アクションバース “キン肉マンⅡ世VSアクション仮面” 作:速筆魔王LX
「昇技トライアングル・ドリーマ――――ッ!!」
ふたりが左右に分かれて分担し、空中でひとりをロメロ・スペシャルに固める。
背骨への負荷はひとりで仕掛ける吊り天井固めの比ではない。
『こ、この技は~~っ!?』
メケメケZが繰り出したまさかの
「ゴ、ゴバァッ!?」
あまりの激痛に、チェック・メイトの口から一筋の鮮血が勢いよく噴き出す。
『チェック・メイトが血反吐を吐いた――っ!』
標的のダメージを確認し、メケメケZは技を解除。分身体が消え、人数もひとりに戻る。
空中で技を解いた結果、メケメケZとチェック・メイトは重力に導かれるままキャンバスへ。
2本足で立つ者と、受け身も取れず体を打ちつける者に分かれた。
『華麗に着地するメケメケZ! キャンバスに倒れ伏すチェック・メイト! 誰が見ても明らかな、必殺技炸裂の構図だ――っ!』
身体的、そして精神的な衝撃が大きく、指一本動かせないでいるチェック・メイト。
うつ伏せに倒れたまま、自らの血で染まるキャンバスを見つめながら喘ぐようにつぶやいた。
「い……今の技は……」
知識としては知っている。が、自分が餌食になるとは思いもしなかった技。
その名も“昇技トライアングル・ドリーマー”。
メケメケZは本で学んだというが、この技の使い手は現代の超人ではない。
『ここ最近の超人レスリングファンの方々はご存知ないかもしれません! たった今メケメケZが放った技は、約34年前……あの
場外のイリューヒンも、ダメージに身体を震わせながらその凄絶な再現力に目を剥いた。
「体に寄生虫を宿し、ひとりでありながらふたりがかりの攻撃が仕掛けられるサタンクロスのオンリーワン……それをまさか、分身との同時攻撃という形で再現してみせるとは!」
胸を張り、尊大に腰に手を当てるメケメケZ。
「フハハハハ、こういうのをツープラトンと呼ぶのだろう? これで私も一流の超人レスラーだな」
倒れたままのチェック・メイトは、震える声でその欺瞞を指摘した。
「な……なにがツープラトンだ。分身といっても、おまえのそれは高速移動でふたりいるように見せかけているだけ……実際にふたりになっているわけではないのだから、今の技も未完成。本来の威力は発揮できていない」
メケメケZが放った昇技トライアングル・ドリーマーは見かけ100点、威力50点といったところ。
それは技を受けた己が一番知っている。だからこそ、チェック・メイトは膝に力を入れ立ち上がろうとする。
「そうかな? 私には、貴様を倒すには十分なダメージが通ったように思えるがね」
メケメケZは嘲笑い、わざとらしく顎に手を当ててみせる。
事実、立ち上がろうとしたチェック・メイトの膝はぷるぷると震え、カクッと折れてしまう。
膝小僧がキャンバスにつき、上半身から倒れた。
「グッ……グゥ~~ッ」
『立ち上がるかと思われたチェック・メイト、再びダウ~ン!』
黒い球体の中で、ヒーローの哀れな姿を見たマサオくんが半狂乱になって叫ぶ。
「やだー! 負けないでチェック・メイトー!」
子供特有のキーンとする甲高い声に、メケメケZが不快そうに顔を向けた。
「黙れクソガキ!」
「ひぃいいいい!」
一喝され、思わず身をすくめるマサオくん。
しかし、メケメケZはドクロ顔の口元を不気味に歪めると、顎を撫でながらつぶやいた。
「いや、待て。いいことを思いついたぞ。おいガキ。私を応援しろ」
「え?」
突拍子もない要求にポカンとするマサオくんに、メケメケZは悪魔のごときアイディアを突きつける。
「チェック・メイトではなく私を応援するんだよ。助けようとしていた子供に裏切られる……正義のヒーローにとってこれほどきついことはあるまい」
ヒーローに助けを求める子供に対し、ヒーローを裏切れ――と。
「そ、そんな……」
マサオくんは当然のごとく言い淀む。
子供が正義の味方を応援するのは夏にセミが鳴くようなもの。それと真逆のことをしろだなんて。
しかしメケメケZはそんな戸惑いすら許さず、手首からバチバチと黒い電撃を走らせた。ブラックビームの予兆である。
「やれ」
「ハィイイ!」
その殺気に気圧され、マサオくんは涙目になりながら声を絞り出した。
「が……がんばれー……メケメケZ……」
自分を助けようとしてくれたチェック・メイトを裏切るのは気が引ける。
後ろめたさゆえの控えめな声援だったが、メケメケZはこの程度では満足しなかった。
「もっと大きな声でだ!!」
「ひぃいい! がんばれメケメケZ――ッ!」
ドーム内に虚しく響く、捉われの子供からの“悪への声援”。
メケメケZは尊大に腕組みしながらその声を受け止め、恍惚の表情を浮かべた。
「フハハハハ! いい気分だ。アクション仮面にも見せてやりたいよ」
リングサイドのイリューヒンは、悔しさを握り拳に表しチェック・メイトに声を送る。
「あ、諦めるな……チェック・メイト。おまえが諦めたら、マサオくんは助けられないんだぞ……」
だがイリューヒンの声もまた、か細く消え入りそうなものになっていた。
先ほどの試合、そして試合後の爆発のダメージがぶり返してきたのである。
「ガハッ」
激しい血を吐きその場に膝をつくイリューヒン。
キャンバスに伏すチェック・メイトは、閉じかけたわずかな視界にその様子を収めていた。
(正義超人となって以降、これほど強大な敵を相手にすることはなかった。彼は……万太郎はいつもこんな苦境を味わっていたのか)
チェック・メイトが正義超人に転向するきっかけを与え、その後も
見習うべきところが多いと尊敬していた友達の姿は、ここにはない。
彼なら……万太郎なら、こんな窮地のときどうしたのか。そんなことばかり考えてしまう。
(我々正義超人のパワーとなる人々の応援。せめてそれがあったら、わたしは立ち上がれるのかもしれない。だがマサオくんが脅され、イリューヒンが力尽きてしまったこの状況では、もう……)
仲間やファンの応援が欲しいなど、“
かつて己を指導した育ての親、サンシャインならば「軟弱」の一言で切り捨ててしまいそうな醜態だ。
しかしこれが現実。
正義超人チェック・メイトは……弱い。
ベルーナドームにはマサオくんの必死な悪への声援と、メケメケZの高笑いだけが響く。
春日部スタジアムの観衆たちにも敗北の二文字が頭をよぎった――そのときである。
「ガンバレ――ッ! チェック・メイトォオオオオ!」
ドームのスタンド席から、静寂を切り裂く怒号のような声援が届いた。
届け先はメケメケZではない。劣勢にあるチェック・メイトだ。
「だ……誰だ……?」
自身の名を呼ばれ。チェック・メイトがわずかに顔を傾ける。
目線をやったスタンド席。
そこに立っていたのは――
「シ……シンヤ!?」
人間の男性だった。
チェック・メイトの写真がプリントされたTシャツを着て、チェック・メイトのフィギュアを握りペンライトのように振るう。
頭にはチェック・メイトがつけているものとお揃いの王冠まで被り、鬼気迫る表情で彼に熱視線を送っていた。
『あ――っとベルーナドームに現れたのは、チェック・メイトのファングッズに身を包んだ謎の青年……チェック・メイトに全力の声援を送っているが、彼はいったい何者なのか――っ!?』
倒れていたイリューヒンも、視線を上げて驚愕した。
「オ、オレには見覚えがあるぞ」
直接の面識はないが、彼とチェック・メイトが一緒にいた現場にはイリューヒンもいた。
そう――“あの競技”には。
「彼は超人オリンピック・ザ・レザレクション最終予選“二人三脚でZEI!ZEI!”でチェック・メイトとペアを組んで走っていた人間だ――っ!」
イリューヒンはロシア代表として、そしてチェック・メイトはモナコ代表として出場していた、超人オリンピック・ザ・レザレクション。
その最終予選は、参加超人が一般客とペアを組み走るという二人三脚だった。
チェック・メイトはその際、自身の応援グッズをフル装備し猛烈アピールしていたシンヤを指名し、一緒に走ったのだ。
「シンヤ……なぜあなたがここに?」
こんなところにいるはずがない人物だ。
チェック・メイトは幻覚を疑いながらもスタンド席のシンヤに問いかける。
「あのときは僕が足を引っ張ってしまったばっかりに、大好きなチェック・メイトが超人オリンピックグランドファイナル進出を目前にしてリタイアしてしまうという悲劇を招いてしまった。僕はずっとその罪滅ぼしがしたかったんだ」
“二人三脚でZEI!ZEI!”終盤――ただの人間であるシンヤは過酷な道のりに耐えられず、体力が尽きかけていた。
そこをベルギー代表のガチャポン超人Mr.ガッチャに襲われ、チェック・メイトは応戦したもののパートナーであるシンヤを守り通すことができず無念のリタイアを選択したのである。
国の威信の前に、人間の生命を守ることこそが超人の本懐――チェック・メイトはそう考えていたが、彼の熱烈なファンであるシンヤの心にはしこりが残っていた。
「そんなとき、チェック・メイトが埼玉県のベルーナドームでメケメケZと試合をしているというニュースを耳にした。これは秘蔵のファングッズを質に入れてでも応援に駆けつけなければと思い……大急ぎで来たんだ――っ!」
今こそあのときの恩を返すとき!
相手がブラックメケメケ団であろうと、チェック・メイトが苦境に立たされているならば応援するのがファンの務め!
「君には僕がついている! だからガンバレ! チェック・メイト!」
メケメケZからの威圧も、ブラックメケメケ団戦闘員たちの異様にも臆さず、シンヤはたったひとりで100人分の声量を発揮する。
「シンヤ……」
胸の奥底から熱いなにかがこみ上げてくるのを感じるチェック・メイト。
だがメケメケZは鼻で笑い、不快そうに目元を歪めた。
「フン。応援する者がひとり増えたところでなにが変わる」
まるでアクション仮面を相手にするときのような茶番劇。非常に好ましくない。
シンヤはメケメケZに反論する。
「ひとりじゃない! マサオくん! 君もチェック・メイトを応援するんだ!」
「ええっ!?」
知らない男の人に咄嗟に話を振られ、マサオくんは困惑する。
チェック・メイトを応援。本当だったら自分だってそうしたい。
「で、でも……」
チラリとリングを見るマサオくん。
メケメケZは背後からギラリと殺気のこもった視線を送る。
「ひぃいいい! やっぱりムリだよ~~っ!」
ここでチェック・メイトを応援すれば、メケメケZが怒って殺されちゃうかもしれない!
マサオくんはそんな恐怖に縛られ、大泣きすることしかできなかった。
「ビビるなマサオくん! それでも男か!」
「そ、そんなこと言ったって~!」
頭がもげそうな勢いで首を振るマサオくんに、シンヤはパッと頭に思い浮かんだ言葉を放る。
「そんなんじゃ好きな女の子にも振り向いてもらえないぞ――っ!」
弱気な男の子を叱咤激励する常套句――実際のところ、マサオくんにそういった女の子がいるかどうかは知らない。
「す、好きな女の子……」
しかし事実、マサオくんには気になっている女の子がいた。
ある日、マサオくんが通うふたば幼稚園に転園してきたセレブなお嬢様――酢乙女あいちゃん。
マサオくんはあいちゃんの可憐で美しい姿を思い浮かべる。
『アハハー、ウフフー』
想像のあいちゃんが、ピンク色の背景の中で花を散らしながら走り、優しく微笑みかけてくる。
『マサオ~』
弾むような可愛らしい声で自分の名を呼び、手を振ってくるのだ。
「あ……あいちゃん……っ!」
囚われの窮地にありながら、あいちゃんの姿を妄想したマサオくんは頬を赤らめ鼻の下を伸ばす。
マサオくんのその姿を見たシンヤは効果アリと判断し、さらに呼びかける。
「メケメケZにビビらずチェック・メイトを応援できたら、きっとあいちゃんも振り向いてくれるぞ――っ!」
あいちゃんが振り向いてくれる――!
甘美な誘惑の言葉に、マサオくんの妄想が激化する。
『マサオ……///』
想像上のあいちゃんがうっとりと頬を赤らめ、熱のこもった視線でマサオくんを見つめるのだ。
だらしない顔つきになっていたマサオくんは、彼女に相応しい男にならなければと気を引き締める。
丸かった目元が鋭く吊り上がり、おにぎり頭のシルエットを残したまま、青年漫画も顔負けの劇画調ハードボイルドフェイスへと変貌を遂げた。
「おれは……やるぜ!」
一人称すら変え、マサオくんは腹の底から咆哮する。
「立て――っ! 根性見せろ、チェック・メイト――ッ!」
メケメケZなど、あいちゃんの笑顔の前では恐るるに足らず。
マサオくんの奮起を嬉しく思ったシンヤは、自身も負けるまいと声を張り上げた。
「いいぞマサオくん! 僕だって……ガンバレ、チェック・メイト――ッ!」
ふたりの人間の、純粋で熱い魂の声援がベルーナドーム全体に共鳴する。
(シンヤ……! マサオくん……!)
たったふたりの応援団――されどその声量は10万人の大観衆にも匹敵するだろう。
溢れ出す応援の力がチェック・メイトの全身の細胞を揺るがし、失われかけていた超人パワーが充填されていくようだった。