畜生道に堕ちたと思ったら五条悟の飼い猫になった件 作:鳳飛鳥
「特級呪詛師が確定で1人、推定で更に2人……だと!?」
都内でのライブを終え、ついでだからと呪術高専東京校へとやってきた楽巌寺学長との会談中、緊急である事と京都校へも情報共有をするべき事だからと、御主人と俺は報告書を携え応接室へとやってきた。
その報告書を見るなり右手で胃の辺りを押さえ、崩れ落ちそうになる上半身を左手をテーブルに突いて支える。
「しっかりしろ夜蛾! 貴様が今倒れたら、儂が小奴らを率いてその呪詛師集団と戦わねばならなくなるじゃろ! 特級にしては比較的マトモな夏油は兎も角、五条や組屋の様な有能だがクセが強い者達は儂の手には負えんぞ!?」
呪術界に於いて特級は外れ値であり、真っ当に努力と結果を重ねて来た1級が呪術界の主戦力を担うべきと考える楽巌寺学長だが、特級の有用性そのものを否定している訳では無い。
相手に特級相当の呪詛師がいると言うならば、同じく特級呪術師が相手にするべきだと言うのは両学長共通の見解と言える。
反転術式を身に付け『蒼』に依る転移がほぼ無制限に使える様に成った御主人は、総監部がリチャード・ウォンを特級と認定したのと同様の理由で、近いウチに特級に認定されるのは間違いない。
更に組屋も現在が学生だと言う事と高専も総監部も彼を呪霊討伐の現場に出すより、呪具の制作を優先させた方が呪術界全体の生存率が大きく向上すると判断している為、準1級以降の昇級が見送られているが戦力的には1級もしくは特級認定を受けても不思議は無い。
御主人が高専を卒業する前に組屋に御主人のコピー体をやったのだが、ソレで生み出された3つの呪具が割とヤベーのだ。
1つは御主人の脊椎を使った特級呪具『無限収容ハンガーラック』で見た目的には背骨を使ったただ趣味の悪いハンガーラックなのだが、その周辺に無限が展開されており、そこに無数の衣類を掛けて収納出来ると言うモノである。
コレ自体は現在高専の忌庫で衣類型の呪具を片付けるのに非常に便利に使われている。
2つ目が皮膚を使って作ったランドセルで特級呪具『4次元背嚢』と名付けられたソレは、その名の通り、某青狸の腹のポケット同様にサイズや重さに縛られる事無く無限にモノが入れられると言うモノだ。
ソレが出来るまで組屋は任務を請け負うと、その都度持ち込む呪具を厳選してから現場へと向かわねばならず、想定外の状況に極めて弱かった。
しかしコレが出来た事で彼は自分で使う為に作った呪具で固定型では無いモノの大半を持ち運ぶ事が出来る様になり、圧倒的に対応力が上がったのだ。
そして最後に出てくるのがコレまたヤベー代物で、御主人の骨と肉を使い作った特級呪具『如意金箍棒』と名付けた呪具である。
その名の由来は当然ながら西遊記に出てくる孫悟空が持つ如意金箍棒だが、呪具に付与されていた術式はその名に恥じないモノだ。
使用者の呪力が許す限りと言う前提がある為完全に無限と言う訳では無いが、無限にサイズを拡大縮小する事ができ、更にはその質量を無限に増減させる事が出来ると言うモノである。
つまり理論上は無限の質量を発生させる事で重力崩壊を起こし、地球上にブラックホールを出現させ、太陽系を滅ぼす事すら可能な呪具と言う事になる訳だ。
当然の事ながら如意金箍棒は高専が数億と言う金銭で買い上げ、忌庫の奥に他の危険な呪具や呪物と一緒に封印である。
けれども問題が組屋の術式と技術で材料の供給と言う制限があるにせよ、特級術師と同様に『国家転覆が可能な呪具』を生み出す事が出来ると言う事だ。
通常、人体を加工した呪具を作るのは一発で呪詛師認定を受ける行為だが、俺の持つ拡張術式『死体偽装』と組み合わせた場合と、総監部の判断で呪詛師を秘匿死刑にしその遺体を使う場合に限り、組屋は呪詛師となる事無く人体を用いた呪具を作る許可を得ている。
俺達が高専を卒業してからは、以前の様に気軽にコピー体を作ってやる事が出来なくなったが故に、人間以外の生き物や鉱物類を『浴』と言う技術を用いて呪力を染み込ませ、ソレを素材とした呪具の制作にも手を出すように成っていると聞く。
未だ九十九特級の素材を使った呪具には手を付けていないらしいが、恐らくはソレ等でも国家転覆級の呪具が生まれる可能性は割と高いだろう。
現在、高専が把握している特級術師は九十九特級と夏油特級の2人だけだが、当然1000年の歴史を持つ呪術界には過去にも特級と見做された呪術師は居ただろうし、そう言う者達の多くは楽巌寺学長の言う『クセの強い者』だったのは容易に想像が付く。
「すみません、楽巌寺学長……余りにも衝撃的な報告書だったもので……未だ総監部への報告は上げていないが、恐らくはその自称:超能力集団ノアとやらは呪詛師集団と認定されるだろう。そこに最低でも特級が3人……下手をするとソレ以上も有り得る……と」
「……儂も胃が痛く成ってきたわい。若い頃からスキンヘッドで通しておるから、毛髪の心配をせんでも良い分、夜蛾よりはマシだろうがの」
「……悟達を受け持った辺りから本当に毎朝枕に残る抜け毛の量がヤバいんですよね」
「あのさぁ……今はそー言う加齢のどうこうを話す時じゃないでしょ?」
「相変わらずの礼儀知らずじゃの五条の小僧は……まぁ確かに今はこの件に関する情報を少しでも多く京都に持ち帰る事を優先せねばならん時じゃの」
「俺としてもこの後総監部へと出す報告書を作らねばならんし、もう少し詳しく聞いておかねばならんな」
「報告書にも書いたけど影高野の六道
「運良く俺の拡張術式が間に合って無事復活を果たしたが、和尚をして手も足も出ない程の呪詛師となると御主人や夏油以外の者が相対しても犠牲者が増えるだけだろうな」
「おお、主が呪術猫の五条ポチか……貴様が組屋に作らせた特級呪具『黒皮』のお陰で、京都校でも戦線離脱を余儀なくされるものが大幅に減っておる、その点に関しては礼を言っておこう。だが……動物の呪術師……か……うむ……」
楽巌寺学長は原作でも音楽ではロックンローラーなのに、呪術師としてはガチガチの保守派として描かれていた人物である、今までも呪術界の常識に存在しない俺と言う猫の呪術師は少々どころでは無く受け入れ難いのだろう。
だが俺のコピー体を使って作られた『黒皮』と『にゃん²バズーカ』は間違いなく呪術界の殉職率と離職率を下げていると言う事実がある、彼もまた信念と思想そして現実との間で苦しんでいるのだろう。
「俺はその六道玄真と言う影高野の呪術師を直接知っている訳ではないからなんとも言えんが、悟……お前が例の結界内で無下限の防御を抜きに戦ったとしたら、勝率は何割ぐらいの相手だ?」
「んー、向こうはあの結界内での戦闘のエキスパートだからなぁ……無下限有りなら100
「今の悟を相手に7割だと!?」
「お主は甲賀流忍体術の皆伝じゃろ!? ソレを持ってしても……とは、影高野は術式を持たない呪術師の互助会程度の認識じゃったが……上澄みは居ると言う事か……」
原作の五条とは違い、呪術界を一気に大きく改革する為に高専教師を目指している訳では無い御主人は、原作ほどには楽巌寺学長と対立してはいない。
対呪霊に限って言えば高専の教える呪術界のセオリーに則った武術も有用ではあるが、呪詛師を相手にする時には対人に特化した古流武術の方がより有用である……と言うのがこの世界に於ける御主人の主張だ。
楽巌寺学長としても対呪詛師に限って言うならば、御主人の言にも一理あると認めており、京都に根を置く古い呪術師家系の一つである鬼一家の者を講師として招聘し『京八流』と言う表では失伝したと言われている武術を授業に取り入れる様にしたと言う。
……俺の記憶が確かなら京八流と鬼一家って……まず間違いなく鬼一法眼の子孫とかそう言う奴だよな?
「と、まぁそんな上澄みも上澄みの呪術師をあっさりぶち殺す様なヤベーのが最低でも3人は居るって訳だ。死の間際で反転術式に目覚めて無けりゃ俺もここに生きては居なかった訳だしな」
「むぅ……今発覚しているのは仮称ではあるが『時空間呪術』『重力呪術』『電撃呪術』『光弓呪術』以上4つの術式を使う呪詛師4人、ソレから首領であると言うキース・エヴァンス……か」
「他に米軍所属を主張していたと言う『呪術
「こっちで保護したバーンの鳳燃呪法も使い方次第で地球を滅ぼせるって意味では特級クラスの術式だし、ウェンディーの風霊操術も鍛えりゃ1級を狙えるポテンシャルのある術式なのは間違いねーよ」
「なんだな……こう言うとアレだが御主人よ、まるで特級のバーゲンセールだな。一代に一人居れば良いと言われる特級がこうも何人もとは……しかも一部は呪詛師と来た。世紀末はとうに過ぎているのにな」
本の数年前までは特級呪術師はたった一人しか居なかった、そこにここ数年で夏油が加わり、恐らくは御主人もそこに数えられる様になる。
組屋が特級となるかは完全に総監部がどう判断するかと言う問題だし、ヤバい呪具の材料となる呪術師や呪詛師の肉体を与えなければ良いと言う話でもある訳で、彼が一番総監部としても手綱を握りやすい相手と言う事になるだろう。
対してノアの方は既に特級呪詛師として手配されているリチャード・ウォン、そして彼の護衛を務めていると思しき重力使い、最後に首領であるキース・エヴァンスの3人が特級と目され、その傘下にはエミリオ・ミハイロフを含めた多くの呪詛師が居るわけだ。
「……総監部が奴らを呪詛師集団と認定した時点で、その本部と目される旧盤星教 時の器の会本部、への突入任務が発行される事になるだろう。恐らくは今までに無い危険な任務となる。可能ならば高専だけでは無く御三家からも戦力を借り受けたいモノだな」
「その辺の判断は総監部がする事じゃろう。儂らは与えられた戦力で与えられた任務を淡々と熟すのが仕事よ」
「あ、五条家当主の意見としてはウチの連中は、普通の呪霊を相手にするなら兎も角このレベルの案件じゃぁ、足手纏いにしかならないので出しませーん」
「……妥当と言えば妥当よの、御当主殿に言う事ではないが五条家はお主の一強で御三家の威信を守っているのが現状よ。まぁ加茂も亡くなった元総監部の者のやらかしで大分名を落しておるし、御三家で呪術師の大家として機能しておるのは禪院のみよな」
「……今日の明日で任務が発行されるとは思わんが、何時総力戦が開始されても可怪しくは無い。民間人への被害を最小限に抑えられる様に警察との連携は密にしておきたい。ポチ、向こうとの折衝を頼むぞ?」
「まぁ任務が無ければ捜査0係へ行くのは何時も通りと言えば何時も通りの事だ……了解した」
……この時は未だ誰もこの会話自体が嵐の前の静けさだと言う事に気が付いていなかった……そう、高専だけで無く呪詛師集団として正式に追われる立場となるノアの者達も。