畜生道に堕ちたと思ったら五条悟の飼い猫になった件 作:鳳飛鳥
2010年6月7日23:40……都内、旧盤星教 時の器の会本部……現ノア本部
作戦決行直前に成って六道和尚の再びの訃報が届いた、彼は俺達の作戦に合わせてノア本部へ別方向から強襲する為に近場へと来ていたらしいのだが、突然現れた
当然俺達は彼の遺体を回収し近くに潜んでいた影高野の僧侶達と合流し、再び『泰山府君の祭』で復活させようと考えたのだが……冥府の神は短期間での2度目の復活を許さなかった様で、辿り着いた時には既にその魂は肉体を離れ黄泉路を辿っていたのだ。
身内と言うには少し遠いが、ソレでも作戦結構前に顔見知りが死んでいたと言う事実は割と重い……。
ここ数年は高専所属の呪術師が殉職する事も大分少なくなり──ソレでも0では無い──御主人のこの手の状況への耐性は恐らく原作よりも低い。
「六道のおっさん……ちょっと前に死んだばっかなのに無理すっから……」
「……和尚を殺った機械化人はノアに所属すると思しき呪詛師に討ち取られ、その遺体を持ち帰られています。和尚の敵は敵の手に依るものとは言え既に取られていますので、仇討ち合戦等と逸って五条殿まで要らぬ怪我を追われませぬ様に」
「おっさんの遺体は高専の補助官に高野山へと運ばせるよ、アンタ等は雑魚の捕縛に協力してくれんだろ? アンタ等こそ、逸って命を無駄にする様な事はすんなよ?」
呪術師は殉職率の高い仕事である、ソレは警察や消防に自衛隊と言った殉職と言う言葉が使われる他の公務員と比べ明らかに高い数字だと言われている。
例えば全国の消防士の数は約16万人いるが殉職者は数年の平均で10人未満で推移していると言う。
対して呪術師は高専に所属していないフリーランスや各地の呪術名家なんかの者達の人数は、全て把握されているわけではないが全国合わせても数千人程度しか居ない筈だ。
……なお磯野家はその中でかなりの割合を占める、人数だけで言えば御三家よりも大規模な一族である。
兎角、母数が圧倒的に少ない為に数人死ぬだけでも殉職率と言う割合で言えばかなり高い数値になるのだ。
俺は術式の都合上、東京校に所属する或いは東京校を足場にするフリーランスの呪術師が瀕死の重傷を負っていたり、既に命を落し『泰山府君の祭』に一縷の望みを託して運ばれてきたと言う状況に常日頃から接している為、和尚の死も割とドライに割り切れた。
しかし御主人はどうだろうか? 仮にも一端の強者と認めた者が命を落した直後に冷静な状態で任務に当たる事が出来るのか?
ここに来て原作の五条悟が相手ならば絶対に感じなかったであろう不安が頭を擡げる。
「行くぞポチ、俺達も今度こそあのクソ野郎を始末しないとな……」
僧侶達の言った様な仇討ち合戦だ等と入れ込んでいる様子は……無い。
ただその表情にあるのは義憤……リチャード・ウォンと言う男が御主人に何を言い何を行ったのかは知らないが、彼は間違いなくその男に対して怒りを覚えている。
御主人は産まれながらの強者であり、大概の事は弱者の戯れに過ぎない……と鷹揚に許せる人間だ。
同時に自身に対しては極めて完璧主義であり、出来ない事を出来ないで済ませるのを嫌う努力家でもある。
だからこそ強者の側にいるクセに弱者を甚振る者や、弱者でありながら努力等を積み重ね強者の領域に足を踏み入れたクセに何時までも弱者の側にいるつもりの人間を嫌うのだ。
前者は言わずもがない、後者は運転免許を取得し交通の世界に置いて強者と成っていながら馬鹿をやらかし事故を起こす様な者が代表格と言えるだろう。
そして恐らくリチャード・ウォンと言う男は前者であると同時に後者だ。
呪術或いは超能力と言われる一般人には決して使う事の出来ない超常の力を持つ強者であり、その上で御主人と言う呪術界最強の存在を殺す程の強者であり、武の腕も立つと言うのだからそれ相応の努力をして実力を磨いた者なのだろう。
にも拘らず、複数の特級相当の人材を抱えて起きながらやる事は『世界征服』等と言う、今どき特撮ヒーローモノの悪役ですら願わない様なしょっぱい願いを武威を持って叶えようとして居るのだ……ソレは御主人の逆鱗にも触れる。
表の顔としてシャフト・エンタープライズと言う巨大企業のCEOなんて肩書を持っているのだから、ビジネスの世界でトップを取りに行くのに、超能力を総監部にバレない様に使うとかすりゃ良いだろうに……。
何なら奴は香港出身とは言え今は中国人なんだから共産党に入党し、そっち側でこの時代なら未だ世界人口ランキング1位を誇る国のトップを目指す……という選択肢だって有った筈だ。
先日見たシャフト・エンタープライズのホームページに有った会社概要に依ると、リチャード・ウォン……本名
真っ当な努力で報われるのを願うには十分な若さだし、逆に厨二病を拗らせたにしては少々歳が行き過ぎている。
対して神輿であるキース・エヴァンスはバーンと同じ18歳だと言う話なので、キースの方から言い出した世界征服計画ならば、ウォンがスポンサーであり大人だと言うならば止めねばならない立場だろう。
しかしエミリオ少年の話では、キースが世界征服等と言う馬鹿げた大目標を掲げる様になったのは、ウォンと合流してからだと言う話なので、どう考えてもウォンという男が唆したとしか思えない。
「どうやら始まったな……雑魚は無視して俺達は多分奥にいるだろうウォンとキースって奴の所を目指すぞ! 頭に乗れポチ! 蒼で出来る限りショートカットして行く!」
旧盤星教 時の器の会本部を殆ど居抜きで使っていたらしいノアの者達は、高専に所属する呪術師達とあちらこちらに決闘用結界を展開し
わざわざタイマンで勝負するのはココ日本が呪術師≒超能力者の最先端を行く国であり、それ相応の法律と組織を長い年月維持し続けた来たのだから、数の暴力で押し切られる……とでも考えていたのだろう。
しかし残念ながら呪術界には3級や4級で止まる程度の人材を教育する余裕は無く、高専に所属する者は頑張って2級で頭打ちが大半で、準1級や1級に昇進する事が出来る者は本当に一握りの万年人手不足だ。
今回ここに参戦して居る呪術師はトップ勢4人を相手にする者達は別として、ソレ以外の雑魚を捕縛する要員に関していうならこちらの方が間違いなく少ない。
つーか、思った以上にノアの人員が多いんだよ! コレ絶対雑魚と言い切れるレベルの者達は3桁じゃ済まねえぞ?
「御主人、コレはちょっと流石に敵の数が多すぎないか?」
「いや……確かにコレはちょっと想像以上だわ……え? 確かシャフト経由で日本に入ってた奴らって300人位って言ってたよな? エミリオの奴もここまで多いとは言ってなかったぞ?」
「……嫌な予感がするんだが、もしかして他の呪詛師集団が合流してる可能性が無いか?」
「よっと! あーこいつ確かにどー見ても日本人だわ。ウェンディーがノアに日本人は居ないって言ってたらしいし、こりゃまたどっかの仲介屋に小金掴ませて呪詛師連中を引き入れたんじゃね?」
シャフト・エンタープライズは世界的大企業だ、裏社会で大きな金を掴んだ呪詛師が、シャフトの伝手を使って高跳びする事を望み、ここの防衛に成功したらソレが叶う……とか、そう言う売り文句がありゃ命懸けの戦いに参加する呪詛師が居ても不思議は無い。
呪詛師連中は当然ながら港や空港の様な海外渡航の為に、足を踏み入れざるを得ない場所には手配が回っている。
何なら総監部が呪詛師として正式に認定した時点で、表の世界では反社勢力扱いで、本人名義の銀行口座は凍結されるし、クレジットカードやらローンの審査やらは全部アウト、何なら戸籍の住所変更手続きをした時点で呪術師がとっ捕まえに飛んでくる状態だ。
そんな状況では当然の事ながらパスポートは使えないし、海外渡航をしようにもビザの申請すら出来やしない。
方法があるとすれば暴力団関係者で暴対法が厳しくなる前に、船なんかを買っていた者に伝手を繋いで、石垣島から台湾を目指すとか対馬から韓国を目指すとかそう言うルートを使うしか無いだろう。
もしくは闇ルートで手に入れた偽造パスポートの類や、実在の人物と何等かの方法で入れ替わる背のりとか言う方法か……恐らくシャフトが行うのはこれらの何方かではなかろうか?
パスポートと言う奴は海外に出たら常に携帯していなければならないモノで、ソレがなけりゃ違法入国者と見做されても仕方ないと言う。
呪詛師として一旗上げて大きな金を稼いだは良いモノの、呪術師からの追跡に疲れて海外へと高跳びしたがる呪詛師は決して少なく無いと思われる、
「どうする御主人、俺が残って雑魚に片っ端から猫ロケットパンチを叩き込むか?」
三国志の英傑達が雑兵を蹴散らしながら武将を討つゲームの様な絵面を見て、俺がここに残って一騎当千を目指すかを問うと、
「いや大丈夫そうだ、ほら補助官達がにゃん²バズーカ担いで応援に出てる、多分高専にも応援要請入れてんだろ。このドサクサでウォンを逃がす方が不味い」
俺のコピー体を使った呪具を担いだ補助官が戦闘に参加し始めているのを指差しそう返事をした。
「うし、流石に知らねぇ建物の中で何処にいるかも知らねぇ奴の所に一気に跳ぶ事ぁ出来ねぇからな。一応、盤星教の建物だった頃の図面は頭に入ってるが……改築されてる部分があるかもしれねぇからな。先ずは元教祖の部屋でも言ってみるか」
そう言って御主人は術式順転『蒼』を起動し、頭の上の俺と共に蒼い光となってその場を離れたのだった。