畜生道に堕ちたと思ったら五条悟の飼い猫になった件 作:鳳飛鳥
呪力を燃料に魂すらも焼き尽くすバーンの炎と、同じく呪力を冷気へと変え絶対零度を実現し魂すら凍てつかせるキース……その2人の闘いは熾烈を極める。
バーンが火球を打ち出しソレを盾に間合いを詰めると、キースは冷静に炎を回避し互いの拳が届く位置へと移動した。
キースの武はアメリカ軍の実験施設で
MACPと略称されるその武術はブラジリアン柔術を中心にレスリングや柔道の技術を取り入れた組技と、ムエタイやボクシングの技術を継承した打撃技からなる極めて実戦的なモノである。
対してバーンの体術は格闘技や格闘術のソレでは無く、アメリカンフットボールの体捌きをベースとしたモノで、純粋に対人での格闘戦と言う意味では間違いなくキースのソレには劣るだろう。
しかしコレは格闘技の試合では無く、呪術を交えた
身に着けた体術の強さだけが全てでは無い、互いの術式への理解度や呪力操作の精度等々、闘いを左右する要素はいくつもある。
だがそうした背景を鑑みても意外な事に接近戦ではバーンが、逆に遠距離ではキースの方が有利を取っていた。
至近距離で打ち出されたキースの放つ氷のナイフをバーンが受け止め、大きく間合いが離れた直後に今度はバーンが無数の火球を撃ち出すが、キースの放つ冷気はその炎全てを鎮火する。
呪力を燃料とし五条悟の纏う無下限の無限すらも焼く炎がこうも簡単に消えるのは、偏に術式の相性に依るモノと言えるだろう。
キースもまた呪力を冷気に変換する生得術式で、相手が抵抗する為に呪力を纏うならば、その呪力その物を冷気へと変え凍りつかせる事が出来るのだ。
ウォンが自分以外にも五条悟を殺し得る術式を持つ者として上げたのが彼……キースであり、彼の術式を持ってすれば五条の無下限に依る無限諸共に氷の棺へと叩き込み、低体温症からの凍死へと持ち込む事すら可能なのである。
けれども共に相手の呪力すら自身の攻撃に変換する術式の持ち主同士、その効果は相殺しあう。
闘いが始まる前にキースが口にした通り、炎と氷は決して交わる事が無いのだ。
灼熱の炎と絶対零度の冷気が幾度と無く撃ち出され相殺され、間合いを詰め格闘戦に持ち込もうとするバーンと、離れた距離での超能力戦を展開しようとするキース。
お互いに多少の傷は有る、しかし決定的なダメージは双方共に負っていない。
そんな状況が暫く続くと、隙を見てキースが氷の球体に見える何かで自身を覆う。
バリアガードにも似た結界術に見えるソレはフリジットシェルと名付けられたキースの拡張術式であり、ソレに触れた全ての呪術を凍てつかせ無効化すると言う、五条の無下限の無限に負けず劣らずの防御術なのだ。
そんなモノを纏った事を知らないバーンは炎の
左右のワンツーパンチからのテッ・クワァーと呼ばれるミドルキックが、バーンの顔面と胴体に突き刺さり、吹き飛んだバーンに対してフリジットランスと呼ばれる氷の槍が飛ぶが、ソレは回避バリアと呼ばれる緊急バリアガードに防がれた。
とは言え今の一
恐らくこの戦いがリングの上で行われていたモノならば、バーンはダメージで膝が笑っていただろう。
呪力に依る身体能力強化はバーンもキースも当然行っているが、呪力という点で言えばキースが圧倒している。
数年前彼等が極々普通の友人として過ごしていた頃は、キースの呪力はバーンのソレに対してかなり小さなモノだったのだが、約1年の間様々な人体実験に依って改造強化されたキースの呪力は五条悟と比べても勝るとも劣らぬモノに成っていたのだ。
「っく! まだまだこれからだ! マジで行くぜ!!」
痛みはある、怒りは未だ冷えちゃいない、しかしソレ等はバーンの心の中にある炎は決して消えてはいない。
呪術高専では『怒りは肚に落し呪力に変えて頭は冷静に』と教育されるが、バーンは自分に正義があると信じ正しい怒りを燃やす。
武の世界──闘いの世界では冷静さを維持し闘いを組み立てる理性型と呼ばれる人間と、感情を爆発させリミッターを外す事で本人が持つ実力以上の力を発揮する人間がいると言われている。
バーンと言う青年は明らかに後者であり、燃え盛る呪力も正義を標榜する心の炎も、追い詰められれば追い詰められる程に熱を増す。
「バーン……未だ燃え盛るか……だが、勝つのは私だ!」
キースの一人称が変わったのは、彼がバーンの友人として戦っているのでは無く、ノアと言う組織の最高指導者として闘っていると言う証だろう。
絶対零度マイナス273.15℃と言う熱力学上の理論値であるソレは、未だ現代科学では作り出す事の出来ない程の超低温であり、ソレを超える事は不可能とされている。
だが呪術の世界では『あり得ないと言う事こそがあり得ない』のだ。
「うぉぉ! コレが俺の全力の炎だ!」
溢れ出る爆炎の温度は恐らく鉄をも溶かす程の熱量……約1,536℃を上回っているだろう。
「例え貴様が太陽を持ち出したとしても私はソレを凍てつかせる!」
絶対零度を越えた超々低温……熱力学的にはあり得ないソレをキースは身に纏う。
2人の放つ呪力が形作るのは炎の鳳凰と氷の龍……方や触れた瞬間に骨をも残さず焼き尽くすであろう爆炎の鳳凰、そしてもう一方は同じく触れた瞬間にありとあらゆるモノの分子運動を凍結させるを通り越し分子レベルでの結合崩壊を起こすだろう超々低温。
そんな一撃必殺の呪術を2人は互いに向けて撃ち放つ。
熱力学的に考えるならば炎の方が圧倒的な熱量を持っており、マイナス273.15と言う下限の存在する冷気の方が撃ち負けるのが当然である。
だがしかしコレは科学の戦いでは無く呪術戦、何方の攻撃により多くの呪力が込められていたかの方が大事なのだ。
炎が冷気を喰らい熱量を増し、冷気が炎を蝕み下限を下回る形而上学上にしか存在しない超々低温へと更に下っていく。
互いに全力で放ったその一撃は完全な相殺を為し得る事無く、片方の勝利に終わる……が、勝者もまた無傷では済まなかった。
全力以上の全力で呪力を振り絞った事で、呪力が回復し易い筈の結界内ですら呪力を練る事が出来ない程に枯渇したのだ。
結果、双方から呪力を徴収出来なくなった結界が勝敗を告げる事も無く、ガラスが砕ける様な音を立てて崩れ落ちて行く。
「バーン!」
そこに少女の声が響き渡る、ソニアからバーンとキースの闘いの行方を見守る様に頼まれていたウェンディーだ。
戦いの勝者はキースだった、彼の放った氷の龍は炎の鳳を貫き通しバーンへと牙を立てた。
とは言えバーンの肉体は超々低温に晒され砕け散った訳では無い、ある程度互いの呪力と熱量が相殺し合った結果、バーンの肉体は単純に氷漬けの状態と成ったのだ。
「キース様! この女は私が抑えます! お兄様と共に今はお逃げ下さい!」
呪力を完全に吐き出し、闘える状態には見えないキースをウェンディーから守る為、赤毛の女がそう言って立ち塞がる。
「はぁはぁはぁ……逃げる? 何が……あったのだレジーナ」
「裏切りです! ガデスが我々を裏切り米軍を呼び寄せました! 既に外では超能力者狩りが始まっています! 今はお兄様と共に落ち延びる事を最優先に!」
「っち! そこの女! バーンは恐らくまだ死んでは居ない、奴の呪力は未だ完全に消えていないからな……もしも起きる事があったなら伝えておけ、貴様を倒すのはこの私だとな!」
キースがそう言った直後、ノア本部全体に丸で内側から何がが産まれ出ようとしてるかの様な胎動が走り各所の建材が崩れ始める。
「キース様!」
「ああ分かった。すまんなカルロ、肩を借りる」
凍りついたバーンとソレに駆け寄るウェンディー、彼女を警戒しつつ兄と主君が逃げるのに合わせて少しずつ下がっていくレジーナと呼ばれた女。
ノアの3人がその場を去った直後、核爆弾でも投下されたのかと思うような轟音が更に下から響き渡ったのだった。