アクションバース “キン肉マンⅡ世VSアクション仮面” 作:速筆魔王LX
ワープホールを抜け、誘われし地に降り立った
そこには極寒の雪山でも険しい森林地帯でもなく、見慣れた日本市街地の景色が広がっていた。
極めつけは、目の前にそびえるドーム状の巨大建造物。
「あれはまさか……あの西武ライオンズのフランチャイズ球場として有名な、ベルーナドームか――っ!?」
「色々な企業に命名権が売却され続け、西武プリンスドームやメットライフドームなどたびたび名前を変える……あの!?」
ベルーナドーム――野球場である。
野球場はその広さと見渡しの良さ、客席の多さや設備の充実度などの観点から超人レスリングの試合会場としても人気が高い。
日本有数のドーム施設であるベルーナドームのことは、もちろんふたりも知っていた。
「ということは、ここは春日部と同じ埼玉県……」
「電車でもぜんぜん移動できる距離じゃないですか――っ!」
春日部からここベルーナドームまでにかかる移動時間は、公共交通機関を使えば1時間半といったところ。
たしかに大幅に時間短縮して移動することができたが、ワープホールなどという大仰な技術を使うほどの距離ではない。
「周囲に人の気配がないのが気にかかるが……ワープホールをわざわざ入場口の前に繋げていたんだ」
「おそらくは入ってこいということでしょうね。罠の危険性も高そうですが……」
入口近くの周囲を見回すイリューヒンとチェック・メイト。
本日野球の試合予定はないようだったが、それにしてもまったく人の姿を見ないのは気にかかるところだ。
だが、ここがワープホールの終着点である以上は二の足を踏んでいても仕方がない。
「行くか」
「ええ」
互いに頷き合い、ベルーナドームの正面ゲートをくぐる。
目指すべきはやはりグラウンドだろう。内野か外野か。超人レスリングにおいても、リングが置かれるとしたら観客席やファウルゾーンではなくそこだ。
「!」
通路を抜けた先、グラウンドに降り立ったイリューヒンとチェック・メイトは、そこで驚愕の光景を目にする。
「ビー!」
謎の掛け声を放つ、100名以上はいようかという黒服の集団が待ち構えていた。
全身タイツのような服装で顔面を覆う覆面をし、そこにはアルファベットの“B”が大きく刻印されている。
「あ……あああ~~~~っ!?」
「な、なんだこいつらは!? 新手の悪行超人か――っ!?」
規則正しく整列する彼らは、ふたりを導くように道を作っていた。
西武ライオンズファンとは到底思えない連中を前に身構えるイリューヒンだったが、チェック・メイトは別の反応をする。
「違います……こいつらは、ブラックメケメケ団の戦闘員! ということは、ここに待つのは……」
そう、チェック・メイトはこの“B”の黒服集団に心当たりがあった。
思い出すのはここを訪れる前、春日部スタジアムで見たフィクション上の存在。
彼らが悪の組織“ブラックメケメケ団”のザコ戦闘員であるとするならば、もちろんそのボスも――
「ようこそ! 新世代超人軍の諸君!」
チェック・メイトの予感を的中させる歓待の挨拶が前方から放られる。
見れば、黒服の戦闘員たちが作る花道の先に――超人レスリング用のリングが置かれ、そこにひとりの男が立っていた。
「おまえは、ブラックメケメケ団首領……」
「メケメケZ!」
メタリックなボディに、縦真っ二つに分けた右ゴールド、左パープルのツートンカラー。
胸には大きく“Z”のエンブレムを刻み、その頭部はドクロを思わせる禍々しき形状。
“アクション仮面の宿敵といえば?”というアンケートで毎回最上位に食い込む怪人――メケメケZである。
「私を知ってくれているとは光栄だね、イリューヒンにチェック・メイト。悪の組織のボスが有名人というのはあまり好ましくないが……どうせ別の世界だ。細かいことには目を瞑ろう」
イリューヒンとチェック・メイトはゴクリと唾を飲み込み、静かに歩き出す。
メケメケZの立つリングへ慎重に近づきながら、まずはイリューヒンが問うた。
「そういう貴様も、なぜオレたちの名を知っている?」
イリューヒンの問いに、メケメケZは持っていた一冊の本を翳してみせる。
「なに、君たちが来るまで暇だったのでね。少々学ばせてもらったのだよ。この世界のことについて」
異世界から来た者として、この世界のことを学習したと言うメケメケZ。
悪の組織の首領にあるまじき勤勉さ……いや、あるいは勤勉さこそが悪の組織の首領たる証なのか。
「人間とは異なる超人という種。さらに正義超人と悪行超人という、善悪で分けられたふたつの属性。両者が対立する闘争の構図は、なかなかに興味深いものがある」
テレビ番組“アクション仮面”の世界観に超人は存在しない。
正義超人や悪行超人といった存在は、メケメケZにとって奇異の対象なのだろう。
「しかしわからんのは、なぜプロレスなんだ? 超人の身体スペックを持ってすれば、他の戦闘手段などいくらでもあると思うが」
メケメケZは至極当然とも言える疑問を投げる。
チェック・メイトとイリューヒンはお互い顔を見合わせた。
「そ……それは……」
「あらためて問われると困るな……」
超人はなぜ超人レスリング(プロレスではない)で闘うのか?
哲学だ。
「まあそんなことはどうでもいい」
メケメケZは追及をやめ、話を変える。
「私がおもしろいと思ったのは、ここに来たのが君たち……元悪行超人のふたりということだ」
元悪行超人――子供たちを救いに来た正義の味方であるふたりに対し、そう言ってのける。
メケメケZの認識は正しい。
イリューヒンとチェック・メイトには、そう呼ばれるだけの過去があるのだ。
「フフフ……知っているぞ。祖国ロシアの従順な殺戮マシーンとして、数多くのライバルたちを惨殺してきた赤き死のママリオート。“
悪について一家言があるメケメケZは、感情の読めない顔でふたりの新世代超人を見つめた。
「いったいなにが言いたい?」
いい気分のしないイリューヒンが刺々しく真意を問う。
「勧誘だよ」
メケメケZはそう答えた。
「どうだイリューヒンにチェック・メイト。我がブラックメケメケ団に入らないか?」
優しく手招きするような仕草を加え――仲間にならないか、と。
そう誘ってきたのである。
「なっ……」
「なんだと!?」
チェック・メイト、イリューヒンの両名が驚きをあらわにする。
異世界の悪人と対峙して、まさか勧誘を受けるとは思わなかったからだ。
「ちょうどアクション仮面に幹部の大半を倒され、人員の補充をしようと思っていたところだ。夏冬のボーナスと慰安旅行あり、有給も自由に取ってもらって構わない……さらに今なら、大臣と将軍の地位も約束しよう」
まるで転職のような感覚でメリットを伝えるメケメケZ。
「大臣?」
「将軍?」
しかし課長や部長ならまだしも、大臣や将軍といった役職は耳馴染みがない。
いったいブラックメケメケ団の組織構成はどうなっているのだろうか。
ふたりの興味を誘ったところで、メケメケZがより具体的に説明する。
「“ヒコーキ大臣イリューヒン”と“ボードゲーム将軍チェック・メイト”……どうだ? 心躍る肩書きだろう?」
悪の組織の幹部となるなら、箔のついた肩書きは必須。
ウミウシ長官ビジョー、チンパン総督モンキッキ、カマキリ将軍ギリギリ、イグアナ大臣ズビズバ……かつてアクション仮面に倒されたブラックメケメケ団大幹部“ブラック四天王”もこういった肩書きを有していた。
こちらの世界の超人も二つ名を持っている者が多いようだし、イリューヒンとチェック・メイトもきっと心躍るものがあるだろう――メケメケZはそう考えていたのだが。
「断る!」
ふたりは声を合わせ、はっきりと勧誘を断った。
「たしかに我々は残虐街道を歩んでいる時期もあった!」
「だが今は正義超人としての誇りがある! そんな甘言になど惑わされるか!」
正義の誇り。
アクション仮面との闘いを通してその厄介さを知るメケメケZは、別段ふたりの決断を意外とも思わない。
それならそれで、次の手を打つまで。
「これを見てもそう言えるかな?」
パチンッと指を鳴らし、メケメケZの後方――ブラックメケメケ団戦闘員の群れの奥から、黒く透き通った球体が移動してきた。
その中には、おにぎりのような頭をしたひとりの少年が囚われている。
「ひぃいいいい!」
恐怖で顔をにじませ涙を流す男の子を見て、イリューヒンとチェック・メイトの気持ちがはやる。
「あれは……人質として連れ去られた!」
「春日部在住の幼稚園児! 佐藤マサオくん!」
さらわれた5人の子供たちの中でも、特に怯えていた男の子だ。
メケメケZは悪人に相応しい不気味な笑みを纏う。
「おまえたちが勧誘に応じないというなら、このガキをブラックメケメケ怪人に改造するまで。名前はオサル大臣マッキッキだ……どうだ嬉しかろう?」
オサル大臣マッキッキ。
マサオくんはオサルのように改造された自分の姿を思い描き、
「ひぃいい! イヤだぁあああ!」
黒い球体の中で号泣した。
「卑怯だぞメケメケZ!」
人質作戦など許せないとばかりに叫ぶチェック・メイト。
だがメケメケZは堂々と胸を張る。
「卑怯で結構! 悪の首領にふさわしい言葉だ」
悪といえば人質、人質といえば悪だ。
とりわけアクション仮面と敵対していたブラックメケメケ団は人質作戦を多用していた。
世界や相手が変わろうとも、得意技は変えない。
このまま悪の首領がペースを握るかと思われた、そのときである。
「ちょ~っと待った――っ!」
突如としてこの場にいない者の大声が響き渡り、全員が声のした方を向く。
ベルーナドームの外野席近く、センター側に置かれた巨大モニターに、なにかが映っていた。
それは、極太の眉毛に角張った輪郭、昔の音楽家を気取ったような髪形が特徴的な……非常にクドい顔の男。
その男の顔が、モニターいっぱいに映し出され見る者に圧を放っている。
「ひぃいいいいいいいいいいいいいいい!! 暑苦しい顔のオバケ――――ッ!?」
感受性豊かな子供であるマサオくんは大泣きし、黒い球体の中で腰を抜かした。
「私が凄んだときよりも怖がってないか?」
マサオくんのリアクションに圧倒されたメケメケZが思わずツッコミを入れる。
モニター画面の男と顔見知りであるイリューヒンとチェック・メイトは冷静に彼を叱り飛ばした。
「カメラからもっと離れろイケメン!」
「マサオくんが怖がっているでしょうが!」
マサオくんを泣かせた暑苦しい顔の正体は、春日部スタジアムから中継映像を送っている宇宙超人委員会現委員長イケメン・マッスルである。
「ご……ごめんちゃい」
あざとく謝りながら、イケメンはカメラ位置を調整。
こほん、と咳払いをしてから本題に入る。
「えー、気を取り直しまして」
マイクを手に取り、毅然とした表情で自らの仕事をこなすのだ。
「メケメケZよ! この闘いは我ら宇宙超人委員会が取り仕切らせてもらう!」
「なに?」
いきなり話に入ってきた部外者に、メケメケZは顔を顰める。
だが、イケメンの矜持は揺るがない。
「正義であろうと悪であろうと、リングに立ったからには公平にレフェリングしジャッジをくだす……それが宇宙超人委員会の使命! この世界で争いを起こすというのであれば、こちらの流儀に従ってもらおうか!」
悪の組織の親玉を相手取り、公平なレフェリングをすると言ってのけるイケメン・マッスル。
自分の世界ではありえなかった展開に、メケメケZは小気味よく笑う。
「フフフフ……無茶苦茶なことを言う男だ。悪の首領にルールを守れとは。だがその威勢の良さは嫌いじゃない」
このイケメン・マッスルという男、なかなかにおもしろい。
彼に興味を持ったメケメケZは、この闘いにさらなる提案を乗せる。
「いいだろう。ただし私が勝利した暁には、お前も怪人に改造させてもらう」
「へ?」
メケメケZが指差したのは、ベルーナドームの巨大モニター。
すなわち、画面の向こうにいるイケメン・マッスルである。
「もちろん私が負ければ人質は解放しよう。どうだ?」
……話を整理しよう。
イリューヒンとチェック・メイトがメケメケZと闘う。
イリューヒンとチェック・メイトが勝てば、マサオくんは解放される。
イリューヒンとチェック・メイトが負ければ、マサオくんは解放されず……さらにイケメンが怪人に改造される。
「え……」
これまでいかなる悪行超人との闘いにおいても安全圏にいたはずの宇宙超人委員会が、勝者の賞品としてターゲットにされていた。
「えええええ~~~~っ!?」
イケメンはあまりのショックに狼狽し、情けない叫び声を上げた。