アクションバース “キン肉マンⅡ世VSアクション仮面” 作:速筆魔王LX
ガゼルマンの最大の
アントラーフィストを構えながら体ごと縦に回転して突っ込むことで、相手をズタズタに引き裂く一撃。
繰り出せば勝利は確実。数々の悪行超人を血の海に沈めてきた技は、しかし。
「バ……バカな……」
なんてことはない――ただのパンチ一発で迎撃され、回転力を失ったガゼルマンはキャンバスに沈んでいた。
方法は単純。
臆さず迎え撃ち、相手の爪がこちらを裂く前に叩き落とすだけだ。
「当たれば八つ裂きは確定……回転するチェーンソーに手を突っ込むような真似だってのに、あいつなんちゅーことを~~っ」
一部始終を見ていたセイウチンが信じられないといった表情で汗をかく。
ハイリスクにもほどがある対処法を涼しい顔で実践してのけたのが、対戦相手のパラダイスキングだ。
「強力な技ほど隙は多いもんだ。恐怖なんてものに惑わされず潰しにいけば案外脆いもの」
倒れ伏したガゼルマンを指差し、残酷な現実を突きつける。
「ガゼルマン! テメェは今の技を破れるほどの強敵と闘ったことがなかったんだろう!? だから俺のまさかの反撃に面食らってしまっている!」
愕然とし、言葉もないガゼルマン。
パラダイスキングは勝負を決めるべく、ガゼルマンの頭に生える2本の角の内1本を掴んだ。
強引に引っ張り上げて立たせ、ちょうどよい位置に来た顔面を空いているほうの手で殴打する。
『あ――っとガゼルマンの角を掴み、パラダイスキングが顔面をタコ殴りにしていく――っ!』
メリケンサックを装備した拳による執拗な殴打。
顔面へのダメージもさることながら、それは必殺技を破られたガゼルマンの精神をも粉々に砕く。
彼がハンサムと自認する顔は瞬く間に膨れ上がり、メリケンサックが血に染まる。
殴る回数が二桁に到達したところで、
「シカは奈良に帰れ!」
パラダイスキングは拳を大きく振り上げ、勢いをつけて渾身の一発を叩き込んだ。
『ガゼルマン殴り飛ばされた――っ! ちなみにトムソンガゼルはシカではなくウシの仲間だ――っ!』
実況が豆知識を披露する間に、キャンバスを滑ったガゼルマンは片肘を立てて起き上がろうとする。
「ウゥ~~ッ」
だがその動作は緩慢だ。明らかに顔面滅多打ちのダメージが響いている。
「このまま撲殺KOってのも味気ねえ。せっかくのプロレスなんだ。もっとド派手に決めてやるか」
そう言いながら、パラダイスキングは両手のメリケンサックを外した。
さらに殴り飛ばしたときに外れたのであろう、キャンバスに転がっていたアントラーフィストを拾う。
それら二種類の凶器を、ズボッ、と巨大アフロの中に手を突っ込み収納した。
『ガゼルマンのアントラーフィストと自分のメリケンサックをアフロに収納し、パラダイスキングがにじり寄る――っ』
凶器を外した意図は、開手――打撃ではなく組み技を狙ってのことだろう。
ガゼルマンは悠長にはしていられないと立ち上がり、果敢に向かっていった。
「負けてたまるか~~っ」
ヘラクレス・ファクトリー卒業生の威信にかけて、素人の組み技など恐れてはいられない。
ふらつきながらも先制してパラダイスキングに抱きつく。
『お――っとガゼルマン、組みにいったパラダイスキングに自らしがみつき技の発動を邪魔している――っ』
完全密着状態で出せる技は少ない。技のレパートリーが少ないパラダイスキングならばなおさらだろう。
「チッ」
うざったそうに舌打ちするパラダイスキング。
しかしもはや趨勢は決したと思っているのか、余裕の笑みを絶やさず言う。
「足掻くなよガゼルマン。おまえは所詮、井の中の蛙。アクション仮面とは比べるべくもない……どこのローカルヒーローかは知らんが、イキるんならテレビの中だけで我慢しとくんだったな」
「テ……テレビ?」
たしかに有名超人ともなればテレビ出演する機会もあるだろうが、それにしても妙な言い回しだ。
怪訝に思いながらもしがみつく力を緩めないガゼルマンに対し、パラダイスキングはさらに続ける。
「おっと、そもそもここは別世界だったな。だとしたら正義超人ガゼルマンってのは、作り物のヒーローでなく本職か。ま、大した違いはねえ」
パラダイスキングは鼻を鳴らし、あっさりとガゼルマンのクリンチを外してみせる。
そして背後に回り、腰に両腕を回して捕らえた。
「この場における真実はただひとつ! ガゼルマン! おまえはこのパラダイスキングという王の前に敗れるんだ――っ!」
『パラダイスキング、背後からガゼルマンの腰をクラッチし高くジャンプ――ッ!』
ジェネラル・ストーンからもたらされた超パワーを活かしての超ジャンプ。
自由の効かなくなった身が空へ舞い上がっていくのを自覚しながら、ガゼルマンは――
「そ、そうか……すべてわかったぞ。パラダイスキング……おまえは……だとすれば、オレは……」
得たものは、真相。
もっと早くに気づくべきだった事柄に気づき、完全に抵抗する意思が潰えた。
『最高度まで到達したパラダイスキング、ガゼルマンを捕らえたまま逆さになって落ちてくる――っ』
「プロレスといったらやっぱこれだろ!」
パラダイスキングが狙うのは、プロレスの王道“ジャーマンスープレックス”。
しかし通常ではありえない高さからの落下は、もはやオーソドックスなプロレス技の枠に収まらない――紛れもない超人レスリングの技だ。
「セイウチン……」
落下の途中、ガゼルマンは消え入るような瞳でセイウチンを見た。
「ガ、ガゼル?」
その視線に気づいたセイウチンは、しかしつぶらな瞳で見つめ返すことしかできない。
「ファンキィイイイイイイイイイイイイイイ……」
必殺技の発動時には技名を叫ぶのがお約束――パラダイスキングは即興で考えた名を口から吐き出す。
「ダイナマ――――イッ!!」
必殺ホールド“ファンキー・ダイナマイト”の咆哮と共に、ガゼルマンの頭部がキャンバスへと突き刺さった。
『痛烈――っ! パラダイスキング、ヘラクレス・ファクトリー首席卒業のガゼルマンを相手に高さのあるジャーマンスープレックスを決めた――っ!』
リングを揺らす大衝撃。四隅のアニマル・チェンバーがギシギシと音を立てる。
頭半分がキャンバスにめり込んだガゼルマンは、逆さま状態で沈黙。
パラダイスキングはジャーマンを決めた直後特有の美しいブリッジ体勢。
そして、
「ウィ~~ッ」
余韻に浸るような声を出しながら、ゆっくりと身を起こしていく。
勝ち誇った表情が、ガゼルマンを応援していた者たちの心をざわつかせた。
「ガゼル!」
「ガゼルマン……!」
『リングの外にいるセイウチンやボーちゃんが声をかけるが、反応は~~っ!?』
黙するガゼルマン。
しかし、反応はすぐ。
「ガハァッ」
口から盛大に血を吐き出すという結果で応えた。
『吐血~~っ!』
天を向いていた両足がゆっくりと折れ、体は仰向けに倒れる。
そのまま再びの沈黙。起き上がる気配は微塵も感じられなかった。
春日部スタジアム本部席のジャクリーン・マッスルは険しい表情のまま木槌を握った。
レフェリーの責務として、終戦のゴングを鳴らす。
カンカンカンカン――――!
『ガゼルマン、白目をむきピクリとも動かない――っ! これは完全なる失神KO!
ガゼルマン敗北。
共にボーちゃん救出のため乗り出た相棒であるセイウチンは、その重い現実を受け止める。
「ヘラクレス・ファクトリー一期二期入れ替え戦、ジェイドと対戦した際の痛恨のスタミナ切れ……超人オリンピック・ザ・レザレクション、タンザニア代表として出場しながらもいつの間にか予選敗退……数々の苦い敗戦経験を持つガゼルマンは、並々ならぬ思いでこの試合に望んでいたはずだ。そう、捲土重来を期さんほどの思いで……」
試合に臨むガゼルマンに油断はなかった。
ならば完全なる実力負けなのか……否。セイウチンにはそうは思えない。
「それなのに、KO直前のガゼルマンからは闘志が消えちまったように見えた。まだ余力はあったはずなのに……いったいなんでだ? パラダイスキングがなんかしたのか?」
ガゼルマンはまだやれた。そう思えてならないからこその違和感が、セイウチンの身を縛る。
そうしている間に、パラダイスキングは次なる行動に移ろうとしていた。
「仕上げだ」
敗者であるガゼルマンに近づき、頭部の角をむんずと掴んだのである。
『パラダイスキング、失神するガゼルマンの角を持ち上げ……いったいどうするつもりだ――っ!?』
試合は終わったが、実況はリング上で起こっている異常事態を引き続き春日部スタジアムの観客たちに伝える。
普段は平穏な日常生活を送る春日部住民たちがなにが起こるのかと固唾を呑んで見守る中――
「察しが悪いな。このリングは……こういうことだろうがよ!」
パラダイスキングは持ち上げたガゼルマンの体を思い切り投げ放った。
投擲先は四角いリングの角――冷たい鉄格子である。
その扉はガゼルマンの体がぶつかった拍子に開き、意識のない彼を中に捕らえた。
『あ――っとこれはむごい! 失神状態のガゼルマンをリング四隅のコーナーに設置されたチェンバーに投げ込んだ――っ! ガゼルマン、まさかの東武動物公園に収監――っ!』
ノックアウトの後、鉄檻に入れられる獣の化身超人。
ガゼルマンにとってこれ以上の屈辱的な敗北はない。
「ガゼルマーン!」
「ボー!」
彼の勝利を願っていたセイウチン、ボーちゃんが同時に悲痛な叫びを上げる。
ただセイウチンの反応はそれだけでは終わらず、暴虐を働くパラダイスキングをキッと睨みつけた。
「こいつ、なんてひでーことを~~っ」
「ああ?」
パラダイスキングはそんなセイウチンの敵意を、笑みを浮かべて受け止める。
「寝ぼけたこと言ってんじゃねえ! 王に逆らったやつにふさわしい末路だろうが!」
パラダイスキングは無人島で人間の奴隷を飼っていた頃も、反逆者はロッカーという名の牢屋にぶち込んでいた。
そして敗者にはもはや興味なしと言わんばかりに体の向きを変え、リング外のセイウチンを手招きしたのである。
「トムソンガゼルの次はセイウチだ! テメェもぶち込んでやるからさっさと上がってこい!」
「なっ……!?」
リングに上がれ――俺と闘え、という要求。
たじろぐセイウチンよりも先に、モニター上のジャクリーンがレフェリーとしての務めを果たす。
「待ちなさい、パラダイスキング! あなたはガゼルマンとの闘いを終えたばかり……ダメージの残る状態で連戦など、レフェリーとして容認できません!」
公平さを担保できない試合のゴングは鳴らせない。
ジャクリーンのその主張に、パラダイスキングは反論する。
「なんだそりゃ!? ならこのまま俺の勝ちってことで、このハナタレコゾウの救出を諦めるのか!?」
「そ、それは……」
「ガキの命よりルールを優先するなんてヒーロー失格だなぁ!? 俺はまだまだ暴れたりねえんだ! これ以上失望させんじゃねえよ!」
事実、ジャクリーンが次の試合を認めないというのであれば、それはボーちゃんを見捨てるも同然。
宇宙超人委員会としての矜持は守らねばならないが、その前に人間を守護する超人としての使命も無視はできない。
ジャクリーンが葛藤する間に、セイウチンはロープを潜りリングに入った。
「ジャクリーン。ゴングを鳴らしてくれ」
「セイウチン!」
トン、トン、と軽く跳躍し体を慣らすセイウチン。
敵意はパラダイスキングに向けたまま、黒い球体に囚われるボーちゃんには生来の優しげな眼差しを向けた。
「人間の安全を守るのがオラたち新世代超人の務め……ボーちゃんはオラが救ってみせる!」
セイウチンはボーちゃん救出こそが最優先事項と定め、正義超人としてリングに立つ。
その勇姿に、木槌を握りしめるジャクリーン。
相対するパラダイスキングは軽薄に口笛を吹く。
「ヒュ~~ッ。いいぜセイウチン……それでこそヒーローってもんだ」
どんなに極悪な悪行超人でも連戦は嫌がるもの。
しかしこのパラダイスキングは、闘争を心から歓迎するかのような態度だった。
「このまま勝ちで終わらせることもできたってのに、さらに闘いを求める……オメー、まともじゃねえな」
今まで闘ってきた相手とは一味も二味も違う――得体の知れない緊張が、セイウチンの体を強張らせた。
一方のパラダイスキングは、セイウチンの言葉に鼻を鳴らし天を仰ぐ。
遠い昔に想いを馳せるような、哀愁を漂わせるような表情だった。
「まともじゃ王様は務まらない。王様ってのは欲張りで……気まぐれで……残酷で……」
過去を匂わせながらも、それを語るような真似はしない。
王が望むのは人情噺などではないからだ。
「退屈してるんだ」
パラダイスキングはただ眼前の敵へ、飢えた獣のような笑みを向けた。