスの戦力が居るって事じゃねぇか……」
呪術界で重力を操る術式と言えば特級呪術師である九十九由基の持つ
彼女はやろうと思えば、地球上にブラックホールを生成し地球そのものを崩壊させうるからこそ、特級……つまりは国家転覆を為し得る存在として扱われているのだ。
「いや御主人、奴が本当に九十九特級同様のブラックホールを生成出来るなら六道和尚の肉体はこの世にあるまい、ブラックホールに飲み込まれ原子レベルで分解されていた筈だからな」
前世では理系では無く文系の大学へと進んだ俺だが、インターネットで様々な事が簡単に調べる事が出来る時代に成った頃合いに、空き時間の殆どを狂った様に様々な事を調べるのに費やしたモノである。
ブラックホールに吸い込まれたモノの末路は、その当時の記憶に依るモノだ。
「つっても九十九特級も結界やら手加減やらしながらとは言え、小さなブラックホールを攻撃に使ったりするらしいからなぁ……同等とまでは言わずとも下位互換な術式持ちである可能性は捨てない方が良いだろうよ」
必要以上に警戒するのも悪手だが、ソレ以上に相手を侮るのは悪手である。
「此度は真に忝ない、礼は総監部を通して行う故、この場では申し訳無い……」
万年金欠だと言う影高野は現場での経費すら托鉢で集める必要がある程で、今この場で現金一括で謝礼を支払う事は出来ないと言う。
「まぁ別に俺達ゃ金にゃ困ってねーし、何時でも良いぜ。寧ろアンタ程の男を殺した奴の情報だけでも値千金ってモンだ」
事実、未だ情報が無かったノアの呪詛師の術式がある程度判明したと言うのは大きいだろう。
「取り敢えず肉体は完全に治ったとは思うが、一度死んだと言う事実は精神にも魂にも負担を掛けているだろう、最低でも一晩は安全な場所で休んだ方が良いだろうな」
「ああ、ポチ殿、真に忝ない」
そんなやり取りを交わした後、俺と御主人は神室町を後にするのだった。