アクションバース “キン肉マンⅡ世VSアクション仮面”   作:速筆魔王LX

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第036話 炎のガゼルマン!

 正義超人ガゼルマン。

 21世紀を代表する新世代超人(ニュージェネレーション)の一員であり、栄えあるヘラクレス・ファクトリー一期生の称号を持つ伊達男。

 あのキン肉万太郎やテリー・ザ・キッドを抑えて首席卒業の座を勝ち取った実力は本物だ。

 

 タンザニアの大自然を故郷とする彼は、動物をこよなく愛する。

 仮に『帰ってこれる保証のない過去へのタイムワープミッションがあるとして、挑戦するか否か?』という問いかけがあったらば、故郷に残したトムソンガゼルのことを思い出し参加を辞退してしまうだろう――それだけの愛の深さ。

 

 だからこそ、リング上で対峙する醜悪なアフロ男……東武動物公園の動物たちを虐げ、サルたちを奴隷として使役するパラダイスキングが許せない。

 今までにない闘志を瞳に宿しながら、ガゼルマンは攻撃のタイミングを窺っていた。

 

「プロレスならやっぱ組みだろ!」

 

 ガゼルマンの思惑など知ったことではないパラダイスキングは、闘争心の赴くままに突っ込んでいく。

 

『パラダイスキング、初手はタックルで攻める――っ!』

 

 先手を譲る形になってしまったガゼルマンは、しかし微塵も動じない。

 暴走トラックのごときパラダイスキングのタックルがガゼルマンの腰を捉え――動かなかった。

 

「ああ?」

 

 壁かなにかにぶつかったような手応えのなさに、パラダイスキングが怪訝な顔をする。

 

『あ~~っとしかしガゼルマン、不動! パラダイスキングのタックルを受けながら、倒れることなく直立している~~っ!』

 

 ガゼルマンは倒れもぶっ飛ばされもしていない。

 そのまま凛々しい表情で自身の腰に組みつくパラダイスキングを見下ろす。

 

「オレの腰の強さは一級品。素人サンに崩せるもんじゃないぜ」

 

 ガゼルマンはあの実力派超人ジェイドのタックルすらしのいだことがある。腰の強靭さは折り紙つきだ。

 さらにその腰の強さを活かし、相手の首裏で両手を組む。

 

『ガゼルマン、密着するパラダイスキングを首相撲に捕らえた――っ』

 

 密着状態となることで相手の動きを制限する首相撲。

 もちろん仕掛けた側の動きも制限されるが、ガゼルマンにはこの状態から繰り出せる得意技があった。

 

「おまえにはお仕置きをしてやろう」

 

 耳元で囁くように告げ、放つのは――膝蹴りである。

 

「悪い子だ! 悪い子だ!」 

 

『続けてチャランボを叩き込む――っ!』

 

 パラダイスキングを「悪い子だ!」と叱りつけながら、剥き出しの腹に膝を叩き込む。

 これぞガゼルマンの得意とするチャランボ(膝蹴り)だ。

 

「どうだ! 超人オリンピックタンザニア代表の座を掴み取ったオレの膝は――っ!」

 

 ドス!ドス!と連続して膝を突き刺すが、パラダイスキングの腹筋がとにかく硬い。

 それでもダメージを蓄積させることは可能。ガゼルマンは迷わず攻撃を続けるが、

 

「ヌオッ!?」

 

 パラダイスキングは密着されながらも手を動かし、ピンポイントでガゼルマンの膝をキャッチした。

 

『おっとこれは上手い! パラダイスキング、ガゼルマンの膝を受け止め首相撲を切った――っ』

 

 反撃も考慮し自ら飛び退いたガゼルマン。

 パラダイスキングはそれで正解だと言わんばかりに、悪ぶった表情で舌なめずりをした。

 

「今のはムエタイの蹴りだな? レスラーなんていうからプロレス技しか使えないのかと思ったが……なかなか楽しませてくれるじゃねえか」

 

 チャランボとは首相撲からの膝蹴りを差す言葉。タイの国技であるムエタイの専門用語だ。

 それを知っているということは格闘技マニアか、もしくは経験者か……なんにしてもおもしろい、とガゼルマンは口角を上げる。

 

「なんだ、異種格闘技戦がしたかったのか? それならもっと引き出しはあるぜ」

 

 ガゼルマンは不敵に笑うと、サッと半身に構え、右手を前方に、左手を胸元に引く独特の体勢を取った。

 

『あ――っとガゼルマンのこの中拳的な構えは~~っ!?』

 

 重心を低くしたその体勢は、どっしりとした安定感を感じさせる。

 

「ヒュー。カンフーか」

 

 アフロヘアーを揺らしながら、パラダイスキングがおもしろそうに口笛を吹く。

 ガゼルマンは言う。

 

「師のひとりに高名な拳法家がいてな。その人の名に恥じぬ技を見せてやろう」

 

 言うや否や、タンッ、と踏み込んだ。

 ほんの一歩――のはずが、ガゼルマンの身はパラダイスキングに肉薄している。

 

「ホワタァ!」

 

 独特な掛け声と共に繰り出される拳。

 パンチというよりは“突き”と称したくなる一撃を、パラダイスキングは不格好なガードで防ぐ。

 

「アチョー!」

 

 そのガードをこじ開ける勢いで、さらなる突き。

 相手が突きへの警戒を強めたところで、打点の高い上段蹴り。

 追いかけるガードをぶっ飛ばし、体勢を整えるのが間に合わないところに追撃。

 

『ガゼルマンの中拳的な突き! 蹴り! 突き! パラダイスキングは防戦一方だ――っ!』

 

 素早い連撃がパラダイスキングの胴体を的確に捉える。

 カンフー映画のような乱打戦を、ボーちゃんが檻の中から固唾を呑んで見つめていた。

 

「あれは……ラーメンマン!」

 

 ボーちゃんが口にしたのは、ガゼルマンの言葉にあった“高名な拳法家の師”その人。

 しかし5才の幼稚園児にも有名かといったらそんなことはなく、だからこそガゼルマンは感嘆する。

 

「フッ……子供なのによく知っているじゃないか、ボーちゃん」

 

 目にも留まらぬ突きを打ち込みながら、ガゼルマンはチラリとボーちゃんへ視線を送り、ニヤリと笑む。

 

「そうとも。これは偉大なる伝説超人(レジェンド)ラーメンマン先生の得意とする武芸。オレは超人格闘学校ヘラクレス・ファクトリーで、その極意を直々に叩き込まれている」

 

 叩き落とすような連打から一転、ガゼルマンは力強く地を蹴り、空中で加速をつけながら右脚を突き出した。

 

「これが超人拳法の技だ!」

 

 その技は烈火のごとく燃える太陽の名を冠する。

 相手が見上げてしまうほどの高さから繰り出される必殺の蹴りの真名は――

 

「烈火太陽脚――っ!!」

 

『ガゼルマンの飛び蹴りがパラダイスキングにクリーンヒット――ッ!』

 

 重厚な打撃音が響き、パラダイスキングの巨躯が大きく後退する。

 だが、キャンバスを滑るように下がりながらも、その膝が折れることはなかった。

 

『あ~~っとしかし、パラダイスキング倒れず! 直撃をくらったにもかかわらず涼しい顔だ――っ!』

 

 キャンバスの上に着地したガゼルマンは、攻撃を当てたからこその違和感を感じ取り顔を顰める。

 

「クッ……中国拳法の化勁か」

 

 パラダイスキングは直撃の瞬間に身体を泳がせ、衝撃を後ろへ逃がしたのだと踏んだ。

 しかし攻撃を防いだ当人は肩を竦める。

 

「そんなお上品なもんじゃねえ。俺の流儀は野生……弱肉強食の環境を生き抜くための闘争術だ。道場拳法で勝てると思ってんじゃねーぞ!」

 

 パラダイスキングの背筋がグニャリと曲がり、両腕をダラリと垂らすサルのごとき前傾姿勢へと変化する。

 

「ウラ――ッ!」

 

 そのまま奇妙な歩法でガゼルマンに接近。

 極限まで脱力した両腕を鞭のように振るった。

 

『パラダイスキング、サルを思わせる前傾の構えでガゼルマンにパンチを……い、いや! これはパンチではなく、ひっかき攻撃か――っ!?』

 

 咄嗟に飛び退くガゼルマン。

 パラダイスキングの手は開手。それも長く伸びた爪を突き刺すように繰り出している。

 道場拳法と揶揄されたガゼルマンは、自分の格闘技経験にない攻撃に対処を迷う。

 

「ウウッ」

 

 その心は表情にも表れ、ガゼルマンの口から弱々しい声がもれた。

 危なっかしい回避を続けるガゼルマンに、パラダイスキングがさらに腕を伸ばす。

 

「ヒーローがビビってんじゃねえよ!」

 

 無軌道に繰り出された刺突は、侍の袈裟斬りのようにガゼルマンの胸元を抉った。

 

『ガゼルマンの胸から流血――っ!』

 

 鋭利な爪による斬撃。ガゼルマンの皮膚が裂け、血が飛び散る。

 しかし所詮は人の爪。

 いくら伸びていようと獣のそれと比べれば威力は劣る、が――

 

「グア――ッ!」

 

 ガゼルマンは大げさとも思える悲鳴を上げ、追撃を恐れるように大きく後退した。

 いったいなぜ――観戦していたセイウチンがハッとし、その答えに気づく。

 

「あそこはかつて、ジェイドのベルリンの赤い雨でパックリ裂かれた箇所……ガゼルマンにとっては弁慶の泣き所だ――っ!」

 

 ヘラクレス・ファクトリー一期二期入れ替え戦でのvsジェイド戦。

 ガゼルマンは試合中、“ベルリンの赤い雨”で首から股にかけて体を裂かれ、肋骨が露出するほどの大きな裂傷を負ったのだ。

 おそらく彼が試合中に負った怪我の中でも最上位の深手だったはず。その精神的なショックが実際のダメージ以上にガゼルマンを苦しめているのだ。

 

「チッ……!」

 

『ガゼルマン、負傷箇所を手で抑えながら必死に距離を取る――っ』

 

 古傷を抉られ一瞬弱々しさを見せたガゼルマンだったが、一呼吸の後、身を乗り出すセイウチンへ片手を挙げてみせた。

 

「心配するなセイウチン。あんな少し長いだけの爪、ジェイドのベル赤とは比べるべくもない」

「ガゼル!」

 

 強がりではない。その眼光にはヘラクレス・ファクトリー一期生としての誇りの炎が燃え盛っていた。

 ガゼルマンはどこからともなく取り出した装具を手に、パラダイスキングをキッと睨みつける。

 

「ここいらでオレもとっておきを出させてもらうぜ!」

 

 その装具は、ガゼルの2本角を模した爪が突き出る篭手。

 ガゼルマンはその篭手を右手に装着し、高らかに名を叫ぶ。

 

「アントラーフィスト――ッ!」

 

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