フェア・クラネルの嫁作り   作:パーンダ

2 / 16
ヒロインはそんなに多くない。なにせほとんどベル君√だからね!


新時代のゼウス

 火力バカになりたかった────。

 フェアは蒼い炎の中で、ふと思った。

 双頭竜の同時火炎放射(ドラゴン・ブレス)を弾き返しながら、かつての願いを思い出した。

 そうだ。自分はヴァルトシュテインのような英雄になりたかったのだと。

 世界を滅ぼす力を持った竜を一太刀(ひとたち)で追い払ったという、埒外の力を持った古代の英雄のように。バグった攻撃力が欲しかった。そうすれば恐ろしい怪物達を一人でガンガン倒せるし、階層主(モンスターレックス)だって単独撃破できるだろう。

 そこまで強ければハーレムを作ったって許されるはずだ。最終的には死んでもいいから、救界(マキア)とやらに挑戦してみたい気持ちもある。

 しかし、現実は残酷であった。フェアはどれだけ頑張っても攻撃力に難アリな存在。頼れる魔法は発現してくれたものの、他者の協力がなければ使うことができない制限付き。一人で強敵をガンガン倒して英雄になるのは、無理そうであった。

 

 

『『オオオオオオオオオオオンッッ!』』

「うるさい! 火を噴きながら叫ぶな!」

 

 今現在、相対している双頭竜──アンフィスバエナくらいなら倒せる。時間をかければ。

 アンフィスバエナはダンジョンの中ではそ(・)こ(・)そ(・)こ(・)危険度の高い階層主だ。上層、中層、下層、深層と順に危険度が上がっていく中で、深層の次に難易度が高い下層のボスモンスターである。それを単独で倒せるのは凄いことなのだが、フェアの憧れは古代の英雄ヴァルトシュテイン。それか終末の竜を追い払えるような超強い存在だ。

 アンフィスバエナくらいで満足などできない。そして、単独撃破できる最強の相手がコレというのは、とても不本意な現実であった。せめて憂さ晴らしに倒してしまいたいが、今はそれすら許されない。

 

『『オオオオオオオオオオオオンッッ!』』

「おい何モタモタやってんの! 倒すなら早く倒せ!」

 

 現在はとある【ファミリア】の修行中。ランクアップを狙っている数人のために双頭竜を引き付け、冒険者達にはガンガン攻撃してもらう。

 そういう流れのはずなのだが、先程から攻撃の手が緩んで緩みっぱなしだ。半ば怒鳴り声で呼びかけた先、冒険者達は歩(・)く(・)魚(・)と戦っている────。

 

「フェア、申し訳ない! 無理です!」

「マーマンが多すぎる! これではそっちまで手が回らん!」

「聖女様を守るので精一杯だ! うん無理! アンフィスバエナまで手が回らん!!」

 

 合計四つの【ファミリア】の連合軍。計二十二名は二足歩行する気持ち悪い魚、マーマンの大群と交戦中。階層主に狙いを定める余裕はなく、聖女の治療がなければ全滅もありえる有り様だ。

 階層主を倒して経験値(エクセリア)大量ゲット大作戦は、失敗! フェアは有料で手伝っているのだが、失敗の場合は報酬は70%に減ってしまう。だから死ぬ気でやれとキレたいところだが、彼ら彼女らは本当に生きるか死ぬかの戦いだ。

 

「【戦場の聖女(デア・セイント)】を守れ! 何かあったら損害賠償だけじゃすまないぞ!‍?」

「【ディアンケヒト・ファミリア】の連中は全員守れ! うっかり死なせでもしたら、俺達はもうオラリオの街を歩けねえぞ!」

「アウラ障壁を早く! 俺達が社会的に死んじまう!」

「ええいもうやっている! おいっ、どうしてネルティが来ていないんだ! あいつはLv.5になりたいんだろう!‍?」

「ネルナッティは地下ライブだ! 地下アイドルだからな! そっちの活動があるんだろう!」

「わけがわからん! いい加減にしろっ!」

 

 冒険者達は大混乱である。

 フェアは悲しい顔になった。

 昔から親交のあるエルフ、アウラが顔を真っ赤にしてキレ散らかしているが、そんな暇があったら魔法を唱えろと言いたい。

 

「頃合いです──フェアさん、倒してください! モンスターが減るどころか、むしろ増えてきました。治療が追いつかず即死されてしまうと、私(わたくし)でもどうすることもできません」

 

 ほぼ一人で全員の治療を担っていた白銀の髪の娘、アミッドが諦めの意志を示した。

 銀の聖女。あるいは【戦場の聖女(デア・セイント)】の二つ名で知られる、世界最高峰の治療師、アミッド・テアサナーレ。

 彼女は今回の作戦において、必要不可欠な存在であった。その神がかった魔力と反則級の治療魔法をもって、負傷即全快の領域構築。さらには盾役のフェアの鉄壁スキル発動のトリガー。

 フェア・クラネルは治療魔法を耐久力に変転できる。誰の治療魔法でも良いというわけではなく、神聖じゃないと効果が下がる。神聖かどうかの判断基準は彼自身の感性とのことで、今のところ神聖なのはアミッドしかいない。ゆえに、使い勝手は悪い!

 

「治療魔法をかけ続けます。そのまま突撃してください、フェアさん!」

「既にしてる! めっちゃ燃えてる! 死にはしないけど痛くないわけじゃないんですからね!」

「無論、承知しております。さあ、早く止めを!」

「痛いし灼熱で痛いんですよ! 鬼かあなたは! 昔は優しかったのに、なんで最近は俺だけ扱いが雑なんだ!」

「主に破廉恥な視線、言動、行為のせいです。あえて今、申し上げましょう。恥を知りなさい!」

「俺にだけキャラ変するのやめて! 誰にでも慈悲深い万能聖女はどこいった! かつてのあなたはどこに行ってしまったんですか!」

 

 フェアは双頭竜を交互に殴りながら、絶望の叫びを放った。

 スキルにより耐久性能は爆上がりしている。しかし、その代償として治療効果は受(・)け(・)ら(・)れ(・)な(・)い(・)。

 だから燃えたらそのままだし、齧(かじ)られたら大量出血して止まらない。そして、いくら硬くても攻撃されたら削られるし、やっぱり痛いのである。

 

「このブサイク姉妹、ぶっ殺してやる!」

『『オオオオオオオオオオオオオオオンッッッ!』』

 

 とにかく、斬る、斬る、斬る。

 今は戦術とか考えるのダルいから、ひたすらガンガンいこうぜを選択して、斬る!

 アンフィスバエナなら、それでいける。

 ゴリ押しで倒した後は、あのセイントお姉さんに仕返ししてやる。聖女とか無理そうなおっぱいをガン見してやると意気込んだ。

 

「聖女なら、もっと慎ましい見た目でいろ!」

「──【ディオ・テュルソス】!」

 

 次の瞬間、極大の白光がアンフィスバエナの後方から接近! ゴミを見る顔のエルフ、フィルヴィスが放った7割出力の魔法が、二頭の竜を焼き払った。

 一瞬で、断末魔ごと呑みこみ、激戦を繰り広げていた冒険者の全身も巻き込んだ。フェアの視界は真っ白に染まった。

 

「──おごっ!‍?」

 

 細くも筋肉質な体が、口から煙を吐いて飛んでいく。薄暗くなった水晶の空間を横断し、背中から水の中に突っ込んだ。程なくしてヤバい音が響いた。

 水底のクリスタルを突き破って、下の階層に転落したのだ。

 

 

◆

 

 

「やりすぎたとは思っています。しかし、あなたも色々と改めるべきです」

 

 ダンジョンの中にある安全地帯。

 比較的安全で街もあるというだけで、たまに壊滅したりしなかったりする18階層リヴィラにて。

 オラリオが誇る最強の治療師、アミッド・テアサナーレは開き直っていた。フェアから見ると開き直っているようにしか見えなかった。

 

「フィルヴィス様は呆れてどこかに行ってしまわれました。当然でしょう。治療そっちのけで抱擁を迫るなど、正気の沙汰とは思えません」

 

 場所はさびれた宿酒場。酒も料理もほとんどメニューが不味いので、荒くれ者が多いリヴィラにあって常にガラガラ。

 そこで比較的まともな味のメニューをチョイスした後、銀の聖女は更に冷ややかな態度になった。つまり店に来る前から冷ややかだったのである。フィルヴィスに抱きつこうとして、返り討ちにあった一部始終を見ていたからだ。この男はどうしようもない、という内心が滲み出ている。

 

「それにしても、やはり無理がありましたね。せめてLv.4の前衛をあと一名。Lv.3程度の魔導士を数名。最低限そのくらいは加えないと、今回のような異常事態(イレギュラー)には対応できないかと」

「俺は頼まれたから手伝っただけなんで、俺に言われても困ります」

「私はあなたに頼まれて足を運んだのです。つまり依頼主はあなたですので、きちんとして頂かないと困ります」

 

 と言いつつも呼べば来てくれるので、嫌われているということはない。日常的に仕事のお手伝い(有料)もしているので、関係性は悪くないはずだ。  

 まあ、たしかに今回はあまり宜しくなかった。

 それは認めて反省しないといけない。アンフィスバエナに挑むにあたり、パーティの総合力が大きく足りていなかったのだ。予定ではLv.4の黒妖精も来るはずだったのだが、記念ライブの方が大切だとかで当日欠席。Lv.3の前衛はライブを見たいと言って途中で帰ってしまうし、お前らほんと真面目にやれと叱ってやりたい。帰ったら詰めるつもりだ。

 

「それに、あなたは手を抜きすぎです。あのような無様を晒す前に、討伐できたはずですよ。私が口出しせずとも、そうすべき時機(タイミング)はわかっていたと思いますが」

「経験値(エクセリア)稼げる機会は限られてますからね。せっかく下層まで行ったんだし、ギリギリまで粘ってもらった方がいいと思って。銀の聖女様の支援を受けられる機会も貴重ですし」

 

 フェアはジョッキを手に取り、麦酒(エール)をゴクゴクと飲み干す。外は明るいが知ったこっちゃない。本日の仕事は終わったのだ。後は適当にダラダラ過ごしても構わない。

 

「フィルヴィスさんが控えてたから、アミッドさん達がやられる可能性もなかったですし。少しくらい引き伸ばしてもいいかなって」

「それで自分が火だるまになっていては……はぁ。まあいいです。私としては、下の階層に転落した事故の方が心配しました」

「やっぱりアミッドさんは優しいですね。なんだかんだ、ちゃんと俺のことを」

「ダンジョンに穴があいて、よからぬ異常事態(イレギュラー)が発生するのではないかと」

「あ、そっちですか。ダンジョンの心配ね」

  

 フィルヴィスはそのうち戻ってくるだろう。いつもそうだから気にしていない。そういうわけなので、アミッドが帰るまで構ってもらおうと思っている。

 しかしこの聖女様、お付きの同僚達は先に帰してしまったようだが、一人くらい残しておいた方が良かったのではないだろうか。アミッドはLv.3だが、中層を一人で突っ切って帰るのは危険だ。Lv.3と言ってもなりたてだし。

 

「アミッドさん、泊まっていきません? 宿代は出すんで、仮眠取ってから一緒に帰りましょうよ」

「そのつもりですが、部屋は自分で確保します。お気遣いは不要です」

 

 アミッドは純白の聖装(ヴェール)を外し、空いている椅子の上に移動させた。緩やかなウェーブを描いている銀の長髪は、ところどころ乱れて変な方向に曲がっている。

 

「そうですか。そういえば弟がLv.2になったんですよ。お祝いにお泊まりしてくれません?」

「ああ、噂の……お見かけしたことがありますが、貴方とは違って純粋そうな少年ですね。貴方のように穢れることなく、真っ直ぐに成長して欲しいものです」

 

 聖女は透明な微笑を浮かべ、言葉の暴力を繰り出してきた。昔はどんなしょーもない怪我をしても心から心配してくれたのに、なんでこんなことに。

 

「しかし、貴方とアイズさんが持っていたランクアップの最短記録。それを大幅に更新するとは……よもや予期されておられたのですか?」

「まさか。モノにはなると信じてはいたけど、史上最速でランクアップするなんて予想できない。早くも女性の知り合いが増えてるようだし、末恐ろしいですよ」

「女性の件は関係ないと思いますが。なんでもかんでも異性と結び付けないでください」

「わかりましたから魚の骨を俺の皿に入れないで。肉のついてる魚を奪わないで」

 

 早いもので、里帰りしてから数ヶ月が過ぎた。

 オラリオに来て冒険者になったベルは、ちょっと目を離した隙にランクアップ──Lv.2になってしまった。ミノタウロスを単独撃破したらしい。Lv.1の火力では絶対に無理なはずなのに、なんて羨ましい奴なんだと大人気ないことを考えてしまう。

 

「私はお腹がすいているのです。誰かさんのせいで無駄に魔力を消費してしまったので」

「無尽蔵の魔力タンクが何を……そんなに疲れたなら宿屋に案内しますよ」

「あなたには美しいパートナーがいるでしょう。どこまで行ったかは存じませんが、私にうつつを抜かしている時間はないと思いますが」

「下層のモンスターを根こそぎ狩り尽くしてくるって言ってたので、しばらく戻ってはきませんよ」

 

 下手したら深層まで行くかもしれない。純粋に暴れ足りなくて消化不良だと言っていたから。フェアが一緒だと気が散るから、本気の殲滅をしたい時は彼女は一人でダンジョンに潜る。今回もそのパターンで、断じて愛想を尽かされたわけではない。

 そして、こうやって時間ができるので、フェアからすれば有り難い。おかげで銀の聖女で遊ぶことが──銀の聖女と遊ぶことができるのだから。

 

「それ食べたら行きますよ。昔から懇意にしてる後輩が体を張ったんだから、少しくらい褒めてくれてもいいでしょ。それに、癒しは聖女の仕事ですよね?」

「勘違いも甚だしいですね。私の専門は治療です」

「メンタルカウンセリングもしてるじゃないですか。俺のオーダーメイドでセラピーも。あれ、ほんと生きる活力が湧いてくるんですよ。真面目な話、前向きになりましたからね。さすが世界一の聖女!」

 

 全力でよいしょするも、反応は薄い。崇高で神聖な聖女様は、紫水晶(アメジスト)の瞳を眇(すが)めて沈黙している。軽蔑しているのがひしひしと伝わってくるが、嫌われてはいないから大丈夫だ。

 フェアは少し身を乗り出して、第一級冒険者──オラリオ最高峰の括り、Lv.5以上の総称──の身体能力を発揮した。目にも留まらぬ速度で右腕を突き出し、緩やかな法衣の突起を掴み取る。

 

「──ッ!‍?」

「ここのところご無沙汰でしたし、久しぶりに癒してくださいよ。ていうか癒されたいでしょ? アミッドさんも。好きですもんねこうされるの」

「あ、貴方という人は……こんな場所でっ」

 

 他に客はいないし、店員はこちらに背を向けている。だから、少しくらい胸をまさぐったところで問題は発生しない。とはいえ、のんびり堪能しているわけにもいかないので、雑な手つきで引っ張ったところで終わりにする。

 

「く……なんて悪趣味なっ」

 

 アミッドは目尻に涙を溜めているが、嫌われることはないので大丈夫だ。フェアは一気に気持ちが高ぶってきたので、ささっと会計を済ませて店を出た。

 手を繋いで行くか普通に歩いていくか。二択を提示したら手は繋がないと言われたので、身体的接触はせずに宿屋に向かった。

 

「じゃあお疲れ様でしたってことで、アミッドさんは寝ててもいいですよ。それならそれで、勝手に使わせてもらうんで」

「部屋に入った瞬間、こ(・)れ(・)ですか……生憎と、人形のように穢されるのは御免です」

 

 その後、日付けが変わるまでヤった。

 常日頃から抱いているわけではないが、聖女アミッド・テアサナーレは彼の大好物の一人。フィルヴィスと同じくらい相性抜群の美女である。

 

 

 

◆

 

 

フェア・クラネル 

Lv.5

 

力 : D502 耐久 : SSS1111 器用 : B709 敏捷 : S999 魔力 : S999

狩人:F 耐異常:F 剣士:F専守:G

 

{魔法}

【インヴァイデンド・リーヴ】

・魔剣変転。

・要、魔法吸収。

・武器を所有していない場合、失敗(ファンブル)。

 

【シレンティウム・フォール】

・障壁生成。

・自動解除不可。

 

【】

 

{スキル}

【聖転変盾(セイント・ディール)】

・治療魔法を耐久力に変転。

・耐久力の上昇率は詠唱者に依存。

 

【   】

【   】

 

 

 

 好きな女性のタイプ

 フィルヴィス

 アミッド

 気の強いお姉さん。次はできれば極東美人がいい。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。