畜生道に堕ちたと思ったら五条悟の飼い猫になった件 作:鳳飛鳥
鋼すらも両断する鋭い斬撃がブラドの土手っ腹を薙ぐ、普通ならばコレで上半身と下半身が泣き別れとなり反転術式を使う事が出来なければ、その時点で勝負は決まる。
しかし結果は違っていた、ブラドの身に付けていた拘束具の様なモノはそれ自体に相応の防御力がある呪具だった様で、鋼と鋼を撃つ合わせた甲高い音を響かせ、その一撃を防いだのだ。
とは言え完全に防ぎきった訳では無い、威力は間違いなく肚の内へと抜け、更に余った衝撃が彼の身体を吹き飛ばす。
「まぁそう簡単には終わらねぇよ……な!」
シン・陰流攻撃の型、居合『夕月』……初手で繰り出したのと同じその技で追撃を狙う日下部だったがソレは流石に通らない、ブラドの張ったバリアガードと呼ばれる結界術に刀が触れた瞬間、自身の攻撃の勢いその物が反射された様に身体ごと大きく弾かれたのだ。
(訓練の時に見て思ったが、ありゃシン・陰流の簡易領域よりも更に原始的な結界術だ、構成は簡単だし余程結界術の適性が無い奴じゃなけりゃ誰でも使える……呪力消費の効率がクソなのに目を潰れば)
ありとあらゆるモノを拒絶する、有る意味に置いて最も原始的な結界、ソレを誰にでも使える技術に落とし込んだのがバリアガードと言うモノなのだろう。
ソレがシン・陰流と言う影高野とはまた別方向に結界術を発展させていった流派を使う者としての見解である。
自分ならばソレを破るのは不可能とは言わないが、その為の方法を構築する手間の方が勝る、どうせソレは呪力消費の観点からみても一瞬の防御にしか使えないモノだ、ならば破るよりも解くのを待つ方が簡単だ。
実際ブラドは日下部を弾き飛ばした時点でバリアガードを解き、両腕を振ると結界外の施設内壁が崩れ2つのコンクリート塊となり、ソレが日下部目掛けて挟み撃ちの様に飛んできた。
「残念だったな! 物理は俺には効かねぇぜ!」
シン・陰流『抜刀』、ソレは展開された簡易領域内に入り込んだモノを自動で迎撃するその名の通りの抜刀術だ、流派内最速の技を持って日下部は自身に迫るコンクリ塊を瞬時に切り捨て自身の身を守る。
「きはははは!
言いながらブラドは日下部に向かって黒い影の様な呪力の塊を発射した。
然程早い訳では無いソレは呪力を込めた斬撃ならば斬って斬れないモノでは無い、けれどもソレをするのに一手使うよりは、簡単に躱せるのだからソレを避けつつ再び間合いを詰める事を選択する。
「何度だって斬ってやるよ、その防具が幾ら優秀でも完全にダメージが0って訳じゃぁねぇだろ? 2発目をわざわざ結界張って防いだのがその証拠だ。ソレに防具が無い首をたたっ斬ればソレで終わる話だ」
自分の狙いが首である、そう開示したのは縛りでも何でも無い、しかし相手の脳裏にはコレで日下部が首を狙っていくると言う意識が根付く筈だ、呪術では無いがコレも一種の呪いと言えなくも無い。
「抜かせぇ! テメェがその長ドスぶん回すしか能がネェのはもう分かったんだ! 近づかせないようにすりゃ、あとは嬲り殺し確定じゃねぇか!」
漫画なんかの様に斬撃を飛ばす様な技が有れば、例えソレが必殺の一撃で無くとも、遠距離戦でもある程度戦えるしソレを牽制として間合いを詰めていくと言う事も出来ただろう。
しかし残念ながらシン・影流には呪力の刃で刀を延長すると言う様な運用は有っても、明確な飛び道具と言える技は無い。
コレなら高専東京校に最近大量配備された、にゃん2バズーカを担いで来るべきだったかもしれないと少しだけ後悔する。
初期の制作者である組屋の手で改良に改良を重ねられたソレは現在バージョン6までアップデートされており、多弾倉式となった上に小型化、軽量化も行われ相変わらずのグロい見た目を除けば、低級量産呪具の最高傑作の一つと言える程に成っていた。
と、一瞬脳裏を過ったよそ事を振り払い、ブラドが繰り出す呪力弾やコンクリート塊を掻い潜り、再び居合『夕月』を決めるチャンスを得る。
結界内全てを埋める程の広さは無いが、ソレでも普通の剣士が一足飛びに斬りかかれる間合いを遥かに越えた簡易領域を展開し、対象がソレに触れた瞬間『必中』の斬撃を繰り出す攻めの技。
けれどもソレは本来の必中を為す事無く、日下部は即座に抜刀へと切り替える事を強いられた、ブラドが黒い蛇を思わせる呪力を纏って突撃してきたのだ。
(くそ!? 遠距離云々はブラフかよ!)
夕月では良くて相打ち下手をすれば撃ち負ける、そう判断して最速の迎撃へと切り替えたが……結果は相打ち、日下部の斬撃は突き出していたブラドの右腕を肘の当たりで断ち切る事に成功するが、ソレを為した本人は蛇を模した呪力体に噛み付かれ結界内を舞う。
日下部を加えた呪力体は、蛇が獲物を丸呑みする為に一度大きく上へと頭を向ける様に結界の上へと向かって飛んだかと思えば、今度は下へと急降下し彼の身体を結界の底面、床とで言うべき所へと叩きつけたのだ。
そうして日下部が呪力体に翻弄されている間に、ブラドは斬り飛ばされた右腕の事など気にする様な素振りも無く、両腕を広げて呪力を滾らせると広間の壁が何箇所もえぐれ、剥がれ落ちたコンクリート塊が、彼を主星とした衛星の様に周回し始める。
(っちぃ! 影高野の呪術師を仕留めたっていう大技の下準備をさせちまった!?)
結界に叩きつけられた衝撃はそれなりのダメージは有ったが、飽く迄もそれなりであり向こうとしても、あの身体の回りを周回するコンクリを装備する為の時間稼ぎに過ぎなかったのだろう。
しかも厄介なのは間合いを詰めて夕月を叩き込もうにも、あの周回するコンクリ塊を完全に掻い潜って……と言うのは正直言って難しい。
アレは多分、仮称;ブラックホールを放つ際の火力であると同時に、遠距離攻撃に対する盾であり、近接戦闘の際には自動的に横から殴り付けてくると言う極めて邪魔くさいモノなのだろう……それでも……まぁ……手が無い訳では無い。
「ソレが影高野の呪術師を潰した大技の種か! はっ! その程度の呪いは俺が祓ってやんよ! おら撃って来いよブラックホールとやらをよぉ!」
浮かび上がり少しずつ間合いを詰めながら挑発の言葉を吐く。
「幾らテメェが剣に自信が有っても飽和攻撃の前じゃぁ無力だろ! お望み通り肉煎餅にしてやるよ!」
そう言いながらも牽制のつもりか呪力弾を度々撃ち出しながらゆっくりと間合いを詰めるブラド……恐らくは今までの何度かのやり取りで夕月の間合いをある程度見切ったのか、そこまで踏み込む事無く止まると大技を放つ為に呪力が高まりを見せる。
「く・た・ば・れぇぇぇえええ!」
咆哮と共に放たれる黒い小さな呪力塊は徐々に大きさを増し、ブラドから数メートル離れた場所で停滞すると日下部の身体と奴の回りに周回していたコンクリ塊、ソレから消えずに宙に留まっていた牽制だと思われていた呪力弾を吸い込み始めた。
更にその吸引力は結界外にも影響するようで、既に崩れ落ちていたコンクリ塊を引き寄せ、ソレでも足りないと未だ無事だった天井や壁面に穴を穿ちコンクリ塊を追加する。
常人ならば一つでも十分に死を与えるであろうコンクリートが10、そして更にどんな効果があるかもわからない呪力弾が4つ。
(こりゃ初見で影高野の呪術師が遅れを取る訳だし、奴が自信を持つのも当然だわ。普通ならどーしよーもねぇ……普通ならな)
シン・陰流は術式を持たない呪術師が、領域展開と呼ばれる呪術の奥義を極めてたモノとすら渡り合う為に編み出され、長年の時を経て研鑽されてきた弱者の呪術であり武術である。
「シン・陰流……簡易領域『抜刀』!」
その飽和攻撃は完全な同時ならば日下部に取る手立ては無かった、しかし僅かずつでもタイムラグがあるならば……その全てを斬り伏せるの決して不可能な事では無い、
数にして14回抜刀と納刀を一瞬のうちに繰り返す、ただソレだけで彼を押し潰さんとしていた質量の暴力は打ち砕かれて、ブラドが放ったブラックホールらしきモノの中へと飲み込まれていく。
幸いだったのはそのブラックホール自体に攻撃能力が無く、日下部自身を吸い込む様な事が無かった事だ。
ソレは術式の解釈の問題なのか、それとも奴の術式の限界なのか……六眼を持たぬ日下部にはソレを読み解く事は出来ないが、奴の切り札を斬り伏せた事で勝負は決したと言って間違いない。
「言い残す事があるなら……最期に聞いてやるよ」
更に間合いを詰め、あと数センチ進むか領域を広げた瞬間、首を刎ねる事が出来る位置まで近づくと、日下部は油断無く相手を見据えたままで、そう言葉を掛ける。
「やっと死ねる……あとは、せめて僕達の様な犠牲者がこれ以上出ない事を……頼むよ」
どうやら呪力を吐き出しきった所為かそれとも敗北をまのあたりにしてか『負の人格』とでも言うべきモノは表に出る事無く、恐らくはブラド本来のモノであろう穏やかな方の人格がそう告げて瞼を閉じた。
直後、日下部の身体が一瞬でブラドの背後へと走り抜け、一瞬の後に首から血が吹き出し、胴と頭が泣き別れとなる。
『K.O!』
勝敗を見届けた結界がそう叫ぶと共に消え去り、ブラドだったモノはそのまま糸の切れた操り人形の様にボロボロになったホールの床へと落ちていくのだった。