アクションバース “キン肉マンⅡ世VSアクション仮面” 作:速筆魔王LX
昔々……まだ己が正義超人として悪と闘うことになるなど思いもしていなかったほどの昔。
テリー・ザ・キッドは家族との何気ない思い出を振り返る。
舞台は熱帯びた大宮ソニックシティのイベント広場ではなく、夕陽のオレンジ色に染まるテキサスの我が家。
静かに揺れるロッキングチェアに座るテリーマンの膝元で、幼いキッドは目を輝かせて父を見上げていた。
「え――っ!? パパ、怪獣と闘ってたことがあるの!?」
テリーマンが語るのは、遠い遠い昔話。
ここアメリカはテキサスから離れた島国での闘いの記憶だ。
「ああ。ずいぶん昔の話だ……悪行超人の活動がまだそれほど活発でなかった頃、日本が宇宙怪獣の脅威にさらされていた時期があってな。当時の総理に乞われ、よく怪獣退治に出向いていたんだ」
遠い目をして昔を懐かしむテリーマン。
その口元には優しい笑みが浮かんでいる。
「ミーの友達、キン肉マンと出会ったときもその頃だ……懐かしいな」
テリーマンの相貌からは、一線を退いた大人だからこその哀愁が漂う。
しかしまだ幼いキッドはそんな心の機微には気づけず、怪獣という響きにひたすら興奮していた。
「じゃあパパは、怪獣をやっつけるためにテキサス・クローバー・ホールドやスピニング・トゥホールドを極めまくったんだね!」
テリーマンといえばやはり、熟練のテクニックを活かした数々の必殺技。
キッドは父が怪獣相手に関節を極めまくる姿を想像し熱狂した。
そんな無邪気な息子に対し、キッドはアメリカ超人らしく豪快に笑う。
「ハハハッ! 怪獣はそこらのビルより巨大でヒト型でないものがほとんどだ。テリー一族伝統の関節技は通用しないよ」
「ええー」
想像を否定され、唇を尖らせるキッド。
「それじゃあ、どうやって怪獣を倒したの?」
子供の好奇心が正解を求める。
ビルより巨大な怪獣を、ビルよりずっと小さいテリーマンが倒すにはどうすればいいのか。
「それはな……」
テリーマンは語る。
キン肉マンと共に立ち向かった、怪獣たちとの闘いの日々をより詳細に――
――テリー・ザ・キッドはハッとする。
意識は戦場と化した大宮ソニックシティ・イベント広場へと引き戻された。
目の前では、溶解液を滴らせる触手によって腕を焼け爛らせながらも、捨て身でハイグレ魔王の動きを封じる仲間、サムゥの痛々しい姿があった。
「……パパから聞いたことがある。その昔、正義超人は悪行超人とはまた違う別の脅威と闘っていたことがあったと。超人レスリングの技が通じないその相手に対抗するためには、技とは別の武器が必要だった……」
キッドが左肩のプロテクターに手を伸ばす。
今日に限り、キッドはこのプロテクターの内側に“とある武器”を収納していた。
「今朝、家を出る直前……シューズの紐が切れたんだ。テリー一族にとってシューズの紐が切れるのは凶事の兆し。ケビンマスク対アクション仮面の試合、あるいはその警備任務でなにか起こるのではないか。そういった予感に駆られ、オレは秘密兵器を持ち出したんだ。パパ……テリーマンから受け継ぎ、しかし使うことは一生ないだろうとも思っていた“アレ”を」
覚悟を決めたキッドの眼光が冷たく鋭く光る。
プロテクターを外し、それを手に取った。
「キャホ――ッ!」
そのとき、サムゥの肉体に限界が訪れた。
溶解液に耐えかねたサムゥの腕が力なくほどけ、ハイグレ魔王は狂乱の咆哮とともに彼を強烈に振り払った。
『サムゥ、限界か――っ!? 両腕が力なく折れ、ハイグレ魔王に投げ飛ばされた――っ!』
ソニックシティの堅牢な外壁に激突し、崩れ落ちるサムゥ。
「ガ、ガハッ」
鮮血を吐き出して倒れるサムゥを一瞥し、モンスターと化したハイグレ魔王は醜悪な顔をキッドへと向けた。
触手腕を鎌首のように持ち上げる。
「次はあなたよ! 死になさい、テリー・ザ・キッド!」
鞭と化した触手が襲いかかる――そう思われた、次の瞬間。
ズドォォン――ッ!!
大宮の街全体を揺るがすような、あまりにも重厚で異質な“乾いた咆哮”が響き渡った。
「あ……な……?」
ハイグレ魔王の動きがピタリと止まる。
魔王の胸の真ん中――そこには巨大な風穴が開き、黒煙が噴き出していた。
風穴の向こう側で、キッドは脚を肩幅に開き、反動をものともしない様子で“それ”を片手で構えていた。
銀色に鈍く光るアメリカ超人の象徴的武器――“マグナム拳銃”を。
『こ……これは~~っ!? マグナム拳銃だ――っ! テリー・ザ・キッド、突如マグナム拳銃をぶっ放しハイグレ魔王の体に風穴を開けた――っ!』
拳銃。
超人レスリングの舞台ではまずお目にかからないであろう武器の登場に、春日部スタジアムの観客たちもどよめく。
だが――ただひとり。
春日部スタジアムの客席に座り、大型モニターでその光景を見ていた壮年の男性……“超人レスリングファンの古豪”とでも呼ぶべき風格を持った人物が、昔を懐かしむようにつぶやいた。
「懐かしいのう。昔はあのマグナム拳銃でテリーマンがアブドーラやカッパトロンといった強豪怪獣をバッタバッタと撃ち倒していったもんだ」
ズレそうになったカツラを直しながら、画面上のキッドに
一方、観客の誰よりも衝撃を受けたのは、撃たれたハイグレ魔王本人である。
目の前の男が怪獣退治を生業にしていたヒーローの血を引いているなど想像すらしていなかった。
「ウ……ウソ~ン」
胸をぶち抜かれたハイグレ魔王は、触手腕がみるみるうちに萎縮し、不気味な怪物から元のオカマ姿へと戻る。
そのうえで、バタリと地面に倒れ込んだ。
胸の風穴をそのままに、完全に沈黙する。
「今度こそ決着よ!」
放送席からジャクリーン・マッスルが威勢良く叫び、ゴングに木槌を叩きつけた。
カンカンカンカンカン――ッ!
『今、2度目のゴングが鳴らされた――っ! あらためまして、勝利したのはテリー・ザ・キッド! 暴走したハイグレ魔王をまさかのマグナム拳銃でノックアウトし、
魔王の完全沈黙に伴い、リング上にふよふよと浮遊していた黒い球体の檻も瞬時に消滅。
「わぁああ――っ!」
中に囚われていた風間くんが空中へと投げ出され、悲鳴をあげながら落下してくる。
「オーライ」
キッドはマグナムを懐に収めると、落下してきた風間くんを両腕でしっかりと受け止めた。
ヒーローに抱きかかえられるという少年の夢のシチュエーションの中で、しかし風間くんはしっかりとお礼を言う。
「助けてくれてありがとう、テリー・ザ・キッド!」
「トオルの応援のおかげさ」
風間くんはキッドの胸の中でほっと胸を撫で下ろす。
しかしながら、様々な塾に通い中学生並の知識を持つ彼としては気になってしまうこともあった。
法律である。
「でも日本に銃を持ち込むのは犯罪だよ。ましてや発砲だなんて」
「子供なのによく知ってるな」
正論を突きつけられ、さすがのキッドもバツが悪そうに苦笑いを浮かべた。
「なに、日本政府はミーのパパにデカい借りがある。罪には問われないさ」
ニッと眩しい笑みを浮かべ、キッドは風間くんを足もとに下ろす。
「でもバレたら面倒だろうからな。内緒にしててくれよ」
続いて彼と目線を合わせるために屈み、拳を突き出したのだ。
「オトコ同士のお約束だ」
どこか聞き覚えのあるフレーズに、風間くんは一瞬呆気にとられたものの、すぐに満足そうな笑みを浮かべて小さな拳を突き返した。
「うん!」
固い絆を結ぶふたり。
そのとき、後ろからひょっこりと顔を覗かせる姿があった。
「ホエホエ……ようやったのう、キッド」
ハイレグレオタード姿から元のオムツパンツ姿に戻った老超人、バリアフリーマンである。
「バリアフリーマン! 元に戻ったんだな!」
バリアフリーマンだけではない。
それぞれ傷を負ってはいるが、サムゥ、ジ・アダムス、アポロンマン、ゴージャスマンたちも誰ひとり欠けることなくそこに立っていた。
さらに、周囲を固めていたパンスト団たちは影のようにスゥーッと消えていく。
ハイレグレオタード姿でガニ股ポーズを取らされていた大宮の人々も、次々と本来の服を取り戻して我に返っていった。
「パンスト団とかいう連中は消滅し、ハイレグ姿にされていた大宮の人たちは元の姿に戻っていく」
「オレたちの完全勝利だぜ」
真・正義超人軍打倒の一矢として放たれたバリアフリーマンとテリー・ザ・キッドは、ミッションの完遂を確信する。
だが、パンスト団が消えた一方でまだこの場に残っている者がいた。
「オホホホホ……」
弱々しい笑い声を発しながら起き上がってきたのは、風穴を開けたオカマである。
「ハ……ハイグレ魔王!」
瞬時に身構えるキッドたち正義超人。
ハイグレ魔王はそんな彼らを前に、憎々しく告げる。
「今度こそ負けたわぁ……超人レスラーだなんてウソばっかり。まさかいきなりマグナムぶっ放してくるとは思わないじゃない」
不平を漏らす魔王だったが、その全身はまるで幻だったかのように薄くなっていく。
「警戒しないでよ。ほら、体が消えかかってるでしょ? どうやら元の世界に帰るみたい……きっとこの胸に埋め込まれていたジェネラル・ストーンとかいう石が撃ち砕かれたからね」
そういえば、サタンの手によりこの地に召喚された者たちは、ジェネラル・ストーンを核としていたはず。
キッドが放ったマグナムの弾丸は偶然にも胸を貫いた。その一撃は図らずともクリティカルヒットとなったらしい。
「悔しいわぁ。あんたたちを倒したらアクション仮面にリベンジして、あのサタンとかいうやつもぶっ倒しそのままこっちの世界を征服してやるつもりだったのに……計画はぜ~んぶご破産」
自らの消滅を悟りながらも、ハイグレ魔王はどこか晴れやかな顔で空を見上げる。
そこから視線を転じ、今度はキッドを色っぽく見つめた。
「でも、ま……あなたにぶっ放されたマグナム、なかなか悪くなかったわ。機会があったらまたヤりましょ」
そう言うと、ハイグレ魔王は右手を口元にあてがう。
「む~~~~っ…………んちゅ」
オカマ宇宙人による濃厚な投げキッス。
キッド、バリアフリーマン、風間くん、サムゥ、ジ・アダムス、アポロンマン、ゴージャスマン、7人の体がゾワゾワッと震え上がる。
「じゃね」
簡素な挨拶を最後に――ハイグレ魔王の体が完全に消滅した。
その場に残ったのは、傍迷惑な投げキッスの余韻のみ。
「ハイグレ魔王……いろんな意味で恐ろしい敵だったぜ」
完全勝利を収めたにもかかわらず、冷や汗を拭うことになったテリー・ザ・キッド。
やはり今回の闘いは一味違う。
はたして他のワープホールに入っていった仲間たちは大丈夫だろうか――と友の身を案じるのだった。
◇
――テリー・ザ・キッドとバリアフリーマンがハイグレ魔王を倒し風間トオルくんを救い出した直後。
彼らとは別のワープホールに入った超人コンビが、やはり大宮とは別の地に降り立った。
「トア――ッ!」
黒い歪みから出てきたのは、飛行機のような鋭角なフォルムを身に宿すロボ超人。
ロシアで“赤き死のママリオート”の異名を取るイリューヒンである。
「ハァ――ッ!」
彼のあとに続き出てきたのは、両肩にチェスの駒を載せマントを羽織った超人。
モナコで“漆黒の騎士”の異名を取るチェック・メイトである。
「どうやらここが終着点のようだな」
「そのようですが……ここはいったい?」
イリューヒンとチェック・メイトが周囲の状況を目視で確認する。
そこは静まり返った広大な敷地であり、足もとにはしっかりとした舗装がされていた。
ジャングルの奥地や荒れ果てた砂漠に出ることも覚悟していたが、ここは市街地なのだろうか。
不審に思ったイリューヒンとチェック・メイトが前方を見上げた瞬間、その表情が戦慄に染まる。
「あ……あああ~~っ! あれは――っ!?」
ふたりの目の前に燦然とそびえ立っていたのは、ドーム状の巨大建造物。
そして、その正面入場口には巨大なカタカナで、はっきりとこう刻まれていたのだ。
“ベルーナドーム”と――!