アクションバース “キン肉マンⅡ世VSアクション仮面” 作:速筆魔王LX
「大宮ソニックシティのイベント広場に……」
「リングが設置されておる~~っ!」
テリー・ザ・キッドとバリアフリーマンは、眼前の光景に思わず目を疑った。
無数のハイレグ住民とパンスト怪人たちに取り囲まれたイベント広場の中央。
そこに燦然と鎮座していたのは、四方を頑丈なロープで囲まれた、見覚えのありすぎる四角い戦場――超人レスリングのリングだったのだ。
ポカンと口を開けるふたりに対し、ハイグレ魔王はマントの裾を優雅にはためかせながら、仮面の奥でクックックと喉を鳴らした。
「超人レスリングよ。そのためのリングはご覧のとおり、あのサタンとかいうご同輩が用意してくれた。どう? いかが?」
この空間において、力と力の真っ向勝負で白黒つけようという提案。
相手が悪行超人であれ異世界の侵略者であれ、リングに上がってしまえばこちらの土俵だ。
キッドの胸の中に、正義超人としての熱い血が沸き立った。
「望むところだ! テメェはこのテリー・ザ・キッド様が……」
威勢よく前へ出ようとしたキッドだったが、
「いや! ここはワシに任せてもらう!」
その肩を力強く掴む手があった。
骨が浮き出た皺の目立つ手の主は、ミートに任命された今回のミッションの相棒である。
「バ……バリアフリーマン!」
振り向いたキッドは思わず驚きの声を上げた。
原因はバリアフリーマンの纏う表情。
いつになくシリアスで重厚な、男の哀愁すら漂わせた顔つき……バリアフリーマンとはこんなにもダンディな老人だったか?
困惑するキッドを制し、バリアフリーマンは静かに言い放つ。
「ヒョホホホホ……女の悦ばせ方ならワシのがよく知っとる。ここはこのバリアフリーマンに任せてもらおうかい」
鼻の下をぴくつかせながらも、ベテランらしい自信に満ちちあふれたドヤ顔を決めるバリアフリーマン。
ハイグレ魔王は、
「あら、おじいちゃんが闘うの? 意外だけどおもしろそうね」
フッと不敵な笑みを漏らすと、全身を覆っていた黒いマントの首元に手をかけた。
「いいでしょう! ならば見せてあげるわ! あたしのファイティングフォームを!」
バサァッ!と音を立ててマントが脱ぎ捨てられ、続いて顔を覆っていたスマイリーマークの仮面が投げ捨てられる。
露わになったその姿を目にした瞬間、バリアフリーマンの眼球が飛び出さんばかりに見開かれた。
「ゲェ――ッ! あれは……」
そこに立っていたのは、ピンクのハイレグレオタードに身を包んだ青い肌の怪人。
そしてなにより目につくのは、頭頂部でピンと立ったモヒカンヘアーと、アイラインのバッチリ引かれた目元、真っ赤な口紅、左頬には星型のタトゥーという、強烈すぎるメイクを施した素顔。
胸はない。
股間もややもっこりしている。
どれだけ女性的な口調、化粧をしようとも、バリアフリーマンには体つきでわかってしまう。
このハイグレ魔王なる人物の正体は――
「オ……オカマ~~ッ!?」
バリアフリーマンはショックのあまり、エドヴァルド・ムンク作『叫び』がごとく悲鳴を上げた。
「そうよ、あたしはオ・カ・マ。なんか文句ある?」
バリアフリーマンの絶叫に対し、ハイグレ魔王は腰に手を当て、人差し指をチッチッと横に振りながら開き直ってみせる。
このオカマ……己の在り方に誇りを持っているタイプのオカマだ!
数秒前までの哀愁あるベテランの表情は跡形もなく消え去り、バリアフリーマンの顔は見る見るうちに引きつっていった。
「お……女じゃないなら話は変わる」
バリアフリーマンはくるりと背を向けると、キッドの背中に隠れた。
若者を盾にし、急に弱々しい老人を演じ始めたのである。
「ここは若いもんに任せた」
「このスケベジジイ~~ッ」
どうせハイグレ魔王が女性だったら試合のドサクサに紛れてボディタッチをしまくるつもりだったのだろう。が、そのあてが外れたので裏に引っ込んだと。
期待した自分がバカだったとばかりに、キッドが怒りで拳を震わせる。
と、そのときだった。
「ちょっと待った――っ!」
突如として、耳ツボを突くような甲高い女性の声が響き渡った。
一同は声のしたほうに一斉に視線を向ける。
おそらくは予定されていたイベントのためのものだろう。リングのそばに巨大モニターが設置されており、いつの間にかある女性の顔を映し出していた。
「ジャ……ジャクリーン!?」
春日部スタジアムでアクション仮面vsケビンマスクの試合をレフェリングしていた、ジャクリーン・マッスルである。
見上げれば、広場の上空には宇宙超人委員会のマークが入った数台のドローンカメラが滞空し、大宮ソニックシティ・イベント広場の様子をリアルタイムで撮影している。
春日部スタジアム本部からの映像中継が繋がったのだ。
「我々は宇宙超人委員会! 超人同士の闘いをただの殺し合いにしないため、リモートではありますがこの闘いを公平にジャッジさせていただきます!」
モニター越しに堂々と宣言するジャクリーン。
ハイグレ魔王は「あらやだ」と口元に手を当て、クスリと嘲笑した。
「ふ~ん、この世界の正義と悪の闘いってのはずいぶんと形式張ってるのねぇ。あたしは構わないけど」
気取るハイグレ魔王だったが、すぐに仮面のなくなった素顔でモニターを睨みつける。
「けどお嬢ちゃん。レフェリングしたいならリモートと言わず現地に来たらどう? ウチのパンスト団がステキなハイレグ姿にしてあげるわよ?」
不気味な光線銃をチラつかせるハイグレ魔王の脅迫に対し、ジャクリーンはフンッと鼻を鳴らし、高飛車に胸を張った。
「あいにくだけど、趣味じゃありません。こっちの世界のトレンドは日々移り変わるもの……そんな20世紀の遺物みたいなファッションでいたら笑われてしまいますわ」
挑発には挑発で返す。
画面越しではあるが、ジャクリーンとハイグレ魔王のふたりは激しい火花を散らす。
「ウフフフフ」
「オホホホホ」
目が笑っていない笑顔で互いを煽り合うふたり。まさに女の戦い(片方はオカマだが)と呼ぶべき迫力だった。
蚊帳の外に置かれたバリアフリーマンとキッドが引き気味に冷や汗を流す。
「このままジャクリーンに闘ってもらったほうがええんじゃなかろうか……」
「ミ……ミーもそんな気がしてきた」
思わず逃避しかけたふたりの耳に、モニターの中のジャクリーンから雷のような一喝が飛んだ。
「なにを言ってるんですかあなたたち! 結局どっちが闘うの!?」
「オ、オレだ!」
叱責されたキッドはハッと我に返り、勢いよくリングのロープをくぐり抜けた。
腕を大きく回し、額の“K”の文字を誇示するように観客――頭にパンストを被った怪人と「ハイグレ!」と連呼するハイレグレオタード集団だが――へアピールする。当然ながらキッドコールは発生しない。
ともあれ、これでリングにふたりの超人――片方は超人ではなく宇宙人だが――が揃った。
もはや待ったなし。
レフェリーを買って出たジャクリーンが、小さな木槌を持ちゴングを叩く。
「レディ――ッ、ゴ――ッ!」
死闘開幕の金属音が春日部スタジアムに鳴り響き、その音は中継映像を通して大宮ソニックシティのイベント広場にも伝わった。
『さあ~~っ、始まりました! 子供たちの身柄を懸けた
春日部スタジアムの会場アナウンサーによる実況が、ドローンに仕込まれたスピーカーから大宮の空へと轟く。
『テリー・ザ・キッドは風間トオルくんを救出し、さらにハイレグレオタード姿に変えられた大宮の人々を元に戻さなければなりません! そのためには、ハイグレ魔王の打倒が必須! キッドはこのハードミッションを攻略できるのか~~っ!?』
「テリー・ザ・キッド……」
風間トオルくんは檻の役割を果たす黒い球体の中から、不安そうな視線をリングへ送る。
一方、リングの周囲では――
「ハイグレ! ハイグレ!」
「ハイグレ! ハイグレ!」
「ハイグレ! ハイグレ!」
地獄のセールスレディ・
ハイレグレオタード姿に無理やり“変身”させられた人々は、ガニ股の姿勢で足の付根をV字になぞる。
それを監督するのは、ハイグレ光線銃を構えながらも一切言葉を発しようとしない、頭にパンストを被った怪人たち。
不気味……というよりは、狂気とすら思える空気感だった。
「クッ……こんな異様な空気の中で試合をするの初めてだぜ」
独特すぎる敵地の雰囲気に、さすがのキッドも集中力を乱されそうになる。
だが、対峙するハイグレ魔王はその隙を見逃さなかった。
「よそ見してんじゃないわよ――っ!」
ハイレグレオタードが魅せる長い脚をしならせ、猛然と踏み込んでくるハイレグ魔王。
瞬間、キッドは集中力を取り戻し手を突き出す。
『テリー・ザ・キッドとハイグレ魔王、まずは手四つで組んだ――っ!』
リング中央、がっしりと互いの指を絡め合い、力と力の真っ向勝負――“テスト・オブ・ストレングス(手四つ)”の態勢に入る両者。
相手の青く細い腕を見ながら、キッドはニヤリと笑ってみせた。
「そんな細腕でオレと力比べしようなんざ片腹痛ぇ! このまま捻り潰してやるぜ――っ!」
キッドは超人レスラーとして特別力自慢というわけではないが、こんな枯れ木のような細腕に力負けする道理はない。
名門テリー一族の意地を見せんと、一気に腕に力を込めようとした――が。
「ウ……グアア~~ッ」
突然、キッドの口から悲鳴が上がった。
押し込んでいたはずのキッドの膝がガクガクと震え、顔面が凄まじい苦痛で歪む。
『あ――っとテリー・ザ・キッド、ハイグレ魔王と手四つに組んだまま苦痛の叫びを上げている――っ』
「ど、どうしたキッド!?」
リングサイドでセコンド役に回ったバリアフリーマンが呼びかけるが、キッドには答える余裕もないようだ。
いったいなぜ――と老眼で目を凝らしたところで、驚愕の事実に気づく。
ふたりの体を繋ぐ手と手。
そこから赤い血が滴り落ちていることに。
「キッドの両手から血が……あれはまさか、ハイグレ魔王の握力によるものか!?」
なんとハイグレ魔王の細い指先が、万力のごとき凄まじい圧力でキッドの手を圧迫していたのだ。
ギリギリと骨が鳴り、皮膚が裂けて鮮血が噴き出す。
「ホホホ……あたしはかつてアクション仮面とこの大宮ソニックシティくらい高い建物で“のぼりっこ”して勝負したことがあるの。握力には自信ありよ」
恐ろしい笑みを浮かべ、ハイグレ魔王はさらに力を込める。
かつてアクション仮面と繰り広げた“のぼりっこ”――巨塔の外壁を素手で登り切るという常軌を逸した対決。それを可能にしたのは、指先ひとつで岩盤をも握り潰すハイグレ魔王の規格外の指の力だった。
「さあ、このまま捻り潰してあげる!」
「ギャアアア~~ッ!」
『キッド、試合序盤からいきなり大ピンチだ――っ!』
両手の骨が粉砕されかねない激痛に、キッドの意識が飛びかける。
しかし、こんなところで倒れるわけにはいかない。
自分はテリーマンの息子であり、父世代――
たとえ両手がグチャグチャにされようとも、心が折れない限り負けはない!
激痛の中でテキサス魂に火がついたキッドは、血走った眼でハイグレ魔王の股間を睨みつけた。
「調子に……乗るんじゃねぇ――っ!」
キッドは手四つの体勢で固められた状態のまま、残された下半身の全筋力を足先へ集中させ、右足を上方へ向けて一直線に蹴り上げた。
狙うは、相手の股間――!
「あふん!?」
ハイグレ魔王の口から、なんとも言えない妖しくも情けない悲鳴が漏れた。
両手の圧力が一瞬にして霧散する。
『き……金的~~っ! 魔王にも金的は効いた~~っ』
「こ、このヤロウ~~ッ」
股間を押さえて内股になり、涙目で悶絶するハイグレ魔王。
オカマであるということは、肉体的には男性ということ。急所への打撃は宇宙共通だ。
痺れる両手を強く振り、激痛を強引に振り払ったキッドが、野獣のような咆哮を上げる。
「さあ、こっからがテリー・ザ・キッド様の真骨頂だ!」
両手は大ダメージを受けている。
そんなとき、テリー・ザ・キッドならどうする?
決まっている――「だからどうした!」と構わず拳を握るのみだ!
キッドは前進し、悶絶するハイグレ魔王の顔面へ向けて拳の嵐を叩き込み始めた。
『あ――っとキッドがいった! キッドがいった! キッドがいった~~っ!』
父テリーマン、そして息子テリー・ザ・キッドの
その代名詞こそが、拳の損傷など気にも留めない怒涛のナックルパートである!