アクションバース “キン肉マンⅡ世VSアクション仮面” 作:速筆魔王LX
『アクション仮面のアクションパンチがケビンマスクに炸裂~~っ!』
頬を殴り飛ばされたケビンマスク。
悪の組織ブラックメケメケ団を始め、数多くの悪人を粉砕してきた必殺パンチをくらい、さすがのケビンマスクも体をぐらつかせる。
「ええ~~っ!? 今のはちょっと卑怯じゃない!?」
観戦していたキン肉万太郎の目には、アクション仮面のパンチが不意打ちのように思えてしまった。
リング上空にはいまだ大魔王サタンの幻影が佇んでいる。
双方の了解やレフェリーの合図なしにいきなり試合を再開するべき状況ではないはずだ。
「今の不意打ち……ボクにはなにか嫌な予感がします」
万太郎の横にいるミートくんは難しい顔をしながら唸る。
一方リング上。
不意打ちで殴られたケビンマスクは頬を擦り、アクション仮面の言動をおもしろがるように向き直った。
「なかなか味な真似をしてくれるじゃねぇか。しかし先輩正義超人を悪行呼ばわりとは、ずいぶんナメた口を利いてくれる」
生意気な後輩は歓迎するところ。その分、ぶっ飛ばしたときが爽快だからだ。
正義超人としての序列を実力という形でわからせてやろう――そんな意思を瞳に込めるケビンマスクだったが、
「黙れ悪党」
アクション仮面はケビンマスクを先輩として敬うことなどせず、敵意を向けた。
敵意、そう――正義の味方が悪の怪人に向けるものと同等の敵意だ。
「私は正義のヒーロー、アクション仮面。いかなる悪も叩きのめすのが私の使命だ」
『ブラックカラーに変色したアクション仮面、ものすごい闘気を放っている――っ』
己を悪と断じ、頭上のサタンには目もくれず、じりじりとこちらに向かってくるアクション仮面。
ケビンマスクは息を呑んだ。
「闘気……? これはそんな生易しいもんじゃねぇ。相手を叩き潰さんとする強い意志。これは、そう……」
数々の修羅場をくぐり抜けてきたケビンマスクだからこそわかる。
アクション仮面が放つ闘気の正体、その真の名は――
「殺気だ――っ!」
ケビンマスクが叫んだと同時、アクション仮面が表情を歪め踏み込む。
「死ね――っ! ケビンマスク――ッ!」
『アクション仮面、昨今の放送コードでは許されない暴言を吐きながらケビンマスクに襲いかかる――っ!』
有名ヒーロー・アクション仮面の問題発言には多くの親御さんが反応した。
「なんてことを言うのよアクション仮面!」
「そうよ! うちの子が真似をしたらどうするの!?」
この春日部スタジアムには、春日部中の子供たちが招待されている。
ヒーローは子供の憧れ、そして子供は憧れを真似るもの。
親として子供への悪影響を心配するのは当然だった。
『観客席からは教育意識の高いママさんたちの野次が飛ぶ――っ! あ――っとしかしケビンマスク、アクションパンチを冷静にキャッチ!』
対戦相手からストレートに死ねと言われながらも、ケビンマスクに動揺はない。
アクション仮面の拳を握りつぶさんほど手に力を込め、言う。
「今回の挑戦を受けるに当たって、あんたの活躍を収めたムービーは見させてもらった」
超人レスラーとしてのアクション仮面は今日がデビュー戦。
しかし彼の人となりは、特撮番組“アクション仮面”から十分に窺い知ることができた。
「シナリオありきのドラマではあるが……あんたの演技には、作り物とは思えない正義の魂を感じた。人間から正義超人になったという話を聞いたときも、あんたならそうするだろうと妙に納得してしまったほどだ。そんなあんたが、なぜこんな悪行超人じみた振る舞いをする?」
役者の人間性とキャラクターの性格は別物。だがアクション仮面に限っていえばそうではないはず。
真に正義を愛する男が豹変してしまったのはなぜなのか。その理由を問う。
「自らの罪を棚に上げて私を避難するとは、姑息な男だなケビンマスク」
「オレの……罪だと?」
アクション仮面からの返答は、罵倒だった。
「貴様は元“
粘ついたような笑みで訊くアクション仮面に、ケビンマスクは顔を顰めた。
「グ……グウゥッ」
それは、アクション仮面の問いに対して心当たりがある――後ろめたさからくる苦悶だった。
「そう! 貴様は“d・M・p”時代に超人が本来守るべき人間を惨殺するという大罪を犯している! それを忘却して正義超人のトップとしてふんぞり返るなど、片腹痛い!」
ケビンマスクは最初から品行方正な正義超人だったわけではない。
かつて人々を恐怖のどん底に陥れた悪の集団“d・M・p”、そこに在籍していた過去がある。
そして犯してきた悪事も相応にあり……それらの罪の精算は、済んでいるとは言えなかった。
「蛮行はそれだけではないぞ! 貴様は先に行われた超人オリンピック・ザ・レザレクションでも、多くのライバル超人たちを血祭りにあげてきたな!? 国の威信をかければ殺超人が許されるとでも思うか!? それで正義を名乗るなど、笑止千万!」
アクション仮面が怒気を込めて言い放つと、彼の手を掴むケビンマスクの力が緩んだ。
その隙を突き、アクション仮面が次なる攻撃に移る。
『アクション仮面、ケビンマスクの腕を振り払い土手っ腹に蹴り――っ!』
「クッ!」
腹部に直撃をもらい、距離を離されるケビンマスク。
アクション仮面は追撃を試みる。
「後ろめたさがあるから動きが鈍るのだ! この隙に決めさせてもらうぞ!」
間髪入れぬ接近で相手の体を掴みにかかった。
相手の背中側に回り、右腕を首にかけ、左腕は脚を捕らえる。
そのまま頭上高く担ぎ上げれば、多くの超人レスリングファンが見慣れた技の完成だ。
『こ……これは~~っ!? ロビン
仰向けにしたケビンマスクを横向きで担ぎ上げ、背中に差した頭部を支点に、右手で首を、左手で右大腿部を掴み、下方へ引っ張る。
そうすることで相手の背中は弓なりに大きく反れ、やがては背骨が真っ二つに折れてしまうだろう。
そう、それこそイギリスはロンドンのテムズ川に架かる跳開橋――タワーブリッジのように。
「ア……アクション仮面がタワーブリッジを!?」
「おおー、タワーブリブリブリッジ!」
「タワーブリッジ!」
驚く万太郎、楽しげな響きに沸くしんのすけ、お下品な言い間違いを訂正するミートくん。
タワーブリッジは本来、イギリスの有名超人であるロビンマスク、そしてその息子であるケビンマスクが得意とする技。
それをまさか、今まさにケビンマスクと対戦中のアクション仮面が繰り出すとは。意外というほかない。
「なにを繰り出すかと思えば、我がロビン王朝の至宝のパクリとはな。やはり新人超人。オリジナルの必殺技ってやつはまだ生み出せていないようだ」
ケビンマスクは自身の得意技にかけられながらも、動揺はなかった。
自分の技であるからこそ、対処法は知っている。
同時に自分の技であるからこそ、アクション仮面のこの模倣が不完全……クオリティが低いことも一発で見抜けた。
だが――
「フフフ……」
「な、なにがおかしい!?」
アクション仮面は不敵に嘲笑う。
ケビンマスクの余裕を、さらに上をいく余裕で返してみせる。
「なにがロビン王朝の至宝だ。タワーブリッジなどと大層な名前をつけてはいるが、こんなものはただのアルゼンチン・バックブリーカー……自慢げに語れるほどのオリジナリティなどあるまい」
たしかに、タワーブリッジは人間のプロレスでも用いられるアルゼンチン・バックブリーカーとよく似ている。
相手の背骨が折れるほどの力をかける点、ロビンやケビンの場合は仮面についた突起で敵を突き刺す点など、細かい違いはあるが、一般人にパッと見の違いを訊いても正答率は低いだろう。
「テメェ……我が父ロビンマスクより受け継ぎし伝統の技を侮辱する気か~~っ?」
家の誇りを侮辱されたケビンマスクはアクション仮面の上で怒りを示す。
そんな怒りなどなんのその、アクション仮面は発動中のタワーブリッジをさらなるステージへと運んでいった。
「父親の威光にすがるⅡ世ほど惨めのものはない! そして思い知れ! このアクション仮面のオリジナルはここからが本番だと!」
ケビンマスクを捕らえる腕部の型はそのままに、動かすのは――左脚。
『あ~~っとアクション仮面、タワーブリッジの体勢のまま突如、片脚を上げ……片脚立ちとなった――っ!?』
右脚のみの一本足となったアクション仮面。
その常軌を逸した行動に、万太郎は大口を開けて言う。
「なんだありゃ~~っ!? あれじゃ姿勢が不安定になり、みっともなく転んじゃうよ――っ!」
ただでさえ難易度の高いタワーブリッジを、片脚立ちの状態でやるなど正気の沙汰ではない。
あれでは――と誰もが思ったその瞬間。
『大きくグラついた――っ!』
アクション仮面の体が右側に揺れ、転倒しそうになる。
「ほら――っ! 言わんこっちゃない!」
そのまま右半身からキャンバスに激突、タワーブリッジも崩れてケビンマスクは脱出――とはならなかった。
『い、いや! アクション仮面、すんでのところで持ち直し、姿勢を元に戻す! しかし依然として片脚立ちのまま……危なっかしいタワーブリッジが続いているぞ――っ!』
倒れそうなところまでいったが、倒れず元に戻ったのである。
そして今度は逆方向の左側に倒れそうになり、やはり直前で持ち直す。
それが二度、三度ほど続いた。
「グ、グァァ……ッ」
『あ――っとケビンマスク、苦しそうだ――っ!』
アクション仮面の頭上に担がれたままのケビンがうめき声をあげる。
その形相はまさしく、タワーブリッジのダメージによるもの。
が、そのタワーブリッジは不安定な姿勢が続きいつ崩れてもおかしくはない代物だ。
ロビンやケビンのオリジナルとは比べるべくもない威力であるのに、なぜ……?
「あ、あ……あああ~~~~っ! そうか、ヤジロベエだ――っ!」
からくりに気づいたのは、意外にもこの男。
秋田県を故郷に持つ元少年、野原ひろしだった。
「なに父ちゃん、ヤジロベイベーって?」
「ヤジロベエな」
馴染みのない言葉ゆえに聞き間違えた我が子にそう言いつつ、ひろしはシリアス顔で語る。
「ヤジロベエってのは、古くは江戸時代から存在したと言われる日本の伝統的なおもちゃさ。長い両腕の先端におもりを付けた人形で、胴体は画鋲くらいの細さしかない……一見アンバランスなんだが、重心が下にあるためそう簡単に倒れることはない。現代じゃあまり見なくなったが、子供に力学の基本を教えてくれる親しみ深いおもちゃなんだ……」
少年時代を思い出しながら語るひろしの力説に、周囲は「おお~~っ」と感嘆した。
「物知りね~、あなた。まるでミートくんみたい」
「フッ、伊達に秋田の田舎で育っちゃいないぜ」
最愛の妻におだてられ、ひろしは鼻を高くする。
「でもあれがヤジロベエの再現だからって、どうしてケビンマスクはあんなに苦しそうなの?」
「え? そ、それは……」
アクション仮面の動きがヤジロベエっぽいな~~っということには気づけても、それ以上のことはさっぱりなひろしは言葉に詰まる。
「振り子運動ですよ」
続きはミートくんが説明してくれた。
「背骨を極めたまま大きく左右に揺れることで、通常のタワーブリッジの何倍もの負荷がかかっているはずです。ケビンマスクの苦しみはおそらく想像を絶するものでしょう……」
背骨を極めるタワーブリッジはそれ単体でも強力なのに、その状態で体を揺さぶられるなどたまったものではない。
ケビンマスクの苦痛は当然――だが、その試合模様を誰よりも訝しげに見る視線があった。
「ムウ……」
リングサイドで神妙な声を出すのは、ジャージを着た長髪の超人。
アクション仮面のセコンドとしてこの場に立ち、極力口は出さず試合を見守っていた“リアル超人レスラー”ジェロニモである。
「原理は単純、それでいて強力な必殺技だが……その分難易度は激ムズ。ありとあらゆる武術を修め、体幹の鍛えられたアクション仮面にしかできねぇ技ズラ」
ジェロニモはアクション仮面のこの技をそう評価する。
少しでもバランスが崩れればみっともなく転んでしまうだろう絶技。
技に対しての不安が半分――しかしもう半分、“なにか”に対して警鐘を慣らしている己がいた。
「直弟子のアクション仮面があのケビンマスク相手に優位に立っている。だってのになんだ、この得体の知れねぇ不安は~~っ」
ジェロニモはその正体に気づけない。
リング上で怪しげに微笑み、黙って試合観戦をしているサタンがそうさせるのか。
不穏な空気を抱えたまま、アクション仮面はついにその技名を唱えた。
「これが我が必殺技、ペンデュラム・アクション・ブリーカーだ――っ!」
ヤジロベエのごときアンバランスさがケビンマスクから着実に体力を奪い、決着までの道のりを近づけていった。