アクションバース “キン肉マンⅡ世VSアクション仮面” 作:速筆魔王LX
ドォドォドォドォッ……!
地響きとともに迫り来るのは、東武動物公園から脱走した多種多様な獣たちの群れ。
それらは入場ゲートを越え、ガゼルマンとセイウチンには目もくれず突進してくる。
「離れろ!」
ガゼルマンの咄嗟の叫びと共に、ふたりは左右へと散って危機を回避した。
その眼前を、パニックに陥った動物たちがなりふり構わず駆け抜けていく。
「ああ~~っ! ホワイトタイガー!」
東武動物公園のシンボルであり、世界的にも希少なホワイトタイガーまでもが、尻尾を巻いて猛スピードで走り去っていくのをセイウチンが指差し叫ぶ。
「コツメカワウソやカピバラさんまでいるぞ!」
本来ならば愛くるしい仕草で来園者を癒やすはずの小動物たちまでもが、死に物狂いの形相で地を蹴り、ゲートの外へと逃げ出していく。
嵐のような大脱走が終わり、巻き上がった砂塵が徐々に収まっていく中、ガゼルマンは遠ざかる動物を見つめながらつぶやいた。
「ま……まるでヌーの大移動だ」
「ヌー?」
聞き慣れない単語にセイウチンが首を傾げると、ガゼルマンは遠い目をして解説を始める。
「オレの故郷、タンザニアに生息するウシ科の動物だ。ヌーはある時期になると100万頭を超える大群で大移動をする。その目的は乾季のタンザニアから新鮮な草や水のある地へ移るためだが、ライオンやクロコダイルといった捕食者から逃れる意味合いもある……」
故郷に思いを馳せ、胸を痛めるガゼルマン。
「今の動物たちからは、なにかに怯え逃げているような緊迫感を感じた」
悪友の発するいつになく深刻な雰囲気を察知し、セイウチンもゴクリと唾を飲み込んだ。
「もしかして……その原因が園内に?」
ガゼルマンは重く頷く。
「気を引き締めていくぞ」
ふたりは決意を固め、静まり返った東武動物公園の敷地内へと足を踏み入れた。
しばらく歩を進めるが、園内には人っ子ひとりおらず、あれほどいた動物たちの気配すら完全に絶えている。
目に入るのは、暴走した動物たちに踏み荒らされて無惨に荒れ果てた地面や、内側から激しく破壊された鉄格子や柵の無残な跡だけだった。
さらに園内の奥深く、中央広場付近まで差し掛かったそのとき――
「あ、あああ~~っ! ガゼルマン、あれ――っ!」
セイウチンが頭上の街灯を指差して声を張り上げた。
「ウッキャアア――――ッ!!」
鼓膜を刺す甲高い叫び声。
見上げれば、樹木や街灯の支柱を自在に飛び移る影があった。
「サ……サルだ!」
鋭い眼光と異常に発達した腕を持つテナガザルである。
動物園なのだからサルくらいいるだろう。
しかし、その威勢の良さはセイウチンやガゼルマンが知るそれとは大きく異なっていった。
「こいつら、檻から逃げ出してきただか~~っ!?」
「いや、動物園のサルにしては気性が荒いし数も多い! おそらくこいつらは外から来たんだ!」
ガゼルマンがそう言う間にもサルの数は増えている。
瞬く間に十数匹、数十匹へとなり、歯を剥き出しにしてふたりを包囲していく。
友好的な雰囲気ではない……が、かといって攻撃を仕掛けてくる様子もない。
「ウキ! ウキー!」
テナガザルたちは長い腕を大袈裟に振り、まるでふたりを奥へと招き入れるような身振り手振りを繰り返している。
「こいつら、オラたちを誘導してんのか?」
「グゥ~~ッ、気味が悪いが行くしかあるまい」
ふたりは警戒を強めながら、サルの群れの後を追ってさらに園内の奥へと向かった。
やがて開けたスペースに出たふたりは、そこに設置された特異な光景に思わず足を止める。
「あ、あれは!?」
「超人レスリングのリング!?」
何十匹ものテナガザルが取り囲むように群がる中心に、物々しいリングが鎮座していた。
「ただのリングじゃねえ! 四隅のコーナーに動物の檻みてぇなもんがくっついてるだ!」
「アニマル・チェンバー・リングといったところか!」
リングの四隅に頑丈な鉄格子――アニマル・チェンバーが結合された前代未聞の特殊リング。
ふたりが瞠目していると、突如として腹に響く声が響き渡ってきた。
「ようこそ、この俺のコロシアムへ!」
ガシャッ、とラジカセの再生ボタンが押された音が鳴り、どこからともなくカンフー映画の金字塔を彷彿とさせるあの名曲が流れ出す。
「こ、この曲は……!」
「吼えろ!ドラゴン!」
誰もいない動物園、野生と思しきテナガザルの群れ、特殊なリング、そして突如聞こえてきた軽快なミュージック。
相次ぐ異変に、セイウチンとガゼルマンは構えを取って周囲を警戒する。
「エイヤ――――ッ!」
リズムに合わせてロープを飛び越え、ひとりの男がリングインを果たす。
両端にサルのバックダンサーを添えながらステップを踏むのは、長身のアフロ頭だった。
腹部を剥き出しにした服を纏い、星型のサングラスをつけるファンキーな容貌。
そんな男が往年の名曲をBGMにノリノリで踊っているのだ。セイウチンもガゼルマンも唖然とするしかない。
「フゥ――ッ!」
最後にビシッと格好良くポーズを決めた瞬間、オーディエンスのテナガザルが手慣れた手つきでラジカセのボタンを押して音楽を止めた。
「登場はこの曲に限るぜ」
アフロの男はサングラスを外し、ニヒルに笑う。
ふざけた登場演出が終わったのだと理解し、セイウチンとガゼルマンはハッとした。
「あいつはたしか……パラダイスキング!」
「春日部スタジアムでダイナマイトをぶっ放そうとした危険人物!」
パラダイスキングはゆっくりとふたりのほうへ向き直り、不敵な笑みを深める。
「そう! 俺がパラダイスキング様だ。そういうおまえらの名は?」
名を問われたふたりは互いに目配せをし、堂々名乗りを上げる。
「セイウチン!」
「ガゼルマン!」
ヒーロー然とした名乗りに、パラダイスキングは口笛を吹く。
「ヒュー。ヒーローっぽくていいじゃねぇか。思ったより楽しめそうだ」
へらへらした態度を取るパラダイスキングに、ガゼルマンは怒りをあらわにする。
「やい、パラダイスキング! この東武動物公園の有り様はどういうことだ!?」
「ああん?」
決まり切った質問に対し、パラダイスキングは鼻で笑う。
「どうもこうもねーよ。おまえらが来るまで退屈だったんでな。俺好みの王国に変えてやったんだ」
パラダイスキングがパチンと指を鳴らすと、リングを取り囲む無数のサルたちが一斉に大歓声をあげた。
「ウキ!」
「ウキキッ!」
「キーッ!」
それはまるで、絶対的な暴君を称える狂信的な民衆の姿そのもの。
ガゼルマンが野生と予想したサルたちは、実際にはこのパラダイスキングに従っているらしい。
「このサル共は俺の奴隷さ。動物園なんて生ぬるい環境で生きてきた獣より、よっぽどやるぜ」
サルの群れが放つ狂暴な熱気に、セイウチンとガゼルマンは思わず息を呑む。
「たしかに……このサル共、只者じゃねえ」
「ああ。野生を生きてきた猛者の面構えだ」
平和な日本のレジャー施設で飼育された動物と、ジャングルという野で生き抜く獣とでは、その狂暴性は大きく違う。
パラダイスキングはふたりの警戒をさらに強めるかのように、遠い目をして過去を語り出す。
「俺はここに来る前、ある島で王として君臨していてな。サル共を使って人間のドレイを集めていたんだが……」
舌先でペロリと唇をなぞり、セイウチンとガゼルマンを凶暴な眼光で射抜いた。
「超人のドレイを集めたほうがおもしろそうだ」
超人をドレイにする――どんなに凶悪な悪行超人でも、そんなことを言ってのけるやつはいなかった。
アフロ男が語る禍々しき野望に、ふたりの背筋をゾクリと冷たい悪寒が走り抜ける。
「超人の王パラダイスキング! せっかく別世界にお招きいただいたんだ! こうなったらとことん楽しませてもらうぜ!」
パラダイスキングの咆哮に合わせ、サルの群れがさらに激しくキーキーと狂喜乱舞する。
「オ……オレたち超人の王を名乗るだとっ!?」
「こ、こいつとんでもねぇやつだ~~っ!」
身構えるガゼルマンとセイウチンの前で、パラダイスキングが再び指を鳴らした。
すると、リング脇のサルの群れが左右に割れ、奥から黒く透き通った球体の檻が押し出されてくる。
「こいつを取り返しに来たんだろう?」
その中には、鼻水を垂らし、不安そうに身を縮こませている少年の姿があった。
「ボー……」
消え入りそうな声を漏らす少年を見て、セイウチンとガゼルマンの目の色が変わる。
「あれは……攫われた子供たちのひとり!」
「ボーちゃんという男の子か!」
逃げ場のない子供をこれみよがしに見せつける、まさしく悪党の所業。
パラダイスキングはリングの上から正義を掲げるふたりを尊大に見下ろした。
「おまえらプロレスラーなんだろ? あのサタンとかいう野郎もご丁寧にリングを用意してくれたことだし、ここは筋書きどおりリングの上で闘うとしようぜ」
そのためのアニマル・チェンバー・リング、そのためのサルという観客、そのためのボーちゃんという賞品だ。
実際に闘う戦士も揃っているとなれば、必要なのはあとひとつ――勝負を裁定するレフェリーのみ。
「話が早くて助かるわね」
リング横に設置されていた巨大モニターが明かりを灯し、春日部スタジアムからの中継映像が映し出された。
画面の向こうにいるのは、宇宙超人委員会最高責任者代理、ジャクリーン・マッスルである。
「ジャクリーン!」
心強い味方の登場に声を弾ませるセイウチンとガゼルマン。
パラダイスキングも興味深そうにモニターへと視線を向けた。
「あなたたちの対戦は我々宇宙超人委員会が公平なルールのもとジャッジさせてもらうわ。よいですね?」
返答を求めるジャクリーンを見て、ガゼルマンとセイウチンが闘志を燃え上がらせる。
「オレたちはもちろんオーケーだ!」
「ウオ~~ッ! かかってこい!」
パラダイスキングも不敵な笑みを浮かべ、腰に手を当てる尊大な所作で答える。
「構わんぜ。俺もプロレスは嫌いじゃないからな」
全員の意向が一致したことを確認し、ジャクリーンが厳かに頷いた。
「ではこの試合は1対1のシングルマッチで執り行います。
新世代超人側はふたりで来ている。リングに上がるならどちらか一方だ。
顔を見合わせるセイウチンとガゼルマン。
パラダイスキングは準備運動のつもりか、首をコキコキと鳴らしながら急かした。
「散々焦らされたんだ! もったいぶらず強いほうから来いよ!」
その煽りを受け、迷いなく一歩前へ躍り出たのは――
「だったらオレだ!」
ガゼルマンであった。
「ガ、ガゼルマン!?」
驚いて己の名を呼ぶ相棒へ、ガゼルマンはクールな視線を向ける。
「セイウチン。おまえと直接実力を競ったことはなかったが……ヘラクレス・ファクトリーの成績ではオレのほうが上だった。異存はないよな?」
「そりゃねえけども……ガゼル、なんか燃えてるな」
いつになく強い敵意と情熱を漂わせるガゼルマンの変化を、セイウチンは瞬時に感じ取っていた。
「平穏に暮らしていた動物たちの住処を奪うような輩……許しておくことはできん」
パニックになって逃げていったホワイトタイガーやカワウソたちの姿が、故郷タンザニアで共に生きてきた数多くの動物たちの面影と重なり、ガゼルマンの激情を駆り立てた。
動物を愛するガゼルマンにとって、身勝手な欲望で獣たちを虐げるパラダイスキングの所業は決して許しがたい暴挙だったのだ。
「きょ、今日のガゼルマンは一味違う……!」
相棒の背中にあふれる確かな怒りと頼もしさを感じ、セイウチンは思わず生唾を飲んだ。
「では……」
ジャクリーンが本部席のゴングの前に立ち、木槌を力強く振り下ろす。
「レディー、ゴ――ッ!!」
開戦のゴングが東武動物公園の空に高らかに響き渡る。
リング中央、ガゼルマンとパラダイスキングは油断なく腰を落とし、お互いの距離を測りながらじりじりと円を描いていった。
『さあ~~っ、始まりました! 東武動物公園を舞台に繰り広げられます新世代超人軍vs真・正義超人軍の対抗戦! 対戦カードはガゼルマンvsパラダイスキング! 獰猛なサルの群れを従え王を名乗るパラダイスキングに対し、ガゼルマンはどう闘うのか~~っ!?』