畜生道に堕ちたと思ったら五条悟の飼い猫になった件 作:鳳飛鳥
監視カメラの映像で闘いの状況を確認する御主人とウォン。
味方が敗北する度に苛立ちを露わにするウォンと、味方の無事に安堵する御主人。
けれども味方の側が完全勝利を収めた訳では無い、バーンがキースに敗北したのだ……殆ど相打ちと言っても良い形で。
「ああ、そろそろ時間ですね。では本日のメインイベントと参りましょう」
ソレまでの苛立った顔が嘘の様に……と言うか実際嘘だったのだろう、ニヤニヤと嫌らしい……或いは普段通りの笑みを浮かべリモコンを操作しディスプレイに映る映像を切り替える。
複数のディスプレイが繋がって擬似的に大画面に成ったそこには、ヘリコプターと武装したアメリカ軍と思しき軍人達が帳の中へと突入する姿が映っていた。
「はぁ!? 何で米軍が……テメェ!まさか!!」
御主人と此処にいる事事態がウォンの目的であり、時間稼ぎだったと気が付いた御主人が激昂し咆哮する。
「ご明察、私が手引しました……いやソレは正確とは言い難いですね。私は元々向こう側の人間なんですよ。私の目的は5つ、1つ目はノアに集まる超能力者達を使った様々な実験。地獄炉もその一つですね」
表情を全く変える事無く楽しそうにそんな事を言い出したウォン。
2つ目の目的はノアに合流する人員を増やし、ウォンだけでは出来ない実験の被験体を確保する事。
3つ目は
4つ目に日本の呪術界──総監部と高専、そして最強と言われる御主人に対する威力偵察。
「そして5つ目は……五条悟、貴方の抹殺です。ああ無論、今この場で戦って貴方を殺す事が出来るとは思いませんよ。でも……こうすればどうですかね?」
右手の指を気取った素振りでパチンと鳴らすウォンと、ソレに呼応して低い唸り声を上げていた地獄炉から凄まじい怨嗟の声を莫大な呪力が周囲に漏れ始める。
「ウォン! テメェ!」
「おっと、私を殺しても地獄炉は止まりませんよ? 私が此処で行う最期の実験です、地獄炉の臨界暴走実験。今直ぐにでも外へ出て避難を呼びかけないと酷い事になるでしょうねぇ? では、私はこの辺で失礼しますよ、今の私は地球の裏にでも跳べるのですから」
ボウ・アンド・スクレイプと呼ばれる胸の辺りに手をやりながらお辞儀をしたウォン、その姿は当に慇懃無礼と言う言葉を絵に描いた様である。
直後彼の姿が突然現れた暗い闇の中へと消え、その闇も一瞬にして消失した。
残ったのは暴走し今にも爆発しそうな地獄炉と、奴が座っていた無駄に豪華な呪具の椅子、そして俺と御主人だ。
「ちぃ! 六眼で読み解いても止め方が分からねぇ! けどこのまま放置すりゃとんでも無い事になるのだけは分かる! ポチこっちに来い! 無茶すっからフォローを頼む!」
「御主人! 無茶とは何をするつもりだ!?」
「お前がいっつもやってる事だよ! 泰山府君の祭は死者の蘇生で間違いないな? ソレで今生は終わって新たな生ってのも!」
「分からん! 死者蘇生なのは間違いないが、ソレが俺と同じ様に今生の縛りのリセットに繋がるかまでは試した事が無い!」
「んじゃ今試して見ようぜ! 先ずは自傷の縛り、そして俺は今失う左の薬指を今生の間、自分の反転術式では治さない! 更に次に放つ大技の為にこの命を今この場で天に捧げる!」
そう宣言した御主人は、恐らく普段は外側へと向けている無下限の無限を自分の身体の内側へと展開したのだろう、皮膚が裂け肉がちぎれ落ち、宣言した通り左の薬指がもげ落ち、心臓が内側から破裂し肋骨が露わになる。
「無理無茶無謀も良い所だ! 拡張術式『泰山府君の祭』!」
反転術式を回す事無く一度は死んだ御主人を俺の拡張術式が現世へと呼び戻し、グロ映像が巻き戻る。
「うし、次だ!」
そう言った瞬間先ず左薬指がへし折れて、ソレが御主人自身の反転術式で回復した。
「どうやら今生の縛りは、泰山府君の祭でリセットされるらしいな! ならもっと無茶が出来る! 俺は今生の間自身に反転術式を使わない! 自傷の縛りを更に重ね! 自害の縛りを用いて次に放つ術式の威力を上げる! ソレをストックが切れるまで繰り返す!」
反転術式に依る回復の禁止、自傷、自害、ソレ等の縛りを1度行うだけで、呪力量も出力も倍以上に膨れ上がる。
ソレを繰り返したならば、本人が持つ本来の呪力を足し合わせるのではなく、倍の倍、更に倍と莫大な力を得る事が出来るのだ。
……無論、痛みが無い訳では無い、死が精神と魂に齎す影響は決して小さなモノでは無い。
だがソレをする事で救われる命があるならば躊躇う事は無い、ソレが強者として生まれついた者の責務であり、強者が持つべき矜持と責任なのだと、以前御主人は俺に語った事がある、俺と言う猫もまた呪術界に置いては強者の側なのだから……と。
八回の自傷と自害、それから再生を繰り返した結果、今の御主人は恐らく原作最強の呪力を持っていたと言われる石流龍をも越え、完全体となった両面宿儺すら超える呪力量と出力を持っている事だろう。
「虚式『茈』」
ナマの御主人が放ってもいくつもの建物をブチ抜き、森を広範囲に渡って抉り取る、御主人最強の隠し技。
ソレを縛りで雁字搦めにする事で莫大な呪力量と出力を得て放てば……その威力は大概のモノを消し飛ばす……筈だった、暴走した地獄炉の放つ無限の呪力はソレすらも受け止めほんの僅かの間だが拮抗し、最終的には炉とその周辺を抉り取る程度まで軽減したのだ。
とは言え虚式『茈』が地獄炉のをブチ抜いた際に発した衝撃に俺と御主人は壁へと弾き飛ばされる……ついでに轟音で鼓膜が破けた、反転術式で直ぐに治したが。
……けれども地獄炉が消滅しても既に解き放たれた呪力が無くなる訳では無い、決して狭いとは言い難い部屋では有るがそこには何の色も着いて居ない莫大な呪力が満ちてる。
普通ならば此処まで濃い呪力が集まれば呪霊──おらくは特級──が産まれるが、地獄炉の呪力と言うのは良くも悪くも『特定の何か』と言う感情から産まれた呪力では無いので、ソレで呪霊が産まれると言う事は無いらしい。
「ポチ! バーンとウェンディーを途中で拾って外へ逃げるぞ! こりゃ間違いなく吹っ飛ぶ!」
コレがギャグ漫画の世界ならば爆発オチで死者が出る事は無いが、ここは死が日常の呪術廻戦の世界だ……まぁ他にも色々混ざってるが……兎角に逃げねば命が無い!
御主人の頭へと素早くよじ登ると、先ずはバーンとウェンディーがいる闘技場へと跳び、有無を言わせず2人を回収すると再び蒼で今度は外へと転移した。
直後響き渡る2度目の轟音と激しい振動は爆発現場の真上であるこの場所に観測機が有れば、震度6弱程度の地震として記録されていた事だろう。
立っている事も困難な揺れが辺りを襲い、揺れが収まるよりも早く動き出した地震慣れした日本人呪詛師と思しき一部がアメリカ軍の拘束を振り切って逃走する。
地震と言う災害に不慣れな者が多いアメリカ軍は、その振動の強さに恐れを為したのか、呪詛師全ての確保を諦め撤退を選択したらしい。
呪詛師集団ノアの野望はこうして無事に潰えた……だがアメリカ軍とリチャード・ウォンと言う次の火種をは間違いなく残っている。
更に言えば政局と言う現場にとっては何の役にも立たない理由で、作戦を中断させられた事も参戦した呪術師、補助官達の気持ちに不快感を残していた。
そうして日が明けた6月8日の朝、庵歌姫が高専へと凱旋した……反転術式を習得したと言う衝撃の報告と共に。
彼女が反転術式を身につける顛末はまた別の機会に語るとして、今は夜通しの作戦で疲れた身体を休める為に、御主人と共にマンションの自室で丸くなるのだった。