畜生道に堕ちたと思ったら五条悟の飼い猫になった件 作:鳳飛鳥
「はぁはぁはぁ……呪力が……無限の呪力が抜けて行く……」
「お疲れ様でしたウォン君、目的は概ね達成ですね。まぁどうやら五条悟が上手くやった様で、暴走臨界実験は不完全に終わった様ですし、彼を殺す事も出来なかった様ですが……まぁ最低限やるべき事は出来ているので合格点と言った所でしょうね」
「うむ、ミズ・イタドリの言う通り、被検体の確保は前回と同等以上だし、無限のサイコパワーを発揮すると言う炉の試験運用にも無事成功している。万が一炉が暴走した時の被害を日本で確認しておきたかったが……まぁソレは向こうが上手くやり過ぎただけだな」
ウォンが転移した場所は、日本から太平洋を隔てたアメリカ西海岸側カリフォルニア州の砂漠地帯にある29パームズと呼ばれる町にある、海兵隊基地の地下深くに作られた
「既に崩壊したエリア51跡地ならば、万が一炉が暴走しても被害は最小限で済むのでは無いかしら?」
「……成る程、検討の余地は有りだな。そして炉が生み出す無限のサイコパワーを既存のエネルギーに転換する技術を開発すれば、ステイツは世界に先駆けエネルギー問題から脱却する事になる」
エリア51……アメリカ空軍ネリス試験訓練場内に有った秘匿研究施設の通称であり、そこではUFOとエイリアンの研究を行っていると言う都市伝説が呪霊を産んだ。
呪霊が現れた事事態は完全な偶然であり事故や天災の類と言えるが、その後の脱出した超能力者達の動向は完全に彼等の描いた絵図面通りである。
イタドリと呼ばれた女が、被験者達に呪術戦の基礎の基礎を教えただけで『先生」等と敬称を付けて呼ばれる様になったのは、流石に想定外だったがまさか此処まで簡単にそして完璧に踊ってくれるとは、彼女も思っていなかった。
彼女とウォンの関係は数年前に遡る、大量の呪具を闇市場へと売り出して居た彼に興味を持ったイタドリが彼に接触したのだ。
呪具を作るだけが能の術式かと思えば以外や以外、戦闘面でも経済面でも日常生活でも極めて便利と言える術式である。
長い事日本の呪術界を見てきた彼女だが、海外にも目を向ければ日本には無かった術式を持つ血筋は今でもそこそこ有る事に気が付いた。
ソコからアメリカ軍の一部で超能力者を集めた部隊を編成しようと言う動きがある事を知り、
キース達、被検体が犠牲を払いながらも特級呪霊を祓ったのは正直嬉しい驚きだった。
とは言え彼等の大半は此処数年……中には産まれてからの大半を……被検体として秘匿研究所で過ごして来た者達で、放って置けば然程も経たぬ内に飢えや寒暖差に疲れ果て、野垂れ死ぬなら未だましで、つまらない呪詛師に成り下がる未来しか見えなかったのだ。
故にイタドリは呪術を使って経済的な成功者と成っていたウォンと連絡を取り、彼の欲望を擽る様な提案をして被検体達を日本へと送り込み、様々な実験を現地で行わせたのである。
「それにしても……日本のサイキッカー達はクレイジーだな。あんな刀一本で身を潰すコンクリートを放つ超能力に立ち向かうのだから……」
ノア本部で行われた闘いの殆どは、画像データとしてインターネットを通じてこの基地へと送られている。
ブラド・キルステンと言う被検体は、薬物投与の加減を間違えて精神状態が不安定に成ってしまったが、戦闘力と言う点では間違いなく上位の個体だった。
ソレを刀一本でねじ伏せた日本のサイキッカー≒呪術師の存在は、大佐にとっては余りにも衝撃的な物だったのである。
戦場に置いては『あり得ないと言う事こそあり得ない』そんなのは、軍務に身を置いていれば何度も経験する事だ。
実際彼はコソボやイラクでの戦争に置いて現場の士官として現場で戦ったが、確実に死んだと思った敵兵士が死んで居らず、反撃を受け咄嗟に部下が庇ってくれなければ、今この場に居なかった可能性が高い。
他にも機関銃の火砲が飛び交う中を丸で散歩でもするかの様に歩き回り、敵兵士を殺して回る傭兵の姿を見た事も有る。
前者は兎も角、後者は恐らく……いや間違いなく超能力者だったのだろう。
当然超能力者が戦場で優位な存在だと裏付ける彼の経験はその2件だけでは無い、今思えば……と言う様な不可解な事柄は幾つも転がっていたのだ。
故に彼は超能力者軍団と言う普通に考えれば絵空事、或いは狂人の戯言として切って捨てられるだろう計画を、様々な根回しの末に実行へと移した。
……だが彼がソレを思いつくよりも先に、その前身とでも言うべき超能力者研究は既にエリア51と言う場所で、軍の予算を使って行われていたのだ。
とは言えソレは飽く迄も『超能力者』とは何かと言う基礎研究に過ぎず、規模も彼が赴任した後に比べれば本当に極々一部の軍歴を持つマッドサイエンティストを飼い殺しにする為の研究に過ぎなかった。
いや彼が参加しても尚、実戦へと向けた成果は何一つ上がらなかった。
確かに薬物投与に依るサイコパワーの強化や、
そこに風穴を開けたのが忌々しい事にアジアンでジャップで更に女のイタドリだったのだ。
研究者達から
そしてイタドリが此処へとやって来てから、ソレが事実だと言う事は痛いほどに理解出来ている。
彼女の助言一つで箸にも棒にもかからないと思われていたサイキッカーが結果を出すようになり、逆に自分達が持て囃していた高いサイコパワーを持つ者が、ソレを何等かの効果に転換する能力を持っていなかった事が発覚したり……数えれば枚挙に暇がない。
基地に
しかし結果はどうだ? イタドリが手配した未捕捉だったアジアンでチャイニーズの超能力者は、失ったと思った被検体の多くを取り戻し、更に日本で非合法活動をしていた超能力者を丸っと手に入れる事に成功したのである。
ステイツこそアメリカンこそホワイトこそが最も優れた存在だと本気で信じていた彼は、非常に悔しいがアジアンも決して侮って良い存在では無い……と多少は考えを改めた。
日本の施設から送られてきた実験データや、戦闘の様子を記録した映像データを見る限り、自分が想定していた程度の戦力では日本のサイキッカー組織を壊滅させ、世界最強のアメリカを取り戻す事は未だ無理だと判断出来たのだから。
「兎角、炉が使い物になると分かった以上は、早急に新たな炉を建造し、ソレを使ってさらなる研究を続けるとしよう。リチャード君、無事に超能力者軍団が完成した暁には君が現場指揮官として再び日本へと乗り込んでくれたまえ、支援は惜しまない」
「有難うございます、閣下のお眼鏡に叶う仕事を必ず成し遂げて見せましょう」
「炉の有用性を示す為にも、日本の呪術界を……五条悟と言う最強を倒しておく必要は有るでしょうね。日本とアメリカは同盟国では有るけれども、現状前回の様に
煽る様にそう言うイタドリ、事実大佐はソレを一番気に病んでいるのだ。
天元の浄界の外に湧く呪霊は基本的に特級に区分される莫大な呪力の塊であり、そう簡単に湧く事は無いが一度出現すれば日本の協力を仰がない限り、莫大な被害を出し続ける事になる。
ホワイトでもアメリカンでもクリスチャンでも無い者に、頼らざるを得ない現状は最強のU.S.Aを信奉する者としては決して受け入れ難い事実なのだ。
65年前に散々叩きのめし2発の原爆を叩き込んで何方が上なのかを分からせた筈の相手の手を借りねば、自国の災害を処理することすら出来ない……コレは屈辱以外の何ものでも無い。
今は一応は同盟国と言う事でアメリカに呪霊が出現すれば、ホットライン一本でソレを討伐する人員を引っ張り出す事が出来るが、もしもこの先日本との関係が悪化した時、日本はソレを外交カードとして使ってこない保証は無いのだ。
自国の防衛だけを考えるならば、日本の呪術界にわざわざ喧嘩を売る必要は無かった筈である、しかしそれではU.S.Aの最強を示す事が出来ない。
そんな本末転倒とも言って良い思考に陥っている大佐、彼もまた目の間にいる女の掌で転がされている事に本人すらも気が付いて居ないのだった。