フェア・クラネルの嫁作り   作:パーンダ

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日付変わったくらいに投稿しようと思ってたんですが、ゴキブリと戦ってました。


【√B】アリシア①-暗中行路

【ロキ・ファミリア】の【重傑(エルガルム)】、ガレス・ランドロックはLv.6の猛者である。

 攻撃役としても壁役としても破格の能力を持つ、実にドワーフらしい超前衛特化型の戦士だ。超重量の大戦斧による閃撃の破壊力は埒外(らちがい)で、まともに喰らえば階層主とて大ダメージは免れない。

 

「──お、おぉおおおおおおおおおおおっッッ!」

 

 荒々しい雄叫びと共に、ガレスが床を踏み砕く。

 大戦斧を構えて飛び込む。連撃(ラッシュ)を食らって仰け反っている敵の懐へと。

 

「砕け散れぇえええええええええええええええええええいッ!」

『──オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッッ!』

 

 振り上げ、からの直上からの叩きつけ。

 異形の両腕が天井の方向に上がる中、その脳天に渾身の一撃を叩き込む。横なぶりの雨を切り裂き、雷轟(らいごう)の叫喚が打ち上がった。

 

『──ウ、ウオオオオオオオオオオッッ!』

「ちいっ!‍? しつこいやつめ!」

 

 漆黒の外殻が砕け散るも、即座に()()する。

 紅の(たてがみ)が衝撃によって揺れる中、頭部に生じた亀裂が塞がる。 

 次の瞬間、ドッッッ、と。

 禍々しい異形が弾丸のように前に飛び出す。振り上げた鉤爪を力任せ、大戦斧に叩きつけた。

 

『オオオッ! ウオオオオオオオッ!』

 

 どう猛な吠え声と共に、二撃、三撃、四連撃。

 ガレスは得物を掲げて敵の連続攻撃を受け止める。

 今しがた吹き飛ばされたラウルを一瞥(いちべつ)。敵に向かって忌々しそうに舌打ちを鳴らし、眉間の皺を深くした。

 

「重い……が、階層主(ウダイオス)ほどではない! ええいっ、耳元で叫ぶでないわ! 黙らんか! やかましいモンスターめ!」

 

 (パワー)は拮抗。

 速度(スピード)に関しては()()()()()()()。小細工なしの真っ向勝負で押されつつある、あまりよくない状況と言えた。

 

「なんちゅう出鱈目なモンスターじゃ……ダンジョンというのはこれだから、嫌になるわい!」

『さっきから黙って聞いておれば──モンスターだと? 黙れドワーフ。(わらわ)はモンスターなどではない!』

「!‍? また喋りおった! なんなんじゃ貴様はッッ」

 

 女の濁った声が発せられる。ガレスは構わず大戦斧を横に一閃。しかし異形は地面を踏み砕き、大跳躍をもって破砕の一撃を回避した。

 吹き荒れる暴風に晒されながら、雷合(らいごう)の絶叫を響かせる。

 

(わらわ)の名は【ビャクラ・ダラ】! 【光姫(こうき)】の式神にして白き乙女の盟友──下賎な怪物共と一緒にするでないわ間抜けめ──!』

「──ッッ!‍?」

 

 そして、空中で()()

 禍々しい爪を握り締めて拳を作り、急落下と共に放たれる叩きつけ。

 さらに蹴り上げ、回し蹴り、踵落とし。

 

()ね──!』

 

 鞭のように尻尾がしなる。

 暴れ回る極太の針がガレスの頬を切り裂き、ドワーフの血潮が雨天に舞った。

 

「ぐぅっ、ぐっ、ちょこまか、とっ!‍?」

『ここで(わらわ)と邂逅してしまったこと、運が悪かったと諦めるがいい! 果てよ、冒険者!』

 

 鋼鉄の外殻が何度も戦斧に衝突し、連続する爆音。

 立て続けに発生する超特大の衝撃波。

 突き出された大戦斧が上へ下へと揺さぶられ、ドワーフの兜がひび割れた。

 

 

 ◆

 

 

 現在地39階層。

 白い石柱や壁画(レリーフ)が多く見られる大広間。そこは、更なる奈落へと続いていく一本道だ。

 姿が見える仲間の数は十四。

 幸いなことに重傷者はいないようだが、戦力としてアテにできるのはアイズだけ。同行していた【ヘファイストス・ファミリア】の上級鍛冶師(スミス)達は、その大部分が別の場所に落ちたようだ。

 目下のところ、敵の数は()

 背後は崩落してしまっており、上の階層へと続く唯一の道は完全に隔絶。崩落によって削ぎ落とされた足場は広く、そして長く。第一級冒険者の身体能力をもってしても、飛び越えて進むのは無理だ。

 フィン・ディムナはそこまで把握したところで、決断した。

 

 

「──椿(ツバキ)! 君は──いや、()()()()! 早くしろ()()()()ッ!」

 

 階段側に落下していた第一級冒険者、【ヘファイストス・ファミリア】の椿(ツバキ)・コルブランドにその一声を投げつけた。

 フィン達との合流を試みていたハーフドワーフの鍛冶師(スミス)は、口惜しそうな表情で叫び返す。

 

「ッ、すまぬ! 団員達のことは任せたぞ!」

「ああ、君のところも含めて、全員無事に生還してみせるさ! だからガレスを頼む! 戦力的に厳しいのは、どう考えても()だからね!」

 

 彼女には先に上に戻ってもらい、自分(フィン)達は散り散りになった仲間を集めに向かう。もとより階段までの通路は進行不能なのだ。ならば、これが最善手。上がどんな状況なのかはわからないが、ガレスが踏ん張ってくれていると信じるしかない。

 

「ああ、わかっておる! ──信じるぞ、フィン! 【剣姫(けんき)】! 無事に上で合流しよう!」

 

 後方から威勢のいい声が響いてきた。次いで大きな足音が。

 フィンは前方を睨みつけたまま、軽く右腕を上げて椿に応えた。

 さて、どうしたものかと長槍(ランス)を構え、小さな声でアイズを(いさ)める。今まさに敵に突撃しようとしていた金髪金眼の女剣士は、凍りついた表情で動きを止めた。

 

「フィン、さっさと倒さないと」

「ああ、わかっているさ。重傷者がいることも想定して、速やかに動き出さなきゃいけない。しかし、その前にやるべきことがある──戦う前に聞いておきたい。()()()()?」 

 

 闇の先には赤い髪の女がいた。

 無感動にフィン達を眺めながら、脱力した手に長剣を握っている軽装の女。

 この大広間への落下直後、彼女は待ち構えていたように現れ、そして襲いかかってきた。何度か衝突を繰り返すも決着はつかず、これでは先に進めない。

 

「いや、君()は何者だ?」 

 

 フィンの黄金色の瞳が二匹の獣に向けられる。

 赤髪の女の左右。二足歩行する赤黒い獣が、不気味な呻き声を漏らしていた。

 

『オオォ……』

『オォ……ウォォォォォ……』

 

 前に踏み出した獣達を、赤髪の女が左手を浮かせて静止する。ぴたりと動きを止める怪物達は、引き続き冒険者達を睨みつけた。

 

「我々が何者であれ、敵であることに間違いはないのだ。ならば戦うしかあるまい。そうだろう、小人族(パルゥム)?」

「違いない、とは言えないな。せめて名前くらい教えてくれないと困るね。今後を考えても、それくらいの情報は貰っていきたい」

 

 フィンは肩をすくめる。

 目の前の赤黒い獣達。紅の(たてがみ)が印象的な二匹。姿形は全く同じ。妖しい紅光が在りし日の記憶を呼び覚ましてきた。

 フィンはあの獣を見たことがある。

 本当にたまたま。ダンジョンに一人で潜った時に偶然見かけた。今は亡き【ヘラ・ファミリア】の構成員が使役していた()()だ。それがなぜ、今になって、こんなところに出現するのか。それも正体不明の女に使役される形で。

 

「殺し合う相手の名前くらいは知っておきたい。自己紹介くらいはしてもいいだろう。ちなみに僕はフィン・ディムナ。こちらはアイズだ。後ろに控えている仲間達のことは割愛するよ。君達とやり合うのは僕とアイズだけだからね」

 

 フィンは挑発的に鼻を鳴らした。

 女はやはり無感動なまま、淡々と声を返す。

 

「──レヴィスだ。この獣共のことは割愛しよう。どうせ量産品だ」

 

 そう告げ、長剣を握る手に力を込める。 

 次には一気に飛び出し、襲いかかってきた。

 

「アイズ! 来るぞ!」

「いいよ、私が受ける」

 

 アイズが飛び出し、金の髪がたゆたう。

 刹那、衝突。

 薄闇の中に火花が散った。

 

「っ!」

 

 重い──それが最初に抱いた感想。

 どこにこんな化け物が潜んでいたのか。Lv.6の第一級冒険者(アイズ)の腕力を()()()()()()()怪力。紛れもない危機感をもって、アイズは息を吸い込んだ。

 

「──ッ!」

「思っていた通り、強いな」

 

 アイズの愛剣《デスぺレート》が相手の長剣を押し返す。弾き上げた直後に飛んでくる女の右脚。アイズは目を細め、後退。    

 そして踏み込み。

 逆に斬りかかり、高速度の連撃を繰り出した。

 

「なるほど。やはり、そこそこやる。お前は強い」

「あなたは──」

 

 長剣とサーベルが舞い狂う。打ち鳴らされる剣の旋律。高速移動する二つの影。立ち位置が何度も入れ替わり、闇の中を縦横無尽に駆け回る。

 

「──さっさと小人族(パルゥム)をやれ! 聖獣の分身【デミ・ビャクラ】!」

 

 アイズは瞠目する。

 動きを止めていた獣達が同時に駆け出し、加勢しようとしていたフィンに向かって飛びかかる。第一級冒険者でなければ反応できない高速で、左右から鉤爪(かぎづめ)を振り下ろした。

 

『『オオオオオオオオンッ!』』

「ふむ……かつては人類と共にあった、聖獣の分身……か。つまり過去の亡霊ということだ。面白い」

 

 長槍一閃。

 フィンは正確無比な槍さばきで顎を狙った。流れるように二匹まとめて。破砕音が大広間を駆け抜け、赤黒い影が二つ宙を舞う。

 

『『──オオッッ』』

 

 あちらは問題ない。

 フィンの優勢を確信するなり、アイズは加速する。

 

「【目覚めよ(テンペスト)】!」

 

 紡がれた呪文が気流を呼ぶ。

 大きな一声により発動するのは、【剣姫】アイズ・ヴァレンシュタインの魔法【エアリアル】。剣に、体全体に風の力を付与する高出力の付与魔法(エンチャント)

 母を思い出させてくれる風の魔法は、アイズの速度を爆速的に押し上げる。

 

「拮抗するなら、私が勝つ!」

「──ちっ」

 

 間合いに入られるなり女は後退。

 貴石のごとき緑色の瞳を見開き、アイズから距離を取ろうとする。

 

「まだまだ、行くよ」

「その風、やはりか」

「──倒す!」

 

 アイズは逃さない。

 風の咆哮に背中を押され、袈裟斬りを放つ。咄嗟に防御した女の踵が床にめり込む。そこに更なる斬撃を見舞い、凄まじい風圧が赤い髪をぶわりと浮かす。

 高速の中で緑色の瞳と目が合った。

 すぐに無感動に戻った女の瞳。それはじっとアイズなことを見つめていた。

 

「──いける」

「いいだろう。全力で来い、()()()

「ッ!‍?」

 

 横一文字。

 長剣を撃墜し、その勢いのままに風の刃を叩き込む。くの字に折れ曲がった女の体は虚空を切り裂き、凄まじい勢いで後方へと飛ばされた。

 アイズが見つめる先で、ガガガガガガガッ! と壁をぶち破ること少し、何かが崩れた音が大広間に響いてくる。

 

「アリア、どうしてその名前を……」

 

 アイズは女が飛んで行った先──崩れ落ちた壁を凝視した。荒い呼吸を整えながら、金の双眸を大きく見張る。

 

(どうして)

 

 あの女は、出てくるはずのない名前(たんご)を口にした。今は遠くにいる母の名前だ。いつか取り戻すことを誓っている家族の名前だ。

 あの女は、母について知っている──? それなら今すぐ問いただしたい、と壁に向かって近づこうとしたが

 

 

「──アイズ! 新手だ! みんなを守れ! 魔導士は砲撃準備! アイズを援護しろ!」

「!」

 

 フィンの声を受けて足を止める。

 大広間の先に目を向けると、闇の先から複数の巨大な影が這い出してきていた。

 フィンと赤黒い獣達との戦いは続いている。

 速度では彼が勝っているが、敵の耐久性能は非常に高いようだ。何度攻撃しても致命傷を与えられていない。吹き飛んだ直後には立ち上がり、吹き飛んだ体の部位は()()()()

 

『オオオオオオオオオンッッ!』

『オオオオオオオオオオオンッ!』

 

 そう、再生だ。耐久というより、修復力が尋常じゃなく高い。

 フィンは聖獣と言っていたが、アイズにはおぞましい何かにしか見えない。一瞬で再生する腕の様子を見て、わけもわからず寒気がした。

 

『──アアアアアアアアアアアアアアアッ!』

『──アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!』

「アイズ、来るぞ! エルフィ達を守れ!」

 

 フィンの鋭い声が飛んでくる中、緑色の巨軀が破鐘(われがね)の絶叫を轟かせる。

 蛇のようにうねる細い胴体。その先端には五枚の花弁と鋭い牙。根元部分では大きな肉の塊がどくんどくんと胎動していた。

 数は七。そして、あのモンスター達もまた初見。

 

 

 ──食人花。

 

 

 そんな単語が脳裏を掠める中、アイズは後方に控える仲間達に声を飛ばす。

 

「私が突っ込むから、エルフィ達は様子を見ながら援護して! 無理はだめ、自分の身を守って!」

「わかりました! 動ける魔導士は四名です! 任せてください、アイズさん!」

 

 赤髪の女に続いて、第2ラウンド開始。

 アイズは迷宮床を蹴り砕いた。

 

 

 ◆

 

 

「ガレスさん!」

「手を出すなラウル! お前達にこやつは厳しい! ()退()するんじゃ! ここは儂が持ちこたえる! 早うせい! これ以上モンスターが集まってきたら、どうしようもなくなるぞぉ!」

 

 ガレスの大戦斧が聖獣の体の部位を切断する。根元から叩き切られた極太の尻尾が灰と消え、そして()()()()()()()

 腕を切り落とそうが胴体を切断しようが同じ。

 額から血を流しながら奮戦を続けていたドワーフは、ガリッと奥歯を噛み砕き、更に叫ぶ。

 

「ラウル! しっかりせえ! おいラウル!」

 

 決断を迫られるヒューマンの青年、ラウル・ノールドはびくりと震えた。

 ガレスを残して後退。下にはまだフィンをはじめ仲間が多く取り残されている。その状況で、自分達だけ撤退するなど受け入れ難い。きっとそのように考え、冷静さを失いかけていたのだろう。

 

「ラウル、行きますよ! このままではジリ貧! 退路がなくなってしまう!」

「アリシアさん、で、でもっ! まだ団長達も残ってるんすよ!‍?」

「そんなこと、私だって百も承知しています! しっかりしなさいラウル・ノールド!」

「っ!‍?」

 

 普段はおっとりとしているエルフのアリシアに怒鳴りつけられ、ついでに背中を殴られて我に返る。

 目を白黒させるラウルに、アリシアは続けて叫んだ。

 

「第一級冒険者が複数、恐らくすぐそこまで来ています! 彼らに救援を仰ぐ! 相手が誰であろうと四の五の言ってはいられません! 私達がここにいても、ガレスさんの足を引っ張るだけです!」

 

 寄ってきたモンスター達を全滅させるや否や、その死骸を踏み潰して巨人達が寄ってくる。

 大型級モンスター『ロックウッド』。樹の体軀(たいく)に岩の四肢を持つ、樹胴岩肢(じゅどうがんし)のモンスターだ。

 本来は周囲の岩や湖沼に浮かぶ倒木を装って冒険者に襲いかかる擬態モンスター。しかし今この場においては小細工なしで突撃してくる。弱った冒険者を前に擬態など必要ないと言わんばかりに、どこからともなく集まってくる。

 

「ラウル、撤退しますよ! 魔法を放てば強烈な反撃(カウンター)が飛んでくる! モンスターは増える一方! そしてガレスさんは私達がいる限り、戦い続けるしかない! ジリ貧なんです、このままでは! ──レフィーヤ、私が殿(しんがり)に入ります! あなたは遊撃! 前も後ろも関係なしに、どんどん爆撃してください! 魔力はまだまだいけますよね!‍?」

「わ、わかりました! 魔力はあります大丈夫ですっ!」

 

 ビャクラと名乗った赤黒いモンスターは、魔法を放つと強烈な反撃(カウンター)を見舞ってくる。毎回ではないが()()して、敵味方問わずに大きな損害を受けることになるのだ。

 そして『ロックウッド』の能力はギルド推定でLv.4。まとまった数を処理し続けるのは厳しい。平時ならともかく、負傷者を背負った状態では。

 

『ォォォォォォ……』

『オォォォォォオ……』

『ォォォ……』

 

 フィンからの事前情報によれば、第一級冒険者のパーティが50階層を目指して進行中。

 あまり良い印象のない一団ではあるが、それはあくまでアリシアの個人的な印象だ。悪い人間達でないことはわかっているし、ここは恥を忍んで救援を頼む。

 そのためにも、まずはこの場を切り抜けて合流しなければならない。

 

「ラウル!」

「わかったっす! わかった! すみませんガレスさん!」

「いいから早くせんかッッ! 退路が消える前に早く行けぇ!」

 

 ガレスの絶叫に背中を叩かれ、進路を塞いでいる『ロックウッド』三匹を相手取る。その後方でも四、いや五つの巨大な影が動いている。

 ちまちま各個撃破していては効率が悪い。

 アリシアはラウルを先頭に据えると、自らも彼の隣に立った。

 

「ラウル、私と一緒に前線を維持してください。ナルヴィ達は盾を構えて防御。レフィーヤは詠唱()()しなさい! 回避も防御も考えなくていい! まずは道を作りますよ! 私はその後で殿に回ります!」

 

 動けるようになった第二級冒険者達に壁役(ウォール)を指示し、ラウルを(ともな)い剣を片手に走り出す。

 

「【凍る空、天上の蒼雨(あめ)。森を彩る白氷(はくひょう)よ】」

『ォォォォォォ……!』

 

 淡い蒼光を迸らせながら、アリシアは『ロックウッド』を切り裂いた。即座の反撃が蜂蜜色の衣を掠めるも、肉体への被弾はなし。

 軽やかに足を動かし跳躍し、剣で追撃する傍らで詠唱を継続。

 

「【浅ましき蛮族を()ち払え】!」

『ォォォォォォッッ!』

『ォォォォォォ……ッッ!』

 

 左右からの叩きつけを真上に飛んで回避。死角から岩の腕が迫ってくるが、それは()()

 ふわりと長套(スカート)をたゆたわせながら、詠唱を続行した。

 

「させないっす!」

『オォッ!‍?』

 

 急迫する岩の拳。刹那、閃くラウルの銀剣が、ロックウッドの一撃を()()した。

 ここにはいないラウルの同期、猫人(キャット・ピープル)のアキほどではないが、アリシアでもこの程度なら彼に合わせられる。伊達に長年同僚をやっているわけではないのだ。それも幹部に次ぐ二軍戦力として。これくらいの阿吽の呼吸は当然。そうじゃなきゃ深層でパーティなど組めない。

 

「【凍てつけ、冬の縛鎖(ばくさ)】」

「【狙撃せよ妖精の射手、穿て必中の矢】!」

 

 アリシアの詠唱が完了する。ほぼ同時にレフィーヤも。山吹色の妖精が長杖を前に突き出す上で、蒼と白の光球体(スフィア)がパーティの頭上に現れる。

 アリシア得意の氷結魔法、雹の眩い輝きがダンジョンの闇を照らし出した。

 

「【ヘイル・ダスト】!」

「【アルクス・レイ】!」

 

 光球体から無数の雹弾が放たれた。

 曲がりくねり、直進し、直角に起動を変え、変幻自在に怪物だけを射抜いていく。

 アリシアお得意の全方位攻撃魔法、【ヘイル・ダスト】。その掃射性能の汎用性は実に高い。

 そして、撒き散らされる恐ろしい冷気の中、敵に向かって突き進のはレフィーヤ必殺の閃光矢である。

 

『ォォォォォォッッ!‍?』

『オォ……ッ』

『──────────ッッ!‍?』

 

 雹で破壊された怪物の体軀が、次々と()()していく。

 ロックウッド達の死骸が灰となって巻き上がる。

 そして道が開く。一気に開けた。

 

「さすがっす、レフィーヤ! アリシアさんも!」

「はぁ、はぁ……まだまだいけます!」

 

 汗を拭う山吹色の妖精は、口だけではなくまだまだ砲撃できるはずだ。

 Lv.3でありながら、レフィーヤ・ウィリディスの魔力はLv.4に匹敵。比べる相手によっては上回ってしまうほどの規格外である。

 大魔導士リヴェリア・リヨス・アールヴの後継者。

 そう言われるに相応しい、眩いばかりの才覚を持っている同胞、それがレフィーヤ・ウィリディス。

 今はまだアリシアのように踊りながら(うた)うことはできないが、できるようになるのも時間の問題だろう。

 

「ラウル! 前進します! 目的地、37階層への連絡通路! 運が良ければ、そこで【刀紅剣騎(フェア・アージュ)】達と合流できます! 彼は女の敵ではありますが悪人ではないようなので、知らん顔をしたりはしないはずです──恐らく!」

 

 ちらりと後ろに目をやると、小さくなった二つの影が今も戦いを続けている。

 自分達がいなくなれば、ガレスは離脱できるはず。

 ドワーフの無事を祈りながら、アリシアは連絡通路の方角を目指して走り出すのだった。 

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