畜生道に堕ちたと思ったら五条悟の飼い猫になった件 作:鳳飛鳥
旧盤星教 時の器の会 本部……現
超能力者同士の力試しの場としてか、其れ共鍛錬の場としてか、そこには古代ローマの
施設入口から此処までの道には、バーンに向かって『追って来い』と言わんばかりに、キースと言う男を見知っていれば彼のモノだと分かる残穢が点々と残されていたのだ。
罠である可能性はかなり高い、そう判断しつつもバーンは残穢を辿り此処まで真っ直ぐやって来た。
「来たか……バーン」
「キース!?」
見る者が見れば荘厳と言っても良いであろうその舞台……いや武台の上でただ一人、バーンと同じく18歳前後の銀髪の青年が青い軍服の様な衣装に身を包み、腕を組んでその場に佇んでいた。
「僕を止めると言い切った君なら、必ず此処に来ると思っていた」
寂しそうな……けれども嬉しそうな……複雑な表情のキース。
「分かってるなら止まれよ! まだ間に合うだろ! 超能力先進国である日本だって、超能力者は飽く迄も陰の存在なんだ、表舞台に立てば
対して激情のままに吠えるバーン。
高専に保護されてからの数日、戦闘訓練も当然受けはしたが、ソレと並行して呪術の基礎の基礎、特に海外では認知され辛い呪霊に関する座学をバーンは受けていた。
その結果理解したのは超能力者や呪術師がそうと分かった状態で表舞台に立ち、絶対権力者として振る舞えば、まず間違いなく一般人は自分達とは存在その物が違う権力者に対し、圧倒的な負の感情を抱き、呪霊と成って暴れるだろう事は目に見えていると言う事だ。
民主主義が敷かれ、つい先日の選挙で与党が野党に、野党が与党へと無事入れ替わる政権交代が行われたこの日本の表舞台に立つ政治家達も、民衆からの負の感情で出現する呪霊を、総監部の手配で定期的に処理しなければならないと言うのだから尚の事である。
「……
米空軍基地に出現したUFO型の特級呪霊、ソレが放つ謎の光線に当てられた者はバリアガードが間に合わなければ、あっという間に内蔵や血液が消滅し命を落した。
超能力者達は一撃貰えば命を落とす、対して相手はどれほどのダメージを与えても、丸でソレが無かったかの様に、即座に回復し再び即死の光線を撃ち出して来たのだ。
どれほどの時間が過ぎたかはわからないが、半数以上の死者を出してやっと、件の呪霊に対して行われた超能力者達の攻撃はその身に宿した呪力を全て吐き出させ祓う事に成功したのである。
「なら! 超能力者に依る世界征服なんて事をすれば!」
日本の呪術界が対呪霊、対呪詛師に関しては専権事項として圧倒的な権力を有し、時には政府すらもがその指示に従うと言うのに、その存在を表沙汰にせず実権を握ろうとしないのは、一般人が呪霊や呪術の存在を知る事でソレに恐怖と言う負の感情を抱かせない為だ。
政府側も特級まで行かずとも1級クラスの呪霊が1匹湧いて、ソレが早急に討伐されなければ大震災とか大災害なんて呼ばれる様な事態と同等クラスの死傷者が出るだろう。
「知っているかいバーン、超能力者は自身の
そうした呪霊の恐ろしさを知るが故にキースは『呪霊の産まれない世界』の構築方の一つを開示する。
奇しくもソレは原作と呼ばれる世界線に置いて、夏油傑が採用したのと同じ方法だった。
「な!? お、おま……お前! なんて事を言い出すんだ!」
親友だと思っていた男の口から出た
「勿論、全ての超能力者に原始人地味た生活を強要する気は無いよ? ウォンの会社とその従業員達が居れば、インフラの維持も農作物の生産も今の時代は機械の力で十分維持出来るんだ。この世界は猿が多すぎるって先生も言っていたしね」
遠い目をしたキースのビジョンは自身で構築した理想と言う訳では無く、ウォンが齎した経済的な支援と、『先生』と呼んだ謎の人物の教えが下地に成っていると言う。
「はぁ!? なんだよ! なんなんだよ! テメェは自分で考えてそうした結論を出したんじゃねぇのかよ! お前はノアの……サイキッカーのリーダーなんだろ! 自分の責任で出した結論じゃなく、ウォンとか先生とか言う奴の言いなりなのかよ!」
バーンは自身を勉強の出来ない馬鹿だと言い切るし、彼の通う高校は上と下の差が激しい学校であり彼自身は何方かと言えば下側に属する人間である。
しかしその根っこはアメリカの標榜する自由と正義を愛し、アメリカンフットボールに熱狂する典型的なU.S.A主義者であり、民主主義の根幹は『自分で考え自分で選ぶ事』だと言う事を知っている者でもあった。
「バーン……僕はね……もう……疲れたんだ……僕達が囚われていた実験施設が破壊された
対してキース・エヴァンスの出身国はユナイテッド・キングダム……グレートブリテン及び北アイルランド連合王国……即ちイギリスだ。
彼とて民主主義陣営の国出身であり、その根幹には民主主義を尊ぶ教育がある……が、彼はハイスクールへの進学を控えた春休みに米国特殊部隊に依って拉致され、丸一年少々の期間をモルモットとして過ごしたのである。
基地への呪霊出現を切っ掛けに先生の指導を受け、なんとか呪霊を祓った者達の中で比較的リーダーシップを取る能力を持っていたキースが先導しその場を離脱、先生から教わった鏡の伝言と言う呪術を使って世界の虐げられた超能力者に賛同を求めた。
「半数以上が死んだのか……」
半日程度の後、脱出してきた者達を養う事の出来る十分な財力をもったウォンが合流してきたのは、本当に幸運だったのだろう。
彼等は飢える事も寒さに震える事も無く、無事に米国を離脱し日本へと入る事が出来たのだ。
「
高専と総監部を打ち倒す事が出来たならば、ノアこそが日本の呪術界を統べる組織として取って代わる事が出来る。
そうなれば後は武威にモノを言わせ表の社会を乗っ取るのは難しい事では無い……日本のお隣の大陸にある大国、ウォンの母国ではソレがまかり通っているのだ。
「……キース、ソレでも……ソレでもお前のやり方は間違っている!」
確かに、キース達ノアの超能力者達が受けた非人道的な実験の数々は批難すべきモノだろうし、ソレに対しての恨み言が出るのは当然の事だと思う。
だがだからと言って無関係な民間人を誰彼構わず殺して回るのは別次元の問題だ。
正義を標榜する祖国だからこそ、軍の蛮行は暴かねばならないし正さねばならない……とバーンも本気で思っている。
高校卒業後はNFLでアメフト選手にとおぼろげながら考えていたが、日本の呪術高専へと留学し呪術と表社会の問題をしっかり学んだ上で、祖国へと戻り大学を経てキャリア組として軍隊へと入って全うな方法で証拠を掴み糾弾すると言う方向に舵を切るのも手だ。
NFLの夢を捨てず、積極的に呪力に依る身体強化を使いスター選手へと上り詰めた上で、大統領選挙に打って出て勝利の暁にはその権限を使ってキース達に無体を働いた連中を薬殺死刑にすると言う手もある……いや軍人ならば銃殺刑か。
「……所詮は炎と氷……決して交わる事は無いのかもしれないな」
けれどもバーンの言葉はキースに取ってあまりにも迂遠な上に、大統領や軍幹部に上り詰めると言う夢物語の様な方法としか思えなかった。
夢物語では今現在弾圧を受けている超能力者達も、被検体として非道の限りを尽くされ、呪霊の犠牲になった者達も報われる事は無い。
諦めの混ざった声でそう言い放ったキースは、掌を胸の前で上へと向ける、ソレだけで現れた輝く白いキューブが拡大し2人を包み込み
『Ready』
と、既に耳馴染となったアナウンスが結界の中に響き渡り、
『Go!」
両者は決して譲れない自分の正義を貫き通す為に、命を賭した闘いを始めたのだった。