畜生道に堕ちたと思ったら五条悟の飼い猫になった件   作:鳳飛鳥

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作戦概要の決定と意外な采配

 2010年6月7日17:00……呪術高専東京校会議室

 

「新たに保護した外部協力者の証言から呪詛師集団ノアの戦力と本部の構造が概ね割れた。今夜、日付が変わると同時に制圧作戦を決行する!」

 

 会議室に集まっているのは、東京高専に所属する準1級以上の呪術師達と、3人の協力者そしてエミリオ少年への通訳として篠原巡査である。

 

 篠原巡査はこの時間だと定時直前で会議が長引けば残業と言う事になるが、そこは捜査0係へと連絡し警察業務としては定時で上がった事にして、残業分は窓としての報酬に上乗せする形を取る事になった。

 

「ノアの主戦力は4人、首領であり氷を操る術式を持つと言うキース・エヴァンス。時空間を操作し悟をも一度は殺したリチャード・ウォン。影高野の呪術師を一方的に殺した重力を操作すると言うブラド・キルステン。電気を操るソニアと呼ばれる呪詛師」

 

 直前までノアの内部に居たエミリオの証言から、相手の主戦力と呼べる者はこの4人だけであり、他のサイキッカー達は彼等と比べれば2段も3段も劣る極々普通の呪詛師に過ぎないと判断されたのだ。

 

「なお彼等の一部はエミリオ少年同様に、米軍秘匿施設での人体実験の被害者であり、同情の余地はある……故に投降を呼びかける事はするが、抵抗するようならば現場での判断で抹殺の許可は下りている」

 

 米軍秘匿施設での人体実験は、エミリオ少年が体験した一部を聞いただけでも吐き気を催すモノだった。

 

 未承認薬物に依る呪力──彼等はサイキックパワーと呼ぶ──の強化に始まり、拷問としか思えない様な肉体へダメージを与える事に依る負の感情の強化等など……聞いてる途中で『もう良い、もう思い出すな!』と篠原巡査が思わず止めたのも当然の事だろう。

 

 呪術界の常識では呪術師が持つ呪力というモノは、生まれ持った才能であり縛り等を用いて一時的な強化を行う事は出来ても、恒常的に保有する呪力を上げる方法な無いとされて来た。

 

 しかし米軍の科学者達は薬剤に依る呪力の強化と言う──副作用の有無は別として──、呪術だけに縛られていては決して得られないであろう新たな方法を、間違いなく開発していたと言う。

 

 この件に関して呪術総監部は日本政府を通して米国政府および米軍に正式ルートでの抗議を入れ、その危険性に関しての情報共有も行う予定だそうで、取り敢えず今の段階では棚上げと言う事になる。

 

「シャフト・エンタープライズCEOと言う表の顔を持つリチャード・ウォンに関しても、国内に生活拠点は持っておらず、基本的にノア本部内で生活していると言う証言も得られた。故に本部を強襲し幹部4人の一網打尽を狙う!」

 

 確定で特級呪詛師1名推定で更に2名を擁し、もう一名特記するべき戦力が居るとは言え、その4人さえどうにかすれば、後は極普通の呪詛師に過ぎずカリスマである首領を討ち取れば後は烏合の衆だと夜蛾学長が断言する。

 

「奴らの使う結界術は1対1の戦いを強制する者で、途中での乱入は乱入者へのデメリットが極めて大きい。故に事前に前述した4人に関しては相対する者を指定して置こうと思う。他の者が万が一遭遇した場合には迷わず逃げろ、今回はそう言う作戦だ!」

 

 呪霊を相手にする場合でも呪詛師を相手にする場合でも、ここに集まっているメンバーは基本的に撤退が許されない人員だ。

 

 何せ呪術界に置ける上澄みと言っても良いメンツなのだ、引いた所で誰が代わりを務める事ができようか? 

 

 まぁ準一級の者ならば、自分が逃げて情報を持ち帰れば1級や特級が出張る……と言う選択肢もあるのかもしれないが、万年人手不足──最近は少しずつ改善しているが──の呪術界、そう都合良く上の者の手が空いているとは限らない。

 

 更に言えば最近は刺し違えてでも相手をぶち殺せば、遺体を補助官が持って帰り俺の拡張術式で復活の目がワンチャンあるし、死んでさえ居なければ確実に回復してもらえるのだから、ここに居るメンツの大半は撤退と言う選択肢を自ら消しているのだ。

 

 ……なんだか俺が居る所為で上位の呪術師は自分の命を簡単にベットする様に成っている気もするが、ソレで案外上手く回っているのだから結果オーライと言う奴なのだろう。

 

 ただ俺が上手く術式を子孫に引き継ぐ事が出来れば良いが、そうならなかった時に阿鼻叫喚の地獄が待ってそうで怖いけどな! 

 

 この頃になると雌猫と致すのかぁ……と言う葛藤よりも術式を残さなかった場合のデメリットが大き過ぎると思える様になり、何とか子孫繁栄させなきゃらならんなぁ……と色々飲み込んだ……まぁ今の所は呪力を持つ雌猫自体が見つかっていないのが現状だが。

 

「(英語)キースの相手は俺にやらせてくれ! 俺は今でもアイツはダチだと思ってる! ダチが道を間違えてるならぶん殴ってでも正しい道に押し戻すのがダチってもんだろ!?」

 

 相対する人員を発表する前にバーンがそんな言葉で割り込んできた。

 

「中々良い事を言うね、君が道を間違えたなら私が殴ってでも押し戻してあげるよ、悟」

 

「どーかん、んじゃお前が変な方向に迷った時にゃ俺が蹴っ飛ばしてでも正道に戻してやんよ、傑」

 

 彼のセリフに夏油と御主人が共感の言葉を口にする。

 

「……良かろう、キースの相手はバーン……貴様に任せる。但しそこまで言ったからには絶対に勝て! 殴り倒し説得できれば良し、無理ならば迷う事無く殺せ……高校生に無理を言っているのは分かっているがな……」

 

 夜蛾学長の言葉を篠原巡査が通訳すると、バーンは無言で決意の籠もった視線を学長へと返し首肯する。

 

「(英語)じゃぁ私にもクリス……いいえソニアの相手を任せて頂戴! 他の誰かに殺させるくらいなら……私の手で……」

 

 暗い表情で暗い決意を述べるウェンディーに、御主人が何か言いたそうな素振りを見せるが、自分の相手は他に居る……と考えた様で歯を食いしばり拳を握りしめて堪えていた。

 

「……仕方ないな、身内の情に流される事だけは無い様にな。貴様は既に一度敗北した相手との再戦だ、その際向こうは貴様を殺すことに躊躇しなかったんだ。迷えば死ぬのは貴様だ」

 

「(英語)はい!」

 

「リチャード・ウォンの相手は当然俺だよな? アイツは自力で反転回せねぇ奴じゃ、時間停止からの剣撃で一発アウトだ。今度こそ俺がきっちりトドメ刺してやる!」

 

「反転を前提にするならば俺が相手をすると言う選択肢もあるぞ? 幸い俺の反転は御主人のソレと比べれば圧倒的に呪力効率が良い。ソレに猫が呪術を使う等と言う事は相手も考えていないだろうし、確定で不意打ちを取る事が出来るのは大きい」

 

 一応先日行われた伊地知補助官の結界での戦闘訓練には俺も参加し、あの結界内でどう戦えば良いかはある程度掴めている、故に御主人にはバーンのバックアップに回って貰い万が一彼が負けた時に備えると言う選択肢を提示する。

 

「すまんなポチ、ウォンの相手は悟だ。但しポチは悟のバックアップに着いてくれ、万が一悟がウォンに敗れ命を落しても、お前が近くに居れば残機がある限りコンテニューが可能になるんだからな!」

 

 

「じゃぁ残りの重力使いの相手は私かな? 六道和尚(わじょう)は私も知らない仲では無いからね、きっちり敵は取っておかないとね」

 

「いや傑は全体を俯瞰し、現場から雑魚達が逃げないように注意を払って貰いたい。お前の強みは数の暴力だ、お前の術式は呪力に依るブラックホール発生との相性が極めて悪い」

 

「なら六道和尚を為すすべも無く仕留めた奴の相手は誰がするんですか!?」

 

「日下部……お前に頼む」

 

「……は!? 俺まだ準1級っすよ? 推定特級の相手とか何言っちゃってるんっすか学長!? 俺に死ねと!?」

 

「逆だ。悟からの報告でお前が最も可能性が高いと判断した。今後は分からないが現状奴は単純にブラックホールを放ち相手を吸い殺すなんて真似は出来ない様だ。わざわざ周辺からコンクリートやアスファルトと言う弾丸を用意したのだからな」

 

 ブラド・キルステンの放つブラックホールは確かに人間も引き寄せるが、吸い込む事は出来ず事前に用意したモノをぶつけると言う運用だと六道和尚も言っていた、つまり日下部準1級であれば、そうした物理弾を全て叩き切る事も不可能では無いと言う判断である。

 

「いや、ソレ言うは易く行うは難しって奴でしょ……つか庵は? アイツが居れば俺より確実だろ? 弾丸が飛んでくるなら全部ピッチャー返しにしてやりゃ良いんだし!」

 

「歌姫は残念ながら別任務で今は仙台市内の球場に出現した呪霊を討伐しに行っている。お前の言う通りアイツが居れば重力使いの相手は歌姫に任せたさ……」

 

 都内で大きな事件が起きているからと言って他の地域での事件が全てなくなる訳では無く、緊急性の高い呪霊案件が有れば当然そちらにも戦力を割かなければならないのが高専と言う組織である。

 

 ……ちなみに本日は現場となる球場で野球の試合は行われていないので、彼女が自分の趣味である野球観戦目当てで任務に向かったと言うのは誤解だ。

 

「なお、この任務を無事に成功した時点でお前は1級への昇格が確定する事になった……励めよ」

 

 夜蛾学長のダメ押しとも取れる発言に、肩を落とし生きる事自体を諦めた様な表情を浮かべる日下部準1級。

 

「(ロシア語)あ、あの! ぼ、ボクにも何か、何か出来る事は無いですか!?」

 

 4人の特記戦力と相対するメンツが確認され、万が一の備えとして特級である夏油が後ろに備えると言う作戦を聞き、エミリオ少年がそんな声を上げた。

 

「君は……そうだな、今回の件で出来る事があるとすれば、現場で抵抗する一般構成員の中でロシア語を解する者に対して投降を呼びかける事くらいだろうか?」

 

 エミリオ少年は反転術式が生得術式に組み込まれているタイプでは有るが、残念ながら正の呪力を攻撃に用いる事は出来るが、今の所正しい意味で『反転術式』を使う事が出来ず救護要員になる事は出来なかった。

 

 現在の彼は対呪霊戦ならば特殊な条件を達成しなければ祓えないタイプの呪霊で無ければ、下手をすると御主人よりも戦力になる可能性がある。

 

 しかし対人戦となると武術を修めている訳でも無い14歳の少年に出来る事は殆ど無い。

 

 子どもはすっこんでろ! と言わないのは夜蛾学長なりの優しさだろう……。

 

 こうして作戦の概要が定められその他細かい部分を詰めていき、会議が終わると俺達は今夜の作戦決行に備えて束の間の休眠を取るのだった。

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