畜生道に堕ちたと思ったら五条悟の飼い猫になった件   作:鳳飛鳥

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さらなる特級案件の可能性と酷い半生

「うわ! こいつ絶対逃がしちゃ駄目なヤツ! 米軍と揉めても良いから高専で囲い込まにゃアカンわ!」

 

 たった今保護したエミリオ・ミハイロフと言う少年を目にした御主人は、その六眼で彼の持つ生得術式を読み解いたのだろう、突然にそんな言葉を口にする。

 

「どうした悟、そんなにヤバい術式なのか?」

 

「いや、こいつの術式、ポチとおんなじで反転が術式に組み込まれてるタイプなんだけど……ソレ以上に呪力量がヤベー、軽く見積もっても俺の倍以上、んで傑に聞いた所だと反転した正の呪力を攻撃に使ってるみたいだし、呪霊特効の戦力になるぜ?」

 

 曰くエミリオ・ミハイロフの生得術式は『正の呪力を翼とし飛行する』と言うのが基本であり、そこからの拡張として今現在確認出来ているだけでも『正の呪力を弓矢として放つ』と言う技があると言う。

 

 正の呪力は負の感情、負の呪力の塊である呪霊にとっては猛毒に等しい、特級呪霊すら正の呪力の前では呪的防御が意味をなさず、込められた呪力以上のダメージを受けるのだ。

 

 そして同時にソレは御主人の持つ無下限呪術に依る、無限の防御を貫く事が出来ると言う意味でもある。

 

 莫大な呪力量、そして生得術式自体に反転術式が組み込まれている関係上、正の呪力を大きな負担なく戦闘に使えるだろう術式の性質、更には原因ははっきりしていないが町を一つ消し飛ばしたと言う実績……これらを鑑みれば絶対に逃しては行けない人材だ。

 

「あのー取り敢えずは中入ってもうちょい詳しい話聞きません? 相手組織の内部情報をがっつり聴取できそうですし、ソレがあるだけもかなり対策が進むと思うんですよね?」

 

 呪術界のアレコレよりも、自分の仕事をさっさと終わらせて帰りたいらしい篠原巡査がそんな提案をしてきた。

 

「確かに篠原巡査をこちらの都合で何時までも拘束する訳にもいくまい。先ずはこの少年に事の経緯なんかを聞くのが先決だろう。術式云々の話は後でも出来る」

 

 警察官は法律上は勤務時間外労働に対して残業代は出る事には成っているが、実体としては残業上限を越えた分はサービス残業になる事も多々あると言う。

 

 更に問題なのは篠原巡査の所属する捜査0係が、実体を知らない一般警察官からは『特に何もしていない窓際族』と言う扱いを受けている事で、残業の申請をしても経理課は怪訝な目でソレを見なかった事にする可能性が極めて高いのだ。

 

 法の番人たる警察官が法を破って良いのか? と思わなくも無いが、残念な事に公務員は労働基準法の対象外である。

 

「ああ、ソレはそうだなポチの言う通りだ。ソレにこの子も座って休ませて上げよう。その上で聞ける話は出来るだけ聞いておいた方が良いな。よし! 皆、取り敢えず緊急事態は終息した! 解散してOKだ!」

 

 夜蛾学長がそう宣言したのを聞いて、にゃん2バズーカを担いだ呪術師達が先ずはソレを仕舞う為に本部施設へと向かって姿を消して行く。

 

「(ロシア語)取り敢えず、君が居たノアの事を含めて色々と聞きたいから、座れる場所に移動するよ」

 

「да(はい)」

 

 ソレを見送り篠原巡査がロシア語で少年に何かを言うと、彼はそんな返事を返す。

 

 ロシア語は全く分からない俺でもдаが『はい』とか『YES』に相当する言葉だと言う事くらいは知っている、恐らくはどこか座れる場所に移動するとでも言ったのだろう。

 

 こうしてエミリオ少年を連れ、通訳である篠原巡査とマスコット代わりなのか俺、聞き取り役として御主人と夜蛾学長の4人と1匹は高専の応接室へと向かった……ここの椅子が一番疲れているであろう彼の負担にならないと判断したからだ。

 

「(ロシア語)じゃぁ君が日本に来た経緯と、その後の話を順番にしてくれるかい? 大丈夫、難しく考えなくて良い、君が経験した事、感じた事、思った事を俺に話してくれれば、彼等には俺が分かり易い様に纏めて話すからね」

 

 捜査0係では新人であり比較的軽薄な若者と言う印象を受ける篠原巡査だが、こうして少年に向かって優しく話しかける様子を見ると、彼が本当にお巡りさんなのだと実感させられる……少なくとも大田巡査長よりはこうした仕事向きだろう。

 

「да……」

 

 一言返事を返してから話し始めた少年の言に依ると、彼は幼い頃から超常の力を隠して生きて来たが、ちょっと気を抜いた時にソレが地元の人間にバレてしまったのだと言う。

 

 すると『悪魔憑き』とソレを庇う『悪魔に魅入られた者』として、つい数日前まで極々普通に仲良く付き合っていた人々から糾弾され、ついにはライフル銃を持って自宅へと押しかける者まで現れたのだそうだ。

 

『悪魔憑き』を撃ち殺すのは一神教の価値観においては明確な正義であり、ソレを邪魔する両親は悪である、ソレも天使を模したと思しき翼で人々を誑かすひときわ悪辣な悪魔ならば尚更だ。

 

 そんな風に言われてもなお両親は少年を庇い銃弾に倒れる事と成った……が、ソレを為した者達は直後に少年の呪力と術式の暴走と言う形で報いを受ける事になった。

 

 圧倒的な呪力の全てが破壊の力と成り、町一つをそこに住む者達諸共に消滅させたのだ。

 

 当然そんな状況では両親の遺体も残る事は無く彼は着の身着のままで、飛行能力を持つ術式を使って逃走したのだが……その向かった先が悪かった。

 

 兎に角先ずはロシアを出ようと南の海へと飛び出した彼が辿り着いたのは韓国だったのだが、疲れ切って降り立ったのは運が悪い事に在韓米軍基地だったのだ。

 

 米軍ともなれば当然の様に各国の言葉を理解する人材は居るもので、ロシアから逃れてきた少年の言葉を理解し保護するとロシア語で話してくれた軍人がいたのだが……送られたのは米国本土の超能力者研究施設だったと言う。

 

 そこで行われていたのは超能力者に対する様々な非人道的な実験の数々で、少年もまた様々な薬物を打たれたり、超能力者同士での決闘まがいの戦闘を強要されたりしたのだそうだ。

 

 この地獄は何時まで続くのだろう? その思いは世界中から集められたと言う言葉も通じない被験者達の共通認識だったと思われる。

 

 しかしそんな地獄は唐突に終焉を迎えた、ドクターを名乗る女性が超能力者としての正しい戦い方をレクチャーした後、米軍基地に出現したデーモンを退治したならば後は自由に逃げて良いと言ってくれたのだ。

 

 所謂UFOとしか思えないデーモンとの戦闘で多くの被験者が命を落したが、ソレでも半数近くの被験者が無事とは言い難いが生き残り、地獄を脱出する事が出来たのである。

 

 その後、被験者の中では最年長でありリーダーシップにも優れたキース・エヴァンスが『世界には我々の様に差別され搾取されている同胞が居る、俺はソレを助けたい』と言い、自分を含め生き残ったメンバーの全員がソレに賛同した。

 

 不思議な事にキースの言葉は英語だったにも拘らず、エミリオにも理解出来たと言う。

 

 その後、何をした結果なのかは分からないが、リチャード・ウォンと言う資産家の超能力者が合流し、彼が持っていると言う会社の伝手を利用して全員が日本へと渡って来たのだ。

 

 当初は本当に超能力者だと言う事は隠す必要はあるものの、周りが自分達を知らない世界での生活は開放感にあふれていた、あの地獄から抜け出したのだと実感がようやく湧いてきた。

 

 そうして数週間が過ぎた辺りで、スポンサーであるリチャード・ウォンが

 

「日本には『働かざる者食うべからず』と言う格言が有ります、無償での生活援助はここまでです、皆さんには我が社で無理のない範囲で働いて貰います」

 

 と言い出し、最初は発売前のゲームデバッグと言った極々普通の仕事が割り振られていたのだそうだ。

 

 しかし徐々に超能力者としての力を使った、他社への妨害工作やスパイ活動と言った、明らかに真っ当では無い仕事を回される者が増えてきたと言う。

 

 その上、ノアの最高指導者だったキースも『差別を受けている超能力者の保護』と言う思想から『超能力者上位の世界を構築する為に超能力先進国である日本を乗っ取る』と言う危険で先鋭的なな思想へと考えが変わってきたのだそうだ。

 

 このままでは危険だと思いつつ、自分に割り振られた情報収集の仕事を嫌々ながらも行っている最中、米軍に所属すると言う機械化人間(サイボーグ)に襲われ、そこに知らない誰かが乱入した事で運良く一命を取り留める事が出来た。

 

 米軍があんなモノを用意し、超能力者狩りに本気になったならまず間違いなく自分達は駆逐されるだろう……そう判断したエミリオは、ノアの者達を振り切って単身、呪術高専へと亡命を決意したのだと言う。

 

「(ロシア語)超能力者として産まれただけで悪魔憑きだなんだと差別されるのは間違ってる。でもだからと言って超能力者が絶対に優れた存在で超能力者が世界を支配するべきなんて言うのも間違ってる。人は一人では生きられない生き物なんだ……」

 

 バーンとエミリオ2人の話しでは何故キースという男が、超能力者上位の世界の作ると言い出したのか、その経緯は分からない。

 

 だが間違いないのは、高専と総監部に御三家と言った所謂『呪術界』を舐めていると言う事だろう。

 

「完全に舐められてるな俺達、でもまぁ……アメリカで呪霊とやり合ったってーなら特級呪霊の怖さは理解してる筈、てことは恐らくキースって野郎を誘導してんのは後から合流した誰か……多分あのウォンって野郎だな」

 

 ウォンと直接拳を交え、その悪辣さと野心の強さを知る御主人は、この一件の首謀者がソイツであると当たりを付けた。

 

「呪詛師集団との戦いならば、俺は伏せ札として十分機能するだろうな」

 

「(ロシア語)え!? 猫がしゃべった!?」

 

 口を開いた俺に驚くエミリオ少年、喋る猫は恐らくロシアにも居る筈なんだが……まぁ明らかに緊張した様子で今までの経緯を話していた彼が、驚きに依るモノとは言え素の感情が出たのは決して悪い兆候では無いだろう。

 

 俺はニャーと猫らしい声で一声鳴いてから彼の傷ついた心を少しでも癒せるように……と彼の足に普通の猫の様な仕草ですり寄ってあげるのだった。

 

 

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