フェア・クラネルの嫁作り 作:パーンダ
火力バカになりたかった────。
フェアは蒼い炎の中で、ふと思った。
双頭竜の
そうだ。自分はヴァルトシュテインのような英雄になりたかったのだと。
世界を滅ぼす力を持った竜を
そこまで強ければハーレムを作ったって許されるはずだ。最終的には死んでもいいから、
しかし、現実は残酷であった。フェアはどれだけ頑張っても攻撃力に難アリな存在。頼れる魔法は発現してくれたものの、他者の協力がなければ使うことができない制限付き。一人で強敵をガンガン倒して英雄になるのは、無理そうであった。
『『オオオオオオオオオオオンッッ!』』
「うるさい! 火を噴きながら叫ぶな!」
今現在、相対している双頭竜──アンフィスバエナくらいなら倒せる。時間をかければ。
アンフィスバエナはダンジョンの中では
アンフィスバエナくらいで満足などできない。そして、単独撃破できる最強の相手がコレというのは、とても不本意な現実であった。せめて憂さ晴らしに倒してしまいたいが、今はそれすら許されない。
『『オオオオオオオオオオオオンッッ!』』
「おい何モタモタやってんの! 倒すなら早く倒せ!」
現在はとある【ファミリア】の修行中。ランクアップを狙っている数人のために双頭竜を引き付け、冒険者達にはガンガン攻撃してもらう。
そういう流れのはずなのだが、先程から攻撃の手が緩んで緩みっぱなしだ。半ば怒鳴り声で呼びかけた先、冒険者達は
「フェア、申し訳ない! 無理です!」
「マーマンが多すぎる! これではそっちまで手が回らん!」
「聖女様を守るので精一杯だ! うん無理! アンフィスバエナまで手が回らん!!」
合計四つの【ファミリア】の連合軍。計二十二名は二足歩行する気持ち悪い魚、マーマンの大群と交戦中。階層主に狙いを定める余裕はなく、聖女の治療がなければ全滅もありえる有り様だ。
階層主を倒して
「【
「【ディアンケヒト・ファミリア】の連中は全員守れ! うっかり死なせでもしたら、俺達はもうオラリオの街を歩けねえぞ!」
「アウラ障壁を早く! 俺達が社会的に死んじまう!」
「ええいもうやっている! おいっ、どうしてネルティが来ていないんだ! あいつはLv.5になりたいんだろう!?」
「ネルナッティは地下ライブだ! 地下アイドルだからな! そっちの活動があるんだろう!」
「わけがわからん! いい加減にしろっ!」
冒険者達は大混乱である。
フェアは悲しい顔になった。
昔から親交のあるエルフ、アウラが顔を真っ赤にしてキレ散らかしているが、そんな暇があったら魔法を唱えろと言いたい。
「頃合いです──フェアさん、倒してください! モンスターが減るどころか、むしろ増えてきました。治療が追いつかず即死されてしまうと、
ほぼ一人で全員の治療を担っていた白銀の髪の娘、アミッドが諦めの意志を示した。
銀の聖女。あるいは【
彼女は今回の作戦において、必要不可欠な存在であった。その神がかった魔力と反則級の治療魔法をもって、負傷即全快の領域構築。さらには盾役のフェアの鉄壁スキル発動のトリガー。
フェア・クラネルは治療魔法を耐久力に変転できる。誰の治療魔法でも良いというわけではなく、神聖じゃないと効果が下がる。神聖かどうかの判断基準は彼自身の感性とのことで、今のところ神聖なのはアミッドしかいない。ゆえに、使い勝手は悪い!
「治療魔法をかけ続けます。そのまま突撃してください、フェアさん!」
「既にしてる! めっちゃ燃えてる! 死にはしないけど痛くないわけじゃないんですからね!」
「無論、承知しております。さあ、早く止めを!」
「痛いし灼熱で痛いんですよ! 鬼かあなたは! 昔は優しかったのに、なんで最近は俺だけ扱いが雑なんだ!」
「主に破廉恥な視線、言動、行為のせいです。あえて今、申し上げましょう。恥を知りなさい!」
「俺にだけキャラ変するのやめて! 誰にでも慈悲深い万能聖女はどこいった! かつてのあなたはどこに行ってしまったんですか!」
フェアは双頭竜を交互に殴りながら、絶望の叫びを放った。
スキルにより耐久性能は爆上がりしている。しかし、その代償として治療効果は
だから燃えたらそのままだし、
「このブサイク姉妹、ぶっ殺してやる!」
『『オオオオオオオオオオオオオオオンッッッ!』』
とにかく、斬る、斬る、斬る。
今は戦術とか考えるのダルいから、ひたすらガンガンいこうぜを選択して、斬る!
アンフィスバエナなら、それでいける。
ゴリ押しで倒した後は、あのセイントお姉さんに仕返ししてやる。聖女とか無理そうなおっぱいをガン見してやると意気込んだ。
「聖女なら、もっと慎ましい見た目でいろ!」
「──【ディオ・テュルソス】!」
次の瞬間、極大の白光がアンフィスバエナの後方から接近! ゴミを見る顔のエルフ、フィルヴィスが放った7割出力の魔法が、二頭の竜を焼き払った。
一瞬で、断末魔ごと呑みこみ、激戦を繰り広げていた冒険者の全身も巻き込んだ。フェアの視界は真っ白に染まった。
「──おごっ!?」
細くも筋肉質な体が、口から煙を吐いて飛んでいく。薄暗くなった水晶の空間を横断し、背中から水の中に突っ込んだ。程なくしてヤバい音が響いた。
水底のクリスタルを突き破って、下の階層に転落したのだ。
◆
「やりすぎたとは思っています。しかし、あなたも色々と改めるべきです」
ダンジョンの中にある安全地帯。
比較的安全で街もあるというだけで、たまに壊滅したりしなかったりする18階層リヴィラにて。
オラリオが誇る最強の治療師、アミッド・テアサナーレは開き直っていた。フェアから見ると開き直っているようにしか見えなかった。
「フィルヴィス様は呆れてどこかに行ってしまわれました。当然でしょう。治療そっちのけで抱擁を迫るなど、正気の沙汰とは思えません」
場所はさびれた宿酒場。酒も料理もほとんどメニューが不味いので、荒くれ者が多いリヴィラにあって常にガラガラ。
そこで比較的まともな味のメニューをチョイスした後、銀の聖女は更に冷ややかな態度になった。つまり店に来る前から冷ややかだったのである。フィルヴィスに抱きつこうとして、返り討ちにあった一部始終を見ていたからだ。この男はどうしようもない、という内心が滲み出ている。
「それにしても、やはり無理がありましたね。せめてLv.4の前衛をあと一名。Lv.3程度の魔導士を数名。最低限そのくらいは加えないと、今回のような
「俺は頼まれたから手伝っただけなんで、俺に言われても困ります」
「私はあなたに頼まれて足を運んだのです。つまり依頼主はあなたですので、きちんとして頂かないと困ります」
と言いつつも呼べば来てくれるので、嫌われているということはない。日常的に仕事のお手伝い(有料)もしているので、関係性は悪くないはずだ。
まあ、たしかに今回はあまり宜しくなかった。
それは認めて反省しないといけない。アンフィスバエナに挑むにあたり、パーティの総合力が大きく足りていなかったのだ。予定ではLv.4の黒妖精も来るはずだったのだが、記念ライブの方が大切だとかで当日欠席。Lv.3の前衛はライブを見たいと言って途中で帰ってしまうし、お前らほんと真面目にやれと叱ってやりたい。帰ったら詰めるつもりだ。
「それに、あなたは手を抜きすぎです。あのような無様を晒す前に、討伐できたはずですよ。私が口出しせずとも、そうすべき
「
フェアはジョッキを手に取り、
「フィルヴィスさんが控えてたから、アミッドさん達がやられる可能性もなかったですし。少しくらい引き伸ばしてもいいかなって」
「それで自分が火だるまになっていては……はぁ。まあいいです。私としては、下の階層に転落した事故の方が心配しました」
「やっぱりアミッドさんは優しいですね。なんだかんだ、ちゃんと俺のことを」
「ダンジョンに穴があいて、よからぬ
「あ、そっちですか。ダンジョンの心配ね」
フィルヴィスはそのうち戻ってくるだろう。いつもそうだから気にしていない。そういうわけなので、アミッドが帰るまで構ってもらおうと思っている。
しかしこの聖女様、お付きの同僚達は先に帰してしまったようだが、一人くらい残しておいた方が良かったのではないだろうか。アミッドはLv.3だが、中層を一人で突っ切って帰るのは危険だ。Lv.3と言ってもなりたてだし。
「アミッドさん、泊まっていきません? 宿代は出すんで、仮眠取ってから一緒に帰りましょうよ」
「そのつもりですが、部屋は自分で確保します。お気遣いは不要です」
アミッドは純白の
「そうですか。そういえば弟がLv.2になったんですよ。お祝いにお泊まりしてくれません?」
「ああ、噂の……お見かけしたことがありますが、貴方とは違って純粋そうな少年ですね。貴方のように穢れることなく、真っ直ぐに成長して欲しいものです」
聖女は透明な微笑を浮かべ、言葉の暴力を繰り出してきた。昔はどんなしょーもない怪我をしても心から心配してくれたのに、なんでこんなことに。
「しかし、貴方とアイズさんが持っていたランクアップの最短記録。それを大幅に更新するとは……よもや予期されておられたのですか?」
「まさか。モノにはなると信じてはいたけど、史上最速でランクアップするなんて予想できない。早くも女性の知り合いが増えてるようだし、末恐ろしいですよ」
「女性の件は関係ないと思いますが。なんでもかんでも異性と結び付けないでください」
「わかりましたから魚の骨を俺の皿に入れないで。肉のついてる魚を奪わないで」
早いもので、里帰りしてから数ヶ月が過ぎた。
オラリオに来て冒険者になったベルは、ちょっと目を離した隙にランクアップ──Lv.2になってしまった。ミノタウロスを単独撃破したらしい。Lv.1の火力では絶対に無理なはずなのに、なんて羨ましい奴なんだと大人気ないことを考えてしまう。
「私はお腹がすいているのです。誰かさんのせいで無駄に魔力を消費してしまったので」
「無尽蔵の魔力タンクが何を……そんなに疲れたなら宿屋に案内しますよ」
「あなたには美しいパートナーがいるでしょう。どこまで行ったかは存じませんが、私にうつつを抜かしている時間はないと思いますが」
「下層のモンスターを根こそぎ狩り尽くしてくるって言ってたので、しばらく戻ってはきませんよ」
下手したら深層まで行くかもしれない。純粋に暴れ足りなくて消化不良だと言っていたから。フェアが一緒だと気が散るから、本気の殲滅をしたい時は彼女は一人でダンジョンに潜る。今回もそのパターンで、断じて愛想を尽かされたわけではない。
そして、こうやって時間ができるので、フェアからすれば有り難い。おかげで銀の聖女で遊ぶことが──銀の聖女と遊ぶことができるのだから。
「それ食べたら行きますよ。昔から懇意にしてる後輩が体を張ったんだから、少しくらい褒めてくれてもいいでしょ。それに、癒しは聖女の仕事ですよね?」
「勘違いも甚だしいですね。私の専門は治療です」
「メンタルカウンセリングもしてるじゃないですか。俺のオーダーメイドでセラピーも。あれ、ほんと生きる活力が湧いてくるんですよ。真面目な話、前向きになりましたからね。さすが世界一の聖女!」
全力でよいしょするも、反応は薄い。崇高で神聖な聖女様は、
フェアは少し身を乗り出して、第一級冒険者──オラリオ最高峰の括り、Lv.5以上の総称──の身体能力を発揮した。目にも止まらぬ速度で右腕を突き出し、緩やかな法衣の突起を掴み取る。
「──ッ!?」
「ここのところご無沙汰でしたし、久しぶりに癒してくださいよ。ていうか癒されたいでしょ? アミッドさんも。好きですもんねこうされるの」
「あ、貴方という人は……こんな場所でっ」
他に客はいないし、店員はこちらに背を向けている。だから、少しくらい胸をまさぐったところで問題は発生しない。とはいえ、のんびり堪能しているわけにもいかないので、雑な手つきで引っ張ったところで終わりにする。
「く……なんて悪趣味なっ」
アミッドは目尻に涙を溜めているが、嫌われることはないので大丈夫だ。フェアは一気に気持ちが高ぶってきたので、ささっと会計を済ませて店を出た。
手を繋いで行くか普通に歩いていくか。二択を提示したら手は繋がないと言われたので、身体的接触はせずに宿屋に向かった。
「じゃあお疲れ様でしたってことで、アミッドさんは寝ててもいいですよ。それならそれで、勝手に使わせてもらうんで」
「部屋に入った瞬間、
その後、日付けが変わるまでヤった。
常日頃から抱いているわけではないが、聖女アミッド・テアサナーレは彼の大好物の一人。フィルヴィスと同じくらい相性抜群の美女である。
◆
フェア・クラネル
Lv.5
力 : D602 耐久 : SSS1111 器用 : C709 敏捷 : S999 魔力 : S999
狩人:F 耐異常:F 剣士:F専守:G
{魔法}
【インヴァイデンド・リーヴ】
・魔剣変転。
・要、魔法吸収。
・武器を所有していない場合、
【シレンティウム・フォール】
・障壁生成。
・自動解除不可。
【】
{スキル}
【
・治療魔法を耐久力に変転。
・耐久力の上昇率は詠唱者に依存。
【 】
【 】
好きな女性のタイプ
フィルヴィス
アミッド
気の強いお姉さん。次はできれば極東美人がいい。