畜生道に堕ちたと思ったら五条悟の飼い猫になった件 作:鳳飛鳥
2010年6月7日15:30……呪術高専東京校上空。
「(ロシア語)はぁはぁはぁ……ここまで逃げれば……ここなら……ボクを助けてくれる……」
金色に輝く光を束ねた翼を持つ少年が呪術高専東京校へと飛来したのだ。
しかし高専は正規の方法以外で近づけば、張り巡らされた結界に依って即座に内部へと通報が上がる。
ましてやソレが高専に未登録の莫大な呪力を持つ者ならば、高専に所蔵されている呪具を狙った、或いは呪詛師達に依って懸賞金が掛けられた高専所属の呪術師を狙った襲撃と判断されるのは当然の事だ。
校舎の屋上に設置された全自動対空防衛兵器から打ち出された無数の猫ロケットパンチが、少年を襲うが彼はソレをバリアガードと呼ばれる結界術で防ぎ切る。
「(ロシア語)え!? なんで攻撃してくるんだ!? ここはサイキッカーの保護施設じゃないのか!?」
少年が目指したのが高専では無く児童養護施設:東京盤星園だったならば、暴力的な歓迎を受ける事無く無事に保護されていただろう。
しかし残念ながらここは未登録の未成年呪術師を保護する施設では無く、呪術界の要と言えるだろう防衛施設なのだ。
ちなみに先程から打ち出されている対空猫ロケットパンチは、当然の事ながら組屋とポチの合作であり、空中を渡る結界術を駆使する呪詛師集団ノアの襲撃に備えてここ数日の間に作られたモノである。
更に鳴り響く緊急事態を知らせるサイレン、空襲警報或いは甲子園球場のソレと同質のモノが山中に鳴り響く。
最寄りのコンビニまで徒歩30分──ソレも近場の登山道へと入るための観光客向けの店舗──と言う人里離れた立地でなければそんな音を鳴らしただけでもクレームが入るのは間違いない。
そんな音が響き渡れば当然の事ながら高専に所属する呪術師達が動き出す。
「おい、何処だ!?」
「屋根のにゃん砲が反応してるんだ、上空に決まってるだろ!」
「3年生以下、及び2級未満の者は校舎に避難! 4年生以上準一級以上の者は迎撃体制! 急げ!」
「こぉ~んな格言を知ってる? 平和を望むなら、戦争に備えよ!」
「今そんな事言ってる場合か! 対空迎撃用意!」
「警視庁のポチ1級に連絡! 肉球砲の弾が足りなくなる可能性もある! 直ぐに来てもらえ! 迎えの為に五条1級にも連絡しろ!」
「貴様達の得意な事は何だ!」
「「「「「「殺せ! 殺せ!! 殺せ!!!」」」」」」
「俺達のやるべき事は何だ!」
「「「「「「殺せ! 殺せ!! 殺せ!!!」」」」」」
「俺達の学校を愛してるか! 呪術師としての誇りはあるか!」
「「「「「「ガンホー! ガンホー!! ガンホー!!!」」」」」」
どっかの戦争映画で見たような掛け声を上げながら、何人もの男女が骨と肉で出来たと思しきグロテスクなオブジェを担ぎ少年を見上げている。
「(ロシア語)え!? ちょ!? 待って! 待ってくれ! ボクは戦いに来たんじゃないんだ!」
両手を上げ即座に降伏の意思を示しながらそう言う少年だが、英語は兎も角ロシア語を解する人員は残念ながら呪術高専東京校には居なかった。
正直に言うならば撃ち出される猫の手の様なモノは、気味が悪いとは思いはすれども、決して少年の脅威になるモノでは無い。
しかし自分を受け入れてくれた仲間たちと袂を分かち、もう一つの受け入れてくれるかもしれない場所を目指したにも拘らず、こうして攻撃を受けている状況は彼にとっては大きなストレスだった。
このままではまた暴走してしまう……その前に逃げたほうが良いのでは? そんな事が少年の脳裏を過ぎる。
けれどもその前に彼に向かって放たれていた攻撃の数々が止まる、下で見ていた指揮官と思しき者は少年が両手を上げ、更に反撃らしい反撃を一切行って居ない事から(もしかしたら襲撃では無いのでは?)と疑問を抱いたからだ。
だが現在の高専に飛行能力を付与する術式の持ち主は居らず、ソレを行える様にする呪具も直ぐに出せる様な場所には用意されていない。
でもだからと言ってこのまま易々と校庭に降りてこられて、実際に呪詛師集団ノアに所属する特級呪詛師だったなんて事になれば、被害はとんでも無い事になるだろう。
「(英語)飛べる人が居ないならあたしが行って来てあげるわ!」
そう言って飛び出したのは、先日から高専の学生寮に滞在している外部協力者の少女だ。
風の精霊と交友を持ちその力を借りる事が出来る術式を持つ少女は、風霊の力で空へと舞い上がる。
「(英語)貴方は
「……
「Oh……」
保護されて以来、散々良くして貰った高専とそこに所属する者達に、少しでも恩返しが出来ると勇んで飛び出した少女だったが、残念ながらそこには分厚い言語の壁が立ちはだかっていた。
「(英語)ねー! この子、対話に応じる気は有るみたい! でもロシア語しか分からないんだって! 誰かロシア語分かる人居る!?」
油断して不意を突かれる事を避けるため、少年から目を逸らすこと無く、先ずは下に居る者達にそう声をかける。
「(英語)申し訳有りません、英語は私が多少出来ますが、流石にロシア語に堪能な者は今はいません。早急に通訳が出来る者を呼びますので、彼をゆっくりとグラウンドへと誘導してもらえますか?」
今この場で少女に正確な意図を伝えるレベルの英語が出来るのは、一つ上の先輩達と同じく日本の最高学府への編入を目指して受験勉強に励んでいる七海だけだった。
高専の英語教師はどうしたって? 補助官が戦闘の役に立つ筈も無い……と校舎の奥に避難しているよ。
その返事に軽く肩を竦ませた少女は、身振り手振りで自分について来る様に表現し、少年が何度か頷いたのを確認すると、振り返る事はせずそのまま相対した状態でグラウンドのほぼ中央へと誘導する。
無論回りは未だ警戒中の準1級以上の呪術師達に取り囲まれた状態だ。
「あ、五条1級、という訳でポチさんを迎えに行くついでに捜査0係にロシア語が出来てこっちの事情に明るい警察官を紹介して貰って一緒に連れてきて貰えますか?」
その中の一人が丁度五条悟にポチを連れて来て貰う為に電話を掛けていたらしく、追加でそんな依頼をする。
それからしばしの間、誰も一言も発する事無く所謂『お見合い』状態で時間は過ぎゆく……かと思ったが
「はーい、おまたせー。ご要望のポチとロシア語出来るお巡りさん連れてきたよ―」
然程も経たぬウチに五条悟が頭の上に巨大な猫を乗せ、傍らに一目で警察官だと分かる制服姿の男を連れて現れた、連れてきたのは捜査0係の篠原巡査だ。
通常の公安警察に所属する警察官は私服での勤務が基本であり、特定の式典等を除いて制服を着用する事は無い。
しかし捜査0係はその職務の特性上、私服での捜査が必要な状況が少なく、寧ろ所轄の警察官と行動を共にする事が多い為、公安部第一公安捜査という所属にも拘らず制服での勤務が義務付けられいるのだ。
「えーっと、彼が何をしにここに来たかを先ず聞けば良いんですよね? (ここからロシア語)貴方は何しに日本へ?」
「(ロシア語)ボクは普通の生活がしたくて日本に来たんだ、でもボク達を助けてくれると言っていた人達は、ボク達を戦争の道具にしようとしていたんだ……ソレでここならボクを保護してくれる筈だと思ったんだ」
「(ロシア語)あー、成る程……つまりは亡命をご希望で?」
「
「どうやらこの少年は、日本及び呪術高専に亡命を希望しているそうです。100%スパイじゃないとは断言出来ませんがね」
ちなみに篠原巡査がロシア語を日常会話レベルとは言え扱う事が出来るのは、彼の実家が割と……いやかなり裕福な家で、幼い頃から『知識は誰にも奪われることのない唯一の財産である』と言われ様々な事を学ばされたからである。
なお結果的に彼は母国語である『日本語』に加え『英語』『ロシア語』『広東語』『韓国語』全てを日常会話レベルでは有るが扱う事の出来るマルチリンガルだったりするのだ。
そこまで勉強したなら大学で語学を専攻するのも有りだと思うのだが、残念ながら彼は高校卒業と同時に警察学校へと入学し、呪霊を見る事が出来ると言う理由で捜査0係に配属された訳である……今この場に居る時点で宝の持ち腐れにならなかったと言えるだろう。
こうして一騒動有ったもののエミリオ・ミハイロフは無事に呪術高専に保護されたのだった。