畜生道に堕ちたと思ったら五条悟の飼い猫になった件 作:鳳飛鳥
旧盤星教の指導者が使っていた部屋は、どうやら当時のまま模様替えの類を一切して居ない様で、無駄に豪華な仏壇らしきモノが壁一面を被っており、その反対側には幾らするかも想像のつかない巨大な油絵が飾られている。
その油絵を背にする様に置かれたこれまた高そうなマボガニーの執務机、その上に乗せられていた一枚の図面。
「……野郎、要はココに来いって言う挑戦状かよ」
ソレはシャフト・エンタープライズがココを買い取ってから行われたらしい、地下拡張工事の為の図面で有り、その中にご丁寧に妙に可愛らしくデフォルメされたイラストと『It’s Me!』の文字。
直接面識の無い俺では有るがシャフトのHPに乗っていた代表写真で顔は知っているが……うん十分に彼だと分かる特徴を捉えている。
図面に依ると奴は『
「今の俺を相手にマジで勝てる気でいるなら目にもの見せてやる……この間は無重力での体術の使い方を学ぶ為に手加減してやったんだ。今度は
かなり頭に来ている様子では有るが、ソレでも冷静さを残していると分かる声でそう言った御主人が再び蒼を起動すると、今度は戦うには向かなそうな通路の奥に設置された、観音開きの防火扉の様なモノの前だった。
「おしポチ、お前はこの辺に隠れてろ、万が一俺がヤバい時はヘルプ頼むな。まぁ今の俺があんなクソ野郎に負ける訳ゃ無いんだけどな」
猫の呪術師と言う俺を伏せ札として隠す、コレは俺が余程呪詛師達の間で有名にでもならない限りは続くだろう基本戦術だ。
ソレを忘れる事無く扉の前へと転移してきた御主人は怒りは肚に落とし込み、頭は冷静さを保っていると言う事で間違いない。
「んじゃ行くぜ、はいどーん!」
そんな言葉と共に強化した足で防火扉を蹴り破る。
「随分と乱暴なお出ましですね、日本最強の呪術師五条悟……おや? 何処を見てるのですか? 私はココですよ? ははは……まぁ無理も有りませんね。貴方のその目でコレを見てしまえば……コレが何か分かる以上は私なんぞに気を払ってる余裕が有る筈も無い」
「ちょ! ばっ……おま、お前! なんつーもんを作ったんだよ! あの史上最悪の呪術師『加茂憲倫』が理論だけは構築したモノの流石に非人道的で尚且つ危険過ぎると制作を断念した……『地獄炉』じゃねぇか!?」
「ふはははは! 流石は1000年の歴史を維持する呪術御三家の一角五条家の御当主殿、博識でいらっしゃる。そうだ、この私はその最悪を越えたのだよ! この炉が完成した事で私の呪力は無限大! 今ならば貴様とやり合っても決して負ける事は無いでしょう」
「っち! ここでやり合って下手に地獄炉にダメージを与えりゃドカンって寸法かよ!」
「その通り、貴方はここで私に対して大技を放つ訳には行かない。万が一地獄炉を破損させれば、地獄から直接吸い上げた呪力は一体どれほどの被害を出すかは私ですら分かりませんからね」
「その炉を完成させる為に何人を犠牲にしやがった! 加茂憲倫の試算では四九八九人分の呪力が必要だと言う事で流石に人柱を集める手間がかかり過ぎるとか、奴の研究ノートにゃ書かれてたらしいがな!」
「ふっ……ソレは奴と私の才能の差、つまりは術式の差ですね。私の時空操術でこうしてしまってある剣は一体何処にあると思いますか?」
言いながら一振りの直剣を取り出すウォン、剣を出すために開いた深い深い闇の領域は一瞬見ただけでも、悍ましい程の呪力が充満して居る様に見えた。
「はぁ!? 真逆、お前の術式で地獄への穴を空けれるってのか!?」
「御名答、まぁ正確に地獄かどうかは分かりませんがね。ただそう呼んで過言ではない程の負の感情が吹き溜まった、この世界の裏側とでも言うべき場所へ繋がる扉を開く事が出来るのですよ……そしてソレを応用すれば地獄炉の設置は簡単でした」
「で……何人生贄に捧げたんだ、その薄汚い呪いの為に!」
「勘違いしないで頂きたい、私は彼等に人柱になるように強要はしていません。彼等は超能力者の
「そんな事は聞いてねぇ! 何人を犠牲にしたかを聞いてるんだ!」
激昂した事を装い、激しく責め立てる様な物言いを繰り返す御主人に、ウォンは軽く肩を竦め『やれやれ』とでも言いたげに首を左右に振ってから、
「3人ですよ、加茂憲倫が試算した数字を遥かに下回るたったの3人です。まぁこの建物には随分と良質な呪力が溜まっていたのでソレも大きく後押ししたのでしょうね」
と右手の指を三本立ててそんな言葉を口にする。
「そんな事よりも……この地獄炉の側で戦うのが自殺行為だと言うのは、お互い共通の見解だと思うのです。故に一つ賭けをしませんか?」
「賭け?」
「ええ、我々ノアの人員で貴方を殺し得る者は私の他に2人、ほらそこ貴方の後ろにあるモニターを御覧なさい。この部屋は炉の監視をしつつ、建物の内部も監視出来る様に作られています。そしてこのリモコンで……ね? 貴方のお仲間達が戦っていますよ」
「なーる、俺が他の誰かを助けにでも行けば、その炉から供給される呪力はお前じゃなく、他の奴に行って勝ち目が無くなるって訳か……本当に狡い奴だなテメェは」
「負け犬の遠吠えとでも思っておきましょう。ソレに孫氏曰く『是故百戦百勝、非善之善者也。不戦而屈人之兵、善之善者也』と言う言葉も有ります。今の状況こそ戦わずに勝つそのものでしょう?」
「で、賭けってのは?」
「なぁに簡単な事です、貴方のお仲間が貴方を殺し得る術式を持つ者2名を討ち取る事が出来れば貴方の勝ち。私は素直に地獄炉を停止し貴方に下りましょう。対して私の仲間が勝ったならば、まぁ語るまでも無いでしょう。その時は世界は私の物になるのですから」
「ソレは縛りか?」
「は? なんですか突然? 妙な事を言いますね? よく分かりませんがNOと言っておきましょう」
呪術に関して素人で有るが故に縛りと言うモノを理解していないのか、それとも賭けと言う事自体がブラフで縛りを結ぶのが都合が悪いのか、ウォンは縛りではないと明確に否定した。
「っち……俺の目から見てもその地獄炉は加茂憲倫が想定した通り、無限の呪力を供給しているのは間違いねぇ。そしてソレを今現在制御してるのはテメェだ。その上ソイツを下手にぶっ壊せばこの建物だけじゃ済まねぇ呪力汚染が発生するのも事実だわな」
「では貴方のお味方が勝つか私の仲間たちが勝つかゆっくり観戦するとしましょう。あ、必要ならそこにポップコーンとジューズの自販機がありますし、そちらには椅子も用意してありますからご自由に」
……この状況を予想してなのか、それとも単純に炉を管理しながら監視カメラでの警備を担当する者の為の福利厚生なのか、俺の位置からは見えないが室内には自販機が据えつけてあるらしい。
ちなみにリチャード・ウォンが術式で異空間から取り出して座った椅子は、かなり高級そうな刺繍の入った椅子なのだが、悍ましい程の呪力を放つ何等かの呪具の様だ。
対して御主人に勧めた椅子は、極々普通の何処にでも売ってる様なパイプ椅子が折りたたんだ状態で壁に何脚か立てかけられてあり、ソレを勝手に使えと言う事らしい。
「何だってそんな椅子まで呪具にしてんだ? いや……そう言う事か、テメェの術式で異空間にぶち込んだ物は、地獄の呪力で擬似的に『浴』を行った様に呪具化する訳か」
「御名答、この術式のお陰で呪具を作って売り捌けば、多くの企業を買収する資金には困りませんでしたよ。まぁクソ親父とクソ兄貴をブチ殺して奪った会社が想像以上にボロボロだったのを立て直すのに使った金の方が圧倒的に多いですけどね」
そんな言葉から始まった聞いても居ない自分語りに依ると、リチャード・ウォン……本名:
幼い頃から時折現れては父親面する男を毛嫌いしていたが、彼が持つと言う資産は魅力的だった。
長じたならば本妻の子である腹違いの兄に仕えボディーガードが務まる様に……‥と、殆ど無理やりに近い形で武術を習わされ、マトモに教育を受けて居ないようでは使い物にならない……と私学に通う費用はきっちりと出してくれたらしい。
幼い頃は儒教の教えに従い弟は兄を立てて支える物……と思っていたが、長ずるに従って自分の方が優れているし努力をもしているのに、ただ妾の子だからというだけで全てを兄に持っていかれる事に納得が行かなくなったのだそうだ。
そしてついに父と兄がが同じ部屋に他の者を廃して会っているのを見計らい、超能力で剣を打ち込み、2人がお互いを刺して殺したとしか見えない状況を作り上げた……完全犯罪の成立である。
「そうして父に残された唯一の息子である私が会社を乗っ取って見れば、帳簿は杜撰、経営は適当……確かに財産の額はそれなりに有りましたが、ソレとて若い頃に積み上げた物が大半で、愚かな兄貴では長く会社を保たせる事も出来なかったでしょうね」
「んー、不幸自慢がしたい訳? それとも財産の額面を自慢したいの? まぁどっちにせよお前がやらかした数々の外道が許されるとは思うなよ?」
「ええ、私が負けたならば……覚悟しておきましょう。ほら、あのモニターに映ってる2人はそろそろ勝負が付きそうですよ? っち、最後まで使えない奴だったな」
どうやらノアの特記戦力の一人を高専の呪術師が討ち取ったのだろう、ウォンは忌々しげに舌打ちをして苛立ちを隠さないのだった。