アクションバース “キン肉マンⅡ世VSアクション仮面” 作:速筆魔王LX
突如ひとりからふたりに増殖したメケメケZ。
相対するチェック・メイトは見たままを言う。
「ぶ……分身!?」
なんらかの方法で身を2つに分かつ――まさしくジャパニーズ・分身の術だ。
しかしメケメケZは日本産特撮ドラマのキャラクターではあるが、忍者ではない。
リングサイドで闘いを見守るイリューヒンは嫌な記憶を思い出す。
「まさか……またレプリカか!?」
メケメケZは自分と瓜二つのレプリカをけしかけイリューヒンと闘わせた。
レプリカが1体だけという保証はない。
実はもう1体いて、それを同じリングに立たせているのではないか。
イリューヒンはそう考えたのだが、メケメケZは別の真相を語る。
「違うな! これは私が高速で動くことにより、まるでふたり存在するように見せているのだ!」
言いながら、ふたりで別々のポーズを取るメケメケZ×2。
にわかには信じがたい――が、メケメケZは1/10のスペックのレプリカですら残像を残して動けるほどのスピード自慢。その10倍の実力を有する本体ならば、決して不可能とも言えない。
「高速移動による分身術……これこそレプリカ以上のスピードを持つという証明よ!」
不可能ではないかもしれないが、認めたくない。
チェック・メイトは唇の端を噛み言う。
「い……いくらスピードが増そうと、ひとりがふたりになるはずがない!」
超スピードによる分身などフィクションの産物。ウソ科学だ!
「確かめてみるか!?」
ふたりのメケメケZはニヤリと笑み――両方とも消えた。
チェック・メイトが「あっ」と声を発する間もなく、悪の首領は彼の正面と背後に現れる。
まるで瞬間移動がごとき急速接近。
そこから繰り出されるのは、シンプルだが威力満点な蹴り。
『ふたりに増えたメケメケZ、チェック・メイトの前と後ろからミドルキックをくらわせる――っ!』
胸と背中に響く鈍痛。
異なる方向からの同時攻撃はチェック・メイトにとっても初めての経験だった。
「バ、バカな。前と後ろから同時に衝撃が……つまりやつはそう感じるほどのスピードで動いているのか」
蹴りそのもののダメージよりも、メケメケZがやってのけた非科学的芸当に対する精神的ショックが強い。
愕然とするチェック・メイトを嘲笑うかのように、メケメケZは再び分身体とふたりで並び立った。
「フハハハハ。正面と背後からの同時攻撃だ」
「超人レスラーとはこういうときどう対処するのかな?」
わざわざ別々に問いかけながら、分身体は目にも止まらぬ速さでチェック・メイトの背後に回る。
1対1の超人レスリングで前と後ろの敵を同時に対処しなければならないシチュエーションなどない。
悪魔超人サンシャインに育てられたチェック・メイトとて、そんな訓練は受けたことがない――が。
「一般的な超人レスラーはまた別でしょうが……わたしはその技への対抗策を持っている」
自身の能力と現在の状況を照らし合わせ、チェック・メイトは最適解を導き出す。
「チェス・駒・チェンジ!」
右肩に備え付けられたボタンを左手の指で押す。
すると、チェック・メイトの頭と、右肩に載る“
頭と“馬”の駒はまたすぐ表に出てきたが――それぞれ位置を入れ替え、“馬”の駒が首に、頭が右肩に来る。
続けて下半身にも変化が生じ、腰のあたりから馬のような体と、3本目、4本目の脚が生えてくる。
チェック・メイトの
右肩の“馬”と左肩の“
“馬”の特性は半人半馬。
まるでギリシャ神話におけるケンタウロスのような姿となることで、馬の脚力と超人の腕力を両立させることが可能となるのだ。
『あ――っとチェック・メイトの頭部が右肩の馬の駒と位置を入れ替え……さらに下半身も本物の馬を思わせる四脚の馬体となった――っ!』
様々な飛行機に変身していたイリューヒンに引けを取らない変身能力。
しかしながら、獣人のような見た目の部下を多く持つメケメケZに驚きはなかった。
「なんだそれは! 欽ちゃんの仮装大賞か!?」
『メケメケZ、臆さず突っ込む――っ!』
先ほどと同じく前と後ろから同時攻撃を仕掛けるが――不意に、正面にいたメケメケZが消えた。
チェック・メイトが馬の後ろ足で蹴り上げ、背後のメケメケZが宙を舞っているためだった。
『あ、ああ~~っ! チェック・メイトの背後にいたメケメケZが馬の後ろ足で蹴り飛ばされている――っ!』
「馬の背後はデンジャラスゾーン! 気軽に踏み込めばその強靭な脚力によって蹴りつけられる!」
人間の死傷事故も少なくはないと言われる馬の蹴り。
蹴り飛ばされたメケメケZは不格好なステップで着地し、血で汚れた口元を腕で拭う。
「なるほど。死角を突いたことがあだとなるとはな」
メケメケZの分身はあくまでの超スピードによる錯覚。
片方が動きを止めればもう片方が消えるのは必然だった。
「ならば正面から全力だ!」
分身は一旦やめ、メケメケZは“馬”チェック・メイトの正面に躍り出る。
『チェック・メイトの後ろにいたメケメケZが消え、正面に現れた新たな1体が襲いかかる――っ』
「そちらに対してはこれだ!」
馬の脅威は後ろ足だけではない。前足とて恐るべき破壊力を秘める。
チェック・メイトは前の2本脚を大きく振り上げ、叫ぶ――そう、まるで興奮した馬の嘶きがごとく。
「ケンタウロスの黒い嘶き――っ!」
『チェック・メイト、今度は前蹴りの連打でメケメケZの胸板をボコボコにする~~っ!』
振り上げた前足での連続蹴り。
後方からの攻撃をやめ正面から来るとわかったメケメケZを迎え撃つのは難しいことではなかった。
「ガハッ!」
体を大きくのけぞらせ、キャンバスに背中をつけるメケメケZ。
今度は着地ならず。
『メケメケZダウ~ン! なんとチェック・メイト、レプリカの10倍の実力と目されていた真メケメケZから先にダウンを奪った――っ!』
前足を下ろし、仰向けに倒れたメケメケZを見下ろすチェック・メイト。
その堂々たる佇まいは見る者に希望を与えた。
「やったーっ!」
囚われのマサオくんは小さな手を振り上げ、
「いいぞ、チェック・メイト!」
セコンドのイリューヒンは力強くガッツポーズを取る。
試合はチェック・メイトの優勢――と、思われた。
が、
「フフ……イリューヒンといい、超人というのは変身が好きだな」
『あ――っとしかしメケメケZ、ダウンカウントは許さずすぐさま立ち上がった――っ』
メケメケZは何事もなかったかのように起き上がってきた。
黒一色の無機質な瞳、ドクロのような剥き出しの歯……変わることのないその表情からは、苦しさや弱々しさといったマイナス感情が読み取れない。
攻撃が効いているのかどうか不安にさせる容貌をそのままに、メケメケZは両腕を水平に構える。
「だがそのデカい図体でこれが避けられるかな?」
両手首から4つの発射口が展開し、黒光りする電撃が迸る。
「死ね! ブラックビーム!」
左右それぞれの手首から放出されたそれは一本に集約され、標的へと伸びていく。
『メケメケZ、両腕から黒い光線を発射した――っ!』
イリューヒンを迎撃したブラックビームボールの本来の姿がこれか!
瞬時に理解したチェック・メイトは、下半身にグッと力を込める。
馬の脚力は蹴り技だけのものではない――跳躍力にも活かされるのだ。
『なんとチェック・メイト、馬形態の強靭なジャンプ力を活かしこれを回避――っ!』
「な、なにィ!?」
障害馬術のごとく空を跳ぶ“馬”チェック・メイト。
地上のメケメケZに言う。
「わたしはマサオくんほど詳しくはありませんが、テレビ番組の中であなたを見たことがある。だからこそ、その技の発動は予測できた」
メケメケZのブラックビームはアクション仮面のアクションビームと対を成す技。
あのケビンマスクが苦しめられた姿を思えばこそ、体は即座に反応できた。
「一方であなたは予測できなかった! この“馬”チェック・メイトの繰り出すチェス・駒・チェンジ戦法を!」
着地はメケメケZの背後。
ビーム発射の体勢を取っていたメケメケZはすぐには対応できない。
チェック・メイトはまず馬の前足でメケメケZの首を4の字に固め、両腕をそれぞれの手で掴む。同時に馬の後ろ足を相手の両脚に差すように絡め、身動きを封じた。
「スモザード・メイト・クラッチ――ッ!」
2本の腕と4本の脚を活かした“馬”チェック・メイトならではの関節技である。
「テクニカルなジャンプでメケメケZの背後に着地したチェック・メイト、馬の前足でメケメケZの首を4の字に固め……両足は馬の後ろ足を絡めることで固定! そして両腕を掴み後ろに引くことで首・肩・背骨に特大のダメージを与える――っ!」
仲間でありながら初見となる妙技を前に、イリューヒンも驚きの反応を見せる。
「チェックのやつ、半人半馬の体を活かしたサブミッションを仕掛けるとは……あれは効果的かもしれん!」
関節技は極める箇所が多ければ多いほどよい。
2本腕2本脚の人間態ならば限界があるが、2本腕4本脚の“馬”チェック・メイトならばその限界を超えられるという寸法だ。
「ゴハァッ!」
『メケメケZの体が後ろへ弓なりに反り上がる――っ! 倒れたいが両脚に差し込まれた馬の後ろ足がそれを許さず、全体重が首・肩・背骨を集中砲火だ――っ!』
真っ先に折れるのは頚椎か上腕骨かそれとも背骨か。
窮地に追いやられたメケメケZは、しかし称賛の言葉を口にする。
「す、素晴らしいなチェック・メイト。私も悪の組織の首領を長くやっているが、関節技をかけられた経験はなかった……それゆえに対処が遅れてしまったよ」
組織の長たる威厳を維持しようと努めているのか、それは負け惜しみのようにも聞こえた。
チェック・メイトは超人レスリングの素人であるメケメケZに残酷な現実を突きつける。
「残念だったな。一度極まってしまった関節技は絶対に外せない……対処が遅れたということは、それすなわち敗北を意味する」
首を絞める前足、両腕を絞る両手、姿勢制御のための両脚、いずれにも力は緩めない。
ギリギリと骨が軋む音が聞こえ、チェック・メイトは己の勝利が近づいてくのを実感した。
「なるほどな。しかしそれは、相手が私以外の有象無象だった場合だろう?」
「なに?」
メケメケZの余裕ぶった言葉を聞く、そのときまでは。
次の瞬間、両手で掴んでいたはずの両腕が暴れ出した。
『あ――っとメケメケZ、両腕のクラッチを力ずくで振りほどいた――っ!』
あっさりと解かれてしまった両腕の拘束。
「なっ……!?」
油断はなかった。
ただただシンプルに、メケメケZの腕力がチェック・メイトの握力を凌駕したまでのこと。
「馬の脚力と重量を活かした見事な関節技だが……人間態である両手のクラッチは甘い! もっとの腕の筋肉を鍛えるべきだったな、チェック・メイト!」
メケメケZは両腕を背後に向ける。
その手首からは4つの発射口が展開されていた。
「くらえ、背面ブラックビーム!」
『メケメケZ、自由になった両腕で背後のチェック・メイトにブラックビームを放つ――っ!』
黒い光線がチェック・メイトの身を包んだ。
「グアアッ!」
至近距離から繰り出されたビームはスモザード・メイト・クラッチの拘束を容易く解く。
それは快進撃を続けていた“馬”をメケメケZが攻略したことを意味していた。
『直撃をくらってしまったチェック・メイト、“馬”ボディが元の“
首の位置にあった“馬”駒が再び右肩へ、右肩にあった“王様”の頭部が再び首の位置へ移動する。
体勢を立て直す両者。
渋面を作るチェック・メイトに対し、メケメケZは尊大な態度で構える。
「フハハハハ……チェック・メイト。おまえには超人レスリングというものの楽しさを教えてもらったよ。その礼と言ってはなんだが、私もひとつ超人レスリングの技を見せてやろう」
「な……なんだと?」
超人レスラーではない異世界からの来訪者が、超人レスリングの技を見せるという発言。
チェック・メイトは困惑のまま耳を傾ける。
「おまえたちが来る前に、少し学ばせてもらったと言っただろう。具体的には、この世界の超人に関して書かれた本を読んでな。その中には過去に活躍した超人についても書かれていたのだが、ある超人が使う技の中に私でもできそうだと思う技があったのだよ」
太古から続く超人史を紐解けば、その技の数は星の数にも匹敵するだろう。
本で学んだと言うが、近年発刊された『学研の図鑑 キン肉マン「技」』一冊にしてもその収録数は1400。メケメケZがなにを繰り出すか予想するのは困難だ。
「その超人は貴様の“馬”形態のような半人半馬の姿をしていた……さて、ご存知かな?」
メケメケZはヒントを出すが、チェック・メイトに思い当たるものはない。
「ハッタリを……!」
「確かめてみるか!?」
語気を強めると同時、メケメケZの姿がふたつに分かれた。
『メケメケZ、再びふたりに分身してチェック・メイトに襲いかかる――っ!』
今度は前後ではなく、左右別方向からの強襲。
這うような低姿勢での接近を見てタックルを警戒するチェック・メイトだったが、繰り出されたのは――足。
『下から蹴り上げチェック・メイトを浮かせた――っ!』
下段からの突き上げるようなキックで、チェック・メイトの体が真上に飛んだ。
ふたりのメケメケZは互いに目配せし、ほとんど同時にキャンバスを蹴る。
『そのまま分身状態で上昇するチェック・メイトに飛びかかる~~っ』
右側に位置取りしたメケメケZがチェック・メイトの右手を掴み、さらに左脚で右脚を極める。
左側に位置取りしたメケメケZがチェック・メイトの左手を掴み、さらに右脚で左脚を極める。
ふたりがかりで左右分担しロメロ・スペシャルを極めるような体勢。
本体と分身が作り出す美しいシンメトリーは、技をかけられたチェック・メイトも合わせて見事な三角形を形作っていた。
「昇技トライアングル・ドリーマ――――ッ!!」
前時代の知る人ぞ知る伝説的必殺技が、チェック・メイトに決まった瞬間だった。