アクションバース “キン肉マンⅡ世VSアクション仮面” 作:速筆魔王LX
対メケメケZ戦――完全決着。
レプリカを倒したイリューヒンに引き続き、チェック・メイトもメケメケZの本体に勝利。
「ありがとうございます、万太郎……そしてサンシャインヘッド。わたしが勝てたのは、あなた方ふたりのおかげです」
正義超人の道を示してくれた友、そして悪魔超人としての闘い方を叩き込んでくれた師を思い、天を仰ぐチェック・メイト。
傍らには物言わなくなったメケメケZが倒れている。
ベルーナドームのグラウンドに立っていた無数のブラックメケメケ団戦闘員は、首領の敗北にもなにも反応を示さずその姿を薄くしていった。
「メケメケ戦闘員たちが消えていく……まるで幻だったかのように」
視線を彼らのボスに移すと、やはり同様にスゥッと姿が透けていくところだった。
「メケメケZも……」
通常の敗北ではありえない不自然な消え方は、おそらく元の世界への帰還を意味するのだろう。
ともあれ危機は去った。チェック・メイトは今一度勝利の余韻を噛みしめるように、拳をグッと握る。
「チェック~~ッ!」
そんなチェック・メイトのもとに、声援を送ってくれていた仲間たちが駆け寄ってきた。
「イリューヒン! シンヤ! マサオくん!」
闘いの終わったリング上に集まる4人。
イリューヒンはバディの功績を称え、シンヤは推しの勝利に大興奮、マサオくんは安堵の笑顔を見せた。
「よくやってくれました、イリューヒンにチェック・メイト」
ミッション達成を確認し、春日部スタジアムで待機していた面々も声を弾ませる。
「ジャクリーン! と……イケメン!」
ベルーナドームの巨大モニターに映し出されたのは、宇宙超人委員会代表の兄妹だった。
強気な妹は兄をカメラのセンターから端にぐいぐいと押し出し、ベルーナドームのふたりに経過を伝える。
「別の場所では、テリー・ザ・キッドとバリアフリーマンがハイグレ魔王を倒してくれました。これで新世代超人軍の2勝。この調子で――」
仲間たちの戦勝報告を聞いたのも束の間、言葉の途中でジャクリーンとイケメンの姿がブラックアウトした。
「なんだ?」
「映像が途切れたぞ?」
チェック・メイトとイリューヒンは真っ黒になってしまったモニターを見上げる。
次なる異変はすぐに来た。
「ワハハハハハハ!」
暗転していたモニターがパッと明るくなり――そこにドクロのような頭部の怪人が映し出されたのだ。
「メ……メケメケZ!?」
イリューヒン、チェック・メイト、シンヤ、マサオくんの4人が目を見開いて驚く。
そこにいたのは、たった今消滅したはずのメケメケZだった。
「お見事と言わせてもらおうか、イリューヒンにチェック・メイト。よもや私のレプリカを2体も倒すとはね」
ゆったりとした拍手を送りながら勝者に賛辞を送るメケメケZ。
まさかの発言にショックを受けたのはマサオくんとシンヤである。
「うぇええええーっ!?」
「チェックと闘ったメケメケZもレプリカだったっていうのか~~っ!?」
この映像が録画でないとするならば、メケメケZは今もどこかのカメラの前にいる。
レプリカに闘わせ、自分はどこぞで正義超人たちの奮闘を見物していたということだ。
さすがは悪の首領と言いたくなるほどの憎たらしい所業。
本体がまだ残っていると聞かされ、しかしイリューヒンとチェック・メイトの顔色に絶望はなかった。
「まさか二度もレプリカと闘わせられるとはな。だが悪を前にした正義超人に逃走はない」
「わたしもイリューヒンもまだやれる。何度でも相手になりましょう」
消耗戦が狙いならばとことんやってやる、と構えを取るふたりの新世代超人。
それを見たメケメケZは、ケタケタと肩を揺らす。
「フハハハハハハ!」
「なにがおかしい!?」
こちらの精神を逆なでする嘲笑に、イリューヒンとチェック・メイトは闘志を滾らせる。
だがメケメケZはふたりの敵意を袖にするかのごとく、悠長にタバコを吸い始めた。
「慌てるなと言いたいのだ。今日のところは貴様たちの勝ちだ」
煙を吐きながら、とても敗者とは思えない態度で言う。
「ルールは2対2。貴様たちふたりはどちらも私のレプリカを倒したのだから潔く敗北を認めようじゃないか。その証に人質を解放し、部下たちも撤収させただろう?」
たしかに――モニター上のメケメケZがどこにいるのかは知らないが、ここベルーナドームにはもう敵と呼べる存在はいない。
救出対象であったマサオくんも無事に奪還できている。当初の目的は間違いなく達成された。
となれば……これ以上メケメケZと闘う理由もない。
「そしてなにより、私は早く帰って熱いコーヒーが飲みたいのだよ」
悪の組織の首領とて、仕事のあとのコーヒーブレイクを楽しみたい気持ちはある。
強敵の意外と庶民的な一面を垣間見て、イリューヒンとチェック・メイトは言葉を詰まらせた。
しかし直後に、メケメケZはそのドス黒い眼窩から凶悪な敵意を放ってくる。
指で摘んでいたタバコをぐしゃり握り潰し、大口を開けた。
「だが覚えておけ! 次はこうはいかんぞ! また会おう、正義超人たちよ!」
次なる闘いに向けての、一方的な宣戦布告。
手を開き、握り潰したタバコを床に捨てた――次にこうなるのはおまえたちだ、という意味を込めて。
「タバコのポイ捨てはやめろ――っ!」
そうして背中を見せるメケメケZに、チェック・メイトは今一度ポイ捨てを注意した。
はたしてその声は届いたのか否か。いやおそらくは届いていまい。
モニターは再び黒く染まり、メケメケZという怪人の気配は完全に消え去ったのだった。
「わからん……やつは本当に退散したのか?」
イリューヒンは困惑気味に言う。
これでは緊張を解こうにも解けない。まさか2体目のメケメケZもレプリカだったなんて……いや、本当にレプリカだったのか? ハッタリという可能性もある。やつの言動は信じられないことだらけだ。
そんなイリューヒンの横で、思い当たることがあるシンヤはつぶやくように言う。
「ア……アクション仮面の最終回詐欺だ」
「なんですか、それは?」
チェック・メイトがシンヤの声を拾い尋ねた。
シンヤは緊張から来る唾を飲み、語る。
「テレビ番組“アクション仮面”は何度か、アクション仮面とメケメケZの決戦の回で最終回と銘打ち子供たちを動揺させたことがあるんだ。『最終回ってなに?』『アクション仮面負けちゃうの?』と戦々恐々しながらテレビを見る子供たち……最後はちゃんとアクション仮面が勝ってみんな安心するんだけど、メケメケZはあの手この手で逃げおおせて決着つかず……最終回も延期になるんだ」
特撮作品“アクション仮面”は歴史ある長寿番組だ。
特に最初期の敵であるブラックメケメケ団との闘いは長く続き、そのボスであるメケメケZはキャラ人気も高い。
安易に倒してしまっては番組の継続が困難になるし、新たな敵を出そうにもそれが人気の低迷に繋がる危険性もある。
制作陣、テレビ局、スポンサー、あらゆる大人たちの思惑が絡み合った結果、メケメケZはしぶとく生き続けアクション仮面の宿敵として在り続けたのだ。
「人気作品の悪役ゆえに、なかなか決着をつけさせてもらえない大人の事情か……」
「決着がついたら番組が終わってしまいますものね」
エンタメ作品の大変さを思い知るイリューヒンとチェック・メイト。
そういえばアクション仮面は人間から超人になったが、その後の番組はどうなってしまうのだろうか。やはり現実とリンクさせて作中のアクション仮面も超人になるのか、それとも役者を変更して2代目アクション仮面を生み出すのか、完全スルーして今までどおり制作するのか……と、どうでもいいことを考えてしまうのだった。
「メケメケZ……恐ろしい相手だった」
なにはともあれ、フィクションの悪役という大敵を相手に見事勝利を収めたふたり。
マサオくんを傍らに置きながら、同じように正義を騙る悪のもとに向かっていった仲間たちを想うのだった。
◇
――一方その頃、次元の狭間。
空間が激しく歪み、眩い光とともに漆黒のワープホールが弾けた。
そこから転がり出るようにして地面へと降り立ったのは、さらに別のふたりの新世代超人。
「ウオオーイ!」
荒い息を吐きながら豪快に立ち上がったのは、セイウチの体と長大な牙を持つ化身超人セイウチン。
そしてその傍らで、サッと砂埃を払いながらクールに身なりを整えるのは、トムソンガゼルの化身超人ガゼルマンである。
「フゥー。どうやらここが終点のようだな」
息を整えつつ、ガゼルマンが油断なく周囲の様子を窺う。
「だども、どこだここは~~っ?」
セイウチンがピアスをつけた鼻先をヒクヒクさせながらあたりの景色を見回した。
視界に飛び込んできたのは、賑やかなイラストが描かれた入場門と、広大な敷地を取り囲む緑豊かな木々。
どこか見覚えのある、レジャー施設の入口付近のような光景だった。
「み、見ろセイウチン! あれを!」
ガゼルマンが目ざとくなにかを見つけ、正面ゲートの頭上を力強く指差す。
「え? あ……あああ~~っ!?」
セイウチンのつぶらな瞳が、こぼれ落ちんばかりに大きく見開かれた。
指し示された看板には、ポップなフォントで鮮やかにその施設名が刻まれていたのだ。
「と……東武動物公園!」
イラストとして描かれているのは、ゾウやキリン、ホワイトタイガー。
これだけ『たくさんの動物がいっぱいいるよ』とアピールしておきながら動物園でなかったら怒られるというもの。
ここはジャパニーズ・ハイブリッド・レジャーランド――あの東武動物公園である。
「春日部スタジアムと同じく、埼玉県に位置する動物園と遊園地を合体させた複合型レジャー施設!」
「オラたち真・正義超人軍団と闘うためにワープホールに飛び込んだのに、なんでこんなところに~~っ!?」
春日部スタジアムからここ東武動物公園までの距離は、電車を使えば目と鼻の先。
わざわざワープホールなどという大層な移動手段を用いてやってくるような距離ではない。
ふたりは顔を見合わせ、驚きと戸惑いを隠せないでいた。
さらに、ガゼルマンの鋭い洞察力がもうひとつの致命的な違和感を捉える。
「しかも見てみろ。どういうわけか人がひとりも見当たらないぞ」
「そうだな。入場口なら客にしても従業員にしても誰かいそうなのに……」
本日が休園日だとしても、管理や整備のスタッフすら見当たらないのは不自然極まりない。そもそも入場口は開けっ放しだ。
静まり返る動物園入口の異様さにふたりが身構えたそのとき
「ヒィ――――ッ!」
静寂を破り、入場ゲートの奥から悲鳴と共に一組の男女が大慌てで駆け出してきた。
巨大なハートマークをプリントしたシャツをお揃いで纏う――いわゆるペアルックに身を包んだ、派手なカップルである。
「東武動物公園がこんな場所だなんて聞いてない! 早く離れましょうヨシリン!」
「待ってよミッチー! これならこども動物自然公園のほうに行くんだったー!」
なりふり構わぬ猛スピードで、ふたりの横を走り抜けていくカップル。
そのあまりの必死さと、声をかけようとしたセイウチンとガゼルマンも口をあんぐりと開けたまま、ただ呆然と見送るしかなかった。
「な、なんだ~~っ? あのカップル」
「なにかから逃げていたようにも思えるが……」
首をかしげるガゼルマン。
その耳に、突如として地鳴りのような重低音が届き始めた。
ドドドドド……!
「なんの音だ?」
地面が微かに振動し、入場口の奥からもうもうと砂塵が巻き上がる。
ふたりが目を見開いて注視すると――入場ゲートの向こう側から、ライオン、アカカンガルー、マタコミツオビアルマジロ、ブラッザグエノン、キリン、ヒクイドリ……ありとあらゆる多種多様な動物たちが、目を血走らせて群れを成し、こちらへ向かって怒涛の勢いで押し寄せてくる。
「ゲ……ゲェ――ッ!」
予期せぬアニマル・パニックを前に、セイウチンとガゼルマンの絶叫が響き渡った。