畜生道に堕ちたと思ったら五条悟の飼い猫になった件 作:鳳飛鳥
御主人の飼い猫になり、前世では保護猫たちに買ってやる事の出来なかったお高いキャットフードが俺の主食になった。
補助官に車を出して貰って都内の高級ペットショップへと足を運んだ御主人は、新しく立ち上がったばかりだと言う高級キャットフードを店員に言われるがままに買ったのだ。
どうやら新しいモノ好きな所の有る御主人的には新しいブランドと言うのが琴線に触れたらしい。
他にもかなり高価な猫缶を「難しい任務を達成した時のご褒美用」と言って買ったり、寮の天井ギリギリじゃないか? と思う様な大きなキャットタワーを買ったりと、お大尽な買い物をキャッシュで済ませていた。
ちなみにネットで猫用麻薬などと揶揄される事も有った液状猫おやつは未だ発売前らしく、ペットショップでソレらしいモノは売ってなかったりする。
兎角、食餌に関しては、猫の身体の健康を考えた上で望み得る最高のモノが提供されると見て間違いなさそうだ。
つか他にも無駄にお高いキャットベッドやら、猫じゃらしやらをバカスカ買ってた辺り、実は御主人が『猫好き』なのでは無いかと疑い始めている。
原作を見る限りだと本人が猫っぽい気質だし、犬の様な忠義は逆に嫌いそうな雰囲気は有る様に思うけどな。
「おっはー」
そんな感じで飼い猫生活を初めた翌日、俺は何故か御主人の頭の上に乗せられて高専の教室へと連れて来られていた。
「……どうしたんだい? 急に人が変わったみたいに、何か変なモノでも拾い食いしたのかい?」
「つか、その頭の上の猫の被り物ナニ? オタク趣味にでも目覚めたわけ?」
……確かに原作でも教師に成った後は兎も角、この頃の御主人は朝一番に「おっはー」なんて挨拶するタイプじゃないよな?
「いやー、ちょっと色々と強制的に意識改革をさせられる現実を目の当たりにしちゃってさ……色々と顧みなきゃいけないなーと思ったわけよ。ごめんな傑、正論嫌いとか言って、やっぱ正論は大事だわ、地獄に堕ちるのは勘弁して欲しいもんなー」
言いながら合掌して南無南無南無と口にする御主人と、ソレをドン引きして見ている夏油傑に家入硝子。
すると廊下の方から激しい足音を響かせて誰かが──恐らくは夜蛾先生だろう──走ってくる音が響き、
「悟ー! ソレを外に出すのは上の許可が出てからだと言っただろう! ソレの情報が外に漏れたらどれだけの大騒ぎになるか分かって無いのか!?」
教室の扉を激しく開きながらそんな怒声を轟かせた。
「いーじゃん、どーせ時間の問題なんだし。つーか、俺的にはコレは上が隠蔽とかしようとする前に皆に公開すべき情報だと思うぜ? 何千年って人類の歴史の中でコイツが始めてって事ぁ無いだろ。絶対過去に見つけてソレを隠蔽したとかそー言う話だって」
二人の会話を聞いて何が何やらと言う顔をして居る二人にも分かる様に、俺は和えて呪力を身体に巡らせてから、
「にゃー」
と一声鳴いた。
バッと音を立てて俺と御主人から距離を取る夏油と家入、恐らくは猫の形をした呪霊だと認識したのだろう。
「二人とも勘違いすんなー、コイツは呪霊じゃない。世にも珍しい呪力を持った動物だぜ。あ、名前は五条ポチね、昨日の任務で拾って俺の飼い猫にしたんだわ」
「と言う妄想を垂れ流す術式を持った呪霊に取り憑かれて居るんだね? 君と先生がそろって遅れを取った呪霊か……手駒に出来れば頼りがいがありそうだ」
「脳神経系は今の私の反転術式じゃぁ綺麗には治しきれないかなぁ? 先生までヤラれてるとなると二人とも秘匿死刑って話になるのかな?」
「こうなるから! 順を追って! 手続きを踏まねばならんのだ! 傑、硝子、悟が言っている事は嘘じゃぁ無い、お前達も携帯電話は持っているだろう? その猫をカメラで撮ってみろ」
硝子を庇う様に前に立った夏油が訝しげな顔をしたままで、言われた通りに携帯をポケットから取り出すとシャッター音が鳴る。
「……冗談だろう? 本当に写真に写ってる。ソレ先生が作った呪骸じゃぁ無いんですよね?」
呪骸とは夜蛾の生得術式である傀儡操術で生み出される呪力を込めた無機物で、原作本編に出てくるパンダが彼の代表作であり最高傑作である。
厳つい容貌に似合わず彼の作る呪骸はとても可愛らしいモノが多いが、彼自身『可愛いモノを作ろうとして居るのでは無く、作ったモノが可愛く成ってしまう』……らしい。
ただまぁ前述した『パンダ』はかなりリアル寄りの造形である事を考えれば、俺の様な呪骸を作ったと思われても不自然とまでは言い切れ無いだろう。
「……ああ、頭の痛い事だが、ソレは間違いなく呪力を持った猫で、悟の六眼で見た所術式まで持っていると言う話だ。更には人間並みの知能まで持っていると言う報告も悟から貰ってる。本当に情報の爆弾なんだ! コイツは!」
頭が痛いと言いつつ腹を抑えている辺り、胃にもダメージが行っているらしい……いや、コレは俺の存在に頭が痛くて、本来ならば上層部の許可が出るまで寮の部屋で秘匿しておくべき俺をこうして平気の平左という面で教室に連れてきた事で胃を痛めてるのだろう。
「更に言うなら、嘘を吐けない様に縛った上での尋問で、コイツが畜生道に堕ちた元人間だって証言も取れてるから、最低でも六道輪廻の概念は実在するって生きた証明でもあるからな。いやぁ流石の俺も地獄に堕ちるのは勘弁して欲しいからねぇ……色々顧みるよ」
なるほどなー、幾ら現世最強の存在である御主人でも、あの世まで含めて自分が常に最強の存在だとは思って無い訳か……もしくは死んだ時点で呪力やら術式やらは無くなって魂だけが裁かれると考えているのか?
「……畜生道に堕ちた人間……ソレが本当なら、その猫は悪人だったと言う事かい? そして今は罰を受けている最中と……」
「その猫って雄? 雌? 人間だった頃はどっちだったの? それ次第で触れ合い方の対応が大分変わるんだけど?」
御主人の言葉を聞いて両極端な反応を返す二人、まぁ原作通りに真面目な若者であろう夏油が畜生道に堕ちた=悪人と判断するのは有る意味当然だし、ただの猫なら可愛がるで済む所によく分からん前世の中身入りとなると女性としては警戒するのも当然だ。
「んーと、今生は雄猫みたいだな。んで前世は男だったなら1回、女なら二回鳴いて答えてみ」
「にゃー」
「どうやら前世も男だったみたいだな。ただ天寿を真っ当した上で死んだらしいから、中身おじいちゃんだぞ? 昨日話た感じだとそんなに頭固い様な感じはなかったけどな」
「意思疎通が出来るのは今ので分かったが、話をしただって? この猫は会話能力まであるのかい?」
「いや、こーやって……ほれポチ、携帯貸してやるから二人に挨拶しろ」
「にゃー」
『始めまして、五条ポチと申します。享年72で身罷った老爺ですが、先達ぶるつもりは有りません。それに孫と変わらぬ様な年頃の娘さんを相手に覗きの様な下世話な行為に至るつもりも無いのでご安心ください』
「うわぁ……本当に猫が文章打ってる……術式は流石にわかんないけど、呪力持ちなのと知恵が有るのは間違い無いみたいね」
「あの報告書、どうやって聞き取ったのかと思えば……縛りを結んだ上での尋問ならば嘘は無いのだろう。総監部にもこの事は報告した上で、早急にコイツの再尋問を執り行う事にする。はぁ……頼むからそれまでは大人しくしててくれ一人と一頭」
「六道輪廻は実在するのか……私自身余り熱心な仏教徒という訳でも無いが、一応は改めて勉強しておいた方が良いのかもしれないな。
お!? コレは夏油が悪堕ちするのを俺の存在……と言うか地獄の実在が押し留めるフラグか!?
0での夏油は狂気地味た信念に走った悪役と言う描かれ方だったが、懐玉・玉折編で真面目過ぎるが故に献身し、その健診故に人の悪辣さに折れてしまった悲しいキャラクター性が描かれていた。
前世の俺はどちらかと言えば御主人よりは夏油に近い性格だったと思う……流石に彼ほどに滅私奉公に命を捧げる様な真似はしなかったし出来なかったが、公共の福祉と猫の幸せの為に自分が出来る事は全力で取り組んでいたと言う自負はある。
保護猫喫茶を営み、譲渡を希望するお客さんを信じて猫を送り出したのに、結果虐待だの捨て猫だのされたならば、彼の様に自称猫好きに対して絶望していた可能性は0では無い。
ついでに俺の術式ならば彼の術式に纏わるデメリットに対して、踏み倒す為の方法を一つ示せるとも思ってるんだ。
目指すは懐玉・玉折編での味方ネームドキャラクター被害0! まぁ原作知識云々まで開示すると、ソレこそバタフライエフェクトがとんでも無い事になりそうなので、そっちは黙秘を続けるがね。
そんな訳で御主人が俺に関する独断専行を夜蛾先生に説教され始めたので、拳骨を落しやすい様に頭の上から机の上へと移動するのだった。