アクションバース “キン肉マンⅡ世VSアクション仮面”   作:速筆魔王LX

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第037話 超人レスリングにおける凶器の是非!

『あ――っと出ました! ガゼルマンの得意武器、アントラーフィスト! 一部では“21世紀版ベア・クロー”とも呼ばれるスペシャル・ウェポンはこの試合でどう機能するのか――っ!?』

 

 ガゼルマンが右手に装着した、角のような突起付きの篭手。

 必殺“アントラーフィスト”は彼がここぞという場面で使用する代名詞的武器。

 全国1万人のガゼルマンファン待望となる瞬間がついに訪れたのである。

 

「さあ! これを装着したオレはもう止まらないぜ!」

 

 アントラーフィストの切っ先を対戦相手であるパラダイスキングに向け、ガゼルマンが吠える。

 パラダイスキングは、

 

「凶器だ――っ!!」

 

 ニヤついた笑みをそのままに、指を差して叫んだ。

 まるで男子小学生が「い~けないんだ~!」とふざけるようなニュアンスで。

 

「なっ……」

 

 まさかの反応に、凛々しかったガゼルマンの表情が歪む。

 パラダイスキングはリングサイドのモニター、そこに映るジャクリーン・マッスルのほうを向いて言う。

 

「おい! いいのかレフェリー! プロレスにはそりゃ凶器が付き物かもしれねぇが……ヒーロー様が率先して使うってのはよぉ~~っ! ガキも見てるんだぞ!?」

 

 リングのそばでは5才の男の子であるボーちゃんが鼻水を垂らしながら無垢な瞳を浮かべている。

 人質として囚われている身とはいえ、宇宙超人委員会としては彼も観戦者のひとりとして考えるべきだろう。

 

「そ、そう言われてしまうと……」

 

 ガゼルマンの凶器使用という反則行為、ルール違反が青少年の情操教育に悪影響を与えるとも限らない。

 しかし超人レスリングで凶器の使用が完全NGかといえばそうとも言えないわけで……ウォーズマンのベア・クローだってたびたび黙認されてきた歴史があるわけだし……と判断に迷うジャクリーン。

 

 レフェリーの迷いを察したセコンドのセイウチンが、ガゼルマンに囁きかける。

 

「ガゼルマン……ボーちゃんが見てる。引っ込めたほうがいいだよ」

 

 自分たち正義超人のせいでボーちゃんが『ルールって破っていいんだ』と考えるような悪い大人になってしまってはいけない。

 そう思っての進言だったが、ガゼルマンとしては素直に承服できないものがあった。

 

「ま……待ってくれ。これはオレのアイデンティティそのものなんだ。これを引っ込めてしまっては、オレはもう満足な必殺技(フェイバリット)が……」

 

 必殺技の少ない超人の悲哀を視線に乗せセイウチンを見る、その背後。

 

「オリャ――ッ!」

「グアッ!?」

 

 パラダイスキングの容赦ないキックがガゼルマンをぶっ飛ばす。

 

『あ~~っとパラダイスキング、戸惑うガゼルマンの背中にビッグブーツ! なんたる卑怯な一撃――っ!』

 

 リングロープにもたれる形でなんとかダウンを免れるガゼルマン。

 振り返ると、パラダイスキングが下卑た笑い顔で手招きしていた。

 

「ワルぶる度胸もねえくせに武器チラつかせてんじゃねーよ!」

「な、なにぃ~~っ」

 

 ガゼルマンの憤怒を鼻で笑い飛ばし、おもむろにその巨大すぎるアフロ頭に手を差し入れる。

 

「凶器ってのはもっと堂々と使うもんだぜ。こんなふうにな」

 

 ボリューム満点の毛髪量ゆえ外からは中の様子が窺えない。

 パラダイスキングがアフロから手を抜くと、その手中にはゴツゴツした金属製の物体がふたつあった。

 

『メ……メリケンサックだ~~っ! なんとパラダイスキング、自身の巨大なアフロからメリケンサックを取り出し両手にハメてみせた――っ!』

 

 メリケンサック、またの名をナックルダスター。

 指に通して握ることで、拳の打撃力を高める凶器である。

 

「凶器対決だ。そいつを使う後ろめたさがなくなったんじゃねえか?」

 

 たしかに自分だけが凶器を使うのであれば卑怯だが、相手も使うのであれば条件はイーブン。

 しかしガゼルマンとしては、相手に譲歩されたようでいて気に入らない。

 

「ナメやがって~~っ!」

 

 ただのメリケンサックでアントラーフィストに張り合おうなど生意気にもほどがある。

 超人レスリングの玄人としての矜持を見せるべく、脇を締めてファイティングポーズを作った。

 

『さあ始まったのは両者拳を構えての拳闘! 互いに一撃必殺の武器を装着してのボクシング対決を制するのはどちらか~~っ!?』

 

 トン、トン、と弾むようなフットワークを駆使して互いに間合いを測る。

 状況は実況の言うとおりボクシング。

 だがパラダイスキングのこれまでの言動を鑑みれば、いきなり足技を繰り出してくる可能性も高い。

 警戒心を強めたガゼルマンは慎重に仕掛けるタイミングを窺うが、

 

「シュッシュッ!」

 

 パラダイスキングはそんなガゼルマンの逡巡を嘲笑うかのごとく、電光石火のステップで距離を詰めた。

 繰り出されるのは両拳でのワンツージャブ。狙いは顔面だ。

 

「クッ……!」

 

 身を引くガゼルマン。

 直撃は避けたが、メリケンサックの冷たい金属の感触がヂッと鼻先に触れる。

 

『かすめた~~っ!』

 

 ガゼルマンの鼻腔に震動が伝わり、鼻から少量の血が出る。

 詰められた距離を再度離しながら鼻を拭い、パラダイスキングの動きを目で追った。

 

「おいおいなんだそのフットワークは! 社交ダンス踊ってんじゃねえんだぞ!」

 

 慎重を期すガゼルマンに対し、パラダイスキングの踏み込みは大胆不敵。

 

「ほ~れワンツー!」

 

 右、左、とハードモードエクササイズのようにパンチを繰り出す。

 ただし忘れるなかれ、その両手には硬質なメリケンサックが握られている。

 

『パラダイスキングのジャブがガゼルマンにヒット――ッ!』

 

 先ほどよりも多量の鼻血が噴き出し、ガゼルマンの足が後ろへ下がった。

 すかさずパラダイスキングが追う。

 

「オラァ!」

 

 下から掬い上げるようなアッパーで腹を突き刺した。

 

『ボディど真ん中~~っ!』

 

「ア……ガァァ……ッ」

 

 ガゼルマンの口から唾液が飛ぶ。

 これが本物のボクシングなら衝撃でマウスピースが外れたであろうほどの一撃。

 ヘラクレス・ファクトリー首席卒業生が中腰で腹を抱えるのも仕方ないというもの。

 

『ボ……ボクシング対決を制したのはパラダイスキングだ――っ!』

 

「ガゼルマン!」

 

 セイウチンが呼びかけるが、

 

「グ、ググ~~ッ」

 

 ガゼルマンの応答は苦悶のうめき声。

 セイウチンは冷や汗を垂らす。

 

「ヘラクレス・ファクトリー卒業生の中でも格闘実技はトップクラスのガゼルマンをボクシングで負かすなんて……」

 

 獰猛なサルを従えるほどの野性的な強さを秘めていることはわかった。その上で、格闘技のセンスもしっかりしている。

 見た目はヒーローでも悪の怪人でもましてや王様でもなく、ファンキーなダンサーとしか思えないが……そんな男がどういう経緯を辿ってこの世界に呼ばれたというのか。

 

「あのパラダイスキングという男……アクション仮面とかつて敵対していたライバルとはいうが、いったい何者なんだ?」

 

 セイウチンの視線を感じたパラダイスキングは、遠くを見るように目を細めた。

 

「アクション仮面か……」

 

 そう、大魔王サタンは『アクション仮面と闘ったことがあるライバル』という括りで別世界から戦力を召喚した。

 アクション仮面とハイグレ魔王に面識がなかったように、彼らは皆異なる平行世界から連れてこられたと推測できる。

 

「ここに来る以前、たしかに俺はアクション仮面に負けた。あれはいい闘いだったぜ……ただの特撮俳優サマが、本物のヒーローのような闘いっぷりだった……」

 

 パラダイスキングは昔を懐かしむように語るが、その全容は見えない。

 ただ、ガゼルマンにはあるワードが気にかかった。

 

「特撮俳優……?」

 

 たしかに、アクション仮面は特撮ドラマを専門とするアクション俳優だ。

 その事実になにも間違いはない。

 しかしなぜか、言いようのない違和感がガゼルマンの胸に去来した。

 

 パラダイスキングはさらに語る。

 

「だがそんなアクション仮面にリベンジをかませば、俺は今度こそキングオブヒーローとしてこの世界に君臨する! そのための力はあのサタンとかいう野郎にいただいた……今なら誰にも負ける気がしねえ~~っ!」

 

 大言壮語を口にし、大きく胸を張る。

 その胸元から、怪しげな輝きを放つ魔の宝石が浮き出てきた。

 憎きその石の出現に、セイウチンが声を荒げる。

 

「ああ――っ! あれはデーモンシード軍団に極悪パワーを与えたジェネラル・ストーン! あれがパラダイスキングのパワーを底上げしてんのか!」

 

 先に行われた“悪魔の種子(デーモンシード)”軍との全面抗争でも火種となった魔性の石。

 それがパラダイスキングの胸元で心臓のごとく輝き蠢いている。

 

「ジェネラル・ストーン……」

 

 ガゼルマンは元凶たるその石を睨み据え、背後のセイウチンに声をかける。

 

「おとなしく見ておけ、セイウチン」

「ガ、ガゼル」

 

 心配そうに見つめるセイウチン。

 だがガゼルマンは任せておけと言わんばかりに、振り向かないまま語調を強くする。

 

「あの男、どうにも舞い込んできた超人パワーの前に天狗になっているように思える。ああいうインチキドーピング野郎はオレたちみたいに地道に力をつけていったやつらに叩きのめされるのがお約束だ」

 

 アントラーフィストを装着した右手を強く握り、キャンバスを蹴った。

 

「やつに味わわせてやる! ヘラクレス・ファクトリー一期生筆頭の怖ろしさを!」

 

 跳び、着地するのは――リングロープ。それも最上段のトップロープだ。

 

『ガゼルマン、トップロープを踏み台にし高く跳躍――っ』

 

 通常ではありえない高さのジャンプから、アントラーフィスト装着時限定の必殺技を狙う。

 

「くらえ!」

 

 空中でアントラーフィストを天高く突き出し、姿勢を伸ばす。

 そのまま縦方向に体を傾け、回転。

 風車のように回りながら、前方へと飛んでいった。

 

「サバンナ・ヒート――ッ!」

 

 飛んでいったその先には、もちろんターゲットであるパラダイスキングが立っている。

 

『宙高く舞ったガゼルマン、アントラーフィストを構え縦に大回転! 超人チェーンソーとなってパラダイスキングに襲いかかる――っ!』

 

「きた~~っ! ガゼルマンの最強必殺技! これをくらって倒れなかった悪行超人はいねぇ~~っ!」

 

 ガゼルマンの技の中でも最も強力であろう一撃に、セイウチンが沸き立つ。

 命中すれば一撃必殺は確実。ボクシングのテクニックでは対処不可能。

 ゴングを待つまでもない。

 この技の発動を許した時点でパラダイスキングは敗北したも同然なのだ。

 

 ――そう思われた、が。

 

「あ……あああ~~っ!」

 

 セイウチンの顎が愕然と開く。

 リング上に展開されているのは、嘘のような光景。

 

 サバンナ・ヒートに自ら飛び込んでいったパラダイスキングが、ニヤリと笑む。

 突き出した左拳が回転するガゼルマンの顔面を捉え――撃墜していた。

 

『な、なんと――っ!? パラダイスキング、サバンナヒートに自ら飛び込みガゼルマンの顔面に鉄拳をくらわせた――っ!』

 

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