アクションバース “キン肉マンⅡ世VSアクション仮面” 作:速筆魔王LX
「グァァ~~ッ」
『ケビンマスクが! 超人オリンピックチャンピオンが悲鳴をあげている~~っ!』
アクション仮面のオリジナル
タワーブリッジの形に加え、ヤジロベエのように揺れ動き相手に強烈な負荷を与えるこの技は、チャンピオンに悲鳴を出させるだけの威力があった。
「ギブアップなどさせんぞド悪党! このまま真っ二つにへし折ってやる――っ!」
ケビンマスクへの負荷を強めるため、アクション仮面が体を大きく右側――ケビンマスクにとっての頭側に振った。
「こ……ここだぁ~~っ」
そのタイミングに合わせて、ケビンマスクが上半身を大きくよじる。
一歩間違えれば自ら背骨にダメージを与えかねない悪手だったが、対ペンデュラム・アクション・ブリーカーに対してはそうとも言い切れない。
「ウオッ!?」
片脚立ちという姿勢の不安定さゆえ、技をかけられている側が大きく抵抗すると容易く瓦解してしまうのがこの技。
アクション仮面の右脚がキャンバスから離れる。
『あ――っとついにアクション仮面のバランスが崩れ、両者倒れてしまった――っ!』
同時にダウンするアクション仮面とケビンマスク。
先に動いたのは、危険を承知の上で技を崩しにかかったケビンマスクだった。
「ここからが腕の見せ所!」
相手がダウンしているならば、狙うのはひとつ。
『ケビンマスク、即座に立ち上がりアクション仮面へと覆いかぶさった――っ!』
うつ伏せ状態のアクション仮面の片脚を自分の両脚で挟んで極め、同時に両腕で相手の顔面を抱え締め上げる。
身動きを封じた上で顔面と脚を痛めつける王道サブミッションの名は――
『これは……S・T・F(ステップオーバー・トーホールド・ウィズ・フェイスロック)だ――っ!』
人間のプロレスでも使われる有名な寝技に、会場のお父さん世代は大興奮。
プロレスに馴染みがない子供たちは、テレビ番組の“アクション仮面”にはない展開に息を呑む。
「どうだ――っ! こんな実戦的グラウンド・サブミッションはヒーローアクションの中にはないだろう!? このままKOまでエスコートしてやるぜ――っ!」
プロの繰り出すサブミッションは、一度完璧に極まってしまえば絶対に脱出不可能。
それがわかっているからこそ、アクション仮面は半ば手遅れだと思いつつも全身に力を込めた。
「グォォォォッ!」
『アクション仮面がもがく! もがく! もがく! しかしケビンマスクの封じ込めもまた鉄壁! 見たかアクション仮面ファンの子供たちおよびそのお父さんお母さん! これが“難攻不落の鉄騎兵”だ――っ!』
グラウンドでの攻防は経験が物を言う。
幼少時代は父ロビンマスクの地獄のようなしごき、少年時代は“
さらに近年はクロエという師から手ほどきを受け、超人オリンピックという大舞台で数多のライバルを相手に研鑽を磨いてきたのだ。
そんなケビンマスクの技が、今日デビューしたばかりの新人に攻略されるはずがない。
しかし――ケビンマスクはあえて腕のクラッチを緩めた。
『ああ――っとだがアクション仮面も意地を見せる! ここでようやくのエスケープ!』
相手の力の緩みを見逃さず、アクション仮面も即座にS・T・Fから脱出してみせた。
会場内にアクション仮面を称賛する声が飛ぶが、一部の観客は違和感を覚える。
「お、俺にはケビンマスクが自ら技を解いたように見えたが……」
野原ひろしもそのひとりだった。
一般サラリーマンのひろしですら気づいたのだ。
もちろん、すぐそばに座っていた本職――現役超人レスラーの万太郎も気づいている。
「しんのすけくんのお父さんの言うとおり。ケビンはわざとS・T・Fを解き、より強力なフィニッシャーに繋げるつもりだ――っ!」
万太郎が叫んだと同時、ケビンマスクは次なる技へつなげるための動きを開始していた。
『ケビンマスク、なんとか立ち上がったアクション仮面の両腕を掴んで交差……捻り上げる――っ』
相手の正面に立ち、両腕をただねじるだけの拷問技。
否、そんなものはただの“ステップ1”にすぎない。
『さらにねじった両腕を解き放った反動で、アクション仮面を上空に飛ばした――っ』
これが“ステップ2”――ねじれが戻る反動を利用し、相手の身を空へ飛ばす。
ゴム動力を使ったプロペラ式模型飛行機の原理だ。
大の大人、それも超人の体がそれしきで浮き上がるとは思い難いが、実際アクション仮面の身は上空にある。
『ケビンマスク、アクション仮面を追うようにジャンプし……』
リングの上空に、空中に放られた超人と、それを追う超人がふたり。
勘の良い超人レスリングファンならば、これからなにが起こるかは想像に易い。
ケビンマスクがアクション仮面の真横に位置取った。
『逆さになったアクション仮面の側面から左脚、左腕、そして頭をロックする……こ、この体勢は――っ!?』
右腕で左腕を巻き込み、左腕で左脚を抑えて開脚を強制。
両足は相手の首を挟み、右脇で交差。これにより右腕の動きも封じる。
逆さ状態で首と右脚以外の四肢を封じられた相手は、もはやどうすることもできない。
これぞ、ケビンマスクが祖国であるイギリスの首都ロンドンの大時計塔“エリザベス・タワー”から着想を得て開発したオリジナル・ホールド。
その技はエリザベス・タワーの別名になぞらえ、こう呼ばれる。
「ビッグベン・エッジ――――ッ!!」
超人オリンピック・ザ・レザレクション決勝の舞台でキン肉万太郎をくだした必殺技が、春日部の地でアクション仮面に炸裂した。
『決まった――っ! ビッグベンの荘厳な鐘の音が春日部スタジアムに響き渡り、あのアクション仮面をキャンバスに沈めた――っ!』
脳天からキャンバスに叩きつけられたアクション仮面は、速やかに沈黙。
ケビンも技のホールドを解き、その場から離れた。
アクション仮面の身が、突き刺さった頭を軸に仰向けに倒れる。
「ゴングを!」
リングサイドの実況席に座っていた、露出の激しいコスチュームの女性――宇宙超人委員会副委員長、ジャクリーン・マッスルが木槌を振り上げた。
試合のレフェリーを務める彼女が木槌をゴングに叩きつけること――それはつまり、試合終了の合図となる。
だが、
「お……お兄様!?」
ジャクリーンが木槌を持った手を下ろそうとしたそのとき、隣に座る暑苦しい顔の男が手を伸ばしそれを制した。
彼女の兄、宇宙超人委員会委員長にして今日の試合の最高責任者、イケメン・マッスルである。
「アクション仮面の体はまだ動いている。我々宇宙超人委員会は絶対に判断を誤れぬ身。ここはダウンカウントを数え、勝負の行方を見極める場面だ」
イケメンの判断は、ノー。
試合はまだ終わっていない、とKOではなくダウンの判定を取った。
1から10へ、アクション仮面が敗れるかどうかのカウントダウンが始まる。
――ワ~ン。ツ~。
『ダウンカウントが進む――っ! アクション仮面はこのままKO負けしてしまうのか~~っ!?』
倒れ伏すアクション仮面。
それを見下ろすケビンマスク。
どちらが優勢で劣勢か、どちらが勝ちそうでどちらが負けそうかは、子供の目でもわかった。
「がんばれー! アクションかめーん!」
「まけないでー!」
春日部スタジアムには多くの子供たちが、多くのアクション仮面ファンが来場している。
だからこそ会場内は声援で満たされた。
ごはん前の夕方、家のテレビの前で毎週そうしてきたように、アクション仮面の勝利を願い応援する。
『さすがの人気だアクション仮面! 春日部スタジアムに集った子供たちから大応援が届けられる――っ!』
がんばれ、まけないで、かって、たって、やっつけて――そんな幼い声援は、もちろんアクション仮面の耳に届いている。
脳が揺れ、頭蓋は痛みを訴え、全身各所は千切れそうなほどに痺れているが――
「ふ、ふふふ……やはり、よい子のみんなは私の味方らしい」
それらを理由にこのまま寝ているわけにはいかない。
なぜならば、彼はアクション仮面――子供たちが憧れる“正義のヒーロー”であるからだ。
「この応援の中にいては、貴様という悪を倒さず敗れるわけにはいかないな」
震える両脚に活を入れ、ゆっくりと立ち上がる。
数えられたカウントは9。
それ以上は数えさせない、とファイティングポーズを取り戦闘続行の意思表示をする。
『アクション仮面、ビッグベン・エッジをくらいながらも立ち上がってきた――っ! 今日がデビュー戦の超人とは思えないガッツだ――っ!』
アクション仮面の勇姿を見て、ケビンマスクもまた構えを取った。
「それでこそだぜ、アクション仮面。この期に及んでオレを悪党呼ばわりする生意気さは気に入らねえが、それならそれで納得のいくまで叩きのめすまでだ」
チャンピオン、そして試合を優位に進める者として相応しい振る舞いをするケビンマスク。
しかしアクション仮面はその尊大な態度が気に入らないようだった。
「黙れ悪党。正義のヒーローは常に逆転の一手を隠し持つもの。貴様にも見せてやろう……アクション仮面の必殺技を!」
アクション仮面にとって、もはやケビンマスクは敬うべきライバルではない。
倒すべき絶対悪――ゆえに、温存していた切り札をここで切る決心をした。
『あ――っと、アクション仮面の取るこの構えは~~っ!?』
両腕を胸の前で縦に揃える構え。
ボクシングのピーカブースタイルにも似たその構えは、しかし超人レスリングにおいては特別な意味合いを持つ。
「あれは……肉のカーテン!?」
いち早く気づき、声を発したのは野原ひろしである。
一方で、すぐ横の野原みさえは顔を顰めた。
「やだ~。お部屋が生臭くなりそう」
「そうじゃなくて、あれはキン肉マンの……」
肉のカーテンとは、決してスーパーで売っている生肉を繋げてカーテンのようにした代物ではない。
ひろしの言葉には、キン肉マンの息子であるキン肉万太郎が続いた。
「そう。あれはボクや父上が得意とするキン肉族秘伝のガードポジション“肉のカーテン”の形。だけどたぶん、あれは……」
アクション仮面が取る構えは、まさしくキン肉マンと万太郎が使う肉のカーテンそのもの。
だが構えを取ったのがアクション仮面ということを踏まえるならば、その正体はまったく別物となる。
万太郎と同じ解にたどり着いたミートくんが言う。
「ええ。おそらく形が似ているだけでしょう。アクション仮面が仕掛けようとしている技の正体は……」
肉のカーテンに似ているが、肉のカーテンとは異なる技。
それはアクション仮面が前々から得意としていた技でもある。
であるならば、もちろん彼――アクション仮面の大ファンであるしんのすけも正体に気づくのが道理。
「アクションビームだゾ!」
小さな口が大きく開いた、次の瞬間。
「アクション……ビィ――ム!」
リング上のアクション仮面もズバリその技名を叫び、彼の両腕に光の粒子が集まる。
それらは実体を持ったエネルギー、すなわち“ビーム”となって、前方の敵に放たれた。
ケビンマスクの身が、まばゆい光線に晒される。
「グッ……」
かつてない未知の感覚に、ケビンマスクらしからぬ声が漏れる。
「アアアアアアッ!?」
その声の名は――絶叫。