アクションバース “キン肉マンⅡ世VSアクション仮面” 作:速筆魔王LX
春日部スタジアムの外では、美味しい匂いを漂わせる屋台が無数に並んでいた。
時刻はお昼時。
試合時間はまだということで、ここで腹ごなしをしている来場者たちも少なくはない。
「まったくやってらんないよ!」
そんな中、フランクフルトの屋台の前で不機嫌そうに声を荒げる男がいた。
真っ黒なスーツを着込み、真っ黒なサングラスをかけた、屈強な肉体の男。
特徴的なのはその容貌――ブタ鼻にたらこ唇、額部分から飛び出る毛髪、そして頭頂部にあるウルトラマンのようなトサカは、どれもマスク超人である彼のトレードマーク。
彼こそが、日本駐屯超人にして、みさえも語っていた“
正義超人――“キン肉マンⅡ世”ことキン肉万太郎である。
「どうしてボクがケビンマスクの出る試合の会場警備なんてしなきゃなんないんだっての! おばちゃーん! ケチャップ多めでお願いね!」
彼は会場警備のために警備員としてここに動員されている。つまりは仕事中だ。
にも関わらず不平不満を口にしながら、屋台でフランクフルトをオーダー。
紙皿の上に盛られたケチャップ大盛りの串付きフランクフルトを持ち上げ、食で鬱憤を晴らそうとしていた。
「いただきま――」
万太郎が大口を開けた、その瞬間である。
「こらぁ~~っ! Ⅱ世!」
まだ幼さの残る、しかし貫禄のある――“叱り慣れている”とでも言うべき声が、万太郎の手を止めた。
「ゲェ――ッ! ミート~~ッ!?」
現れたのは、幼い少年である。
万太郎のようなトサカ付きの頭部、理知的な印象を漂わせる大きな眼鏡、服装はパンツ一丁にマントというおかしな格好ではあるものの、彼は王族である万太郎のお付きを務めるほどの優秀な人物だ。
名はアレキサンドリア・ミート。通称ミートくんである。
「日本が誇る有名ヒーローが正義超人の仲間入りをするおめでたい日だっていうのに、あなたがサボってたら格好がつかないでしょうが!」
「ごめんってば~~っ」
ミートくんは自分の倍以上もの身長がある主人を大声で叱りつけ、万太郎も従者である彼に対し素直に頭を下げる。
ミートの言うことはいつだって正論であり、だいたいは叱られる万太郎のほうに非がある。
「でも、おかしくない? アクション仮面は日本のヒーローで、会場も日本なんだよ? なんでデビュー戦の相手が日本代表超人のボクじゃなくてイギリス超人のケビンマスクなのさ」
とはいえ感情的に納得できなことというのはあるもので、万太郎は不満そうに愚痴をこぼした。
「アクション仮面直々の指名なんだから仕方ないだろう」
その愚痴に答えたのは、ミートの後ろから現れた三人組のうちのひとりである。
万太郎と同じく黒いスーツに黒いサングラスで揃えた威圧感のある格好。
髪色は金――彼こそ、万太郎とは腐れ縁の仲であるテリー・ザ・キッドだった。
「ケビンマスクは超人オリンピックの優勝者だ。派手なデビューを狙うならこれ以上の相手はいない」
キッドの言葉に続いたのは、同じく黒スーツ黒サングラスの出で立ちでありながら、頭に立派な2本の角を宿す超人。
タンザニア出身、トムソンガゼルの化身超人ガゼルマンである。
「というか万太郎のアニキ、アクション仮面と試合したかっただか?」
さらに続いたのが3人目。
温厚そうな容姿に獰猛な獣の牙を備える超人の名は、セイウチン。
キン肉万太郎、テリー・ザ・キッド、ガゼルマン、セイウチン。
この4人は正義超人養成大学校“ヘラクレス・ファクトリー”の同期であり、よく一緒に遊び歩く仲なのだった。
万太郎は腐れ縁3人に対して言う。
「闘いなんてしたかないけどさ~。ボクのホームでケビンばっかりちやほやされるのは腹に据えかねるものがあるよ」
万太郎とケビンマスクはかつて超人オリンピック覇者の座を争ったライバル同士。
少しでもボタンの掛け違いがあれば、アクション仮面に指名されるのも、こうして大規模な試合を組まれファングッズが制作・販売されるのも、自分であったかもしれないのだ。
そして逆に、ケビンマスクはそんな自分の試合の秩序を守るための警備スタッフとなる。
もしそれが実現したとしたら、どれだけ気持ちがよかっただろうか。
考えれば考えるほど悔しさが込み上げ、その悔しさはサボり欲と食欲に変換される。
万太郎は紙皿の上のフランクフルトを食べようとして、しかしその指は串を掴むことなく空を切った。
「あれ、ボクのフランクフルトは?」
紙皿からフランクフルトが消え、たっぷりめに頼んだケチャップのみが残っている。
「う~ん、ケチャップのお味がちょいしつこいですな」
見ると、フランクフルトは万太郎の足もとにあった。
地面に落っことしたわけではなく……見知らぬ5才くらいの男の子が、勝手に万太郎のフランクフルトを食べ食レポしていたのだ。
「ああ~~っ! ボクのフランクフルト!」
超人たちの会話の中に、いきなり現れた人間の子供。
フランクフルトを強奪された万太郎のみならず、ミートくんもキッドもガゼルマンもセイウチンも揃って驚きをあらわにする。
「なんだこのイガグリボーズは~~っ」
万太郎はフランクフルトを奪われた怒りを込めて言うが、少年は気にした素振りもなく完食。
串を万太郎の持つ紙皿の上に返し、自分よりもずっと背の高い黒尽くめのスーツたちを見回した。
「お兄さんたち変な格好してるね。逃走中?」
「ハンターじゃねえよ」
20年以上続く鬼ごっこ番組の鬼役に間違われたことには、テリー・ザ・キッドが否定する。
「君、名前はなんていうの?」
声音を優しくした万太郎の問いに、
「人に名前を訊くときは自分から名乗るのがスジってもんだゾ」
少年はジトッとした目つきで言い返した。
知らない人に話しかけられたから警戒している――そんな反応である。
「子供に言われちまったな、万太郎」
「ぐぬぬ~」
勝手にフランクフルトを食べられた挙げ句怪しい人扱いを受けた万太郎は、肩を竦めるキッドの横で拳を握り苛立った。
しかし、相手は子供。
おとなげない真似は格好悪いだろうと考え直し、深呼吸をしてから声を張り上げる。
「では名乗ろうじゃないか。ボクの名前はキン肉万太郎! ヘラクレス・ファクトリー卒、新世代超人筆頭、
威勢よく名乗った万太郎に、仲間の3人は冷ややかな視線を送った。
「いつおまえがオレたちの筆頭になったんだよ」
テリー・ザ・キッドのツッコミは聞き流し、目の前いるしんのすけのリアクションを待つ。
しんのすけは無感動に口を開いた。
「キン肉マン・タロウ?」
「ちがーう! キン肉・万太郎! ボクはその語呂合わせみたいな名前が嫌いなんだ!」
「子供相手に怒っちゃいけませんよⅡ世」
ヒートアップする万太郎をなだめるミート。
しんのすけは「ほーほー」と二度頷き、元気よく胸を張った。
「オラ、野原しんのすけ。5才だゾ!」
名乗られたからには、こちらも名乗り返すのが礼儀――そう言わんばかりの、元気いっぱいな自己紹介。
半ば予想していたことではあるが、その明らかとなった実年齢により、一同に衝撃が走る。
「5才のキッズとは……」
「これは……迷子だな」
子供の対応に慣れた人気超人、テリー・ザ・キッドやガゼルマンをして、緊張で唾を飲んだ。
親とはぐれた5才児ともなれば、いつ泣き出してもおかしくはない。
そんな空気の中、一歩前に躍り出たのはしんのすけよりも少しだけ背丈の大きい少年だった。
「みなさん、ここは比較的年齢の近いボクが」
ミートくんはにっこりと笑み、しんのすけに語りかける。
「こんにちは、しんのすけくん。ボクの名前はアレキサンドリア・ミート。よろしく」
「ハダカマントリア・ミートくん?」
「ハ……ハダカマント!?」
しんのすけの失礼な聞き間違いに、ミートは思わず大きな声を出してしまう。
背後の万太郎がおかしそうに口元を手で押さえた。
「ププッ。怒っちゃダメだよミート。子供の言うことなんだからさ」
「わ……わかっています。わかっていますとも」
事実、ミートくんの服装は裸にパンツ一丁、なのにマントだけは羽織るという、5才の子供から見ても奇抜なスタイルなのである。ハダカマントと言われても言い訳はできない。
ゆえに怒らず、理知的に言葉を交わそうとする。
「しんのすけくん。君はお父さんやお母さんと一緒にアクション仮面のデビュー戦を観に来た……そうじゃないかい?」
「おおー。よく知ってるね」
「今日の試合には春日部在住のご家庭が多く招かれているからね。簡単な推理さ」
今最も重要なことは、迷子のしんのすけを安心させることだ。
友好的に接し、相手の事情を把握、速やかな問題解決に努める。
やはりしんのすけは一緒に来ていた両親とはぐれた――と、そのように考えたのだが。
しんのすけはミートの言葉を受け、悲しそうに目線を伏せた。
「でも、オラ父ちゃんと母ちゃんは……」
「ウッ……複雑なご家庭だったのかな」
小さい子供とはいえ、お父さんやお母さんがいるとは限らない。
ミート自身、複雑な事情があり今はもう両親がいない身の上。
そのことを考えると早まった質問だったかと後悔するが――
「菅田将暉と小松菜奈がよかったなって」
しんのすけが語った図々しい理想を前に、ズコッとずっこけた。
ミートはコホンと咳払いし、あらためて訊く。
「つまり、お父さんやお母さんとはぐれちゃったんだよね?」
「そーともゆー。まったく、父ちゃんと母ちゃんとひまには困ったものだゾ」
親への責任転嫁……ある意味、こういうタイプは不安で泣きじゃくる子よりも扱いが難しい。
セイウチンとガゼルマンは互いに顔を見合わせる。
「な、なんだか……」
「メンドーそうなお子様だな」
ふたりはテリー・ザ・キッドとも視線を交わし、言葉なく意思を疎通させる。
そして、キッドが万太郎の肩を叩いた。
「サボりの罰だ、万太郎。この迷子はおまえが相手をしろ」
「お父さんとお母さんのとこまで送り届けてくれだ」
「頼んだぞ、日本代表超人」
キッド、セイウチン、ガゼルマンの3人は万太郎にしんのすけを託し、各々の仕事に戻っていく。
薄情な後ろ姿を眺め、万太郎は怒りでわなわなと震えた。
「あいつらこんなときだけ調子のいいこといいやがって~~っ」
「あんたもたいへんですな」
「君はどこから目線で話してるの」
他人事のように言うしんのすけと、はぁ~~っと呆れるミート。
万太郎は気合を入れ、しんのすけの身を頭上まで担ぎ上げた。
「ええい! 迷子を泣かせたとあってはキン肉万太郎の名が廃る!」
「おおー、ぜっけいぜっけい」
身長176センチによる肩車は、しんのすけに笑顔を作らせた。
「日本代表超人の肩書きに懸けて、親御さんのところでもどこにでもつれていってあげらぁ!」
意気揚々と飛び出そうとする万太郎。
しんのすけは右手を挙げ、行きたいところをリクエストする。
「それならオラ、アクション仮面にご挨拶したい」
「任せとけい!」
即答する万太郎に、足もとにいるミートは慌てた様子で手を振った。
「いやいやダメですよ! 一般のお客さんはアクション仮面に会えませんし、ましてや彼は試合前で集中しているんですよ! 邪魔をするわけにはいきません!」
スタッフの一員として至極当然の意見を口にするミート。
それに対し、しんのすけは大きな瞳を潤ませ熱心な視線を注いだ。
「だけどオラ、どうしてもアクション仮面に会いたい……」
「ウウッ」
野原しんのすけ必殺の“キラキラ光線”――星のように輝く視線は受け手の心を動かし、どんなワガママでも通す力がある。
子供らしい純粋さに満ちたおねだりはミートを黙らせ、万太郎の調子を上げた。
「そうだよミート。天下のキン肉王族のお付きがケツの穴の小さいこと言うんじゃない」
「おお~。万ちゃんは話がわかりますな」
「なんたって日本代表超人だからね! だはははは!!」
万太郎は豪快に笑い、ついに春日部スタジアムの中へと爆進する。
「も~! あとで怒られても知りませんよ!」
小言を口にしながらも、ミートはしんのすけを肩車した万太郎についていく。
アクション仮面vsケビンマスク、開戦の時間はもうまもなくである。